「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 長い沈黙が場を支配した。人魂が出そうなほど暗い展示室の中で、彼は長い間沈黙していた。

 私が「もういい」と彼に言おうとしたところで、彼はやっと一つの答えを口にした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それは沈黙、すなわち『無』という名の答えだった。

 私は驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。驚いた。

 彼がそのような悟りの境地に至っていたことに驚いた。

「よかろう、ついてくるがいい」

 私は彼にそう言い、さらに奥へと進んでいった。


⇒「くゐーん」~「ダイエット・コカコーラ」~

しかし、この男・・・本当にその価値が有るのだろうか?
あの剣豪の考えることは本当にわからん。
本来ならこのまま終わりにしてしまっても良いのだが・・・
しかしこのまま話が平行線を辿るのも癪にさわる。
それならせめて・・・

「青年よ」

「は、はい?」

「ヒントを与えよう」

「・・・ヒ、ヒント?」

先程まで只の傍観者だった老人がいきなり青年の味方となる――
多少不自然ではあるが、致し方ない。

「人を困らせる英雄・・・それは存在すると思うかね?」

青年は当たり前のように
「そんなの居るわけがない」
と答える。

「そうだな、人のためにならなくては英雄とは違う。・・・しかし、救世主、ヒーローについてはどうだ?」

「それも同じ・・・」

「違うんだよ。」

「え?」

「それも極端に、な。」

ドアの向こうでドタバタと音が聞こえる。おのれ、荒川め。
この青年に私が伝えられるのはあと少し。
あとは青年による。
少々楽しくなってきたな。
「ヒーローや救世主は、いつでも表裏一体なのだ。その力に溺れ、堕落。または闇に紛れ、世界の敵となる者も居るだろう。それを乗り越えた者が、英雄と言われる存在なのだよ。」

「・・・それで?」

「・・・・・・何故、君はヒーローや救世主を正義だと決め付けるのだ。それは君自信が正義だから?・・・いや、正義だと思い込んでるからだ。」

ドアの向こうで「スーパー・エレクトリック・ディバイン・デストロイ-弐式改を発動!」と声が聞こえた。
荒川め、減給は覚悟しておけ。

「君の中にある 本意 はなにかな・・・?」

これが最後の問いだと、青年も気づいているようだった。


⇒「K」 ~「人魂」~

 さて、問題はここからだ。どのようにして、この少年を説得するか。
 振り返らずともわかる、少年の俺への眼差しは疑いのものだ。何か、俺を疑う何かを見たのだろう。いや、何かではないな。あの刀の小僧が何かやらかしたのだろう。それが原因であろうことは、容易に想像がつく。
 しかしだからと言って、邪険に扱えるわけでもない。それは、許されていないのだから。
「さて、少年」
 耳を澄ませば、少年のはっとする息が聞こえる。よほど俺に集中していたのだろう。周りが見えないのは、最近の若者の特徴だ。
「な、なんだよ」
「いや、大したことでも無い。ただ一つだけ確かめたくてな」
「……」
「少年、お前は救世主が、ヒーローが、正義の味方が、この世に存在すると思うか?」
「な、何を……」
 驚愕に震える顔が、まぶたの裏に映る。
「正義とはな、大衆が得をするものを言うのだよ。ヒーローとはな、大衆のストレスを吹き飛ばすものの琴なのだよ。救世主とはな、大衆を救うことの出来る英雄のことなのだよ」
「それで」
「その救世主またはヒーローもしくは正義の味方が果たしてこの世に存在するのか、それに対する明確な答えが無ければ……」
 やがて見えてきた扉の前で、俺は止まる。
 この向こうで、荒川は準備をしていることだろう。入念に、言われたとおりの事を。
 しかし今この扉を開けても、意味は無いのだ。この扉を開けるには、この少年の意志の中に、正義の味方を焼き付けなければならない。
 あらゆる点で、これが最も大変なことなのだ。これが成功すれば万事が上手く回り、失敗すれば万事が落ちていく。であるからに、彼の正義の味方という構造が出来上がらない限り、俺はこの扉の前から動くことが許されないのだ。
「無ければ……?」
「この扉より奥、少年、お前さんの求めるものを見せることは出来ない」
 ゆえに、俺はきっぱりと答えた。
 振り返ると、想像以上に歪んだ疑心をあらわにし、酷い顔になって、彼が俺を睨んでいた。俳優を聞いたが、そうとは思えない顔だ。月明かりに照らされた俳優というのは、もっと優美なものではないのか。夢が壊された。
「……居ない」
「何故だ?」
 彼の明瞭な答えに、俺は追って問いをかぶせる。
「世界にそんな奴らが居るなら、殺人事件も起きないし、戦争も、貧困も無い」
 少年よ、それは小学生の答えだ。
「それは無しだ、少年。私は君を大人と思って問うているのだよ。それは小学生の答えだ」
「だったら……」
「急がなくとも良い。少年、君は何回もこの博物館に来ることになるだろう。私の問いの答えを作るためにね。ただ、君が諦めてここに来るのを忘れないために、言っておくよ」
「……」
「金華猫、それはこの奥に存在している。過去、君がお爺様に求めたそれは、この奥に存在しているのさ」
「金華猫……」
「だから、君は正確な答えを導き出す義務がある」


⇒「バイザー」~「スーパー・エレクトリック・ディバイン・デストロイ-弐式改」~