くも膜下出血(以下SAH)は、『突然起こる(10秒以内に痛みのピークとなる)、人生最悪の頭痛』

と表現されます。典型的には、くも膜下出血は、あまりの痛みで患者さんは起き上がれません。

こういった典型的な例は医者以外でもSAHを考えますから、まず見逃されません。

しかし、トコトコ歩いて来院される患者さんが約10%おられるそうで、よく感冒等と間違われ

問題となっています。


先日、同期の医師が外来で診た36歳の患者さんも、どう見ても風邪でした。主訴は頭痛、咳、鼻閉。

体温37.5℃、意識も清明です。頭痛がひどかったのでCTまで施行されています。しかし

CTでも出血はわかりませんでした(CTの、発症当日の診断率は95%くらいだそうです)。

ここで帰宅させたらアウトでしたが、痛みが強いから、髄膜炎が疑われて腰椎穿刺を施行。

ここでやっとSAHがわかりました。痛みの訴えが強かった事だけが診断に結びつけました。


SAHの原因の大部分は脳血管の動脈瘤ですが、恐ろしいのは、再出血を起こした場合の死亡率が

70%!という事です。最初の一ヶ月で20~30%が再破裂しますから、いかに最初の出血を見抜き、

外科的治療に結びつけるかがポイントとなります。


それでは、SAHの統計学的なクイズを少し。これらは診断と治療社から2004年に出ている

『疾患別臨床検査パーフェクトガイド』から引用しています。


①突然起こり、10秒以内に激烈な痛みが完成した患者さん80人を検討した医師(Lnadtblomら)

がいます。SAHは何人(何%)だったでしょうか?


答え:9人(11.3%)


②以下の症状はSAHを疑うヒントとして知られていますが、SAHの患者さんの何%くらいに

見られると思いますか?

ⅰ)吐き気、嘔吐

ⅱ)項部硬直

ⅲ)一過性の意識消失


答え:吐き気、嘔吐は58%、項部硬直は発症当日で70%(このうち多くは翌日陽性)、意識消失は

35%。意識障害が持続した例や痙攣をきたしたものまで併せると意識障害は40%程度。


③Adamsらは、最初他の病気と考えられていて最終的にSAHと診断された41人の患者さんを

検討しました。初めはどんな疾患と間違えられていたでしょうか?

答え…

ウィルス感染症 10人

片頭痛 8人

高血圧(性脳症) 7人

無菌性髄膜炎 3人

副鼻腔炎 3人

虚血性心疾患 2人

※有名な話ですがSAHでは心電図異常をたまに見掛けます。交感神経の緊張等によって

起こるようで、(心臓に関しては)あまり問題ないという意見が多いようですが、一応循環器内科に

診てもらった方がいいのは言うまでもありません。

最終的に9人が死亡。社会復帰出来たのは19人だったそうです…。

更に、頭痛を伴わないSAHもあるとのこと、こうなるとエスパーじゃないと診断出来ない、と

思ってしまいますが…


①失神を見たらくも膜下出血を思い出す。


②一般的な身体所見をとる時に必ず項部硬直もチェックする


等で見落としがないように気をつけていきましょう。



しぶとく生き残るためのヒント という、くも膜下出血を経験されたmayakoさんのホームページ

があります。医療者も、そうでない方にもお勧めです。大切な命を守るためのヒントとして

一度は目を通して頂きたいです。






18日の救急当番で来た患者さんのお話です。

何の病気か考えながら読んでみて下さい。


アルコール依存症の40代男性。来院時は飲酒しておらず、意識は清明。

既往歴は虫垂炎、高血圧、TIA。主訴は両脚に力が入らず、歩けない。

現病歴としては、昨晩までは何事もなく、夜スクワットをした直後から足腰が立たなくなり、

急に歩けなくなった、と。昨日は(それでも)お酒を飲んで休み、今朝になっても改善しない

ために来院されました。


Vitalに特記事項なし。上肢はMMT 5ですが、下肢は両足ともMMT 3程度。

痛みは全くないそうです。

腱反射は問題なく、知覚の低下もなし。神経学的な所見もとってみましたが、特に問題は

ないようです。


…なんじゃこりゃ???。


とりあえず採血し、点滴をつないでなんとなくビタミンB1なんぞを入れて(参考までにビタミンB1不足で

起こるWernicke脳症の三徴は意識障害、眼球運動障害、失調歩行です。この患者さんは

全然症状が違いますが…)、とりあえず採血と頭部CTをオーダーしました。


そこで私の救急の当番の時間は終わってしまいましたが、何だったんだろう、と

後で電子カルテを開けてみると、結構簡単に答えがわかっていました。


血清カリウム 2.2 CK 890

頭部CTは異常なし。


ただの低カリウム性のミオパチーでした。アルコールのような炭水化物を摂り、

激しい運動をした事でエネルギーが消費され、ブドウ糖と一緒にカリウムが

細胞内に取り込まれます。その結果、急激に血中のカリウム濃度が低下したのでは

ないかと思います。下肢の近位筋優位に起こるようで、病態とも合致しています。


低カリウムで何故ミオパチーが起こるのかは正確にはわかっていませんが、

①筋の膜電位の変化に伴い、筋酵素が血中に逸脱する可能性

②血管平滑筋の収縮により、筋の虚血が起こる

等の機序が考えられているようです(朝倉内科学)。

この患者さんは入院になりましたが、ベッドが確保出来ず翌日退院となってしまいました。

経過を見たかったのですが、残念でした。


ちなみに…『低K性周期性四肢麻痺』は病態として重なる部分もあるようですが、

こちらは文字通り『周期性』に起こります。原発性(非常にまれ)と続発性があり、

続発性で最も有名なものは甲状腺機能亢進症で、特に若い男性に合併します。

こちらは筋酵素の逸脱は問題とはならず、膜電位の変化が原因のようです。



失神は突然起こる短時間の意識喪失発作と定義出来ます。


メルクマニュアルによると1/3は再発性とされます。心疾患のない若年者では原因が不明

でも予後は良好です。逆に高齢者では致死的で潜在的な心疾患の可能性もしばしば。

注意が必要です。入院出来る環境なら入院精査が望ましいと思います。


簡単に書くと、1/3が自立神経の問題(神経調節性失神)、1/3が原因不明。残り1/3のうち、

更に1/3が心臓の問題(不整脈、虚血性心疾患など)。


【原因】今日の診断では以下に分類されます。


①神経調節性失神:NMS(血管迷走神経性失神、情動失神、状況失神を含む。気分不快の前駆が多い)

※実際には血管迷走神経失神が大部分。なのでNMS≒血管迷走神経性失神。


②起立性低血圧:内服薬(血圧関係など)チェック。高齢者では脱水、貧血に注意。

また、若年者でも胃潰瘍や子宮外妊娠等で貧血をきたす事はある。


③心臓性失神:最も重要。胸痛、息苦しさの随伴はないか?


④代謝性失神:低血糖など


⑤神経障害性失神:代表は頭部血管疾患。


TIA(一過性脳虚血)で失神も起こりうるが、失神単独でTIAとは通常考えない。

TIAの診断基準には“失神”の文字はない!

失神⇒TIAと安易に考える医者が結構いるが実際には非常にまれ。


⑥精神障害性失神:ヒステリー等を含む


⑦血管機能不全による失神…Subclavian steal症候群等を含む。


【診察】以上をふまえ、診察・検査は以下を意識して行う。

①問診では既往歴、持続時間、随伴症状、内服状況に注意。

②貧血は?タール便や腹痛の有無。

③聴診:ASは聴診が有用。頸部や鎖骨上のbruitは?

※AS(大動脈弁狭窄症)の三徴は、失神、胸痛、心不全でしたね。

…Year noteにも載ってます。

④ECGは全例に!

⑤頭部CTはくも膜下出血、急性硬膜下血腫等の頭蓋内病変を除外するのに役立つ。

この患者さんは胸痛がなく、心電図上ST上昇もなかった事から、なかなか

心筋梗塞(以下MI)の診断がつきませんでした。

2番目に担当した呼吸器の医師が、トロポニンTを採血で追加し、陽性だったのでその段階で初めて

MIが疑われ、循環器内科に連絡がありました。

主旨は、お年寄りでは特に、胸痛を伴わないMIもあること、

また専門医以外はあまり詳しく知らないであろうMR(僧帽弁閉鎖不全症)という合併症を

もう一度思い出して頂こう、ということにあります。


【patient】70代 男性


【主訴】呼吸困難


【現病歴】2005年5月より労作(階段昇降)時の息切れが出現。改善しないために
近医を受診しホクナリンテープ等が処方されていた。6月16日am2:00トイレ歩行時後に
呼吸困難が増悪したため救急要請、ER内科を受診した。ECG上V3~V6 ST低下を認めた。
後にCK上昇(300程度)、トロポニン陽性が明らかとなり循環器内科コンサルトとなる。
AMI lateral(non Q MI);acute MRの診断で緊急入院となった。


【来院時現症】血圧 107/84、体温 36.6℃、脈拍 83 SpO2 98(O2 3L nasal)
(am4:30頃、来院時)心、肺雑音を聴取しなかった。


⇒しかしam10:00には胸部聴診上coarse crackle、wheezingを認め、4LBSを中心とする
Levine Ⅲ/ⅥのSystolic murmurを聴取した。Leg edemaを認めず、その他特記事項なし。


【既往歴】18歳:肺結核、18歳:虫垂炎、75歳:脳梗塞   (糖尿病はなし)


【家族歴】特記すべきことはない


【嗜好】飲酒なし、喫煙20本/day×43年間


【Chest X-p】鎮旧性肺結核であるが、congestion、CTR拡大は見られない(来院時)。


【入院後経過】緊急CAGの結果はLCX#14-99%、LAD#10-CTO。
呼吸困難、血圧低下に対し挿管、IABP施行しながら#14に対するPCIが行われ、
バルーン拡張とステント留置を行った。LVGはⅢ°のMRを認め、EFは40%であった。
経食道echoの結果、前乳頭筋断裂による後尖の逸脱と診断。MVR方針で6月20日に外科転科となった。


【その後の経過】6月21日MVR施行。人工心肺離脱後低血圧となりPCPS装着したまま
帰室。術後の心不全、肺炎でPCPS離脱出来ず。多臓器不全を呈し、7/2全身状態悪化で
死亡。


MVR:mitral valve replacement 僧帽弁置換術
PCPS:percutaneous cardiopulmonary support 経皮的心肺補助装置



【考察】


①本症では、自覚症状に胸痛がなく、心電図上もST上昇やQ波を伴わず、心筋梗塞の
診断は難しい症例であった。実際、この患者は救急診療科からまず呼吸器科に
コンサルテーションとなっていた。呼吸器内科の医師もCOPDの増悪と考えていた。
高齢者の呼吸困難では常に虚血性心疾患の可能性を疑い続ける事が重要であると考える。


参考:心電図の診断感度はLAD閉塞による前壁中隔梗塞では90%以上だが
RCA閉塞による下壁梗塞では60%、LCX閉塞による側壁、後壁梗塞では
50%程度でLCX閉塞によるMIは心電図上診断が最も難しい。
(側壁梗塞は教科書的にはⅠ、aVL、V5、V6でST上昇、異常Q波を認める。)


②本症例は記録によると来院時には心肺雑音がなく、呼吸苦はあってもO2投与下で歩行も
可能であった。しかし循環器内科医の診察の際には高濃度酸素にもかかわらず、
起座呼吸を呈しており、著明な肺雑音も聴取された。
乳頭筋の断裂が起こると突然にMRが起こるため、循環調節機序の働く間もなく
急性左心不全に陥り、高度の肺水腫、呼吸困難、心原性ショックへと急速に進展する。
乳頭筋断裂の頻度は2~3%、(早期にPCIが行われるようになった最近はもう
少し少ないと考えられるが)MRは軽度のもの、一時的なものを含めると半数にのぼると言われている。
心筋梗塞を疑った際には繰り返しの胸部聴診が必要と考えられた。


③乳頭筋不全や乳頭筋断裂は初回の下壁梗塞や後壁梗塞に合併しやすく、右冠動脈または
回旋枝病変に伴う事が多い。梗塞範囲が比較的小さく、
心機能の比較的保たれている
例での発症が多いとされている。
前乳頭筋に比較すると、後乳頭筋不全や断裂が多い
(3~6倍)とされている。この理由は前乳頭筋が前下降枝と回旋枝の二重支配である
事に対して、後乳頭筋は右冠動脈の1本支配であるためとされている。しかし、本症例
ではもともと#10 DiagonalのCTOに加えて#14の閉塞をきたしたため、比較的めずらしい
前乳頭筋の断裂を生じたと考えられた。
参考:心筋梗塞(最新内科学大系34 中山書店)

循環器疾患最新の治療2002-2003(南江堂)



昨日、当院内分泌内科の医師のミニレクチャーがありました。

レクチャーより、


【スライディングスケール】


スライディングスケールは、患者さんが何らかの理由で食事量が

不安定な場合に使用します。内分泌内科の医師は、食事が8割くらい食べられたら、

速やかに定時打ちに戻すべきです、と強調しておられました。

以下は当院で使用されているスライディングスケールです。


空腹時血糖値150~199の時、R製剤0単位

空腹時血糖値200~249の時、R製剤2単位

空腹時血糖値250~299の時、R製剤4単位

空腹時血糖値300~349の時、R製剤6単位

空腹時血糖値350~399の時、R製剤8単位

空腹時血糖値400~450の時、R製剤10単位


感染などで、より厳格な管理が必要な場合、それぞれプラス2単位とします。

これならまず低血糖になる事はありません。


【Sick day】


Sick dayは、通常血糖は高値となり、原則的にインスリンをいつも通り使用します。

しかし、外来では、患者さんも我々非専門医も、食べられない⇒もし低血糖を起こしたら?

とちょっと不安になるのではないかと思います。

このような場合、インスリンを打ちなさい、ではなく、血糖を毎日測るように話し、

空腹時血糖が250以上なら食事の有無に拘らずいつも通りのインスリンを、

空腹時血糖が150~249ならいつもの半分のインスリンを

それ以下なら打たなくても良い

と指導すると良いそうです。