幻の馬(1955) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

テーマ:

幻の馬

1955年 大映

監督:島耕二 主演:若尾文子、見明凡太郎、岩垂晃彦、三宅邦子


1951年、10戦10勝で、日本ダービーを勝った「トキノミノル」を題材にして作られた映画である。まあ、大映社長の永田雅一が馬主であったことから作った、私的趣味の映画である。馬が素晴らしかったのはわかるが、馬の記録とこの映画の内容を比較すると、まったくノンフィクション劇にはなっていない。「トキノミノル」という馬名も「タケル」に変えてあるし、映画は、生産者の子供と馬のふれあいを主に書きあげられ、競馬の記録などはどうでもいい感じである。まあ、競馬がただのギャンブルだった時代であろう。それもあってこんな映画に?しかし、馬の記録のすごさを考えると解せない部分が多い。


話は北海道で「タケル」が生まれるところから始まる。生産者の次男の岩垂はタケルをかわいがる。ある日、山火事があり、馬がまきこまれる。しかし、父(見明)が飛び込んでタケルを助ける。父はやけどで帰らぬ人に。タケルは、買われぬまま牧場に残っていたが、ある日浜で、長男(遊佐晃彦)が走らせているのを見て、馬主が決まり東京へ。そしてデビューは発走除外。その後もコースアウトと気性の悪さがでて散々だった。山火事のトラウマが残っているのを直すため、街に連れ出し騒音になれさせる。それが功を奏して、「皐月賞」優勝。しかし、厩舎の近くの火事でまたおかしくなる。田舎から若尾や岩垂がかけつけ、タケルを見舞う。岩垂の歌に反応したタケルはダービーに遊佐の騎乗で出場することに。結果、ダービーは勝つ。しかし、レース後タケルは腸の具合が悪くなり、天にかけていった。


はっきりいって、この映画の中で「トキノミノル」とあてはまるところはほとんどない。なかなか馬主が決まらなかったことと、気性が荒かったところ、ダービー回避を考えていた以外はまったく嘘である。デビューは中山となっているが、実際は札幌。コースアウトなどの凡走の戦歴はない。実際、最初に勝った時に実際の馬主である永田は馬を買ったことさえ忘れていたというから、いかにドラマチックにするかということだったのだろう。しかし、映画の中では無敗の名馬というとことは一切語られない。皐月賞のシーンも、新聞記事がメインでレースシーンはあいまいにでてくる。(右回りのレース風景なので、ほんものだとは思うのだが)そして、ダービーも雨の中で初騎乗の親戚が乗るというまったくの嘘になっている。実際のレース映像は残っており、かなり陽気はいい感じである。また、レースも、3コーナーからまくっていったようなレースになっているが、実際は3コーナーからトップにたって、ぶっちぎりの優勝である。ある意味、すごい迫力の馬であったわけだ。それを、なんでこんなちんけなエピソードにしたのだろうか?そして、死因も本物は「破傷風」である。お腹がどうこうなどということはない「安部晋三」といっしょにしないでほしい・・・。


競馬を知っている人なら、もっと調教や競馬のしくみを描きながら、その中で飛びぬけていた「トキノミノル」という馬について熱く語るだろう。こんな嘘話を作ろうと考えるのは、やはり競馬に一般人の理解がなかった時代なのだと思われる。報道もされないし、誰も話を知らない。だから、都合のよい話を作って「トキノミノル」の供養にしたといったところなのかもしれない。まあ、馬券の話もでてこないし、なにかいい子ちゃん映画だと思ったら、この映画「文部省選定」なのだ。「永田雅一、つくるつくる」という感じだね。(今みたいに競馬ファンが一般に大勢いる中ではできない芸当である)


まあ、映画としては、島監督のそれなりのキレのある演出でまとまってはいるのだが、バックステージを考えるといろいろあったみたいな気がする。島監督は音楽音も担当している。とはいえ、たぶん、子供の歌う歌や、テーマソングの監修程度のことだろう。なかなか、すごいセンスである。そして、馬の出産シーンを撮ろうとした気配がある。実際は馬が立つところが出てくるが、苦労した感が(みなが見ていて興奮しているところの編集がそれを物語っている)。また、レースシーンも頑張っているのだが、結局のところ馬がうまく撮れなかった映画である。


この映画での最大の見どころは、当時の東京競馬場の風景である。すべてのレースシーンは東京競馬場で撮られている。(デビュー戦は中山としているが、撮影は府中だ)まだ、ゲートがない時代である。スタートはひもが何本かひいてある。(このひもにひっかかった馬もいそうだ)馬場の周囲には厩舎がある風景は新鮮だ。そして、競馬場の周囲には何もない感じがすごい。当時はここで調教していたわけで、そのシーンもでてくる。撮影も、俯瞰ぎみに撮ったり、なかなかスピード感はあるレース風景だ。当時のスタンド(現在の前の前のスタンド)がカラーで残っている動画は始めて見た。とにかく、日本競馬史を語る上で貴重なフィルムである。


まあ、この作り話がどのような評価を受けたのかはしらないが、当時の競馬周辺のあり方が垣間見れるのは、競馬ファン必見である!


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