さて、問題はここからだ。どのようにして、この少年を説得するか。
振り返らずともわかる、少年の俺への眼差しは疑いのものだ。何か、俺を疑う何かを見たのだろう。いや、何かではないな。あの刀の小僧が何かやらかしたのだろう。それが原因であろうことは、容易に想像がつく。
しかしだからと言って、邪険に扱えるわけでもない。それは、許されていないのだから。
「さて、少年」
耳を澄ませば、少年のはっとする息が聞こえる。よほど俺に集中していたのだろう。周りが見えないのは、最近の若者の特徴だ。
「な、なんだよ」
「いや、大したことでも無い。ただ一つだけ確かめたくてな」
「……」
「少年、お前は救世主が、ヒーローが、正義の味方が、この世に存在すると思うか?」
「な、何を……」
驚愕に震える顔が、まぶたの裏に映る。
「正義とはな、大衆が得をするものを言うのだよ。ヒーローとはな、大衆のストレスを吹き飛ばすものの琴なのだよ。救世主とはな、大衆を救うことの出来る英雄のことなのだよ」
「それで」
「その救世主またはヒーローもしくは正義の味方が果たしてこの世に存在するのか、それに対する明確な答えが無ければ……」
やがて見えてきた扉の前で、俺は止まる。
この向こうで、荒川は準備をしていることだろう。入念に、言われたとおりの事を。
しかし今この扉を開けても、意味は無いのだ。この扉を開けるには、この少年の意志の中に、正義の味方を焼き付けなければならない。
あらゆる点で、これが最も大変なことなのだ。これが成功すれば万事が上手く回り、失敗すれば万事が落ちていく。であるからに、彼の正義の味方という構造が出来上がらない限り、俺はこの扉の前から動くことが許されないのだ。
「無ければ……?」
「この扉より奥、少年、お前さんの求めるものを見せることは出来ない」
ゆえに、俺はきっぱりと答えた。
振り返ると、想像以上に歪んだ疑心をあらわにし、酷い顔になって、彼が俺を睨んでいた。俳優を聞いたが、そうとは思えない顔だ。月明かりに照らされた俳優というのは、もっと優美なものではないのか。夢が壊された。
「……居ない」
「何故だ?」
彼の明瞭な答えに、俺は追って問いをかぶせる。
「世界にそんな奴らが居るなら、殺人事件も起きないし、戦争も、貧困も無い」
少年よ、それは小学生の答えだ。
「それは無しだ、少年。私は君を大人と思って問うているのだよ。それは小学生の答えだ」
「だったら……」
「急がなくとも良い。少年、君は何回もこの博物館に来ることになるだろう。私の問いの答えを作るためにね。ただ、君が諦めてここに来るのを忘れないために、言っておくよ」
「……」
「金華猫、それはこの奥に存在している。過去、君がお爺様に求めたそれは、この奥に存在しているのさ」
「金華猫……」
「だから、君は正確な答えを導き出す義務がある」
⇒「バイザー」~「スーパー・エレクトリック・ディバイン・デストロイ-弐式改」~