「……待て待て、待てぇい!」


 俺は思わず叫んだ。

 なるほど、確かに妹さんのピンチを伝えたのは俺だ。それを間髪居れずに了解したのもあいつだ。が、しかし……。なんだこの対応は。いまどきの日本で日本刀を帯刀していました、ナイフの男に切りかかりました、はい切捨て御免。

 無いだろ、おい……。

 人生を時にサイコロの目とたとえる人が居る。それは一瞬に物事が決まるからだ。俺の人生も然り、彼の人生も然り。しかし、あまりにも一瞬の死に、果たしてあの男は何を思ったのだろうか。いや、思えたのだろうか。

 未だに消えぬ野次馬からの問いと、サムライ氏と桐生さんへの野次馬と、そして殺人劇への野次馬の喧騒に俺の疑問はかき消されていった。

 ……と言うわけにも行かず、人ごみ縫って二人を追いかけましたとも。

「あれ、さっきの」

 早々に気づいたのは桐生さん。後ろから呆れた顔で追いかける俺を見て、手を振っている。あなたはいつもそんな天真爛漫なんですか? 目の前で殺された人を見たんですよ。

 続いてサムライ氏が俺に気づく。振り返り、軽く会釈。ちょっと待てぇい。軽く会釈って、その程度のことかよ!

「そんなに息を切らして……どうしたんだ?」

 目には困惑の色を浮かべる兄妹が、追いつきゼーゼー言う俺を見つめていた。

「……おいサムライさんや、あなたは真面目にお侍ですかい」

「え?」

「さっき殺してただろ、あの男を」

 俺は下を向いていた顔を上げた。そして彼の顔を見た。

「っ」

 絶句した。

 いつになく、蒼白で、静かで、そして得体の知れないものを見るような、そんな目をしていた。

 隣を見れば、妹氏はいつの間にかその場から消えている。

 俺は彼の次の言葉を待った。

 数分後、彼の口が動く。

「アレが……見えたのか?」

「アレって、何だよ……」

「―――だ」

 遠くで、電車の進む音が聞こえた。

 街角の喧騒はけたたましく、若者達の歌い声と、中年オヤジの罵声が飛び交う。雑踏の中を今日も何かを思い彼らは進む。

 だがその中でさえ、彼の言葉はしっかりと聞こえたのだった。




⇒「バイザー」 ~「金華猫」~