昨日は難なく大阪から帰宅できたものの、その時間帯の首都圏~関西の 交通はダメだったみたいですね。そんなこととは露知らず… 行きは満席でドリンクサービスが間に合わなかったのですが、帰りは 台風でドリンクサービス無しだろうと思いきや、揺れも少なくドリンクサービスも受けられる、普通のフライト。まったく台風の影響を受けなかった私でした。
さて、今日はお昼から都内へ。
藝大21 戦没学生のメッセージⅡ
14時~
東京藝術大学奏楽堂
今日のタイトルは
藝大21 戦没学生のメッセージⅡ
トークイン・コンサート
「戦時下の音楽~教師と生徒」
トーク:片山 杜秀(慶應義塾大学法学部教授)
ソプラノ:金持 亜実
メゾソプラノ:永井 和子
メゾソプラノ:山下 裕賀
テノール:大平 倍大
テノール/バリトン:今尾 滋
箏:田中 奈央人
オーボエ:河村 玲於
ピアノ:田中 翔平
ピアノ:森 裕子
ピアノ:松岡 あさひ
合唱指揮:千葉 芳裕
指揮:小鍛冶 邦隆
東京藝大学生・卒業生有志オーケストラ&コーラス
今回は片山さんのトークがポイント。時代背景をしっかりと理解しながら、どのような観点から作品を見るかということがわかるから。特にこの時代の音楽は…
第1部:歌曲・ピアノ曲・室内楽
片山さんのお話の今回のキーワードは『国家総動員法』
昭和12年の日中戦争から終戦までの時期の状況の音楽。
まずは戦没学生の音楽を3曲
🎵葛原 守:歌曲《かなしひものよ》~金持・松岡
別れを歌った曲。まさか自分がそのようになるとは思ってはいないだろうけど、こうして聴くと 悲しさが強く感じる。
🎵鬼頭 恭一:歌曲《雨》(清水史子詩)~永井・森
こちらはとても流麗で柔らかく 美しい曲。80~90年代にロッシーニ歌手として活躍された永井さんの声もまだまだきれい。
🎵村野 弘二:歌曲《小兎のうた》(島崎藤村詩)~山下・松岡
ABAの中間部が日本風の美しい曲。Aの箇所のピアノの左手の8分音符が兎の走り回る様子。躍動的に始まり、躍動的に終わりました。
続いて 教官の作品を、2曲。
当時(国家総動員法)は戦争に役立たないものは要らないという風潮。音楽を仕事とする人はその意味を前面に出した音楽を作ることが大切。作曲家は『公私』の区別を使い分けた。
🎵信時 潔:歌曲《春秋競憐判歌》(額田王詞)~今尾・森
信時は公私の使い分けがほとんど感じられない。それでいて芸術歌曲の領域に到達している。
🎵下總 皖一:《箏独奏のためのソナタ》~田中奈央人
急~緩~急の3つの楽章からなる作品。第2楽章は変奏曲という、西洋音楽の枠を用いて作られた、和楽器を用いた西洋音楽。ロビーで展示されていた楽譜は、5線紙と箏の縦書きのものの2種類がありました(撮影不可)。
とても聴きやすい、佳曲でした。
続く3曲は戦没学生の音楽。
当時は芸術が生き残るために、高い精神性が求められるようになっていた。
🎵鬼頭 恭一:《無題(アレグレット イ短調)》~田中翔平
メリハリのある、明快な三部形式の作品。
🎵葛原 守:《自由作曲(オーボエ独奏曲)》~河村・松岡
緩やかで とても美しい、旋律にどっぷりと浸れる曲。
🎵村野 弘二:オペラ《白狐》(岡倉天心台本)より 第二幕〈 こるはの独唱〉~永井・森
ダイナミックな歌ですが、元は歌劇の作品(歌劇じたいはどこまで完成していたかも不明)らしく、ピアノの表情も豊かで、その和声も近代的。多様な色彩感では、ここまでで ダントツ。
ここで配置転換のため、休憩。
第2部:オーケストラ曲・合唱曲
🎵橋本 國彦:歌曲《をみなら起ちぬ》(深尾須磨子詩)
メゾソプラノ:山下裕賀
指揮:小鍛冶邦隆
藝大学生・卒業生有志オーケストラ
長い前奏はソナタ形式の提示部並み。そのあと歌が続く。そのあと冒頭に反復して オケの長い前奏が繰り返されて第2節が歌われる。そのあとは新たな展開の後半となり、計3節が歌われるという形式。
主題が完璧 古典派。ハイドン時代の無名の作曲家と言っても誰も疑わないであろう。短調の第1主題から長調の第2主題への展開が強引だったりするのが、わかりやすい古典派的な曲を作ろうとしている頑張りすら感じるほど。後半は打楽器の活躍など、ベートーヴェンの時代に移動して終わりました。
これが橋本の作品とは、驚き。
配置変えのこの時間で片山さんのお話。
橋本の作品は、女性決起を促す作品とのこと。戦時色が濃くなるにつれ、日本人の作品が古典派、ベートーヴェンのようになってくると感じる、とは片山さんの意見。
🎵細川 碧:東京音楽学校謹撰《明治天皇御製》(明治天皇作歌)
指揮:小鍛冶邦隆
藝大学生・卒業生有志コーラス
ピアノ:松岡あさひ
絶妙な和声付けが聴ける作品。そして前奏と後奏のピアノが充実している、芸術的な作品。合唱じたいは、現代の中学生の合唱曲に繋がるようなものでした。
最後の片山さんのお話は、この交声曲が信時の『海道東征』に続く作品であると。作曲者の草川は、その後、徴兵で戦地で亡くなる運命。これはシンガポール侵略のドキュメントを描いた作品。これは戦時中の音楽学生が それまでの日本の音楽をどう吸収し、どのように表現しようとしたかを考える上には、重要であろう、30分ほどの大曲。軍隊ラッパの音楽が 場面説明のように組み入れられた作品である。
🎵草川 宏:交声曲《昭南島入城祝歌》(佐藤惣之助詩/髙橋宏治補作・編曲)
プログラムの解説には、この曲はピアノ譜版が2つしかないが、そのひとつに このフレーズをオケの楽器の名前が書かれている。今回はそれを基に オーケストレーションしたとのこと。ですからオケの響きについては完全なオリジナルのものではない。
ソプラノ:金持亜実
アルト:山下裕賀
テノール:大平倍大
バリトン:今尾滋
指揮:小鍛冶邦隆
藝大学生・卒業生有志オーケストラ&コーラス
譜面上では3つの楽章からとなっているようですが、今日の演奏では、詩のひとつひとつで主題はもちろん、独唱か合唱などとも明瞭に分けていたので、どこで3つに分けているかはわからなかった。
とても聴きやすい、本当に 古典派からロマン派にかけての音楽を聴いているかの様。オーケストレーションがちょっぴりモダンに感じたのは、それは当時のものではないからでしょう。
ただ、題材(歌詞)が日本の南方への侵略を扱ったものなので、演奏の意味を理解できないような人が聴くと、危険でもあり クレームにもなるでしょう。しっかりとした演奏の目的をレクチャーできないコンサートでは、演奏不可能ではと思えてしまう作品だと思いました。
今回、ラジオ(とCD製作)のためにマイクがあったのですが、ソリスト前(後方合唱団前)のマイクの音が ホールのスピーカーに入っていたこと。片山さんのお話のままのミスだったのか、意図的だったのかはわかりませんが、実演でソロのみが膨張した音で聴こえてしまい、残念な結果となってしまいました。特に女声2人は若々しい澄んだ声だったので なおさら。
今日の課題は日本の負の時代をどうとらえていくのか…
昨日観た映画、ヒトラー時代の事実を それを体験した本人の声が聞ける残り少ない時間をどう記録に残すのか… 芸術の場合とは真逆ですが、どちらもどう歴史をとらえるのかは同じ。
まず 日本は負の歴史を明らかにして 反省をしていく態度がとれないのでしょうか…
今日はNHKのラジオの収録があったとの告知がありました。どこでどのように放送されるのか、気になります。
片山さんの放送かな?