ボビーに首ったけ(1985) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

ボビーに首ったけ
1985年 東映(製作:角川春樹事務所)
監督:平田敏夫 声の主演:野村宏伸、根津甚八、村田博美、清水マユミ

角川映画で作られた片岡義男原作の短編アニメ。当時のことだから、手描きアニメなのだが、さまざまにできることを目一杯やっていて、今見ても結構、新鮮であった。片岡の世界を映像化する方法はこうすればよいという答えでもある。詩的に、青春を男女をバイクを語る一編である。  

ボビーはバイク好きの高校三年生。成績が良くないので就職と決めているが、父親からは冷たい目で見られている。妹はそんなボビーが結構好きである。ある日、岡山から、1通の手紙が届く。以前、ツーリングの写真が載った雑誌を見て興味を持ったのだという。ボビーも返事を出した。夏休みを前に喫茶店でバイトを始めるボビー。学校をサボったのが父親にばれ家出をする。また、岡山の彼女から手紙が来る。ちょっと元気がないみたいだ。ある日、喫茶店のマスターにバイクレースのチームに入らないかと薦められる。彼女から電話が来るのを思い出し、バイクを家に走らすボビー。そして、帰り道、飛び出した車に当たる。家では、電話が鳴っていた。  

 この話、携帯の時代には成り立たない話だろう。高度成長期、家にしかない電話は恋愛をさまざまにゆさぶる道具でもあった。今見ると、そんなものに縛られて恋も青春も破壊される話なのはちょっと悲しすぎる。でも、そんな時代の臭いがうまく表現されている映画である。  

その時代は、イコール片岡義男の描く青春画だったりもする。この映画では、極力日本語が削られている。父親が呼んでる新聞も英字新聞だったりする。あくまでも、まだ外国が憧れの時代だったりもしたのだ。ボビーの住所が田園調布というのは、今は青春映画は成立しないテーストかもしれないですね。  

主人公のボビーは高校生。今とは違って、この手の不良的な前が見えない青春図はそこらじゅうにころがっていたし、レールはあったにせよ、アウトローに憧れる時代でもあった。そう、柔らかいが、無茶が効いた時代なのだ。  

話は岡山に住む知らない女子高生からの手紙を中心に回る。ボビー頭の中には、薄ぼんやりと彼女に会いに行きたいと思うところがあるのだろうが、それは明確には提示されずに、行動にも移さぬうちにエンドマークになる。  

ある意味、青春のモヤモヤとやるせなさ、夏のかったるさ、そして、少し未来への希望みたいなものがみえる、プロモーションビデオとしてみれば傑作だと思う。  

今なら、コンピューターでさまざまな画像のエフェクト処理をワンボタンでできる時代であるが、当時、このアニメを作るためにどのくらいのアイデアを詰め込み、実践したかを考えると、その凄さは見えてくる。  

普通の絵のなかに、鉛筆のようなえをまぜてみたり、絵の重ね方も半端なく、そして、バイクの疾走感をだすために、なかなか実写ではできないアングルからの構図も多い。そして、最後の激突への導入部はラフスケッチのような絵でうまくその焦る気持ちを描いている。  

今の若者が見たら、主人公の気持ちは理解できないかもしれない。あくまでも、ここにいる青年は80年代にいた高校生であろう。  

主人公の声は角川映画だから、野村宏伸が使われているが、はっきりいって、うまくはない。だが、純朴な感じはこの映画のテーストにあっている。そして、彼が歌う歌が三曲流れる。彼のプロモーション映像にもなっているのである。そのあたりに公開当時も違和感は感じなかった。  

 今見ても、かなりセンシブルなアニメだと言っていいだろう。

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