カンファレンスに出た症例です。


76歳の男性で、食事中に腹痛が出現。我慢強い性格であったそうですが

どうにも痛みが我慢出来なくなり、救急車で来院。七転八倒という感じです。

腹痛の最強点は臍上部。腹壁に力が入っており、軽く抑えただけで痛い、痛いと

訴え強く、所見が上手くとれません


腹部echoはガスが多くpoor studyでした。右軽度水腎症、胆嚢内に胆石は認めます。

採血はWBC 12700 CRP 0.3。肝機能、腎機能、アミラーゼ等、生化学dataに特記事項は

ありませんでした。担当した研修医の先生は消化管穿孔を考えていましたが

胸腹部X線では明らかなfree airは認めません。


研修医は上級医に相談したところ、腹部CTを撮ることになりました。

“単純CTでいいよ”

と上級医は言いました。

CTと同時に腹痛に対してブスコパンが処方されました。


CTでもfree airは認めず。痛みが軽減して眠っておられたため、帰宅となりました。

後日、CTの読影結果は『右尿管結石』。おそらくこの痛みと考えられました。

このお話を聞いてどんな事をお感じになりましたか?


カンファレンスで出た意見は、


①痛み止めで何故ブスコパンが出たのか。腹膜炎を疑っていたなら腸は動いているとは思えず

痛みは軽減しない。むしろペンタジン等を使った方が良かったのではないか。

(結果として尿管結石だったから間違った処方ではなかった訳だが)

腹痛⇒ブスコパンという安直な考えはどうか。


②CTは造影すべき。大動脈解離や上腸管膜動脈閉塞、腎梗塞等を除外する必要がある。

また尿管結石を疑っていれば、造影CTのあとKUBを撮れば診断出来ることも。


③腹膜炎を疑った時、外科の先生はよく血ガスを採取する。腹膜炎のような重篤な病態では

アシドーシスを呈している事が多い。


④緊急CTまで撮った急性腹症の患者さんを、痛みがおさまったというだけで

診断もつかないままお返ししてしまうのはどうか。


⑤痛みのために腹壁が緊張している状態は、板状硬(defence)とは違う。

これはある程度慣れを要するか


他にみなさんのご意見、ご感想があれば教えて下さい。

85歳女性。既往は胃潰瘍、糖尿病、心不全。胆石を指摘された事がある。

腹部の手術歴はない。

食後より吐き気、腹痛が出現し増強。発熱、下痢は見られなかった。

近医で診察を受けている時に茶褐色の吐物を嘔吐された。

ヘマスティックで潜血反応(+++)。上部の消化管出血が疑われ当院紹介となった。

消化管出血、吐血という触れ込みであった。

vitalは問題なく、腹痛の訴えは続いているが、腹部は平坦、軟であり、腹膜刺激症状なし。

疼痛の最強点ははっきりせず、圧痛は腹部全体に軽度。

X線とlabo dataを確認。

Hb 12.6と大きな出血はなさそうであった。

labo dataで目立つものはWBC 17100、CRP 3.0。肝機能、BUN、LDH、Amyは上昇していない。

腹部、胸部X線ではfree airを認めず、niveauを認めない。


どのような疾患を考え、どのような検査をしますか?






わざと書かなかったのですが、まず心筋梗塞は否定しないといけませんね。

心電図ではST変化はなく、CK-MB、トロポニンも一応調べましたが陰性でした。

上腸管膜動脈閉塞症と腹部の大動脈解離は思い浮かべる必要があります。

しかし、そこまで急激に症状が完成した訳ではなく、

腹部全体に圧痛があったので、これらの疾患はあまり疑っていませんでした。

最悪、あるとすれば消化管穿孔。潰瘍や憩室の穿孔は常に念頭におく必要があります。

下血はありませんが虚血性大腸炎辺りは考えられそうです。


問題の潜血(+++)ですが、これはかなり鋭敏な検査で、胃粘膜が痛んでいたりすると

それだけでも陽性になります。バイタルが安定しており、貧血もなく、食後であったので

内科の当番医と話し、明日でも良いのではないか、という話になりました。


結局、急性胃腸炎の可能性が一番高い、としながら

消化管出血の可能性もあり、WBC 17100が気持ち悪かったので入院としました。

一応、夜中も何度か腹部所見は取り直しました。特に変化なし。

患者さんも寝ていました。


結局診断は…


胆石が小腸に詰った事による、『胆石イレウス』でした。

CTで診断がつき、緊急手術となりました。腸を切開し、石を取り出して縫合、という

最低限の手術で済みました。患者さんは今全粥を食べています。

恐らく慢性の胆のう炎があり、胆嚢と腸にろう孔が出来ていたようでした。

胆石イレウスは、胆石の人の0.1~0.15%に起こるという事でした。


反省点


消化管出血という派手な病態に目を奪われ過ぎてしまったこと。石は腹部X線にも写っていました。

②忙しかったとはいえ、多少なりとも出血を疑っていたならばN/G tubeは挿入してみるべきでした。

どうしようかと思ったのですが、胃腸炎という印象が強かったので…。

niveauなし⇒イレウス否定”にはならない。エコーのキーボードサインの方が有用です。

2回目精神科当直の日。朝5時にPHSが鳴りました。

「先生、24条の患者さんが来るんだけど。」

24条とは、精神保健福祉法のことで、

『警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために

自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、

もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。 』

というものです。「精神障害のために」の部分は、警察官では判断がつかない事が多いのでそう考えられた場合は病院に連れて来ます。


連れてこられた患者さんは私と同じ年代の女性。

境界性人格障害の診断で通院している方でした。警察の話では、家で家具や窓を壊し、母親に暴力

をふるって、母親の通報で警察が介入し、保護したとのこと。 お会いしたところ、

非常に興奮されていますが精神障害ではありませんので、話す内容は極めてまともです。

「先生、入院しなくちゃいけないんですか?!隔離ですか?!拘束?!」

「母に、死んでも良いような事を言われ、つらかったんです。私にとってそれが一番つらい。」

上級医と共に診察しましたが精神障害と呼べる所見は(やはり)ありません。

責任能力があるので、本来精神科ではなく、警察の範疇のお話になります。


ところが、結局この人は母親の強い希望で医療保護入院となりました。

母親も、精神的に限界だと言うのです。

「今まで1回も警察に通報せず頑張ってきたけれど、少し休まないと…私一人ではもう駄目です」

この方の父親も境界性人格障害で、自殺されていました。

境界性人格障害を理解した上での、切実な訴えでした。


境界性人格障害がどんな病気(病気と言って良いかどうかわかりませんが)かと

申しますと…東京クリニックのこのページが理解しやすいのではないかと思います。
http://www.tokyo-clinic.jp/mental/mental19.html


とても簡単に言うと、


人格障害とは性格が極端で、生きる事が大変な人達のことで


その中でも境界性~とは、

衝動をコントロール出来ない

・気持ちが常に不安定(“不安定さが安定している”と表現される)

・慢性的な虚無感

等の性格的特徴を持つ方を言います。


行動上の特徴は、他の人には些細と思われる事柄で、代償がきかない深刻な

事態となり、他人を攻撃したり自分を傷付けたり、自殺を図ります。


余計な事かもしれませんが、誤解も多いので。リストカット等の自傷行為は、

別に死のうとしているわけではありません。強いストレスに耐える方法で、

むしろ逆に“生きるために”やっているのです。

しかし、これとは別に自殺の危険もやはり高い(10%)とされています。


更に、不安障害、気分障害(うつ)等を伴いやすく、内服治療は効果ないばかりか

薬物依存傾向が強かったり、自殺に使ったりするので、逆効果になりかねません。

入院でももちろん治りませんし、入院で自殺率を全く下げる事が出来ない事も

わかっています(むしろ自殺行動を強化すると考えられています)。

精神科領域の問題でも、最も治療が難しい、と言われる所以です。


境界性人格障害は治らない、と言われていますが、これは誤解です。

境界性人格障害と診断された方の半分は、10年後には診断されなくなっている

そうです。性格面の成長等が関係あるのかもしれません。

この辺りの事は、精神科医gaito先生のブログに書いてありますので是非訪問して

下さい。11月6日の記事です。

http://blog.yorodai.com/dr-nakagaito/


精神科の部長先生の話ですが、境界性人格障害で、少なくとも精神科救急を受診される

方は、以前はこれ程多くはなかったそうです。部長がこの病院に勤め始めた平成5年くらいは

本当に少なかったという事です。…もし、それが本当だとしたら、一体どうしてなのでしょう。

私には、部長先生の言葉がとても引っ掛かりました。

境界性人格障害の方が増えたか、大きな問題行動を起こす方が多くなった、という事でしょうか。

インターネット等で知識が得られるようになって、理解が深まっているはずなのに、

苦しんでいる人はむしろ増えているのは残念な話です。

ASCO(American Society of Clinical oncorogy)の公式カリキュラムより


がんの終末期において、消化管閉塞(Ileusもしくはsubileus)は、あらゆる進行がんの3%に

みられます。11~42%は卵巣がん、5~24%は結腸がん。これらは手術不能の場合、

予後は平均64日と大変厳しいです。原因はがんによる圧迫、直接浸潤、がん性腹膜炎など

が挙げられます。


症状は、悪心/嘔吐(68~100%)、消化管拡張による痛みとそれに加えて周期的に増強する

強い痛み(疝痛)、腹部膨満感です。当然、食事は摂れなくなります。


治療の評価は、まず外科的治療が出来るかどうか、です。Feuerらによるメタ解析では

外科的治療によって悪性の腸閉塞や進行した婦人科、消化器がんの42~80%の患者さん

の症状のコントロールが出来るとのこと。しかし、この時期の消化管閉塞では、閉塞部位が

ひとつとは限らず、開通しても再発のリスクも高いです。開腹によって一層衰弱する事も

まれではないため、慎重な判断が必要です。手術関連死12%~33%とのことです。

辞退する患者さんも多いので、本人の希望を聞く事も大切ですね。


内視鏡的にアプローチ可能であれば、ステント留置により、症状が緩和出来る場合も

あります。が、それでも18%の患者さんに穿孔、疼痛、出血、ステントの移動などの

合併症が起こるとされています。胃ろうも、手術適応外の患者さんの消化管閉塞で

効果的に減圧が行えるので良い選択肢のひとつです。胃ろうについては、Bainesに

よれば「胃内容物のみ除去しても患者の86%以上で症状緩和には非効果的」と否定的な

意見もありますが、鼻からのチューブがなくなるだけで患者さんにはプラスだと思います。

内視鏡での胃ろう造設は開腹にくらべれば患者さんへの負担はずっと少ないです。

素晴しい治療にはならないかもしれませんが、選択肢のひとつにはなると思います。


さて、ではその他の治療はと言いますと、基本的には輸液と経鼻胃管による減圧です。

この鼻からの管が数週間、数ヶ月というのはとてつもない苦痛だと思います。

しかも大抵これだけでは症状コントロールは不十分です。吐き気と痛みに対する治療が

必要となります。吐き気に最も多く使用されるのはプロクロルペラジン(ノバミン)ですが、

これでコントロール出来るのは13%。部分的な閉塞ではメトクロプラミド(プリンペラン)が

有効ですが、完全閉塞では症状を逆に悪化させるので、殆ど禁忌です

コルチコステロイドは、炎症反応を抑え、浮腫を軽減したり腫瘤を縮小することによって

症状緩和が期待出来ます。但し、きちんとした臨床研究はなされていません。

純粋な糖質コルチコイドであるデキサメタゾン(デカドロン)4~20mg/dayの使用が

推奨されています。


モルヒネは最大89%の患者さんの持続的な疼痛をコントロール出来るとされています。

しかし、間欠的な疝痛にはあまり効果がありません。この痛みは腸の蠕動に伴って

平滑筋の攣縮が起こる事によると考えられています。抗コリン薬、臭化ブチルスコポラミン

(ブスコパン)等が疝痛の治療目的に、しばしばオピオイドと併用されます。

ブスコパン持続投与も試みられています。


さて、その他の治療として期待されているのは、オクトレオチド(サンドスタチン)の持続

投与です(血中半減期2時間なので持続投与が必要です)。

2004年10月に、『進行・再発がんの緩和医療における消化管閉塞に
伴う消化器症状の改善』としての効能、効果が追加になりましたが、

みなさん、知っていましたか?


ソマトスタチンは、消化管の分泌液(胃酸や膵酵素など)の分泌を抑制し、

消化管に対する末梢神経にも働いて蠕動運動を減少させます。


1994年のRileyらの前向き研究では、24症例中14例が完全寛解、4例が部分寛解。

副作用はありませんでした。別に、Mangiliの報告では3日で100%(13例中13例)に

吐気のコントロールが出来ました。胃管を挿入された患者さんでは、2000cc以上

あった排液が100cc以下に減少したとあり、驚くほどの効果と言えると思います。

副作用は殆どなく、たまに対処可能な口渇がみられる程度です。


一般の先生にはあまりなじみがないかも知れませんが、ホスピスではかなり前から

保険外の治療として行われてきた経緯があります。


使用法は静注もしくは持続皮下注で1日量300~600μg
200μg/dayから開始しますが多くは300μg/day以上で
効果が発現します。600μg/day以上では効果が変わり
ないとの報告があります。これは原液で100μg/1mL/A
を使用し、持続皮下注を行うとすれば、
0.1cc/hで開始し、0.05cc/hずつ量を増加、0.25cc/hまで、
となります。
効果判定は7日とされていますが3日くらいでだいたい分かります。


ちなみに高カロリー中に混ぜてしまうのは効果が下がる
のでお勧め出来ません(米国添付文書)。

尚、サンドスタチンは50μgが2118円なので、300μg使用すると1日12000円

以上になります。一応、覚えておくと良いと思います。












ベンゾジアゼピン系(以下BZ系)は睡眠薬として使われるトリアゾラム(ハルシオン)、

ブロチゾラム(レンドルミン)、フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)等や

抗不安薬として使われるエチゾラム(デパス)、アルプラゾラム(コンスタン)等、

抗てんかん薬として使われるクロナゼパム(リボトリール)、ジアゼパム(セルシン)

等があります。便宜上、鎮静作用の強いものは睡眠薬、抗不安作用が強いものは

抗不安薬と呼びますが、鎮静作用、抗不安作用、抗痙攣作用、筋弛緩作用等は

共通の作用です。


最大の利点は安全なこと。大量服薬でも、呼吸にさえ注意すればあまり怖くありません。

何百錠飲んでも、1日呼吸管理をすれば復活します。ずっと飲んでいて大丈夫か、という

質問を受けますが、年単位で飲む事の弊害も、今のところないと考えられています。

実際10年以上飲んでいる人はたくさんいます。

(しっかりとした安全性のエビデンスはないと思いますが)


BZ系のもうひとつの分類は、作用する長さによるもので、ハルシオンは超短時間、レンドルミンや

リスミー、デパスは短時間、サイレース、ユーロジン、ベンザリン(ネルボン)、コンスタン、

ワイパックス、レキソタンは中間型。コントール(バランス)、セルシン、エリスパンは長時間型。

メイラックスは超長時間型となります。


共通の副作用としては眠気(当然です)、ふらつき、めまい、健忘、依存、過量では呼吸抑制があります。


中でも、例えばエリスパンやメイラックスは眠気が少なく、筋弛緩作用が殆どなかったり、

デパスは筋弛緩作用が強いので、高齢者では特に転倒に注意が必要ですが、逆に

肩こりにはデパスがとても効きます。


依存の副作用は、日本ではかなり軽視されているようです。確かに以前の睡眠薬と比べれば

依存の副作用は少なくなったと言われています。また、全員が依存を形成する訳ではありません。

アルコールと同じで、依存になってしまう人、ならない人がいて、ならない場合の方がずっと多い

です。使い方によっては優れた薬なのであまり脅かしてしまって、患者さんが使えなくなって

しまうのは逆効果だと思いますが、患者さんに何も伝えないのはどうかと思います。

海外で短時間作用のBZ系薬剤で依存になった患者さんが訴訟を起こしたケースが

あるそうです(あるMRさんの話)。医師も患者さんも正確な知識が求められます。


短時間作用の薬で依存は形成されやすいという事です。大変良く使用されるデパスのように、

患者さんに効果が出た、切れたがはっきりわかる薬は依存が形成されやすいです

精神的な依存とは別に、薬を急に辞めると反動で眠れなくなる場合がありますが、

少しずつ減らしたり、一度効果の長い薬に変更する事でうまく離脱しやすくなるようです。

また、これも過度に心配する必要はないと思いますが、耐性、つまり効き難くなり、量が増える

可能性も当然あります(アルコールに比べれば依存も耐性も遥かに軽度で安全という事は付け加えて

おきます)。耐性も短時間作用のBZ系に多いそうです。


繰り返しますが、BZ系は優れた薬剤です。抗うつ薬と異なり、作用が早いので、

“今”つらい患者さんにすぐに役に立つ薬です。不安が不眠や体調不良を招き、

更に不安を強くする、という悪循環を断つことで、心の状態を安定出来る事が

期待されます。うつや不眠の治療で、BZ系を全く使用しないで、なんて有り得ない

と思います。

ただ、依存や耐性の問題から欧米では処方の中心はBZ系よりもSSRIや非SSRI系の抗うつ薬が中心で、

BZ系は極力少なめに、という方向に移ってきているそうです。抗うつ薬が効果が出るまで、BZ系を短期

併用するのが一般的になってきています。