─199×年冬─
「ゆず湯にしてあるわよ」
先に帰っていた彼女が、リンゴ模様のパジャマ姿で得意げな顔をした。
「ゆずゆ?」
「今日は冬至でしょ。あたしは先に入っちゃったけど」
「冬至? あぁそう言えばテレビで言ってた。で、ゆずゆ?」
「お風呂に柚子を浮かべるのよ。それに入れば一年間風邪を引かないのよ。ひろちゃんちの方ではその習慣はなかった?」
「実家で入ったことはないなぁ。その風習全国的なものなの」
「そう」
「じゃあさ、日本中で風邪を引くのは僕の一家ぐらいだね」
「ふぅん。おもしろいんだ」頭に巻いていたタオルをほどき、ガシガシと髪を拭き始めた。
「ん?」
「人の揚げ足とって」両手を止めて、タオルの隙間からじっと見られた。
「いや……全然」僕は逃げるようにお風呂場をのぞいた。
「丸ごと浮いてる」腰をかがめて見た浴槽には柚子が5個も6個もぷかぷかと浮いていた。
「皮に少し切り込みを入れてあるのよ」背後から、僕の肩に彼女のあごが乗った。
「地方によってやり方はいろいろあるだろうけど。入ってらっしゃいよ。ビールも冷えてるわ。それとも、一緒に入りたい?」
彼女がしゃべるたびに肩にカクカクと振動が来る。
「いや、一人でいいけど。ゆず湯だし」
「ゆず湯との関係づけがわかんないんだけど」
お互い住む場所は違っていたけれど、僕はほとんど彼女の部屋に入り浸っていた。
「夏になったらさ」着替えとタオルを手渡しながら彼女は目を輝かせた。
「夏?」
「神宮のプールに行こう」(※2003年に閉鎖)
「ちょっと待って……今、冬だよ。明後日のイヴでも、年末年始でもなく、何でまた夏の話?」
「だからあ、夏になったらって言ってるじゃない」
「季節端折(はしょ)りすぎだよ」
「夏だからこそのメークドラマよ」彼女はなぜか、一人悦に入(い)っていた。
「長嶋?」
「んーん、どうでしょうねぇ」腕を組み、あごを触った。
「それ、プリティ長嶋じゃないの」
彼女はとてつもなく大人だったけれど、その割に、どこか無邪気な子供だった。
「疲れてるとしたくなるでしょ」ベッドの中で、うふふと笑った。
というかひどく疲れていると意志とは関係なく、あそこが元気になるときがある。もっとも、そもそも意志などとは関わりのない部分ではあるけれど。
「疲れマラよ」
「何それ」
そんな言葉は初めて耳にした。
「つ・か・れ・ま・ら」
「何もゆっくりしゃべってくれって意味じゃないけど」
「ちゅかれマラ!」
「早くでもないんだけど」
「だーよーねー」
「遊んでる?」
「いたってまじめ。でさ、マラってそもそも何のことだか知ってる?」
「知ってると得する?」
「てゆうか、頭よさげにはみえるかも」
彼女の解説によると、マラとは仏教用語マーラからきていくらしく、釈迦が悟りを開く禅定に入った時に、瞑想を妨げるために現れたとされる魔神らしい。要するに煩悩の化身のことだという。
「煩悩の化ちん!」彼女はそう言いながら、僕のあそこを握った。
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