Last update 05/10/14

救急医療の場において、最も見逃しやすい疾患のひとつで、かつ

緊急度も死亡率も高い疾患です。

誤診の例は、脳梗塞、尿路結石等。


症状は突然発症する背部~胸腹部の激痛です。

私の出会った患者さんは痛みでじっとしていられませんでした。

痛みの割りに腹部所見が乏しく、ショックになってから慌てる事があります。

更にStanford Aでは、30%で意識障害等が表に出て、痛みがハッキリしない事にも注意です。


他に注意すべきは、心筋梗塞(以下MI)と症状が類似する事があります。

やっかいな事に本症の数%には心筋梗塞を合併するため、MIとdissectionでは

『どちらか一方の診断で、他方が否定される訳ではない』

という事です。MIの治療の血栓溶解や抗血小板薬は

dissectionには殆ど禁忌です。


dissectionとMIが合併するのは、dissectionのStanford A型の場合、冠動脈を

巻き込んで閉塞させるからで、dissectionは右前方に起こる事が多い事から

下壁梗塞との合併が多いと言われています。


dissectionの診断は造影CTで多くの場合比較的容易ですが、

患者さんに片っ端から造影CTをする訳にもいきません。どんな場合に

dissectionを疑うか、です。これは、上記痛みの症状に加えて


①血圧の左右差

②胸部単純Xp(縦隔拡大)

③痛みが移動する


等の特徴をチェックします。血圧の左右差も大切ですが、

頚動脈、トウ骨動脈、大腿動脈を触知し、左右差がないかどうか調べる事が

非常に大切です。


dissectionは、触知!触知!触知!

と覚えましょう。


そしてechoが武器になります。大動脈にintiminal flapが見られたら即CTです。

Stanford Aではタンポナーデがないかどうか見ましょう。

心エコーが出来たらなお良しです。asynergyやARがないかどうかも確認出来ます。


採血は殆ど役に立ちませんが、WBC、CRPは上昇する場合が多いこと、

D-ダイマーは非特異的ですが、上昇しなければ本症は極めて否定的

(臨床研修プラクティスVol.1 No.6 2004)と言えるので、一応覚えておいて良いかもしれません。

(D-ダイマーは肺塞栓で有名ですが本症でも増加します)


160mmHg以上の高血圧はStanford Bの60%、A型では10%しかありません。

(むしろA型では90mmHg未満が50%)

即ち、血圧だけでは全く判断出来ません。しかし、本症で血圧が高い場合は降圧が必要で、

尿の出るギリギリまで(100~110mmHg)下げましょう。


ご存知の通り、Stanford Aは原則緊急手術の対象で、Stanford Bは保存的に治療し、

状態が安定してから手術が基本です。


血圧の下げ方


使用する薬は、Ca-blockerの

ペルジピン(10mg/10ml)を 6ml/h(体重50kgで2γ)で開始。⇒不十分なら10ml/hへ

あるいは

ヘルベッサー(10ml/5ml)を8ml/h(体重50kgで5γ)で開始。

どちらも原液で使用した場合です。

ヘルベッサーは心拍数を減らすのでケースによって使い分けましょう。


降圧不十分なら、

ミリスロール3ml/h程度から併用して増やします。上限は決まっていませんが

普通10ml/h以上で使うことはあまりないようです。


Last update 05/10/22


一般的に“盲腸”の名で知られる虫垂炎は、急性腹症の原因としては最も多く

ありふれた疾患ですが、非典型的な経過もめずらしくなく、診断が難しい事もあります。

特に初期は右下腹部の痛みがハッキリしない事もあり、注意が必要です。

文献的には、発症から17時間以内の虫垂炎は診断が難しく、逆に24時間経過すれば

容易とされています。


ベテランの開業医が見逃した初期の虫垂炎を翌日研修医が発見すれば

何も知らない患者さんは『若いのにすばらしい先生だ!』

と勘違いして下さいます。


なので、『腹痛は否定されるまでは虫垂炎を疑う』


という基本的な姿勢を忘れないようにしましょう。


実は私も、消化器内科医局に在籍していたにも拘らず、虫垂炎を見逃してしまった

事があります。今でも覚えているその患者さんは18歳の男性で、症状は心窩部痛

のみでした。虫垂炎の初期は心窩部痛で始まる事が多いのは知識としてはもちろん知って

いましたが、その時は思い浮かびませんでした。

熱もなく、腹部所見軽度の圧痛のみで虫垂炎の可能性は全く疑わず

急性胃炎のようなもの、と考えて帰宅させてしまいました。

慣れた頃に犯してしまったミスでした。

その方は翌日腹痛増悪のため来院し、手術となりました。


胃腸炎と思っても言い切らず、『現段階では胃腸炎が最も考えられます』と。

悪化したらすぐ来てもらうために…

虫垂炎の可能性は、まさかと思っても必ず告げましょう。


もうひとつ、参考になるかどうか不明ですが、同期の医者が診察した患者さんの話を。

“アイスを食べた後の心窩部のキューンとした痛み”

と吐血を主訴に来院され、最終的に虫垂炎であった例でした。

その方はその後外科に紹介され、消化管穿孔が疑われてCTを撮影したところ

虫垂炎と判明したそうです。派手な吐血という症状に目がいってしまっていたのと

右下腹部の痛みはなく、誰も虫垂炎を疑っていませんでした。

ちなみに吐血は、更なる問診と内視鏡の結果、嘔吐を繰り返した事によるMallory- Weiss

症候群と診断されました。

これは特別なケースだと思いますが…。


さて、最後に診断のためのヒントをいくつか。


①症状…初期には食欲不振、嘔気、嘔吐、心窩部痛。進行すると発熱、右下腹部痛。

穿孔しなければ熱は微熱が多く、下痢よりもむしろ便秘が多い。


②所見…McBurney、Lanzの圧痛点等や腹膜刺激症状の有無は当然だが

直腸診での圧痛やつま先立ちして踵を落とす、heel drop testや、右脚で片足飛びが

出来るかどうかも、補助的に虫垂炎を疑う材料になります。


③血液検査は参考までですが、他の急性腹症(胆道感染症や膵炎)との鑑別にも有効。

虫垂炎を疑った時に最も役に立つのはWBC上昇。感度88%だが特異度は低い。

CRPは当然、初期には正常も多い。


④尿検査(妊娠反応も含む)、X線検査等は他の急性腹症(イレウスや尿管結石)の

診断には役に立ちます。


⑤腹部USTは診断に非常に有用であるが、熟練を要する。壁が拡張し、内腔に液体の

貯留した腸管として描出される。糞石が認められる事もある。

確実に診断がつけば、無駄なCTを省略出来ます。


⑥CTは最も客観的に確実に虫垂炎の所見が得られるが、USTで診断がついていれば不要。

CTでも見慣れていないとわかりにくいケースもある。


ここまでしても診断がつかない場合も当然あります。総合病院では外科にコンサルト

が必要です。外科の医師がいない場合はどれだけ疑うかにもよりますが

症状が増悪傾向にあるならば躊躇せず搬送すべきです。


ちなみに、消化器外科医による診断のもとでも、“開腹してみたら正常な虫垂”が13~15%に

あるそうです!(救急総合診療 Basic20問 医学書院)


外科の先生やベテランのドクターには常識かもしれませんが…。

もったいぶらずに正解から。


答えは『閉鎖孔ヘルニア』です。わからなかった方は、必ず覚えておきましょう。


軽い体動でかなり痛みを訴えます。

痩せた高齢の女性で、脚の付け根~大腿の痛みと消化器症状があった場合に疑います。

何故大事かと言えば、


①身体所見だけでは診断が困難。

②開腹しての整復が必要。

③治療が早ければ整復のみで切除の必要がない。逆に治療が遅れた場合、死亡率が高い。


という理由です。

腸閉塞で閉鎖孔ヘルニアを疑ったら、すぐにCTを。

ちなみに脚の痛みは閉鎖神経の圧迫による症状で、

NSAIDsが効いてしまいます。

痛みが取れたから帰宅、なんて事ないように。


閉鎖孔ヘルニアのCTは一度見たら忘れません。

きちんと確認しておいて、

“CTまで撮ったのに見逃してしまった”

などと言う事がないように。


腸閉塞に関してはまた項を改めて。


インドから来た20代の男性。毎晩39℃を越す高熱を主訴に来院。

5ヶ月前、母国でマラリアと診断されたとのこと(特に検査をした訳ではない)。

何か薬をもらったが、熱が出なくなったのでそのままにしていた。

日本でも診療所にかかって、抗生剤と解熱剤が出たが飲んでも治らない。

マラリアが心配になって来院した。

色が黒くて、大きくて、スキンヘッドで、なんか怖い…^^;

言葉も通じなくて、通訳を通してやっとこれだけ聞き出しました。

私もインドでのエピソードがなければ、一般的な採血やレントゲンを見て、

そのまま返してしまったと思うのですが、もしや…と思い、翌日また来てもらって

ギムザ染色を行ったところ、3日熱マラリアの診断となりました。

実は私は医者になってマラリアを診たのは2回目。

一人目はやはりインドの奥地で修行していたという日本人男性で

精神統一をして高熱に耐えていた

そうです。

日本では輸入感染症として年間100例ほど発症しています。

マラリアの三徴は、高熱、貧血、脾腫。

悪寒や震えを伴った発熱が1時間から2時間みられ、

その後高熱が4時間から5時間続きます。

熱の間隔は、3日熱マラリアでは48時間おきが典型的ですが、初期は

この方のように非典型例もまれではないそうです。

参考までに主なlabo dataを載せてみます。

WBC 6400 Hb 13.6 PLT 13.1 T-bil 1.5 AST 20 ALT 32 LDH 276 CRP 24.0

白血球の増加がない割にCRPが異常高値でした。他にマラリアは血小板減少が特徴的で、

重症度と比例します。

恐ろしいのは熱帯熱マラリアで、早期に治療が行われないと原虫が急激に

増加し、脳性マラリア、ARDS、急性腎不全等多臓器不全を併発し、

死亡率が高いという事です。

ここで是非とも強調しておきたいのは、

①マラリア(チフスやデング熱等他の熱帯地方の感染症もそうですが)は

疑われなければ見逃す可能性が高い。

そして、

②熱帯熱マラリアは数日で死亡する事もある。

という事です。高熱の患者さんには必ず海外渡航歴を聞いて下さい。

ちなみに熱帯熱マラリアは潜伏期間が7日から14日。

他のタイプでは数ヶ月してからの発病もあります。

病歴で疑った場合、診断に至らなくても治療出来る病院に紹介する事が大切です。

熱帯の伝染病を扱っている(治療薬が置いてある)病院は少ないので注意して下さい。

もう少し勉強したい方は、

東京大学医科学研究所 のホームページで、

『マラリア等の輸入感染症』を読んでみて下さい。

初めて来て下さった方にわかりやすいように、まずは自己紹介を書いておこうと

思います。Blogでは、じゃがいもという名前を使わせて頂きます。年齢は30代前半、

家内と娘ふたりの4人家族です。娘は3歳と1歳9ヶ月、かわいいだけじゃないお年頃です^^;

頑張り屋さんの家内に支えられ、なんとか仕事が出来ています。


大学病院に勤務した時は研修医として消化器内科の医局に入局しましたが

今は医局を離れ、ある総合病院で主に内科の1次、2次救急を担当しながら

内科一般の研修をしています。学んだ事を何らかの形で残せればと思い

Blogを利用させて頂きました。


一方で読まれる事も意識し、同じくらいの研修医やレジデントの方が見て、役に立つ

情報を。そして医療従事者ではない方にも興味を持って頂けるように心掛けて書いて

みようかな、と思っています。


時間は思うように取れない事も多いのですが、ちょっとずつでも更新出来るように

と考えています。よろしくお願いします。