涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  157. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<フォークナー、

サローヤン、

ラードナー>

 

 

496.「フォークナー短編集」

ウィリアム・フォークナー
短編集   龍口直太郎:訳  新潮文庫
収録作品
 
1.嫉妬
2.赤い葉
3.エミリーにバラを
4.あの夕陽
5.乾燥の九月
6.孫むすめ
7.クマツヅラの匂い
8.納屋は燃える
 
 
ミシシッピー州に生れ、アメリカ南部の退廃した生活や
暴力的犯罪の現実を斬新で独特な手法で描き、
20世紀最大のアメリカ文学者に数えられる
ノーベル賞作家フォークナーの作品集。
 
大人の悪の世界と子供の無邪気な世界を描いた「あの夕陽」
をはじめ、
黒人リンチ事件と老嬢の心境を捉えた「乾燥の九月」、
南部人の中にくすぶる復讐心を扱った「納屋は燃える」
など珠玉の8編を収録。
 
ノーベル賞作家が捉えた嫉妬、怒り、嘘――。
ヘミングウェイと並び称される
20世紀アメリカ文学の巨匠が映し出す、
8つの物語。
                         <新潮社書誌情報より>
 
 
私にとっての<フォークナー入門書>でした。
 
それからもう一つ、これは記憶が曖昧で、申し訳ないんですが、
中学の国語の教科書で読んだフォークナーのもの(?)と思われる
一編が頭にこびりついていて、その作品を探す、という目的も
兼ねて、まずはこの短編集を選んでみたわけです。
 
それは雪山での父と息子の話でした。
吹雪のなか、ようやく辿り着いた山小屋で暖をとり、
吹雪が収まって、二人して家路につく、
ただそれだけの話だったような気もします。
 
でもその帰るさなかで、星の光に照らされた道が、きらめいて見える
シーンが堪らなく印象的で、いまだに心に焼き付いています。
憶えている会話はただ一つ。
「おいで、ヴェルナー」
 
残念ながら、この短編集には入っていませんでした。
 
しかし、本当にフォークナーの作品だったのか?
 
それでは本作品集について、ごそごそと。
この短編集に収められた八編にはそれぞれ、
訳者の龍口直太郎さんの解説が個別に付いていて、
非常に解りやすくなっています。
 
で、こんな事も述べておられます。
 
フォークナーの作品には暴力、
わけても殺しがめだつ。
ここに選んだ短編でも、
ほとんどすべてが殺しに終っている。
 
 
ええと、それで。
<怪奇幻想文学>好きの私といたしましては、やはり、
『エミリーにバラを』
を俎上に載せざるを得ません。
ジャンルとしては、<不死者・死者>の話。
 
”死者との結婚に契る誇り高き愛の物語”
            <世界のオカルト文学・幻想文学・総解説より>
 
ネクロフィリア(死体愛好)と言ってしまえばそれまでですが、
父親の死の際に学んだことを活かして、
恋人の時には露見させず、そのまま過ごした幾星霜が悩ましい。
 
元祖ノーマン・ベイツ。
映画 『サイコ』 の、”あの設定” はこの作品から暗示されたものと
信じて疑わない。
 
この『エミリーにバラを』は、
短編ミステリーのアンソロジーにもよく加えられています。
ラストに至るまでの、様々な伏線をもお楽しみください。
 
 
それからもう一つ。
フォークナーを読むにあたって。
 
この作品集にも、『サートリス大佐』とか『スノーブス家』
とかが出てくるし、
<ヨクナパトウファ郡>
という架空の地域が暗示されていたりします。
 
フォークナーが築き上げた一連の ”南部サガ” 。
”ヨクナパトウファ神話” とも評されています。
 
ヨクナパトウファという郡の名は、
インディアン語で 「水が静かに流れる」 という意味だという。
言うまでもなく、三十年に一度は大洪水をひき起こして、
あらゆる人間の営みを流し去るミシシッピ河の魔力が
暗示されている。 
                  <『征服されざる人びと』解説より>
 
で……。
フォークナー好きの輩はともすれば、この辺の設定から
らせようとするきらいがあります。
 
でも、こういう知識は読んでいくうちに、
徐々に仕入れていけばよろしいかと。
 
この短編集でも、
「あ、この名前、前にも出て来た」とか、
「この場所、聞いたことがある」とかの
感想を積み重ねていけば、自然に
<ヨクナパトウファ神話>の『かたち』が見えてくるはずです。
 
この設定に興味が湧いたなら、
いくつかのフォークナー文庫の、巻末解説をじっくりと繙けばいい。
 
多分、何冊かの解説の中には、
<サートリス家>の家系図なんかが載っているでしょう。
 
 
【教訓 】
予備知識は読書にとって、必要な時もあるが、
大方はいらぬ世話であることが多い。
 
 
 
 
 

497.「サローヤン短篇集」

ウィリアム・サローヤン
短編集   古沢安二郎:訳  新潮文庫
収録作品
 
1.一作家の宣言
2.人間の故郷
3.友人たちの没落
4.ロンドンへのあこがれ
5.気位の高い詩人
6.兄の頭の中にある考え
7.冬の葡萄園労務者たち
8.弱りきったものを救い出す
9.発明家と女優
10.逃げ去った戲曲
11.一九四四年版世界暦の愛読者
12.ピアノ倉庫の来訪者
13.パロ―
14.おとも犬
15.柘榴林に帰る
16.椅子に、どうぞ
17.アラム・サエーチュイクフォーゲル
18.海と幼い男の児
19.ビル・マギーの兄弟
20.パリ―とフィラデルフィア
21.アルメニア人の作家たち
22.むなしい旅の世界とほんものの天国
 
 
この文庫には<ウラスジ>がないので、
訳された古沢安二郎さんのあとがきから、色々と抜粋していきます。
 
この短篇集は一九五六年に出版されたサローヤンの
The Whole Voyald (全空旅界)――結局 『むなしい旅の世界』と
訳してしまったが――の全訳である。
 
はじめてサローヤンを読まれる読者の理解を多少なりと助ける意味で、
この書の背景を、しばらく、そこはかとなく語らせてもらいたい。
願わくは、はじめてサローヤンを読まれる方は、
あとがきを先きに読んで欲しいと思う。
 
”あとがき” から読んで欲しいなんて珍しい。
 
ウィリアム・サローヤンはアルメニア人の二世である。
処女作品集 『空中ぶらんこに乗った大胆な青年』 の中に
収められている短編 『七万人のアッシリア人』 以来、
彼は色々の作品で、自分がアルメニア人であることを
強調して物語っている。
 
このあとアルメニアの歴史や、アメリカにおけるアルメニア移民に
ついての説明がなされています。
 
ホント、”あとがき” から読めば準備は万端。
 
……なんですけど、フォークナーの所でも言ったように、
別段、予備知識がなくても入っていけるんじゃないか、と。
 
特にこの作品集、目次を見ても判るように、
22もの短編が収められていますから、
必然的に一編一編が短くなっています。
 
エッセイとも創作ともつかぬ作品が多く、
会話が主体の作品も多数あるので、
読む事に関しては苦労しないと思います。
 
しかも、内容が判るような題名ばかりです。
 
『パロ―』ぐらいかな、判んなかったのは。
これも読んでいけば、<パロ(ー)・アルト>という町の名前である
ことがすぐに判ります。
 
古沢さんには申し訳ないけど、
どうぞ、本編から肩肘張らずに読み始めて下さい。
 
私個人の状況として、最近、ちくま文庫から出ている(いた?)、
『リトル・チルドレン』、『ディア・ベイビー』、『ヒューマン・コメディ』
を読んでいたので、あらためてサローヤンとの最初の出会いを
確認する作業となりました。
 
サローヤンは安心して読める。
 
 
<余談>
アルメニアと言えば、ジョルカエフを思い出す。
ユーリ・ジョルカエフ。
フランス代表のサッカー選手。
1998年 W杯優勝、2000年 ユーロ優勝のメンバー。
 
初めて映像で観たのが1996年のユーロ。
あの頃はジダンよりも輝いて見えた。
アクロバティックなプレイスタイル――。
インテルでもその片鱗を見せてた。
――好きだったなあ……。
 
 
考えてみると、あの頃のフランス代表って、
移民たちで成り立っていた。
 
ジョルカエフはアルメニア、ジダンはアルジェリア、デシャン、リザラスは
バスク、デサイーはガーナ、テュラムはカリブのグアドループ、
カランブーはニューカレドニア、と地域もバラバラ。
 
でも、まとまっていたよな。
当時からデシャンが引っ張っていたのかな。
 
最後はサッカーの話になっちゃった。
 
 
 
 
 

498.「アリバイ・アイク」

リング・ラードナー
短編集   加島祥造:訳  新潮文庫
収録作品
 
1.アリバイ・アイク
2.チャンピオン
3.この話もう聞かせたかね
4.微笑がいっぱい
5.金婚旅行
6.ハーモニイ
7.ここではお静かに
8.愛の巣
9.誰が配ったの?
10.散髪の間に
11.ハリー・ケーン
12.相部屋の男
13.短編小説の書き方
 
 
弁解屋の大リーグ選手、お喋りな看護婦、人の好い警察官、
無神経で残忍なチャンピオン、成上がりの映画監督、
ほら吹き、うぬぼれ屋、ぶちこわし屋 etc ……。
 
《すてきにナンセンスな時代 》 
の典型的アメリカ市民の人間味と滑稽味を、
爽やかな風刺とブラック・ユーモアにとらえて、
今日、
いよいよ声価の高い鬼才 ラードナーの
よりすぐりの名作13編を収録する。
                               <ウラスジ>
 
 
学生時代、あの辺 (どの辺だかは御推察下さい)の
アメリカ文学を文庫で読もうとすると、
ヘミングウェイ、フォークナー、スタインベックあたりが数冊出ていて、
フィッツジェラルドとかO・ヘンリなどが後に続き、
新潮文庫から出ていた、大体一人一冊の短編集――
前述のサローヤンはじめ、マラマッド、アンダースン、コールドウェル、
ついでにオコナー、というのが手に入る精一杯のものでした。
 
そんな中、昭和53年(1978年)、
バーンと出たのが、ラードナーのこの文庫。
 
 
時代的には、”ロスト・ジェネレーション” の一つ前、
彼らの先輩でもありました。
結構、古い。
 
 
最初、『アリバイ・アイク』という題を見た時は、
ミステリーかと思ってしまいました。
訳は加島祥造さん。
鮎川信夫さんや田村隆一さんのように、
詩人が訳するのは<ミステリー>という妙な先入観もありましたし。
 
で、中身を読むと、何のことはない、
”アリバイ” とは ”弁解” のことでした。
 
冒頭から一文を。
 
 
やつの本名はフランク・X・ファレルというんだがね、
どうもXってのは、「言いわけ (Excuse me)」の X じゃねえかなあ。
 
なぜってこの男、ファインプレーした時でも失敗した時でも、
球場にいる時も外にいる時も、とにかく何かやったらきまって
「ごめんよ、実は――」って言いわけしたり弁解したりするんだ。
 
で、やつが南部からきて球団にはいった最初の日に、
もうケリーはやつに「弁解 (アリバイ) アイク」という
仇名をつけちまった。
 
 
どうやら大リーグの選手の話らしい――。
 
それにしても、この<べらんめえ口調>、
この作品全編を通じて一貫しています。
日本で言うと、久保田万太郎の文章のような感じです。
 
もともとラードナーはスポーツ記者で、コラムニスト。
 
取材やインタビューの過程で、自然に身に付いた喋り口調を、
そのまま小説の文章に採用したのかもしれません。
 
 
生前の彼は自分が文学史に残る特異な作家であるとは
夢にも思わなかったと推測される。
それほど彼の態度は勿体ぶらぬ、非文学的なものであった。
                        <加島祥造:解説より>
 
正直、初見ではぶっ飛びました。
「なんだ? この文体は」
 
だけど、この話に合ってる。
 
他の作品では違う口調(文体)を用いているし、話の内容によって
使い分けるあたりは只者ではない証拠です。
 
結局のところ、
すべての作品にハマってしまったと言っても過言ではありません。
そんなんで、やたら友人に薦めていたよなあ……。
 
あえてもう一つ作品を挙げるとすれば、
『ここではお静かに』
オチが見えていても笑えるような一品です。
 
 
<余談>
(1)
このラードナーをきっかけに、日本ではイマイチメジャーになってない
アメリカの作家たちを漁るようになりました。
ジェイムズ・サーバー、ナサニエル・ウエスト、ジェームズ・ジョーンズ、
ホレス・マッコイ……。
 
これには映画ノートをつけていたことが役に立ちました。
”Based on Novel” から作家を割り出して探すのです。
 
映画化され日本公開となれば、やっぱり角川文庫が強い。
さすが、<元祖:メディアミックス>。
 
(2)
『アリバイ・アイク』がそうだったように、
アメリカ人と野球とは切っても切れない関係のようです。
 
マラマッド 『ナチュラル』
フィリップ・ロス 『素晴らしいアメリカ野球』
ロバート・クーバー(クーヴァ―) 『ユニヴァーサル野球協会』
 
このうち、『ナチュラル』は映画で観ただけで未読です。
 
それというのも、
早川文庫からは『奇跡のルーキー』、
角川文庫からは『汚れた白球』、
という和名で出版されていて、
どちらの題名を選ぶか迷ってるうちに、ここまで来てしまいました。
(これぞ、”言いわけ”)。
 
原題の 『The Natural』 からは程遠いけど、
映画がなけりゃ、”『ナチュラル』って何の小説だ?”
ってことになるからでしょうね。
 
ああ、『赤毛のサウスポー』とか
『シューレス・ジョー』(フィールド・オブ・ドリームスの原作)もあった。
 
ミステリーだと、パーカーのスペンサー・シリーズで、『失投』。
 
リチャード・ローゼンは、『ストライク・スリーで殺される』以降、
元大リーガーのハーヴェイを探偵役に据えている。
 
う~んと。
映画までいくとキリがないのでここらで止めときます。
 
蛇足として。
多分、四大スポーツの他の三つを題材にした小説もあるんだろうけど、
日本には入って来にくいんだろうな。
 
アメフト、バスケ、アイス・ホッケー。
それこそ、映画はそこそこ入ってくるんだけど。
 
(3)
コラムニストから作家へ――
となると、ピート・ハミルとボブ・グリーン。
 
二人ともラードナーのように、
スポーツを題材にした小説やドキュメントを書いてる。
 
一時期、この二人とエルモア・レナードを加えて、
”◯◯の御三家” とか言われてたような気がするけど、
はて、なんの御三家だったかしらん。