俺は胸ポケットから携帯電話を取り出す。

 そして、ある電話番号を押した後、通話ボタンを押す。

 三回目のコール音が鳴り終わったとき、相手が出た。

「もしもし」

 電話の向こうから地デジのCMがBGMとして聞こえてくる。あいつは電気屋にいるのだろうか。 

 しかし、俺はそんなことは気にせずに、要件だけを手短に伝える。

「サムライ、お前の妹さんがピンチだ。今すぐ撮影所の向かいのマクドナルドに来てくれ」

「分かった」

 サムライはそう答えて、電話を切った。

 その数秒後、誰もいなかったはずの刃物を持った男の背後に、サムライが現れた。彼は日本刀を帯刀していた。

 彼は日本刀を抜き、男の背中を切りつけた。男は血を噴き出しながら、床に倒れた。彼は男が死んだのを確認した後、日本刀をしまう。

 そして、桐生に近づき、声をかける。

「大丈夫か、桐生」

「大丈夫よ、おかげで助かったわ。ありがとう、兄さん」

 桐生はそう答えて、サムライの頬に軽い口付けをした後、マクドナルドを出ていった。

 サムライは顔を赤らめていた。






⇒「くゐーん」~「サイコロ」~



 そうやって猫の瞳をずっと見つめていた。




 しかし、俺は読心術を使うことなんてできない。




 よって彼女の生い立ちなんぞ知ることが出来るはずがない。




 ただ、その時るー君の目が一瞬だけ緑色に光った気がした。まあ、それが何に直結するというわけでもないのだが・・・




「それでは私はこれで・・・」




 いつの間にかフィレオフィッシュを食べ終わった彼女は、足早にこの場を去って行った。




 なぜなら周りにギャラリーが出来ていたからだ。




 なにせ多くの人が集まるファーストフード店。サングラスをかけていても、一人は彼女に気がついてもおかしくはない。




 背後から、




「えっ?もしかして桐生?」




「すごーい」




「一緒に居るのは誰?」




 などと声が聞こえてきていた。




 なかなかいい気分だ、と自分は有名人になった気分に酔いしれていた。




 しかし、店を出る時の彼女の後ろを、懐に刃物のような物を光らせながら追い掛ける小柄な男を見た瞬間、その酔いも覚めてしまった。




 彼女が危ない、瞬間的にそう思い、勢いよく立ち上がる。しかし、




 「あのー、君驕ることなかれの蜜柑の方ですよね?」




 「ハラショーと共演したことありますよね?あっ、谷原章介さんのことです。」




 と、ギャラリーが俺の前に立ちはだかる。




 思いの外ギャラリーは大きく、騒ぎを見に来た店員まで加わっている程だった。




 嬉しいが、それに構ってはいられない。早く行かなくては彼女が危ない、そう思った俺はある決断を下した。




 




 ⇒「K」 ~「地デジ」~




「よぅ、久しぶりだなー」 俺はサングラスに近づくと、片手で挨拶した。

 同じくフィレオフィッシュを食べていた手を止めると、その手でサングラスを少し下ろす。

 黒い瞳。長い黒髪。思ったとおりだった。

「桐生さん、だろ?」

 その女、桐生は不思議そうな顔で、俺を見上げていた。

「えぇっと……」

 どうやら、俺のことを思い出せない様子である。仕方ないといえば仕方ない。

 だが、彼女のお供は覚えているようだった。

 ニャー。

 桐生のコートの胸元から、猫の声が聞こえた。まだ飼っているのか、そこで。俺はそんな思いをふけりながら、そこから顔出す白い子ネコを見つめた。

「……るーくんが覚えているらしいので、あなたは私の知り合いのようです」

 そして、彼女はわけのわからないことを口にした。

 俺は許可も取らずに隣の席に座った。猫が片手を出して俺に挨拶するので、それに答えながら、

「ほら、一年くらい前の。『君驕ることなかれ』で、あなたの蜜柑を一緒に拾った……」

「……あぁ、あのときの」

 やっと、思い出してくれたようだ。ある意味、奇跡的とすら言えるが。

 ちょうどよく頼んだものが来たので、俺は食事をご一緒させてもらうこととした。

「今は何をなさっているんですか?」

「……あの気違い監督の元で映画に出てる」

「ほぅほぅ。主演ですか?」

「忌々しいことにも、主演だよ」

「おぉー、すごいですねー! 感激です」

「いくつも主演を取っているあなたに言われると、皮肉にしか聞こえないよ」

 と、他愛も無い談笑にふける。

 さて、この桐生と言う女性と俺との関係だが、別に蜜柑が全てを語りつくせるほどの、短いものでもなかった。かといってアルバムに載せるほどの長く親密な関係と言うわけでもなく、ベッドが語るという変な関係でも無い。

 ではどんな関係なのか。

 簡単なことである。

「そういえば、その監督の、兄さんも出演しているとか聞いたんですけど」

 桐生さんは、俺のほうを向いて言ってきた。

「あぁ、出てるよ。超重力で次元をぶった切るお侍さん」

 あの実直生真面目なサムライのことである。

 そう、この桐生さんという娘っ子、あのサムライの妹だったりする。どう育てればあんな不器用な男と、この軽く天然の入っている少女とを育て分けられるのか、俺は甚だ不思議であるが、それでもあの二人は血がつながった兄弟なのだ。そしてこうして彼女と話していると、再びその事実が不思議に思えてくる。

 ふと、再び彼女の胸元に目を向けた。

 変わることなく、るーくんが俺を見つめた。

 おい、おまえの飼い主はどんな人生を送ってたんだ?




⇒「バイザー」 ~「ハラショー!!」~