スローなブギにしてくれ(1981) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

スローなブギにしてくれ
1981年 東映(製作:角川春樹事務所、東映)
監督:藤田敏八 主演:浅野温子、古尾谷雅人、山崎努、浅野裕子

何か、片岡義男が脳裏に浮かび、原作を読み返し、映画を見る。原作は覚えていたが映画は薄ら覚えだった。記憶にあったのは、「藤田敏八が青春映画を中年映画」にしてしまったことだった。まあ、原作には映画にするだけの中身がないから、内田栄一の脚本は、原作にあるムスタングを走らせる男を創作し、若者と中年の間を行き交う、猫のスキな娘を描いたというところ。今の自分が当時の山崎努の歳(45歳)を超えてしまった今、見直せば、実に分かりやすい中年映画だった。そして、そんなことは女にはどうでもいいってこともよく理解できた。  

猫を持った少女(浅野)は山崎にナンパされるが、途中で捨てられる。その山崎の車の後ろから走ってきたバイクの男(古尾谷)は彼女を拾い、家に送っていく。山崎は友人の原田芳雄と浅野裕子と三人で暮らしていた。彼らにはどちらの子供かわからない子供がいて、その子は浅野の妹(竹田かほり)が面倒を見ているという変な家族だった。その夜、原田がランニング中に死ぬ。いままでわだかまっていたものがすべて解放されていく。浅野は古尾谷のいきつけのスナックでバイトを始める。古尾谷はバイトをクビになる。浅野は山崎に電話する。浅野が車に財布を忘れたのだ。山崎は浅野にあい、ひかれる。そして、実の娘のピアノの発表会の会場に連れて行き、ホテルで浅野を抱く。そんな、山崎にあきれてまた古尾谷の元に戻る。スナック帰りにある夜、浅野は作業服の男にレイプされる。古尾谷は復讐するために男たちを追うが、浅野はしっくりいかず、山崎のもとに行く。そして、山崎、浅野裕子、竹田の中に浅野が入り、生活のバランスがくずれだす。そして、浅野もでていく。そんな浅野を求め、山崎は古尾谷のもとに行く。そこに、レイプ犯が現れ、古尾谷が襲われるところに介入する山崎。結果的には山崎が刺され入院することに。スナックで荒れる古尾谷のもとに浅野が帰ってくる。二人は一緒に暮らし子を授かる。山崎はといえば、女に翻弄され続けていた。

当時の角川映画は、本が売れるように映画を作っていたみたいなところがある。だが、角川春樹は、その映画が原作に忠実だろうとなかろうと全く関係ないプロデューサーであった。この映画も、原作の高校生の一夜の話を全く違う視点から追う形になり、当時も原作のファンには意味不明なものであった。

原作に近いのは浅野のキャラくらいかも知れない。古尾谷の役も原作では身長163cmの男だったりするからだ。都会的な片岡の文体が、脚本の小劇団の舞台的な内田栄一に料理され、もう自分の年代にしか興味なくなったような藤田敏八が監督した作品。そして、結果はその通りのものになっている。

ということで、この映画では、スローなブギには全く関係ない、山崎務が主人公なのだ。浅野裕子や妻との関係もいいかげんであり、その場で女にだらしないだけの中年だが、なにか、その瞬間に生きる的な青春の残り香をただよわせる。結果的には、深く描かれてはいないのだが、藤田監督の世界としてみればとてもわかりやすい気もする

ラストの方で、浅野温子が、山崎の共同生活の家をぶっ壊していくシーンがあるが、まさに、「八月の濡れた砂」のヨットが壊されるような蝕感は、藤田映画の証だろう。山崎の昔の女房に藤田の妻である赤座美代子を使っているのも洒落なのだろう。

そして、この映画の中で光るのは浅野温子だ。まさに、猫系女を見事に演じている。当時20歳。その彼女が当時45歳の山崎に抱かれるシーンも、あまりにも堂々としている。それでいて、キュートさを全面に出し切り、今になっても、この映画が彼女の代表作といっていいだろう。映画の中の彼女を抱きたくなるような感覚がこの映画の魅力である。

舞台を横田基地周辺にしたのも、浅野にあっている気がする。考えれば、浅野温子は山田詠美の小説の主人公などがよく似合う気がする。実現はしなかったが、片岡義男というよりは山田詠美だと思った。

小説にもでてくるスナックのマスターは室田日出男。客は岸部一徳や鈴木ヒロミツ。皆若い。そして、レイプ犯は高橋三千綱と和泉聖二。こちらも、なかなかにあっているw。スナックの中には、当時角川が輸入していたクイーンエリザベスというウィスキーがずらり。こういう映画の私物化は角川らしいともいえる。角川本人も自転車で古尾谷のバイクを転ばす男の役で登場。セリフもある。

すべては、南佳孝の歌で始まり、そして終わる。その空気感だけが残る。けして、傑作ではないが、そんな角川映画の雰囲気が今も私は嫌いではない。とはいえ、猫がうまくつかわれていなかったり、いわゆる片岡的なメカニックの詳細な説明的雰囲気もなく、物足りなさも多い。

ラスト、山崎が車で海に落ちるが、その現場でカメラマンをやっているのは林美雄である。34年前の映画であるが、鬼籍に入った方が多い青春映画という感じがした。それも、わが青春の残り香なのか。


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