第二章


   

 

 重い扉を開けた俺を待ち構えていたのは、相手を圧倒するオーラを放っている白頭の老人だった。

「君が来るのを待っていたよ」

 老人は俺が来ることを知っていたような素振りで俺に話しかける。

 老人のオーラにがんじがらめにされていた俺は、しばらくの間何も言うことが出来なかった。

 やっと気持ちが落ち着いてきた俺は、一つのことを尋ねる。

「あ、あんたは誰だ!?」

「私の名前など、どうでもいい。まあそうだな、館長とでも呼んでくれ」

 館長はそう言って展示室の中に入っていった。

 俺は仕方なく館長の後をついていった。

   

   


 彼が私についてきたので、私は副館長の荒川に電話を掛ける。

「ああ、俺だ」

「館長! どうです、うまくいきましたか!?」

「ああ、引き続き打ち合わせの通りによろしく頼む」

「了解しました!」

 私は荒川の返事を聞いてから電話を切った。


⇒「くゐーん」~「月」~

「あれが俺だって・・・?」

俺はそう言わずにはいられなかった。
俺が桐生さんに刃を向け、切り掛かり、サムライに目の前で殺された――
そんなことが信じられるか。

「信じないなら良い。」
サムライは冷たい声でそう言う。
その冷たさはいつの間にか降り始めた雨さえも凍りそうな勢いだ。

「しかし、こんなこと信じてたら・・・」
と俺が全てを否定しようとした時。
突然サムライが声を荒げ、

「金華猫、それが在る場所へ行け。真実は全てそこから連鎖する。」
と言った。

気がついたらサムライは降っていた雨と共に消えていた。



―――金華猫・・・そうだ、じいちゃんに聞いたことがある。
たしかあれは小学生のころ行った、美術館の――。


そして一時間後、俺は閉館間際の美術館の扉に手をかけていた。


今思い返せば、浅はかな行動だったのだろう。











こんなくだらない人形劇に惑わされるなんて。


:第一章 完

⇒「K」 ~「がんじがらめ」~

「……待て待て、待てぇい!」


 俺は思わず叫んだ。

 なるほど、確かに妹さんのピンチを伝えたのは俺だ。それを間髪居れずに了解したのもあいつだ。が、しかし……。なんだこの対応は。いまどきの日本で日本刀を帯刀していました、ナイフの男に切りかかりました、はい切捨て御免。

 無いだろ、おい……。

 人生を時にサイコロの目とたとえる人が居る。それは一瞬に物事が決まるからだ。俺の人生も然り、彼の人生も然り。しかし、あまりにも一瞬の死に、果たしてあの男は何を思ったのだろうか。いや、思えたのだろうか。

 未だに消えぬ野次馬からの問いと、サムライ氏と桐生さんへの野次馬と、そして殺人劇への野次馬の喧騒に俺の疑問はかき消されていった。

 ……と言うわけにも行かず、人ごみ縫って二人を追いかけましたとも。

「あれ、さっきの」

 早々に気づいたのは桐生さん。後ろから呆れた顔で追いかける俺を見て、手を振っている。あなたはいつもそんな天真爛漫なんですか? 目の前で殺された人を見たんですよ。

 続いてサムライ氏が俺に気づく。振り返り、軽く会釈。ちょっと待てぇい。軽く会釈って、その程度のことかよ!

「そんなに息を切らして……どうしたんだ?」

 目には困惑の色を浮かべる兄妹が、追いつきゼーゼー言う俺を見つめていた。

「……おいサムライさんや、あなたは真面目にお侍ですかい」

「え?」

「さっき殺してただろ、あの男を」

 俺は下を向いていた顔を上げた。そして彼の顔を見た。

「っ」

 絶句した。

 いつになく、蒼白で、静かで、そして得体の知れないものを見るような、そんな目をしていた。

 隣を見れば、妹氏はいつの間にかその場から消えている。

 俺は彼の次の言葉を待った。

 数分後、彼の口が動く。

「アレが……見えたのか?」

「アレって、何だよ……」

「―――だ」

 遠くで、電車の進む音が聞こえた。

 街角の喧騒はけたたましく、若者達の歌い声と、中年オヤジの罵声が飛び交う。雑踏の中を今日も何かを思い彼らは進む。

 だがその中でさえ、彼の言葉はしっかりと聞こえたのだった。




⇒「バイザー」 ~「金華猫」~