部署を異動しても私のヨワシへの興味は消えていなかった。ヨワシ本人への興味もあったが、ヨワシを作っている世界観にも興味が出てきた私は昔連れて行ってもらったジャズバーへ一人で行くことにした。
仕事をすべて終わらせて、いつもより早めに会社を出て新宿に向かった。

ヨワシの後ろをついて歩いた新宿二丁目を怯えながら一人で歩く。目当てのバーには迷わずにたどりつけた。

ピアノとサックス、ベース、ギターが演奏をしている。私はカウンターでウィスキーの水割りを頼んで席に着く。席は7割くらい埋まっている。一人出来て、素人だと思われてばかにされないか不安だったけど、みんな話をしたり、音楽に聞き入ってたりして私のことは誰も気にしていない。一安心してお酒を一口飲んでステージを見るとびっくりしてお酒を吹き出しそうになった。目の前でヨワシがウッドベースを弾いている。いつもぼさぼさで顔を隠している少し長めの髪の毛をオールバックにして、会社では絶対に見せない生き生きした笑顔を見せているけど、間違いなくヨワシだった。

なんだかヨワシに私がここにいることがばれたら気まずい気がして帰ろうかと思ったけど、ウィスキーもまだ飲んでないし、ヨワシは私のことなんて気づいてないし、そのまま演奏を聴き続けた。

ジャズのことはよくわからないけど、ヨワシの演奏が見事だってことはよくわかった。曲が終わって客先からは拍手が起こった。ヨワシはウッドベースをケースにしまって客先におりてくる。

一番前の席に座っていた女の人が両手を広げてヨワシを抱きしめていた。ヨワシは笑顔で女の人に答えていた。

「なんだ彼女いるのか」と思って少しショックだった。でも今日のヨワシなら当然だろうなという気がして、潔く負けを認める気持ちもあった。

どうせなら彼女の顔を見てやろうと思って、二人の姿をずっと見ていた。彼女が少し横を向いてまたびっくりした。篠原さんだった。まったく気づかなかったけど、よく考えるとお似合いの二人だ。私はもう十分だと思って店を出た。

一人で歩く夜の新宿はなんだかとても静かな気がした。キャッチのホストが声をかけてくる。「ひとり?もう一軒どう?」「もう十分」私の顔をみたホストは不審そうな顔で逃げていった。歩いているときには気づかなかったけど、私はわらいながら泣いていた。

おしまい。