涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  168. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<マッケン、

レ・ファニュ、
M・R・ジェイムズ>
 
 

 

530.「怪奇クラブ」
アーサー・マッケン
中編   平井呈一:訳  創元推理文庫
 
収録作品
 
1.怪奇クラブ
 
プロローグ
金貨奇譚
街上の邂逅
暗黒の谷
兄の失踪
黒い石印
小さな酒場での出来事
装飾的妄想
ベイズウォーターの市隠
白い粉薬のはなし
クラークンウェルの不思議な出来事
眼鏡をかけた若い男のはなし
荒れ屋敷の怪事
 
2.大いなる来復
 
1.怪異の流言
2.天国のかおり
3.秘境の秘
4.鐘の声
5.火の薔薇
6.オーエンの夢
7.聖杯の弥撤
 
 
パンの神は、
いまでも森の広場に人間の処女を拉して性の乱舞を行なう。
 
人間の性の神秘を超自然に託して、
摩訶不思議な様相をくりひろげるマッケンの世界は
戦慄と陶酔の妖しい白光の世界である。
 
「矮人」や「半人半羊人」は
人間の罪悪や禁じられた性的快楽の媒介者であり、
象徴として作品の中に設定されている。
 
黒い封印に戦く老教授、淫楽の密室に白い粉薬を服んで
肉体が溶けこんでしまう青年の死の話など一連の怪話集と
”聖杯”(グレール)をテーマにした『大いなる来復』を収録。
                                  <ウラスジ>
 
 
”『怪奇クラブ』 と言う名の怪奇小説”、
って言うと都筑道夫さんの作品みたいだな。
 
原題は、『三人の詐欺師』 という身も蓋もないものだけど、
とにかく連作短編で構成された、”百物語” みたいな感じ。
 
日本に置き換えると、”岡本綺堂の作品集”、と言いたいところだけど、
中身はもっとグロくてエロいものを含んでいます。
 
 
『怪奇クラブ』の中の<双璧>、
先ずは『黒い石印』の解説から。
 
――マッケンはこういう ”矮人” や ”半人半羊人” を、
人間の罪悪や禁じられた性的快楽の媒介者として、
あるいはその象徴として、作品のなかに設定しているのであります。
 
「黒い石印」のグレッグ教授の口をかりて言っているように、
人間は妖精というものが本来は恐ろしいものであるがために、
できるだけそれを美化している。
 
ところで、これらの妖精どもは、いずれも人間以前の世界に
生存していた未開な半人半獣なのであって、その姿は醜怪卑陋、
その心ばえは罪そのもののように陰険邪悪である。
 
そういう妖精どものなかのあるものが、たまたままれに現代に
生きのこっていて、人間が人知の及ばぬような罪を犯したり、
人間に許されていない性の快楽に溺れたりするのは、
みなそういう悪い妖精や邪神のしわざなのだ、というのが
マッケンの罪とエクスタシーに対する解釈なのであります。
                          <平井呈一:解説より>
 
……この発想、誰かさんの考えの
原初風景みたいですね。
 
双璧のもうひとつ、
『白い粉薬のはなし』 からは、本編をそのまま。
 
――部屋の隅の床の上には、目もあてられない糜爛と腐敗に
ドロドロに溶けくずれた、どす黒い穢物の塊がありました。
まるで煮えくりかえった瀝青みたいに、ブクブク油ぎった泡を
ふきながら、見ている目の前でどんどん溶けて形が変わっていく、
液体でも個体でもない、なんだかドロドロの塊でした。
 
そして、そのドロドロになった塊のまんなかから、
眼のようなギラギラしたものが二つ光っていて、よく見ると、
手だか足だか、どうやらそれらしいものがウニョウニョ動いており、
あれが腕かなと思われるようなものが、
ムクムク動いて持ち上がっているのが見えます。――
 
 
オノマトペの洪水レベル。
 
有形でも無形でもない、このあたりの描写、
間違いなく ”ラヴクラフト風” でしょう。
 
また、その前の、”妖精” に対する捉え方などは、まごうかたなき、
<クトゥルフ神話>の雛形であります。
 
現にこの解説のなかにもラヴクラフトへの言及があり、
かれの心酔する四人の怪奇作家として、
マッケン、ブラックウッド、ダンセイニ、M・R・ジェイムズ
が挙げられています。
 
マッケンの妖精の解釈、
ブラックウッドの切口、
ダンセイニの創作神話、
ジェイムズのストーリーテリング、
 
これらを混ぜ合わせて熟成させると、
『クトゥルフ神話』 を含む、ラヴクラフトの世界が、
そこそこ出来上がるような気がします。。
 
 
 
 

531.「吸血鬼カーミラ」

ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ
短編集   平井呈一:訳  創元推理文庫
収録作品
 
1.白い手の怪
2.墓掘りクルックの死
3.シャルケン画伯
4.大地主トビーの遺言
5.仇魔
6.判事ハーボットル氏
7.吸血鬼カーミラ
 
 
ディケンズやコリンズが天下の奇書と激賞したレ・ファニュの作品は、
本国イギリスでも、近年、怪奇文学の祖として高く評価されるまでは、
不当に埋没されていた。
 
しかし、いまや正統派のホラー・ストーリーの第一人者として、
断然他を圧して重きをなしている。
 
本書は、
夜な夜な窓辺に現われる白い手、
恋人の血を吸う美貌の令嬢、
姿なき復讐者
など作者の真価を伝える七編を収録した傑作集!
                                <ウラスジ>
 
”ドラキュラ” の次に有名な吸血鬼、
”カーミラ” の物語。
 
でも発表されたのは、”カーミラ” の方が20年以上前。
 
手塚先生の『ドン・ドラキュラ』 じゃ、元・夫婦という設定だった……。
 
『吸血鬼カーミラ』 と言えば、”レズビアン” 
というキーワード。
 
しかも、<吸血>という行為を、
<性愛>の形態に加えた、シンボリックな作品でもあります。
 
のちのドラキュラの被害者たちのように、
エクスタシーを覚えながら、血を吸われている、という現象――
その原点がここにあります。
 
『吸血鬼ドラキュラ』に関しては、近々取り上げることになりますが、
その<ドラキュラ>が<カーミラ>から踏襲した、 
”吸血鬼” や ”その設定” を少し紹介しておきます。
 
 
これは今となっては
殆ど<定番>です。
 
 
*昼間は墓の中の棺桶で眠っている。
*心臓に杭を打ち込むと死ぬ。
*元の身分に隷属しているため、
  変名がアナグラムの域から脱せない。
  
  『Carmilla』(カーミラ)➡『Millarca』(ミラーカ)
  『Dracula』(ドラキュラ)➡『Alucard』(アルカード)
 
*襲われた人間も吸血鬼になる。
*吸血鬼ハンターが現れる。
 
  『吸血鬼カーミラ』 のヴォルデンベルグ男爵。
  『吸血鬼ドラキュラ』 のヴァン・ヘルシング教授。
 
  ……両方とも、なんかオランダっぽい。
 
<余談>
かつて目にしたのは、
 
アーサー・マッケン
ロード・ダンセイニ
ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ
 
この三人をして、
<怪奇幻想小説家の御三家>
とされていたような気がするんですが、
今じゃどこを探してもそんな表記を発見出来ません。
 
大体において、レ・ファニュの代わりに
ブラックウッドやM・R・ジェイムズが入ってる。
ラヴクラフトに引っ張られての変更か?
 
”日本の三大奇書” もそうだったけど、タイトルはそのままに、
中身が変わってしまっている現象が多々ある。
 
流されるべきなのか。
いや、私は流されない。
私は己が青春時代に知り得たことに、固執する。
 
 
 
 
 

532.「M・R・ジェイムズ傑作集」

モンタギュウ・ロード・ジェイムズ
短編集   紀田順一郎:訳  創元推理文庫
収録作品
 
1.消えた心臓
2.銅版画
3.秦皮(とねりこ)の木
4.十三号室
5.マグナス伯爵
6.笛吹かば現われん
7.縛り首の丘
8.人を呪わば
9.ハンフリーズ氏とその遺産
10.ウィットミンスター寺院の僧房
11.寺院史夜話
12.呪われた人形の家
13.猟奇への戒め
14.一夕の団欒
15.ある男がお墓のそばに住んでいました
16.鼠
17.公園夜景
 
 
M・R・ジェイムズの怪奇小説は古典的であり、
その恐怖と戦慄の盛り上がりは、
まさに「怪談」の名をほしいままにしているといえよう。
彼の生み出す妖魔たちは、読者にもその気味の悪い手を
ふれてきそうなほどなまなましい。
 
古い銅版画の中で妖怪が動きまわるという奇怪な作品「銅版画」、
あるはずのない十三号室が実は存在するという「十三号室」
などをはじめ、
迷路をテーマに悪夢のような世界を描きだした
特異な作品「ハンフリーズ氏とその遺産」
を含む17編を収録。
                               <ウラスジ>
 
 
怪談ものが続くので、その系統のスクラップ・ブックを漁っていたら、
M・R・ジェイムズ作品を複数取り上げている切り抜きを発見しました。
 
 
出どころは、今なお生き残っている<週刊プレイボーイ>の一記事。
題して、”【ゴシック・ロマン】の特製・腰巻大全”
 
時代的には、映画 『ドラキュラ都へ行く』 の公開に触れているので、
’80年代と思われます。
 
『ドラキュラ都へ行く』――。
居城であるトランシルヴァニア城が、『コマネチ』の練習場になるという事に決まり、ドラキュラ伯爵がそこを追い立てられるところから
始まるコメディ映画でした。
 
もとい。
その、”週プレ” に載っていたM・R・ジェイムズ作品をそのまま
書き写してみようと思います。
 
 
 
『消えた心臓』
〔惹句〕
開かずの浴槽に屍衣にくるまれた少年の死体が!
それこそ魔教に憑かれた男の犠牲者だった――
≪名場面要約≫
少年の手は透き通るような白さだった。
その傍らに、少女が立っていた。
テラスに現われたふたつの人影。
少年が両手をあげると、
その左胸にパックリと黒い裂け目ができていた!
ふたりの姿はすぐに消えた。
だが、その夜――!
 
『銅版画』
〔惹句〕
古い銅版画にまつわる怪!
一枚の絵のなかに次つぎと起こる超次元の出来事!!
≪名場面要約≫
銅版画の構図は荘園邸の全景だった。
なんの変哲もないその絵に信じられないことが起こったのだ。
絵のなかの屋敷の芝生の上に、今日の午後5時にはまったく
存在しなかった人影が現れていた。
黒衣をまとい背に十字架を背負った人影が現れていた!
 
『秦皮(とねりこ)の樹』
〔惹句〕
18世紀末のギリシア風屋敷の巨大な秦皮の樹には、
死人の霊がこもっていた。
≪名場面要約≫
次々と死人が出るのは、窓の外の秦皮の木のせいにちがいない。
卿と司教は園丁に命じて、木に火をつけた。
紅蓮の炎に包まれた大木。
そのとき、人間の頭ほどもあるまるいものが、空中に飛び出し大地に落ちた。
なんとそれは焼け爛れた巨大な蜘蛛!
 
『十三号室』
〔惹句〕
深夜になると、突然現われるホテル金獅子亭の13号室。
その不吉な番号の部屋には、血塗られた秘密が隠されていた!
≪名場面要約≫
彼は昨夜の13号室の前を知らずに通り過ぎたのかと思った。
だが、14号室の隣の部屋の番号は12号!
13号という部屋の番号はどこを探してもなかったのだ!
デンマークの教会史を研究にきた青年がまきこまれる怪奇!
 
完璧な紹介。
 
 
この他、作家でいうと、
ノディエ、マシスン、ドイル、ウォルポール、ハワード、H・ジェイムズ、
レ・ファニュ、ネルヴァル、モーパッサン、ヘイワード、シェリー夫人、
ベンソン、ブロック、F・G・ローリング、
と、時代も国籍もバラバラで、
有名無名の作家たちの作品が紹介されています。
 
さすが<軽佻浮薄の砦>、週刊プレイボーイ。
 
我々の学生時代によく例えられていた<週プレ>というと――
 
同じ号の、
巻頭で戦争批判の特集をモノクロ写真付きでやり、
巻末で<これが世界の最新兵器だ!>をカラーで特集する。
 
この節操のなさ。
これぞ『平凡パンチ』とは違う、『週刊プレイボーイ』の特徴。
 
しかし、この節操のなさが左翼的風潮がはびこった時代、
(70~80年代の時代相でもあった)
そんな時代を生き抜く上で、必要だった原動力だったのかも
知れません。
そんな気がします。
 
皮肉でも何でもなく、<雑誌>とは本来こうあるべきとも思えます。
何せ、『雑(ざつ)』 で 『多な』 読物なんですから。
 
 
それにしてもいいモン見つけた。
これからも、”怪談モノ” で使わせていただこうと思っています。