読書メモ:「La mala memoria(仮:悪い思い出)」(2) | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

      

1968年、雑誌「カイマン・バルブード」の依頼で、リサンドロ・オテロ(文化審議会顧問)の小説を批評した際、国内で公認されていない「TTT トラのトリオのトラウマトロジー」(ギジェルモ・カブレラ・インファンテ著)を擁護したことで失職する。

ホセ・リャヌサやアイデー・サンタマリアが仕事をくれても、ラウル・カストロから退けられる。

 

同年、詩集「Fuera del juego(仮:退場/ゲームから外れて)」が、文学賞選考会で審査員全員一致で受賞(注:外国人審査員2名とキューバの詩人、レサマ・リマ、マヌエル・ディアス・マルティネス、ホセ・Z ファジェット)。

だが、公式には賞は与えらず、3年間孤立状態に置かれる。

 

パディージャ事件

1971年3月20日早朝、突然に逮捕される。

容疑は、彼の未発表の小説「En mi jardín pastan los héroes(仮:私の庭で英雄たちは草をはむ)」を“CIAの手先”、ホルヘ・エドワーズ(当時のチリ代理大使)を介して密かにスペインで出版し、革命を誹謗中傷しようとした、というもの。

 

注①パディージャいわく「キューバの現状を描いた」小説で、タイトルの“pastar”という動詞もフィデルに対するあてこすり(侮辱)と曲解された。

一方、ホルヘ・エドワーズは、メキシコの作家、カルロス・フエンテスの自宅パーディーで、フィデルを笑いものにするような発言(公安がその録音テープを入手)をしていたため、〈好ましからぬ人物〉と見なされていた。

注②      パディージャは《逮捕を(68年の受賞を阻止できなかったことに対する)復讐と憎しみの結果》だと悟る。

 

国家公安局による取り調べで、容疑を否認し、疑いを晴らそうとするも、拘留期間は37日間に及び、連日の厳しい尋問のほか、心身に危害が加えられることもあった。意識を失って移送された病院でフィデル・カストロと面談。

 

結局、容疑は立証されなかったが、釈放されるためには公安の要求に従い「自己批判書」を書かねばならなかった。

一方海外では〈パディージャ逮捕〉の報に、ヨーロッパやラテンアメリカの知識人が激しく反発→フィデルを苛立たせる。

 

国際的スキャンダルと化した“逮捕劇”に対し、当局は自己批判書を読ませることで、寛大さを演出しようする。

その結果、釈放の翌日(4月27日)夜、作家・芸術家連盟(UNEAC)の会員らを前にパディージャは〈自己批判書〉を読み、そのなかで数名の仲間を告発した。

 

仕組まれた“告発劇”

パディージャは釈放された翌日、友人2人(うち1人はマヌエル・ディアス・マルティネス)とレサマ・リマの家を訪ね、公安職員の立ち合いのもと、その夜に行う〈自己批判〉の打ち合わせをする。

公安職員はレサマに「欠席してもよい」と言うが、レサマは出席を承諾し協力。

ノルベルト・フエンテスが自己批判したのち撤回したのも警察の意向通り。

注③      N.フエンテスの件については、当人の著書「Plaza sitiada」の内容と異なる。同著によれば、27日パディージャは告発する人々に会おうとし、フエンテス宅も訪れたが不在で、事前に伝えられなかった。発言の撤回はあくまでフエンテス自身の決断。

 

結果的に、集会は世界に向けて〈権力の乱用〉をさらすことになった。

しかし、告発された作家たちは、笑劇によってフィデルを満足させた。

 

Marysolより

 長期に渡る拘留中の出来事は本人しか知り得ないことなので、「パディージャ事件」の核心に迫りたい人には必読の書。

 個人的には、公安での出来事や自己批判集会が演出だったと知り、不信感と幻滅が増す。

 だが、この〈灰色の70年代〉を象徴する事件の詳細を知ったことで、キューバ映画の批判精神への理解と共感が深まった。

 また、事件とは別に、レサマ・リマにかなり言及している。

 

補足:

・取り調べ官の言葉:「キューバの知識人の状況に終止符を打たねばならない。さもないと、チェコスロバキアの二の舞になり、知識人はファシズムの旗振りになる。お前の友人のエフトゥシェンコみたいに。あいつは反共で反ソビエトだ」

 

・エフトウシェンコは詩集「Fuera del juego」が受賞したとき、モスクワから祝電をくれた。

そこには「苦い本だが、苦い真実も真実だ」と書かれていた。

 

・プラウダの通信員でラウルを頻繁に訪ねていたV.Voroskiから「発言に気を付けるよう」忠告され、しかも「君たちの一番の敵はラウル・カストロで、彼が大嫌いなもののひとつが文化だ」と言われる。

 

エベルト・パディージャ著「La mala memoria」 読書メモ(1)

読書メモ:パディージャ著「La mala memoria」(3) | MARYSOL のキューバ映画修行 (ameblo.jp)