涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  169. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<サーバー、

サド、

臼井吉見>

 
 

533.「虹をつかむ男」

ジェイムズ・グロウヴァ・サーバー
短編集   鈴木武樹:訳  角川文庫
収録作品
 
1.トパーズのカフスボタンの謎
2.全部、ワイルドカードだ
3.ペンドリ氏とポインデクスタァ
4.インディアンの合図
5.ビドウェル氏の私生活
6.空の縁石
7.プレブル氏、妻を厄介ばらいする
8.ブルール氏の注目すべき例
9.大衝突
10.ウィンシップ夫妻の別居
11.ハンバーガーを二つ三つ
12.ホイップァウィル
13.虹をつかむ男
14.アリグザーンダァの友
15.一四二列車の婦人
16.ツグミの巣
17.廊下のステッキ
 
<付:初期短篇物語群>
* ジョセフィーヌ、生涯最良の日を迎える
*五月の脅威
*モンロー夫妻
  1.アームズビ夫人のお茶の会
  2.沈着な精神
  3.モンロー氏、コウモリを出しぬく
  4.モンロー氏の<ねえ!>
  5.モンロー氏と運送屋の男たち
  6.モンロー氏夫妻、終着駅を見つける
  7.モンロー氏、砦を守る
  8.中年
 
 
いつも妻に子供あつかいされ、反抗する気力もない中年男
ウォルタア・ミッティはみたされぬ思いを幻想の世界に求める。
ある時は勇猛果敢な海軍飛行艇長となり、部下の信頼と尊厳を集め、
またある時は、権威ある医学博士となって困難な手術に腕を振うなど、
現代の多くの男性たちの晴れやらぬ胸の嘆きをユーモラスに描く、
「虹をつかむ男」。
 
マーク・トゥェイン以来のアメリカ・ユーモア文学者として認められた
サーバーが、20世紀という矛盾にみちた時代の人間像を、
著者自身のユニークな挿絵と共に描く。
 
他に、「空の縁石」「ウィンシップ夫妻の別居」等、
珠玉の短編19編を収録。
                                <ウラスジ>
 
 
ジェイムズ・サーバーは私にとって、
ラードナーに続く
”漁るべきアメリカ人作家” となった小説家です。
 
 
アメリカの場合、出版事情や雑誌大国であることも手伝って、
様々な媒体で小説が発表されているようですが、
私にとって馴染みのある雑誌は何と言っても、<ザ・ニューヨーカー>。
そして、アーウィン・ショーとカポーティ。
 
ユーモラスで、不思議で、小粋な短編の宝庫、
という印象を持っています。
 
まあ、殆んどショーとカポーティの作品に負うところが大きいんですが。
 
世代的にサーバーは<ロストジェネレーション>の作家たちと
重なっていますが、およそ文学的な共通点は見つけられません。
 
どちらかと言えば、ラードナーと同じく、
<コラムニスト>としての立場から、
作品を寄稿していたような感じがします。
 
この作品集の目次を見ても判るように、
『○○氏の✕✕』という題名の多さからしても
市井で見聞きした話を小品に纏め上げたようなものが、
サーバーの真骨頂でしょうから
 
イラストも捨てがたい。
ヤンソンに匹敵(?)するかな。
 
 
 
 
 
 

534.「美徳の不幸」

マルキ・ド・サド
中編   澁澤龍彦:訳  角川文庫
収録作品
 
1.美徳の不幸
2.悲惨物語
 
 
「悪徳の栄え」のなかで、
姉のジュリエットがひたすら悪徳と淫蕩の生涯を追いながら
次第に財をなし栄耀栄華を極めていくのに対し、
本篇の主人公であるその妹ジュスチィヌは、
生涯美徳に身も心も捧げ、最後までその信念を捨てなかったために、
想像を絶する不幸と悲惨のどん底に突き落される。
 
サドの代表的傑作。
 
他に 「悲惨物語」。
                               <ウラスジ>
 
『美徳の不幸』
そうですね、この物語。
一種の<洒落>として読んだ方が無難ですね。
「悪徳の栄え」の ”裏面” というか、”枝分かれしたもの” というか。
 

 

 

 

悪徳によって肥え太って行く姉ジュリエットと違い、

自ら信じて疑わない宗教や道徳の教えを遵奉する妹ジュスチィヌ。

 

そんな彼女に、作者サドが用意した試練の数々

まさしく、<サド>の名に恥じないエゲツなさ。

窃盗、殺人、放火、という重罪に問われ、
あとは処刑を待つばかりのジュスチィヌ。
 
 
彼女が遭遇した悪徳の数々を、
澁澤龍彦さんの解説からどうぞ。
 
 
ジュスチィヌの目の前に現われる悪人は、
けちんぼうの高利貸し、同性愛の女賊、母親殺しの男色家、
生体解剖をする外科医、修道院で放蕩にふける破戒僧、贋金作り……
などと言った途方もない連中で、
彼女はこれらの悪人の餌食となり、鞭で打たれ、貞操を奪われ、
焼き印を押され、彼らの手から手へと渡されるのである。
 
最後、姉ジュリエットと再会して、「助かった」と思ったのも束の間、
ジュスチィヌは雷に打たれて死んでしまいます。
 
全く何の救いもありません。
だから、洒落です、洒落。
 
『悲惨物語』
<近親相姦>のサド的理屈物語。
なんか三島由紀夫の『女神』を思い出してしまう。
 
自分が愛する、”血を分けた娘” という存在は、
かつて自分が愛した女性、つまり娘の母親を彷彿とさせるはず。
生物学的(……リューインみたいだな)にも、DNA的にも。
 
そこに父親(男)の側は気付いているのか、
もしくは気付いていても無視するのか。
 
 
 
 
 
 
 

535.「小説の味わい方」

臼井吉見
長編   あとがき  新潮文庫
 
 
目次
 
まえがき
姦通小説と恋愛小説
「アンナ・カレーニナ」「旧主人」「茶筅髪」「千羽鶴」「武蔵野夫人」
「ボヴァリー夫人」
好色文学の問題
「好色一代男」「好色一代女」「腕くらべ」「痴人の愛」「卍(まんじ)」
「多情仏心」「鵞毛」
痴情小説をめぐって
「岩野泡鳴の五部作」「黒髪」「仮装人物」「ベラミ」「サーニン」
文学と道徳
「坊ちゃん」「行人」「こころ」「それから」「家」「人間失格」「背徳者」
「チャタレー夫人の恋人」
ワイセツと文学
再び「チャタレー夫人の恋人」「太陽の季節」「鍵」「鍵」つづき
「瘋癲老人日記
モデル小説とプライヴァシー
「鴨東綺譚」「金閣寺」「浮雲」「或る女」「お菓子と麦酒」「月と六ペンス」
「宴のあと」
風俗小説の諸相
浮世草子と「パメラ」「つゆのあとさき」「厭がらせの年齢」「贅肉」
「銀座八丁」「夫婦善哉」
私小説と心境小説
「告白」「小便小僧」「聖ヨハネ病院にて」「早老者の詩」「子をつれて」
「湖畔日記」「故旧忘れ得べき」「人間失格」「お目出たき人」「友情」
「和解」「或る朝」「無限抱擁」「遁走」「海辺の光景」「娼婦の部屋」
自伝小説と自己形成
「新生」「暗夜行路」「伸子」「二つの庭」「梨の鼻」「むらぎも」「澪標」
「美しい女」「飼育」「若き日の芸術家の肖像」「息子と恋人」
「美しき惑いの年」
歴史小説とは何か
「蒼き狼」「忠直卿行状記」「俊寛」「枯野抄」「入れ札」
「興津弥五右衛門の遺書」「阿部一族」「護持院ヶ原の敵討」
「ある敵討の話」「少将滋幹の母」「李陵」「敦煌」「楼蘭」「暗黒事件」
「夜明け前」
滑稽と諷刺
「吾輩は猫である」「牡猫ムルの人生観」
「紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見」「ガリバー旅行記」
「蔵の中」「山椒魚」「新釈諸国噺」「お伽草子」「鼻」「河童」
短編と長編
「くびかざり」「短編小説の機能」「モーパッサンとチェーホフ」
「ジャン・クリストフ」「静かなドン」「ユリシーズ」
あとがき
付記
 
古今東西、戦前戦後の小説群、
これだけの作品に目を通して俎上に載せる――
文芸評論家ならではの仕事ぶりです。
 
個人的に、田山花袋や日本の自然主義文学にたいする批判が
大好物なので、こちらの一文を取り上げてみました。
 
田山花袋を先頭とする自然主義の文学は、
事実に即するということを何より大事と考え、
事実こそ真実だ、という単純な考えが根本になっていることは、
モデル小説の章で述べました。
 
したがって、自分に即して私小説となり、
他人に即してモデル小説または風俗小説となる。
 
結局は身の上ばなしと、うわさばなし。
 
現代日本の小説は、
だいたいこの二種類に分けることができることについても、
さきに書きました。
 
 
まるで中村光夫さんが乗り移ったかのような
揶揄口調です。
 
 
 
<余談>
『モデル小説とプライヴァシー』
の中に記された、
”だいたい、モデル問題をおこすようなのは、
作品として未熟であり、作家精神にゆるみがあるといっては、言いすぎでしょうか。”
という文章に対して、
”己れはどないやいうねん?”
という関西弁のツッコミが書いてありました。
 
これは紛れもなく、
『事故のてんまつ』のことを示しています。
 
川端康成の死について書かれた臼井氏の小説で、
裁判沙汰になり、
絶版となった本のことです。
 
臼井さんの作家精神に
ゆるみはなかったのでしょうか?
 
 
 
【涼風映画堂の】
”読んでから見るか、見てから読むか”
 
 
 
◎「虹を掴む男」 The Secret Life of Walter Mitty
1947年 (米)
監督:ノーマン・Z・マクロード
脚本:ケン・イングランド/エヴェレット・フリーマン
撮影:リー・ガームス
音楽:デヴィッド・ラクシン
出演
ダニー・ケイ
ヴァージニア・メイヨ
ボリス・カーロフ
フェイ・ベインター
アン・ラザフォード
 
 
* 原作が短いことに乗じて、かなりのオリジナリティが
   発揮されたドラマとなっています。
 
* ダニー・ケイの映画だから、ミュージカルの要素も入ってる。
* ダニー・ケイの映画だから、劇中歌は当然 、
   奥方のシルヴィア・ファインの手によるもの。
 
* コメディ映画の巨匠マクロードの代表作。
* もう一つの代表作は『腰抜け二挺拳銃』。
* 私の親世代の洋画ファンは、『バッテンボー』という歌(歌詞)で
   記憶しているみたい。
* 正しくは、『Buttons and Bows』。

* カメラのリー・ガームスは
   スタンバーグとディートリッヒとのトライアングル。
* 『モロッコ』 と 『間諜X27』 は良かった。 
 
* ヴァージニア・メイヨは、ダニー・ケイ映画の常連。
* 無名時代から出ている。
* 『ダニー・ケイの新兵さん』、クレジットはないが、
  ”ゴールドウィン・ガールズ”の一人として、はっきり認識出来る。
* 一見、金髪の<バンプ>風だが、離婚歴なし、
   一人の男性と添い遂げている。
* ここら辺の私生活はダニー・ケイと似ている。
 
* ボリス・カーロフ。
* 『フランケンシュタイン』。
* ふんが。