ゴミ箱 -15ページ目

ゴミ箱

ここはネタをどんどん載せる場所です。
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「サイケ?」
臨也はパソコンから顔を上げると、先程までソファーに座っていたサイケがいないことに気が付いた。
呼んでみるも、返事は無い。
いつもはすぐ返事があるのに、と不思議に思いながら椅子から立ち上がり、サイケを探す。
きょろきょろとするが、辺りにはいないようだった。
もしや、と思って玄関の靴を見に行くと、やはりそこにサイケの靴は無かった。
その事実が何だか変なもやもやを心に落とす。
「一言くらい言ってから出かければいいのに………。」
むすっとしたままデスクに戻り、椅子にドカリともたれ掛かる。
ちらりとパソコンを見たが、大した動きも無く、やる気も起こらなかった。
はぁ、とため息をついて玄関を見る。
しばらく眺めていたが、何の変化も無く、臨也は腕で枕を作るとそこへ顔を埋めた。

「いざやくん?」
何も言わずに出ちゃったから、怒ってるかな?と思いながら帰ってきたのに、部屋には夕日が差し込むだけで、しんと静まりかえっていた。
急いでいざやくんが普段座っている仕事用のデスクに行くと、そこには腕を枕にして眠っているいざやくんがいた。
「いざやくん。」
さらりと髪をすくと、んっと言って少し動いた。
そのままもそりと顔が現れ、目が開けられて、赤い瞳に僕がうつる。
「サイケ?」
「ただ今、いざやくん。」
うとうととした目をしながらいざやくんは、僕の腰に抱き着いてきた。
いつもと立場が逆になっていて焦っていると、いざやくんはぐりぐりと顔を押し付けてきた。
「勝手にいなくなるから、びっくりした。」
「お仕事忙しそうだったから、邪魔しちゃうかもって思ったから…ごめんね、沢山ぎゅーってするから。」
「今夜は離さないでよ。」
淋しかったんだろうな、と思うと可愛くて、僕はぎゅっといざやくんを抱きしめた。
今夜は許可もくれたし、楽しみだなあっ。
好きで、好きで仕方なくて、でも自分は彼に嫌われていて。
ぐるぐる考えれば考えるほど可笑しくなってしまいそうで。
俺は、ついに思考を転換させることにした。
好きだと思うから可笑しくなるんだ。
俺はあいつが嫌い、それでよかったんじゃないか。
いつから好きとか思うようになった?
いったい、いつから・・・。

新宿に生息する情報屋の折原臨也は深い思考の底へと沈んでいた。
思い出すのは金にバーテン服。
それと、俺に決して向けられることのない笑顔。
あの表情を見たとき、俺はもうあいつのことが好きだった。
不本意ながらも好きだった。
結局自分で何処まで考えても既にその時点では好きだったという結果にいきつく。
臨也は遣り切れなさを感じて池袋にある新羅の家へと向かった。
その間に平和島静雄に出会うことはなかった。
今日の池袋の昼下がりはいたって平和だった。

「やぁ、元気?」
新羅は玄関の扉を開けたことを深く後悔していた。
インターホンに出た時点で相手が臨也であることは分かっていた。
だから臨也がいることが問題なのではないのだ。
問題は臨也の表情だった。
またくだらないことを考えて、思考の奈落へと堕ちているのだろう。
「今日はまた・・・何かあったのかい?」
珈琲を目の前に置きながら新羅が尋ねるが、臨也はただ首を横に振るだけだった。
「なら、何か考えて抜け出せなくなったんだ?」
臨也は珈琲の入ったマグカップへ手を伸ばし、疲れた笑みを顔に浮ばせた。
「色々疲れちゃって・・・そのことの根源について考えてたらまとまらなくて、いい解決方法なんてこれっぽっちも浮ばない。彼に関することは予想外なことばかり起こるから。」
新羅は臨也の言う彼について考えた。
臨也は高校生の頃から彼が好きだった、それは今でも変わらず、そのことが臨也を苦しめていた。
彼こと平和島静雄は全く臨也の想いに気付いていなかった。
しかし、新羅は静雄についての情報も知っていた。
静雄もまた臨也のことを好いているということを。
けれど、このことを二人に言うつもりなど新羅にはさらさら無いし、手助けなどもってのほかだと思っている。
それは、自分の力で気がつかなければ意味が無いという種のものではなく。
ただ自分にこうやって弱った姿を見せる臨也を静雄に渡したくないからというのが理由だ。
もし、このまま臨也が静雄を諦めたら、新羅は自分が動くつもりだった。
臨也を自分の物にするために動くつもりだった。
新羅は綺麗なものが好きなのだ。
「臨也・・・私でいいなら話を聞くよ。」
にこりと微笑みながら言えば、違和感からか、臨也は眉間にしわを入れた。
それでも臨也は口を開いた。
もうシズちゃんのことを好きなどと考えたくない。
嫌いだと思えていた頃に戻りたい。
と、その言葉に新羅は表面では無表情でいたが、隠しきれない笑いがこみ上げそうだった。
もっともっと深く傷ついてしまえばいい。
新羅は折原臨也が好きで、平和島静雄よりも好きだった。
セルティのことは何よりも愛していた。
臨也は平和島静雄が好きで、新羅はトモダチであり、人を愛していた。
平和島静雄は、折原臨也を自分のモノにしてしまいたかった。
絶対に好きだなんて感情を認めてやるものか!
何度も何度もそうやって俺は自分に言い聞かせているのに、シズちゃんときたら・・・そんな俺の努力なんて知らずに、好きだと言う。
どうして平和島静雄が俺を好きになったのかは知らないが、その言葉が少し嬉しくもあった。
本当ならば好きだといってしまいたい。
いえたらどれだけ楽だろう。
それでも、長年敵対し続けてきたという事実がどうしても頭から離れなくて。
俺はいつも流してばかり。
「臨也。」
どんなに熱っぽい目で見られても結局俺は、今日も事実を飲み込む。
「やぁ、シズちゃん。自販機を持ち上げるのは感心しないよ。」
彼の嫌いな笑みを貼り付けて、今日も嘘で真実を包み込む。
あと少し君が我慢できたら、俺は・・・。
素直になろうって思う。
「俺も―――・・・。」
平和島静雄と折原臨也が同じ空間にいるにもかかわらず、そこには殺伐とした空気ではなく、だらけた雰囲気が広がっていた。
『今は恋人としての時間を過ごしている』ということである。
臨也は床に転がって本を読んでいるし、静雄は座って船をこいでいる。
本から目を離し、静雄の様子を観察しはじめた臨也はこのまま寝かせてやるか起こすかで少し迷っていた。
疲れているのならそっとしておいた方がいいだろう、と結局そういう結論にいたった臨也は携帯を開くと仕事を始めた。
静雄が寝てしまっているのなら暇をつぶすしかないのだ。
何時間かそうやって過ごすうちに、昼が過ぎていた。
「お昼ご飯どうしよう。」
ぽつり、と呟いた臨也は携帯を閉じて立ち上がり、財布を持ち玄関へと向かった。
「シズちゃん、ちょっと出かけてくるねー。」
ドアを閉じて鍵をかけようとした所で、中からどたばたと音が聞こえ始めた。
「おい臨也、待ってろ。」
そんな声まで聞こえてくる。
「シズちゃん起きたんだ。」
刺していた鍵を引き抜き、臨也は大人しく静雄が出てくるのを待つことにした。
一緒に出かけようとするなんて、珍しいこともあるもんだと思いながら。
何だかむしょうにシズちゃんに会いたくなって、池袋に来たものの、結局会えないまま新宿に帰り、今もう今日という日が終わろうとしていた。
そんな時、常識的に考えると人が訪ねてくるはずなどない時間だというのに、インターホンが鳴った。
「誰かと会う約束とかしてたっけ?」
疑問に思いながらも、インターホンに出る。
『開けろ。』
「・・・・・・。」
『臨也?』
幻聴かな?と一瞬わが耳を疑ったが、どうやらこの鼓膜を振るわせる声は間違いなく、平和島静雄のものだった。
「シズちゃん?」
確信を持っているにも関わらず、口からは少し震えた声で疑問系の言葉が飛び出していた。
『他に誰がいるんだ?早く開けねえとぶっ壊すぞ。』
「ちょっと待ってよ。」
物騒なことを言う静雄に少し焦って臨也はストップをかける。
「どうしてこんな時間にシズちゃんが来るの?」
『・・・・・・。』
「・・・・・・シズちゃん、教えて。」
しばらく沈黙が流れ、答えないのなら帰ってくれと言って切ろうかと思案し始めた時、ぽつりと静雄が何かを呟いた。
それをよく聞いていなかった臨也はもう一度言うように頼んだ。
『だから、手前に会いに来たって言ってんだろ。』
「シズちゃんが、俺に?珍しいね。」
『いいだろ別に、理由言ったんだから開けろ。』
臨也はここまで言うのだから仕方がないと思い、静雄を家にあげることにした。
部屋にあがった静雄にソファへ座るように言うと、素直にソファへと腰掛けた。
「俺に会いに来たって、どうかしたの?」
台所で珈琲を淹れながら尋ねると、ただ会いたかったと返され、何となく照れくさい気分にさせられた。
「はい、珈琲だよ。」
カップを目の前に差し出すと、それを大人しく受け取り口をつけた。
てっきり毒が入っているんじゃないかといわれると思っていたので、臨也は拍子抜けしながら自分も腰を落ち着けた。
「何だかシズちゃんとこうしてると変な感じがするよ。」
いつもは標識を引き抜いたり、ナイフを投げるような関係だから、こうして静かに向かい合っているのには違和感があった。
「家に帰って、さっさと寝るつもりだった・・・けど、手前の顔がむしょうに見たくなって・・・気付いたら来てたんだよ。」
普段は臨也が池袋にいただけで、池袋でないところでも顔を合わせただけで大喧嘩になるというのに、どういった心境の変化だと臨也は目を細めながら観察した。
けれど、大人しいという以外には別に何も変化したようには見えなかった。
それに、今ここで臨也が静雄を怒らせればいつもどおりの展開になるとも思えた。
だからこそ、臨也は何も言わなかった。
「手前、今日池袋に来てただろ。」
「気付いてたの?」
気付いていたのならどうして自分の目の前に現われなかったのだろうか、と思いながら静雄を見るが、静雄は何も言わなかった。
「会う前に帰るな。」
それしか言わなかった。
臨也はその言葉に思わず溜息をつきそうになったが、どうにかかみ殺し、かわりに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、今日は泊まったら?終電ももう無いし。」
静雄は少し考えるそぶりを見せてから頷いた。
「分かった。」
「じゃぁ、シズちゃんベット使っていいからね。俺はソファーで寝るし。」
湯気がたっている珈琲を飲みながらそう言うと、何故か不思議そうな顔をされた。
「一緒に寝りゃいいじゃねーか。」
ブッ
思わず飲んでいた珈琲を勢いよく吐き出してしまった。
それほどの衝撃を持った言葉を静雄は発していた。
「ちょ、何考えてるのシズちゃん!思わず珈琲吐き出しちゃったよ。」
ティッシュを出してこぼした所を急いで拭く。
「何か変なこと言ったか?」
「いや、だからさ・・・どうして俺とシズちゃんが同じベットに寝るってことになるの。第一、シズちゃんは嫌じゃないわけ?」
ゴミ箱にティッシュを投げつけながらそういうと、静雄は飲み終えたカップをテーブルに置いてから口を開いた。
「嫌じゃないって言ったら、手前は俺と寝るのか?」
臨也は先ほどのように焦ったりせず、落ち着いて残っていた珈琲を飲みきり、静雄の使っていたカップと自分のカップを流しに置いた。
「寝るって・・・ただ一緒に朝まで寝るだけなら・・・いいよ。」
「あぁ、それでいいから。」
そう言った静雄の顔に切ないものが見えて、臨也は思わず静雄に抱きついていた。
「じゃぁ、朝まで一緒にね。」
「あぁ。」
そっと背にまわされる腕の感触に臨也は瞳を閉じた。
ベットに行こう、とは互いに切り出せないまま、長い間ずっとそうしていた。
求めていた温もりを確かに感じながら、ただ時間を忘れて抱き合っていた。
もしも俺の性別が女だったとしたら。
「今のような関係を築いていたと思う?」
俺の家に当然のように腰を落ち着けていた臨也が突然そんなことを体育座りの状態で尋ねてきた。
「さぁな。」
「最近ちらっと見たテレビでさ、男女間の友情はありえないってことが証明されたって言ってたんだ。友情だと思っても頭では恋愛で見てるんだって。」
だから、もし俺かシズちゃんが女だったら・・・やっぱり少し違ったのかな。
幻想の世界に浸りこもうとしている臨也をたたき起こすために、俺は一番現実味を帯びていることを言ってやることにした。
「まず手前と俺の間に友情なんてもんが成立してるとは思えねぇ。」
すると、ゆるりと臨也は自分の足元から俺に視線を動かし、同じようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「本当にそう思う?出会ってすぐに喧嘩という名の殺し合いを始めて、何だかわけの分からないうちにセフレみたいなことになった俺達だよ?」
「何が言いてぇんだよ。」
「だから・・・・・・何でもない。気にしないで、忘れて。」
体育座りの体勢で丸まってしまった臨也はどうやら不貞腐れてしまったようだ。
「臨也、一つ訂正がある。」
「喋らないで。」
「俺と手前はセフレじゃねぇだろーが。」
「黙れ。」
「つまり、そういうことだろ。」
女だろうと男だろうと、きっと臨也のうざさは変わらないし、この腐ったカンケイも変わらない。
「シズちゃんの変態。」
「その変態が嫌いになれないのは誰だ。」
「ほんと、嫌い・大嫌い。」
男のときも女のときも、臨也に意識向けるのには変わりない。
「で、手前はもし俺が女だったらどうすんだよ。」
「標識やらポストやらを引っこ抜く女はお断りだよ。」
「あ゛ーあ゛ー、本当にマジでありえないから、どうしてこうなった。」
折原臨也は自分の部屋のベットの上でガンガンとする頭を抱えながら隣で寝こけている男を睨んだ。
正直犬猿の仲であるはずの静雄とナゼ寝ているのかが臨也の記憶には『さっぱり』残っていなかった。
ドタチンと飲んで・・・それから池袋でシズちゃんにでくわして・・・それからまた飲んだ気がする。
そこから先が全くと言っていいほど記憶に無い。
いつ新宿に戻ってきたのかさえ分からないのだ。
「本気でどうしてこうなったのかダイジェストで教えて欲しいんだけど。」
声を出すのもしんどいし、身体も重い。
それから導き出される回答は少ない。
声が枯れるほど叫びながら、筋肉痛(下半身にくる)がおこるほどの喧嘩なんてありえない。
「まぁ、腰の痛みから何があったかは大体分かるけど、分かりたくないことってあるよね。」
全国であれだよ、皆『ざまぁWWWW』とか思ってるに決まってるって。
寝るって明らかに普通に眠るだけじゃなかったって分かる。
「シズちゃん、とりあえず全てを忘れた状態で目覚めるか、そのまま永眠しててくれない?」
臨也は枕を手に取り眠る静雄の上にまたがると、ぎゅうぎゅうと顔に枕を押し付けた。
息苦しさを感じてか、身じろぎをする静雄に臨也は少し腕の力を弱める。
「誰がするか、ノミ蟲野郎。」
その隙をついて静雄が枕を顔からひっぺがし、上下を入れ替えた静雄はにやりとする。
「わーい、臨也さん涙目!」
その顔が憎たらしくて、静雄の鳩尾に思いっきり拳を叩き込みながら臨也は笑った。
「あははははは、何かもう・・・今ならシズちゃんに殺されてもいいんじゃないかって位絶望感に浸ってるんだけど。」
「・・・言っとくけどなぁ、先に誘ってきたのは手前だぞ。俺ドン引きしてたのに勝手に盛り上がったのは手前だからな。」
「なら縛ってでも止めてよ!結局俺に流されたんでしょ、なら同罪の重罪だから!」
「手前が可愛いのが悪い!」
「何それ、俺が可愛いのは前から分かってたことでしょ・・・てか、シズちゃん・・・それって可愛かったら誰でもいいってこと?最低!」
上に乗っかってくる静雄の身体を押し返し、起き上がろうとするが、静雄は腕の力を抜いて臨也の上に重なった。
「え、何この感じ・・・すっごい嫌なんだけど。」
「とりあえず手前うぜぇから・・・昨日俺がどう可愛がったか思い出させてやるよ。」
「だからそのにやり笑い止めて!そしてどいて!」
「臨也が昨日俺に言ったこと、よぉーく思い出したら離してやるよ。」
「・・・思い出さなかったら?」
「さぁ?」
俺一体シズちゃんに何を言ったの!
「それじゃ、がんばって思い出せよ。」
「う・・・ぁっ、指つっこむな・・・」
「思い出したらな。」
「も・・・いぁっ、シズちゃんのばかぁ!」
「まぁ、漫画や小説でよくある話じゃない?だから俺は自分の身体が女になったってさして驚いたりはしてないよ。少し怒りは覚えてたりするけど、大丈夫。これ治るんでしょ?なら気にしない、気にしてないから一回窓から飛び降りてよ。」
にっこりと笑った顔のまま、臨也は新羅にナイフを向けた。
もしここにセルティがいればこんなことにはならなかったかもしれないが、今ここに彼女はいない。
「本当に何を間違えたら性別を一時的に変える薬とサプリメントを間違えるんだか。」
「・・・君だっていつも飲んでるくせに気付かずにそのまま飲んだじゃないか。」
「君は医者で俺は素人。そこの違いを理解してもらわないと困るなぁ。それよりこれがいつ治るのか聞いてもいい?」
「もって2日だと思う。」
「解毒薬は?」
「無い。」
うん、今ほど新羅に窓から飛び降りて欲しいと思ったことは無いよ。と笑顔で新羅に言ったが、さして気にした様子も無く・・・ただ女体となった臨也の身体をしげしげと眺めるばかりだった。
「何か気持ち悪いね。」
身体のラインとか顔とかそういうのは正直普通の女性よりずっと綺麗なんだけど、これが元男の臨也だと思うと変な感じがするよ。などと言ってくる新羅の頭にチョップを食らわせると、臨也は立ち上がってドアノブに手をかけた。
「あ、待って!」
「何?」
呼び止められて振り向くと、新羅が今度こそ気まずそうな顔で臨也を見ていた。
「もうすぐここに静雄が来るんだけど、下で鉢合わせちゃうかも。」
「へー、シズちゃんが来るんだー。」
ここに来て初めて臨也はこの身体になって面白いと感じた。
「何か他に服無いの?」
「え?あることはあるけど、着替えるのかい?」
臨也は頷くと新羅に服を引っ張り出させ、手早く着替えた。
これなら服を引きずらなくてすむ。
まぁ、ナース服なのはいかがなものかと思ったが・・・。
そもそも何でこんなものを持っているんだ。
「新羅、」
しばらくすると、静雄がガチャッとドアを開けて入ってきた。
「いらっしゃい。」
「ノミ蟲の気配がする。」
「あはは・・・さすがにするどいなぁ。」
「まだここにいるだろ。」
「いやー、居るって言えば居るんだけど・・・。」
青筋を浮かべながら静雄はカーテンを睨み付けた。
「いーざーやー、そこにいるのは・・・わかってんだぞ!」
近くにあったイスを持ち上げてカーテンの方に投げつける・・・と、いつものアルトが室内に響くはずだった。
が、小さな悲鳴はソプラノで上がった。
「うっひゃぁ!」
「はぁ?」
思わず新羅を見ると、やれやれ困ったものだね。という顔をしていた。
「臨也、出てきなよ。このままじゃ家が破壊されちゃいそうなんだけど。」
その声に反応してか、破れてしまったカーテンの向こうから臨也より少し背の低い女が出てきた。
「いきなりイス投げるなんて酷いんじゃない?」
臨也に・・・胸があった。
思わず静雄は自分の顔をたたく。
「え、 シズちゃん何してるの?もしかして夢だとか思った?本当に夢だったらよかったんだけど、新羅が間違えて性別かえる薬くれちゃってさ、それを飲んだ俺はみご と女体になっちゃったってわけ。だから夢じゃないよ。シズちゃんが見てるこの俺は現実だから・・・・・・大丈夫じゃないけど・・・目は大丈夫だよ。俺が保 障してあげる。」
心なしがげんなりとした顔でナース服の臨也はペラペラと喋った。
喋りながら臨也は静雄に近付き、ほら本物だよ。と言いながら静雄の手を自分の胸に押し当てた。
「「「・・・。」」」
パアン!!
そんな効果音が似合いそうな勢いで静雄は顔を真っ赤にし、勢いよく臨也の胸から手をどけた。
「・・・新羅ぁあああああああああ!!!!!!!」
静雄は真っ赤な顔のまま新羅を睨み付ける。
「あらやだ、シズちゃん純情!」
臨也はそんな静雄の様子を見て、思わず口に手をあててキラキラとした目を向ける。
「さすが童t・・・グヘッ」
新羅が何か口走りかけたのを静雄は素早い手つきでイスをつかみ、投げつけること防いだ。
しかし、その言葉はしっかりと臨也に届いたようで、益々キラキラとした目を静雄に向ける。
「ねぇ、シズちゃん・・・まだ経験無いんだったら・・・俺が相手するよ?色々教えてあげるし・・・ねぇ、どう?」
すっかり伸びてしまった新羅を放置して臨也は静雄に詰め寄った。
「いや、何言ってんだ手前・・・手前は忘れてるかもしれないがな、折原臨也は男だ。そこを忘れるなよ。今どんなに身体が女でもそこを忘れちゃいけねえだろ。」
「否だなシズちゃん、ちゃんと覚えてるよ。俺は男で、この身体は薬で変わってるだけってこと。」
だけど、この状態を有効活用しないのは損だと思わない?本来なら絶対に契ることが無い俺たちがこういうことするのって、何だか背徳的でいいじゃない?たまには殺し合いじゃない方法で喧嘩しよう。
「なんでセックス=喧嘩みたいなことになってんだ手前は。」
「似たようなもんじゃない。」
「全然ちげえよ馬鹿。」
「シズちゃん・・・もう黙ってよ。」
臨也は襟を思いっ切り引っ張って、自分の唇を相手のそれと重ね合わせた。
「そういえば、結局静雄は今年は臨也にチョコもらえたの?」
新羅に呼び出されて話をしていると、ふとした流れでチョコの話になった。
セルティからもらっただとかいう惚気話にひと段落ついたところで、新羅は冒頭の台詞をはいた。
なぜか静雄は出会ってからというもの、バレンタインに臨也から必ずチョコをもらっていた。
綺麗に包装された箱には毎年凝った手作りと見えるチョコ菓子が入っている。
そういえば今年はバレンタインに殺し合いはしたが、チョコは貰っていない。
「いや、別に今年は何も渡されてねーけど。」
「えー、そうなの?今年もてっきり臨也は律儀に静雄に渡すもんだと思ってたんだけど、予想がはずれたなぁ。」
そうかそうか。と腕組みをしながら新羅は頷く。
「まぁ、これで静雄もホワイトデーにどうするかって悩まなくてすむじゃないか。」
にこっと笑った新羅に何となくイラッとして、出かけた手をどうにか押さえる。
時計に目をやるとトムさんと約束している時間が近付いていた。
「じゃあ、これで約束があるから帰るぞ。」
「あー、仕事?」
「あぁ。」
出て行く静雄を手を振りながら見送った新羅は溜息をついた。
「毎年静雄がお返しに困ってる・・・なんて臨也に言わない方が良かったかもね。」
今日は臨也が池袋に来ると言っていたから、バッタリ会わなければいいのだが。
そんな新羅の思いを知ってか知らずか、もうお決まりのように二人は鉢合わせていた。
「・・・・・・・・・。」
「いーざーやーくーん、何で池袋にいるのかなぁ?」
青筋を浮かべて仁王立ちしながら標識を片手に持つ静雄を目の前に、臨也はどうしたものかと考えをめぐらせていた。
ただ、バレンタインデーに渡しそこねたから今日朝早起きして再び作ったガトーショコラを渡しに来ただけなのだが・・・毎年バレンタインデーの日は割りと大人しい静雄だから渡せていた贈り物。
今年は新羅のホワイトデーうんぬんという事実のために渡すのを躊躇ってしまった。
けれど、結局ちゃんと渡そうと思い直し、今日わざわざ池袋に赴いたというのに。
これでノミ蟲とか言ったら、今すぐこの箱を地面に叩きつけて踏み潰してやろう。
「バレンタインデーに渡せなかったものだよ、シズちゃん。」
ずいっと前に箱が入った袋を出してやると、何日前の話だと静雄は言った。
「シズちゃんがホワイトデーのお返しに毎年困ってるとか言うからそれなら迷わないように今年からは渡すのやめようかと思ってたんだよ!」
一息に言ってやると、静雄は地面に標識を突き立てて臨也の前に立った。
「なんだ」
それだけ言って箱を受け取る静雄の表情を見た臨也は思わず固まってしまった。
ほっとしたような何ともいえない柔らかい顔をしていたのだから。
そんなに俺からのチョコが欲しかったの?と言いかけた口をどうにか閉じて、踵を返した臨也は思いっ切りその場から駆け出した。
身体が熱いとか気のせいだから!
めずらしく追いかけてもこない静雄の態度に何やら悔しいような感情を持ちながら臨也は素早く改札を通り抜けた。
妹に圧し掛かられて正直身の危険を感じる起こされ方をした後、帝人君から甘楽あてにラブコール。
池袋に来たら正臣君からは何かよく分かんないけどナンパ?みたいなことされた。
ワゴンの中から狩沢が身を乗り出してきて『臨也総受本』って書かれた本を渡された。
情報屋だからなんとなく中身の察しはつく。
だから大きく振りかぶって投げ返してやった。
溜息をつきながら公園に入ると後ろから抱きつかれた。
その感覚に何だか覚えがあって、振り向くとそこには幽君がいた。
幽は時々こうして自分を抱きしめに来るので別段どうこうとは思わなかった。
幽と別れて一人でぶらぶらしているとドタチンに会った。
一緒に飯でもどうかと誘われたけど、狩沢のことを思い出して遠慮しておいた。
どんな些細なことでもネタにされてはかなわない。
そんなことをやっていたら、シズちゃんに会わないまま新宿のマンションに帰ってきていた。
何だかぽっかり胸に穴が開いたような感覚に陥りながら溜息をついた。
「シズちゃんに会えないのはやっぱりつまんないな。」
エレベーターの中で鍵を取り出して自分の部屋の前に来て俺は絶句した。
扉が無い。
マンションの扉を破壊する知り合いなんて俺は一人くらいしか心当たりがいない。
きっと中にはふてくされた顔をした平和島静雄がいるのだろう。
そう思うだけで口角が上がるのを止められなかった。