移植をするのによくある質問が、移植は自然周期がいいのか、ホルモン補充周期がいいのかということです。「ウチはホルモン補充周期がメインです」「自然周期のほうがメリットが大きい」等施設によっても医師によっても色々な意見がありますが、果たしてどうなんでしょうか。

 

まず誤解があるようなので最初に言葉の定義ですが、ここで自然周期とは、卵胞が排卵して自力の黄体ホルモンが出る周期のこと、ホルモン補充周期というのは、エストロゲン製剤により排卵を抑え、自力の黄体ホルモンが出ないので全て外からのホルモン剤でコントロールする周期のことであるということにします。レトロゾールやHMG、黄体ホルモンによるホルモン補充をしていようがなんだろうが、排卵する(させる)周期は自然周期です。

 

で、移植は自然周期がいいのか、ホルモン補充周期がいいのかってことですが・・・これはもう、それぞれいいところ悪いところがあるので、ケースバイケースとしか言いようがないです。こっちのがいい・あっちのがいいと言い切った方がスッキリして耳触りはいい、でも人間の体はそんなに単純ではないし、どちらか一方だけを推し過ぎれば個性全否定でテーラーメードもなにもない、そんなんではうまくいくものもいきません。

 

 

ホルモン補充周期の特徴は

・日程調節性にすぐれるので多忙な女性向き

・薬が多い、費用がやや高い(エコーや採血の回数にもよる、保険だとあまり変わらない)

・エコーや採血の回数(=来院日数)が少なくて済む

・子宮内膜が薄い場合に打つ手が多い

・自然周期に比べて子宮外妊娠になる頻度が著しく低い

・自然周期に比べて相対的に周産期合併症が多い(妊娠高血圧症、分娩後の出血、帝王切開等)

 

自然周期の特徴は

・排卵に合わせて行うので医師の指示に合わせて通院できる方しか難しい

・薬が多い、費用がやや安い(エコーや採血の回数にもよる、保険だとあまり変わらない)

・排卵障害(卵巣機能不全やPCOS)や黄体機能不全がある方は不向き

・子宮内膜が薄い場合に打つ手が少ない

・ホルモン補充周期に比べて子宮外妊娠になる頻度が高い

・ホルモン補充周期に比べて相対的に周産期合併症が低い(妊娠高血圧症、分娩後の出血、帝王切開等)

 

そして、そもそも論で、ホルモン補充周期のほうが妊娠しやすい方、自然周期のほうが妊娠しやすい方、もっと言えば、ホルモン補充周期でないと子宮内膜が厚くならない方、自然周期でないと子宮内膜が厚くならない方などがおられます。

 

向き不向きとしか言いようがないし、トライアンドエラーも大切な部分です。

 

最近は不妊治療後の合併症も注目されているので、周産期合併症という点では確かに自然周期に分があるんだけど、それは大切なことだけど、それだけが大切なわけではないので、様々なメリットとデメリットを考慮してどちらで行うか決める、そして、一方でうまくいかない場合は、もう一方の方針に転換する、こうした柔軟な考え方が妊娠の秘訣です。

 

 

胚移植についての過去ログはこちらをご覧ください。

 

【胚移植】

新鮮胚移植はなぜ妊娠率がよくないか

移植のプロトコールについて

☆☆難しい胚移植

すり抜け排卵

子宮内膜が薄い時

☆☆☆胚移植の技術

 

【移植個数・多胎妊娠】

1個移植と2個移植と2段階移植はどれが一番妊娠するか

複数個移植あれこれ

本当の意味での多胎のリスク

 

【着床前診断】

PGT-Aをすると「妊娠率」は上がるのか。

☆☆☆どういった場合にPGT-Aが有効か

1分で分かる着床前診断 

 

【着床の窓】

☆☆☆着床の窓

☆☆ホルモン補充周期における移植日と着床の窓

着床の窓の検査はやったほうがよいのか

 

【ホルモン補充周期vs自然周期】

☆☆ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらが妊娠率が高いか

結局、ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらを選んだらよいのか

 

【アスピリン・バイアスピリン】

アスピリン・ジレンマ

低用量アスピリン

 

【黄体ホルモン】

☆☆☆「黄体ホルモンが上がりません」

ルトラールとデュファストン

黄体ホルモンの比較って難しい

基礎体温が上がらないなと思ったら

排卵したかどうかはどう診断するのか