2回目精神科当直の日。朝5時にPHSが鳴りました。

「先生、24条の患者さんが来るんだけど。」

24条とは、精神保健福祉法のことで、

『警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために

自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、

もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。 』

というものです。「精神障害のために」の部分は、警察官では判断がつかない事が多いのでそう考えられた場合は病院に連れて来ます。


連れてこられた患者さんは私と同じ年代の女性。

境界性人格障害の診断で通院している方でした。警察の話では、家で家具や窓を壊し、母親に暴力

をふるって、母親の通報で警察が介入し、保護したとのこと。 お会いしたところ、

非常に興奮されていますが精神障害ではありませんので、話す内容は極めてまともです。

「先生、入院しなくちゃいけないんですか?!隔離ですか?!拘束?!」

「母に、死んでも良いような事を言われ、つらかったんです。私にとってそれが一番つらい。」

上級医と共に診察しましたが精神障害と呼べる所見は(やはり)ありません。

責任能力があるので、本来精神科ではなく、警察の範疇のお話になります。


ところが、結局この人は母親の強い希望で医療保護入院となりました。

母親も、精神的に限界だと言うのです。

「今まで1回も警察に通報せず頑張ってきたけれど、少し休まないと…私一人ではもう駄目です」

この方の父親も境界性人格障害で、自殺されていました。

境界性人格障害を理解した上での、切実な訴えでした。


境界性人格障害がどんな病気(病気と言って良いかどうかわかりませんが)かと

申しますと…東京クリニックのこのページが理解しやすいのではないかと思います。
http://www.tokyo-clinic.jp/mental/mental19.html


とても簡単に言うと、


人格障害とは性格が極端で、生きる事が大変な人達のことで


その中でも境界性~とは、

衝動をコントロール出来ない

・気持ちが常に不安定(“不安定さが安定している”と表現される)

・慢性的な虚無感

等の性格的特徴を持つ方を言います。


行動上の特徴は、他の人には些細と思われる事柄で、代償がきかない深刻な

事態となり、他人を攻撃したり自分を傷付けたり、自殺を図ります。


余計な事かもしれませんが、誤解も多いので。リストカット等の自傷行為は、

別に死のうとしているわけではありません。強いストレスに耐える方法で、

むしろ逆に“生きるために”やっているのです。

しかし、これとは別に自殺の危険もやはり高い(10%)とされています。


更に、不安障害、気分障害(うつ)等を伴いやすく、内服治療は効果ないばかりか

薬物依存傾向が強かったり、自殺に使ったりするので、逆効果になりかねません。

入院でももちろん治りませんし、入院で自殺率を全く下げる事が出来ない事も

わかっています(むしろ自殺行動を強化すると考えられています)。

精神科領域の問題でも、最も治療が難しい、と言われる所以です。


境界性人格障害は治らない、と言われていますが、これは誤解です。

境界性人格障害と診断された方の半分は、10年後には診断されなくなっている

そうです。性格面の成長等が関係あるのかもしれません。

この辺りの事は、精神科医gaito先生のブログに書いてありますので是非訪問して

下さい。11月6日の記事です。

http://blog.yorodai.com/dr-nakagaito/


精神科の部長先生の話ですが、境界性人格障害で、少なくとも精神科救急を受診される

方は、以前はこれ程多くはなかったそうです。部長がこの病院に勤め始めた平成5年くらいは

本当に少なかったという事です。…もし、それが本当だとしたら、一体どうしてなのでしょう。

私には、部長先生の言葉がとても引っ掛かりました。

境界性人格障害の方が増えたか、大きな問題行動を起こす方が多くなった、という事でしょうか。

インターネット等で知識が得られるようになって、理解が深まっているはずなのに、

苦しんでいる人はむしろ増えているのは残念な話です。