マリちゃんがバイクを直結している頃、渋谷の山田のアパートの一室では稲川とユリが2人で過ごしていた。ユリが打合せが終わった後に山田から手渡されたメモには、稲川からのメッセージと携帯のアドレスが書かれていた。「今回の打合せで伝えられなかった重大なことがあるから、渋谷で待っていて欲しい。機密事項なので一人で。」と書かれていた。とりあえず携帯にメールを送って稲川と連絡を取り合い、心配する三間坂を先に帰して、ユリは待ち合わせの時間まで渋谷をうろうろして過ごした。
村一番のお祭り、夏のはっさく祭りをはるかにしのぐ人の多さに圧倒されながら、ふらふら街を歩いていると、ナンパされたりAVのスカウトにつかまったりして、怖くなったので犬の銅像の前で休憩をすることにした。これだけ人が集まるということは、きっとこのわんちゃんはここら辺のご神体的な存在なんだと思った。村の神社のこま犬みたいなものだろう。
ユリは稲川と初めて出会ったときを思い出した。今回と同じく、村への誘致のために企業周りをしていた。1週間の予定で名前のある企業を手当たり次第訪問した。最終日、最後に訪問した会社も冷たく追い返され失意の中でホテルに帰りついた。ホテルは仕事で先に北はっさくに帰った三間坂が気を利かせて高そうなところを予約してくれていた。最後の東京での孤独感と、失望感から、一人で部屋にいるのがつらかったユリはラウンジにお酒を飲みに行った。夜景がきれいに見えるラウンジで、隣には幸せそうなカップルがいちゃいちゃしていて、さらに孤独感が増した。泣きそうになっていると、いきなり隣の女が男に平手打ちをして、席を立ち上がった。男は後を追うことも無く、女を見送る。女の人はモデルみたいにスタイルが良くて、とっても美人。その一連の流れをボーっと見ていると、ふと男と目が合った。なんだかちょっとハンサムでかっこいい。こういう美女とイケメンが普通に恋愛をしてるってのがさすが東京だって思っていると、男が自分に話しかけてきた。聞き上手な男に乗せられて自分の置かれている状況を話し始めると、男は親身になって相談に乗ってくれた。自分の会社で相談に乗れるかも知れないので、もう一度東京に来るようにと言ってくれた。その後はどんどんお酒を飲んで、後のほうはまったく記憶が無い。朝起きたら一人で部屋のベッドにいた。一緒に飲んでいたはずの男はどこにもいなかった。
そして今日、男の名刺をたよりに再び上京した。男の会社で応対してくれた山田という人は、とっても親切で自分たちの話をきちんと聞いてくれて、何とかなりそうな希望が持てる気がした。
そんなことを考えながら、待ち合わせの人であふれるハチ公の前で、ユリは稲川との再会をわくわくしながら待っていた。
渋谷に向かうタクシーの中で、稲川は後悔していた。セレブ合コンで出会ったモデルの卵を落とすために、わざわざ女の誕生日に日比谷のペニンシュラ東京に部屋を予約して、さらにプレゼントまで用意してやったのに、誕生日ケーキに書かれた名前を間違えただけで怒って帰るとは。大体なんであの女はモデルの癖にSETSUKO☆なんだ。そりゃTETSUKO☆と間違えるって。大体、苗字はどうしたんだ。あと名前の最後の☆は何を表現してんだ?
SETSUKO☆に逃げられた後に、たまたま隣の席に見つけた美女と話が弾みだしたときはラッキーと思ったけど、酔ってくるとなんだかわけのわからない方言で熱く語るし、酔わせて何とかしようと思ってさらに酒を飲ませると、突然大暴れしだすし。大体、美人の癖に酒癖が悪いってのはどういうことなんだ。もっとおしとやかに酔っ払ってほしかった。美人が暴れて壊したグラスは全て稲川が会社の経費で落とした。だいぶ経理から目をつけられてるのに。
自分が適当に言ったことを本気にして、会社までやってきたときはびっくりしたけど、同じ失敗は2度しないことがモットーの稲川は、今度こそリベンジすることを決意していた。今日は、あんまり酒を飲ませないで、適当なえさをぶら下げながらあんなことやこんなことをして楽しもうと考えていた。あんまり、頭は切れそうに無いから、稲川の経験と実力ならそんなに難しい相手ではないと判断していた。仕事中にやり取りしたメールを見る限り向こうも結構乗り気だし。今日は楽勝だと考えていた。
ビルに埋まってるテレビと電車と犬と宝くじ売り場が見えると言うキーワードから、ユリがハチ公口で待っていると判断した稲川はタクシーを降りて、ハチ公を目指した。待ち合わせの人であふれる中、ぽつんと一人で座っているユリはすぐに発見できた。服装はぜんぜんダサいけど、素材はそこらへんの頭の悪そうな学生やら、職業不明のギャルたちよりと20馬身くらい飛びぬけている。
「ごめん。仕事がなかなか終わらなくて。まった?」稲川の声に反応して、顔をあげるユリ。やはり可愛い。
「稲川さん。こんばんは。人が多くて疲れちゃいました。」
「ごめんね。ここらへんじゃゆっくり話が出来ないから、まずはどこかに飯食いこう。まだ食べてないでしょ?」
「はい。」
「その後、俺んちでゆっくり打ち合わせをしよう。ここから歩いて10分くらいだから」
「そうなんですか?稲川さんこんな凄いところに住んでるんですか?」
「ちょっと歩いたら静かなんだよ。」
「じゃあ、稲川さんのおうちに行きましょ。私、料理作りますよ。ちょうど、村のPRの為に特産品を持ってきてたんですよ。でも、使うことが無くて。」そういって、ユリは大きな黒い鞄を開く。中で何かががさがさと動いた気がする。
「なんか今動かなかった?わさわさって。」
「ええ。新鮮なのが一番だと思って、生のまま持ってきたんです。」
「生?」
「はい。とってもおいしいから、きっとこれを食べたら、稲川さんも北はっさくをとっても気に入ってくれると思いますよ。行きましょ。」そういって可憐に微笑む。
「じゃ、じゃあ行こうか。」
なんだか怪しい気がしたが、余計なプロセスを省けるなら、それはそれでいいと判断した、稲川は山田のマンションに向かうことにした。じゃあ、料理を食べた後にあの子を食べようかな、というセリフが勝手に頭に思い浮かんでくることに年齢を感じつつ、家への道を歩いた。
マンションまでの道のりでは、ユリが故郷への熱い思いを語っていたが、稲川はこれからのことをシュミレーションするので忙しく、あまり聞いていなかった。山田のマンションの前について、オートロックに暗証番号打ち込む。ちなみに番号は「5963(ゴクローサン)」。松涛の手前の閑静な住宅街。稲川は、こんなところで2LDKの部屋を会社の金で借りられてるんだから、山田は自分にマンションを貸し出す義務があると思っている。ポストの裏側にスペアキーが貼り付けてあり、稲川は何食わぬ顔でキーを取り外す。
「凄いいい部屋ですね」山田に整理整頓を徹底させているので、ここに入った女の子はみんなそう言う。
「コーヒーとか飲む?」
「じゃあ、お願いします。その間に私料理作りますね。フライパン借りて良いですか?」
キッチンでユリにフライパンを渡す。稲川はコーヒーカップを二つ用意する。一緒にキッチンに立つのはなんだか楽しい。ユリは例の鞄の中から黒いビニール袋を取り出す。それをよく見た稲川はびっくりして、後ずさりした。
「な、なにそれ?」
よく見るとそれは黒いビニール袋ではなくて、透明のビニールの中に米粒ほどの黒い物体が一杯につまっていて、しかも米粒はがさがさうごめいている。
「オオグロサンショウモドキです。」
「何それ?」
「東京では食べないんですか?これを炒めて、そのまま食べるんです。北はっさくではほとんど毎日食べられてるんですよ?」
「なんか動いてない?」
「はい。虫ですから。昨日の夜、村を出るときに生け捕りにしてきたの」
「虫!?」
「すぐに出来るからちょっと待っててくださいね。そうだ、出来るまでこれ食べててください。」
ユリはまた鞄の中から棒状の物体を取り出す。稲川は受け取ってまじまじと見つめた。
「これは何?」
「きのこの一種です。カリダカダンコンダケって言うんです。これも北はっさくの名産なんですよ。そのまま食べても大丈夫だからどうぞ。」
ユリが無邪気に微笑みながら、差し出す。稲川の手の中では、φ5cm位の卑猥な形のきのこがそそり立っている。
炊飯器のご飯とユリが作った、オオグロサンショウモドキの炒め物と、カリダカダンコンダケが並んだ食卓を囲んで食事が始まった。稲川は適当にユリの話に相槌を打ちながら次の展開を考えていた。
その頃マンションの前には、マリちゃんと山田が到着した。
「いつまでしがみついてんだよ。降りろよ」
「着いたんですか?」
「早く降りろよ。で、鍵あけろよ」
「本当に行くんですか?なんか、やっぱりこういうのは突然行くと向こうも驚いちゃうから、一度電話して連絡だけでも入れたほうが良いと思うんですけど。」
「悠長なこといってんじゃねーよ。お前の家なんだから、いつ帰ってきても良いだろ。だいたいお前自分の家を勝手にホテル代わりに使われていいの?」
「だってそれは、いろいろ事情があってしょうがないんですよ」
「事情なんて関係ないだろ。いいように使われてて、情けなくないの?」
「それは・・・」
「ほんとダメな男だな」
「すいません」
「とにかく行け!」
山田はマリちゃんに言われるがままに、エントランスを抜けて、エレベーターをあがる。隣でマリちゃんが腕をぽきぽき鳴らしている。自分の部屋のドアの前までたどり着いて、マリちゃんの顔を見ると、目でやれという合図をされた。山田は観念してポケットから鍵を取り出して、ドアを開けた。
マリちゃんが、映画に出てくる警察みたいにドアをけって部屋の中に突入する。山田はあわてて、後をつけた。部屋に入っていくマリちゃんの後姿を見て、靴だけは脱いで欲しいと思った。
リビングに続くドアの向こうから、2人の話し声が聞こえてくる。
「怖がらなくて大丈夫だから。ちょっと力を抜いて。」
「なんか怖いです。」
「じゃあ位置を変えよう。ずっと上に乗ってちゃ、ユリちゃんも疲れちゃうでしょ。」
ドアの前で立ち止まって、中の声を聞いているマリちゃんの方がプルプル震えている。山田は怖くて声をかけられなかった。ゆっくりマリちゃんがドアを開いて中に入る。どうにでもなれと思って山田も後に続く。山田の目に飛び込んできたのは、想像もしていなかった光景だった。
村一番のお祭り、夏のはっさく祭りをはるかにしのぐ人の多さに圧倒されながら、ふらふら街を歩いていると、ナンパされたりAVのスカウトにつかまったりして、怖くなったので犬の銅像の前で休憩をすることにした。これだけ人が集まるということは、きっとこのわんちゃんはここら辺のご神体的な存在なんだと思った。村の神社のこま犬みたいなものだろう。
ユリは稲川と初めて出会ったときを思い出した。今回と同じく、村への誘致のために企業周りをしていた。1週間の予定で名前のある企業を手当たり次第訪問した。最終日、最後に訪問した会社も冷たく追い返され失意の中でホテルに帰りついた。ホテルは仕事で先に北はっさくに帰った三間坂が気を利かせて高そうなところを予約してくれていた。最後の東京での孤独感と、失望感から、一人で部屋にいるのがつらかったユリはラウンジにお酒を飲みに行った。夜景がきれいに見えるラウンジで、隣には幸せそうなカップルがいちゃいちゃしていて、さらに孤独感が増した。泣きそうになっていると、いきなり隣の女が男に平手打ちをして、席を立ち上がった。男は後を追うことも無く、女を見送る。女の人はモデルみたいにスタイルが良くて、とっても美人。その一連の流れをボーっと見ていると、ふと男と目が合った。なんだかちょっとハンサムでかっこいい。こういう美女とイケメンが普通に恋愛をしてるってのがさすが東京だって思っていると、男が自分に話しかけてきた。聞き上手な男に乗せられて自分の置かれている状況を話し始めると、男は親身になって相談に乗ってくれた。自分の会社で相談に乗れるかも知れないので、もう一度東京に来るようにと言ってくれた。その後はどんどんお酒を飲んで、後のほうはまったく記憶が無い。朝起きたら一人で部屋のベッドにいた。一緒に飲んでいたはずの男はどこにもいなかった。
そして今日、男の名刺をたよりに再び上京した。男の会社で応対してくれた山田という人は、とっても親切で自分たちの話をきちんと聞いてくれて、何とかなりそうな希望が持てる気がした。
そんなことを考えながら、待ち合わせの人であふれるハチ公の前で、ユリは稲川との再会をわくわくしながら待っていた。
渋谷に向かうタクシーの中で、稲川は後悔していた。セレブ合コンで出会ったモデルの卵を落とすために、わざわざ女の誕生日に日比谷のペニンシュラ東京に部屋を予約して、さらにプレゼントまで用意してやったのに、誕生日ケーキに書かれた名前を間違えただけで怒って帰るとは。大体なんであの女はモデルの癖にSETSUKO☆なんだ。そりゃTETSUKO☆と間違えるって。大体、苗字はどうしたんだ。あと名前の最後の☆は何を表現してんだ?
SETSUKO☆に逃げられた後に、たまたま隣の席に見つけた美女と話が弾みだしたときはラッキーと思ったけど、酔ってくるとなんだかわけのわからない方言で熱く語るし、酔わせて何とかしようと思ってさらに酒を飲ませると、突然大暴れしだすし。大体、美人の癖に酒癖が悪いってのはどういうことなんだ。もっとおしとやかに酔っ払ってほしかった。美人が暴れて壊したグラスは全て稲川が会社の経費で落とした。だいぶ経理から目をつけられてるのに。
自分が適当に言ったことを本気にして、会社までやってきたときはびっくりしたけど、同じ失敗は2度しないことがモットーの稲川は、今度こそリベンジすることを決意していた。今日は、あんまり酒を飲ませないで、適当なえさをぶら下げながらあんなことやこんなことをして楽しもうと考えていた。あんまり、頭は切れそうに無いから、稲川の経験と実力ならそんなに難しい相手ではないと判断していた。仕事中にやり取りしたメールを見る限り向こうも結構乗り気だし。今日は楽勝だと考えていた。
ビルに埋まってるテレビと電車と犬と宝くじ売り場が見えると言うキーワードから、ユリがハチ公口で待っていると判断した稲川はタクシーを降りて、ハチ公を目指した。待ち合わせの人であふれる中、ぽつんと一人で座っているユリはすぐに発見できた。服装はぜんぜんダサいけど、素材はそこらへんの頭の悪そうな学生やら、職業不明のギャルたちよりと20馬身くらい飛びぬけている。
「ごめん。仕事がなかなか終わらなくて。まった?」稲川の声に反応して、顔をあげるユリ。やはり可愛い。
「稲川さん。こんばんは。人が多くて疲れちゃいました。」
「ごめんね。ここらへんじゃゆっくり話が出来ないから、まずはどこかに飯食いこう。まだ食べてないでしょ?」
「はい。」
「その後、俺んちでゆっくり打ち合わせをしよう。ここから歩いて10分くらいだから」
「そうなんですか?稲川さんこんな凄いところに住んでるんですか?」
「ちょっと歩いたら静かなんだよ。」
「じゃあ、稲川さんのおうちに行きましょ。私、料理作りますよ。ちょうど、村のPRの為に特産品を持ってきてたんですよ。でも、使うことが無くて。」そういって、ユリは大きな黒い鞄を開く。中で何かががさがさと動いた気がする。
「なんか今動かなかった?わさわさって。」
「ええ。新鮮なのが一番だと思って、生のまま持ってきたんです。」
「生?」
「はい。とってもおいしいから、きっとこれを食べたら、稲川さんも北はっさくをとっても気に入ってくれると思いますよ。行きましょ。」そういって可憐に微笑む。
「じゃ、じゃあ行こうか。」
なんだか怪しい気がしたが、余計なプロセスを省けるなら、それはそれでいいと判断した、稲川は山田のマンションに向かうことにした。じゃあ、料理を食べた後にあの子を食べようかな、というセリフが勝手に頭に思い浮かんでくることに年齢を感じつつ、家への道を歩いた。
マンションまでの道のりでは、ユリが故郷への熱い思いを語っていたが、稲川はこれからのことをシュミレーションするので忙しく、あまり聞いていなかった。山田のマンションの前について、オートロックに暗証番号打ち込む。ちなみに番号は「5963(ゴクローサン)」。松涛の手前の閑静な住宅街。稲川は、こんなところで2LDKの部屋を会社の金で借りられてるんだから、山田は自分にマンションを貸し出す義務があると思っている。ポストの裏側にスペアキーが貼り付けてあり、稲川は何食わぬ顔でキーを取り外す。
「凄いいい部屋ですね」山田に整理整頓を徹底させているので、ここに入った女の子はみんなそう言う。
「コーヒーとか飲む?」
「じゃあ、お願いします。その間に私料理作りますね。フライパン借りて良いですか?」
キッチンでユリにフライパンを渡す。稲川はコーヒーカップを二つ用意する。一緒にキッチンに立つのはなんだか楽しい。ユリは例の鞄の中から黒いビニール袋を取り出す。それをよく見た稲川はびっくりして、後ずさりした。
「な、なにそれ?」
よく見るとそれは黒いビニール袋ではなくて、透明のビニールの中に米粒ほどの黒い物体が一杯につまっていて、しかも米粒はがさがさうごめいている。
「オオグロサンショウモドキです。」
「何それ?」
「東京では食べないんですか?これを炒めて、そのまま食べるんです。北はっさくではほとんど毎日食べられてるんですよ?」
「なんか動いてない?」
「はい。虫ですから。昨日の夜、村を出るときに生け捕りにしてきたの」
「虫!?」
「すぐに出来るからちょっと待っててくださいね。そうだ、出来るまでこれ食べててください。」
ユリはまた鞄の中から棒状の物体を取り出す。稲川は受け取ってまじまじと見つめた。
「これは何?」
「きのこの一種です。カリダカダンコンダケって言うんです。これも北はっさくの名産なんですよ。そのまま食べても大丈夫だからどうぞ。」
ユリが無邪気に微笑みながら、差し出す。稲川の手の中では、φ5cm位の卑猥な形のきのこがそそり立っている。
炊飯器のご飯とユリが作った、オオグロサンショウモドキの炒め物と、カリダカダンコンダケが並んだ食卓を囲んで食事が始まった。稲川は適当にユリの話に相槌を打ちながら次の展開を考えていた。
その頃マンションの前には、マリちゃんと山田が到着した。
「いつまでしがみついてんだよ。降りろよ」
「着いたんですか?」
「早く降りろよ。で、鍵あけろよ」
「本当に行くんですか?なんか、やっぱりこういうのは突然行くと向こうも驚いちゃうから、一度電話して連絡だけでも入れたほうが良いと思うんですけど。」
「悠長なこといってんじゃねーよ。お前の家なんだから、いつ帰ってきても良いだろ。だいたいお前自分の家を勝手にホテル代わりに使われていいの?」
「だってそれは、いろいろ事情があってしょうがないんですよ」
「事情なんて関係ないだろ。いいように使われてて、情けなくないの?」
「それは・・・」
「ほんとダメな男だな」
「すいません」
「とにかく行け!」
山田はマリちゃんに言われるがままに、エントランスを抜けて、エレベーターをあがる。隣でマリちゃんが腕をぽきぽき鳴らしている。自分の部屋のドアの前までたどり着いて、マリちゃんの顔を見ると、目でやれという合図をされた。山田は観念してポケットから鍵を取り出して、ドアを開けた。
マリちゃんが、映画に出てくる警察みたいにドアをけって部屋の中に突入する。山田はあわてて、後をつけた。部屋に入っていくマリちゃんの後姿を見て、靴だけは脱いで欲しいと思った。
リビングに続くドアの向こうから、2人の話し声が聞こえてくる。
「怖がらなくて大丈夫だから。ちょっと力を抜いて。」
「なんか怖いです。」
「じゃあ位置を変えよう。ずっと上に乗ってちゃ、ユリちゃんも疲れちゃうでしょ。」
ドアの前で立ち止まって、中の声を聞いているマリちゃんの方がプルプル震えている。山田は怖くて声をかけられなかった。ゆっくりマリちゃんがドアを開いて中に入る。どうにでもなれと思って山田も後に続く。山田の目に飛び込んできたのは、想像もしていなかった光景だった。