本作創作のきっかけは、野田さんが《クイーンの周辺》からアルバム「オペラ座の夜」の演劇性を本当の演劇に広げてほしいと依頼されたことだという。アルバムの演劇性(ブライアン・メイさんの記述では「theatrical aspect」)を展開するのであって、「オペラ座の夜」自体を演劇として表現するわけではない。結果、本作タイトルには「inspired by A Night At The Opera」という言葉が付されることとなった。
観客は「inspired by A Night At The Opera」という言葉が付された本作タイトルを目にした瞬間、自らが本作にインスパイアされて「オペラ座の夜」を想起するであろうことを無意識のうちに期待する。期待が成就するとき、作り手と観客のインスピレーションは共鳴する。期待が空振りに終わると、だまされたかのような割り切れなさが観客の心に残る。
劇中の音楽の使い方も、さほど効果的とは思わなかった。瑯壬生(ろみお=志尊淳さん)と「それからの」瑯壬生(上川隆也さん)が、それぞれ第一幕と第二幕で敵方の武士を図らずも殺してしまった後にボヘミアン・ラプソディが流れるのは、「Mama, just killed a man」そのままでわかりやすいが凡庸でもある。瑯壬生(志尊)と愁里愛(じゅりえ=広瀬)が初めて床を共にするシーンにラヴ・オブ・マイ・ライフを使うのも同様。仲間同士の絆を描く場面でマイ・ベスト・フレンドとなると、苦笑を禁じ得ない。