Letters to Eloisa(仮題:エロイサへの手紙)/ドキュメンタリー/2020年 | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
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Letters to Eloisa(仮題:エロイサへの手紙)/ドキュメンタリー/2020年/アメリカ/64分

 

    


監督・脚本:アドリアナ・ボシュ
証言者:マリオ・バルガス・ジョサ、アントニオ・ホセ・ポンテ、ホセ・プラッツ・サリオル、エンリケ・サインス、エミリオ・ベヘル、ヘスス・バルケット、ロベルト・メンデス、エンリコ・マリオ・サンティ、セサル・サルガード、レイナルド・ゴンサレス、セサル・ロペス、リリアン・ゲーラ、マルガリータ・マテオ
音楽:アルトゥロ・サンドバル
言語:英語・スペイン語(英語字幕付き)
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     トレーラー
     


タイトルは、キューバの文豪ホセ・レサマ・リマ(1910~76)が、革命後1961年に亡命した妹に宛てて書いた手紙を指す。
下記の内容のところどころで、当時のレサマの心情を知る貴重な資料として、文面の一部が読まれる(英語・声はアルフレド・モリーナ)。

内容(番号はMarysolが便宜上付けています。は特に印象的だった映像)

1.イントロダクション

  母が見たエロイサの夢

  複数の証言者によるレサマの断片的紹介

 

2.生い立ち:1910年生まれ、喘息もち

  1918年、スペイン風邪で父(軍人)が他界する。

  1929年、〈トロカデロ162番地〉に引っ越す(賃貸) 

    父の恩給のみで母は子供3人とバルドメラ(メイド)を養う

    売春街のそば、日当たりが悪く(湿気が多く)小さな家

      だが、レサマはその環境に馴染み、素晴らしい作品を生み出す。

      20世紀の偉大な詩人のひとり。

 

3.1930年代:暴力と腐敗の時代、政治に対する信頼が失われる。

  レサマ:文学と芸術を通して、キューバのエッセンスを探求することが知識人の仕事と心得る。(ロベルト・メンデス)

    観光的イメージ、ステレオタイプと距離を置く。

 

    1940年代:「オリヘネス」(1944年~)の仲間と新しいキューバ像を模索する

    「オリヘネス』には、画家、音楽家、詩人、作家が集まり、世界に向けて発信した。

    「オリヘネス」は、マドリッドでも、ブエノス・アイレスでも、メキシコでも読まれた。

    世界的な評価にもかかわらず、キューバ国内での普及は限定的だった。

  1956年、刊行停止

 

4.1959年、革命の成就

  国民もレサマも革命を歓迎。国民に尽くそうとする知識人たちの意志

  レサマ、執筆活動や出版活動に参加し、海外の知識人に注目される。  

  その一方で、私生活では、家族の離散や物質的欠乏に苦悩が募る(妹に依存)

   手紙に〈実物大の足型!〉を描いて送る(靴を送ってもらうため)

 

5.革命の文化政策とレサマの未来志向(革命支持)

  キューバ革命:“ソ連とは違う、人間の顔をした、開放的な社会主義”

  「知識人への言葉」(フィデル・カストロ):革命の内にはすべての権利があるが、革命の外には一切ない。

   誰も〈革命の内と外の境〉を知らなかった。

   それまで従うべき文化ルールは無かったが、“新しいボス”の登場を示唆

   作家たちは執筆という仕事に専念できる環境を与えられる(60年代)

   レサマ、UNEAC(作家・芸術家協会)の副委員長に就任、著書も出版される

   だが、革命の熱狂的支持者ではなかった。(徐々に募る失望感)

 

6.革命が志向する文化とレサマの文学との不一致

  優雅で洗練されたレサマ作品は万人向きではなかった。

  革命の志向する文化との間に矛盾が生じる。

 

  1965年、母の死、マリア・ルイサ(長年の友人)との結婚(母の勧め)

  1966年、初の小説「パラディッソ」の出版(執筆には20年近い歳月を費やした)

      文体の重要性

      ハバナのある神話的時代(キューバの貴族的階級・家族)の描写、

      同性愛の大胆な描写(8章)…文学を通してカミングアウトしたレサマ

      “教養溢れる法律家でカトリック信者”のイメージとのギャップ→スキャンダル

                

 

  同性愛者を迫害した時代(1965年~)

  フィデルの演説:「退廃的振る舞いは、社会主義社会においては許されない」

  UMAP:UMAP (生産援助軍事部隊) | MARYSOL のキューバ映画修行 (ameblo.jp)

  革命の理想とする「新しい人間」像に反する。→ “政治的爆弾”、書店から回収される。  

  レサマ:「人間の身体は、人類の偉大な神秘のひとつである。我々はそれを知り、リスペクトすべきである」。

 

7.パリでフリオ・コルタサルがレサマと小説を擁護

  イギリス、イタリア、パリ、バルセロナで翻訳され出版

  レサマの名声が高まる。

    レサマ:「600ページ以上もある小説が出版されるのは、革命の成果だ」

    〈作家の自律性〉対〈革命政府のコントロール〉 

 

8.1968年、文学コンクールの審査員として(革命に批判的なビジョンをもつ)パディーリャの詩集に投票

   → 〈国家とフィデル・カストロの敵〉になる。

     作家たちの緊張…共産主義確立のためカストロに服従を迫られる。

 

9.1970年、60歳の誕生日(パブロ・アルマンド、パディージャなど30~40人が集まる)

     レサマはまだ人気を享受していた。

  数々の著書が出版され、「私にとって出版の年だ」とパディージャは喜ぶ。

  〈革命的ではないが、重要な作家〉という位置づけ

 

10.1971年、パディージャ事件

   パディージャの自己批判と作家仲間の告発。「レサマは、革命に感謝していない。革命の悪口を言っていた」。

   UNEACにおけるパディージャの自己批判映像

 

  革命のスターリン化 → キューバ革命の支持者の離反

  作家たちの表現の自由が失われる

  レサマの恐怖感(エロイサへの手紙)

 

11. 教育文化会議(1971年4月):同性愛者の排除

   レサマは監視・盗聴されていた。東ドイツのシュタージのアーカイブ映像

   海外からの招待に対しても出国が許可されない。

   友人たちの訪問も途絶える→ 孤立・孤独

   レサマの著作の購読はもちろん、その引用や名前さえ掲載されなくなる。

   ハバナ大学の文学の授業でもスルー(それを知ってレサマは深く傷つく)。

 

   それでも海外でのレサマ作品の翻訳は続き、名声は高まっていった。

   詩人にとって最高の名誉、マルドロール賞を(キューバで初めて)受賞。

 

12.1976年8月 レサマの死

  「グランマ」の訃報記事(3面に短く記載)

   一方、アルゼンチン、メキシコ、スペインでは大々的に取り上げられた。

 

13.1993年、映画『苺とチョコレート』とレサマの復権

   レサマの写真を見て「君のパパ?」と訊くダビッド(共産党青年同盟に所属する作家志望の青年)に対し、ゲイの文化人ディエゴは答える:「今世紀最大の作家のひとりで、世界的な存在のキューバ人だ」と。

レイナルド・ゴンサレスはこのシーンでレサマの写真がマルティのすぐそばに飾られていることを指摘:「レサマの復権であり、彼に対する最大のギフトだ」。

           

 

14.ソ連消滅後、レサマの家は博物館として“利用”され、彼を苦しめた史実は最小化されている。

 

15. マドリッドでレサマについて講演したときの思いを語るレイナルド・ゴンサレス

   蘇るレサマ作品の価値

 

16. ビニャーレスで書かれた〈エロイサへの手紙〉   

アドリアナ・ボッシュ監督について


キューバ出身だが、1971年、家族と米国(ニュージャージー)に移住(当時14歳)。
1977年、ラトガー大学で政治学を学び、後にタフツ大学で国際関係学の博士号を取得。
1993年から公共放送サービスで働き始め、歴史シリーズ「アメリカン・エスピリエンス」で、「アイク」(1993)「レーガン 」(1998),「ジミー・カーター」 (2002)、「ロックフェラー・ファミリー」(2000),「フィデル・カストロ」(2005)など様々なエピソードを手掛けたほか、シリーズ「ラテン・アメリカンズ」でも2本のドキュメンタリーをプロデュース。

30年のキャリアと数々の受賞歴をもち、ラテン系で最も有名なドキュメンタリー作家のひとり。

Marysolより 

本作はこちらの上映イベントの最後の作品。

テキサス時間の13日まで視聴できるので、興味のある方はぜひ登録を!

(登録受付後にメールでVimeoで視聴するためのPWが送られます)

 

アルトゥロ・サンドバル(亡命ミュージシャン)の音楽も良い。

レサマの手紙をスペイン語で聴けなかったのが残念。

 

気になった箇所:

「レサマはパディージャの自己批判の会見に出席していなかった」というロベルト・メネンデスの発言は事実と異なるのでは?

 

拙ブログ参考記事:

キューバの知識人:50年代(革命前)と60年代(革命直後) | MARYSOL のキューバ映画修行 (ameblo.jp)

1968年のキューバ《文学・映画》:第一次パディージャ事件ほか | MARYSOL のキューバ映画修行 (ameblo.jp)

『R.アルシデス』2章:芸術家と政治家・解説 | MARYSOL のキューバ映画修行 (ameblo.jp)