どんな薬でも、たくさん飲めば強く効き、少しだけ飲めば弱く効く、と思われていることと思います。99.9%以上の薬はそうなのですが、アスピリンだけは違います。

 

低用量で内服(81~100mg/日)

血小板抑制作用、妊娠率上昇

痛み止めとしてはほぼ効かない

(薬は体重によって量が変わります。子供に対して小児用バファリンが81~100mgのアスピリンを使用していたことがあることから、低用量アスピリンのことを「小児用バファリン」という名前で呼んでいたことがありました。しかし、これは20年前の話で今は小児用バファリンの成分はアセトアミノフェンであり、アスピリンではありませんので、現在においても低用量アスピリンを小児用バファリンと呼ぶのは間違いです。知ってか知らずか、いまだに小児用バファリンって言葉使う先生いるけど、自分の知識はアップデートしてませんと宣伝しているようなものだから、やめた方がいいと思います)

 

高用量で内服

血小板は抑制されない。妊娠率は上昇しない

痛み止めとして効く(いわゆるバファリン)

 

 

低用量での効果を期待してたくさん飲むと、高用量になってしまって逆に効果がなくなってしまう、これを「アスピリン・ジレンマ」と言います。アスピリンが用量により効き目が変わるのは、アスピリンには、矛盾する2つの作用があるからです(血小板無力化と、反血小板無力化)。そして、アスピリンによる反血小板無力化作用は血管内皮により修復されててしまいます。

 

つまり、低用量の場合は、反血小板無力化が血管内皮により修復された結果、血小板無力化だけが残り、高用量の場合は、血管内皮による反血小板無力化が修復しきれなくなった結果、血小板無力化と反血小板無力化が拮抗して、血小板無力化効果がなくなる(血液がサラサラにならない)ということなのです。

 

低用量アスピリンは妊娠率を下げると主張がありますが、着床期に高用量でアスピリンを内服するとその可能性が全くないとは言えませんが、少なくとも低用量アスピリンにはそういった影響はありません。少し難しい記事ですが、詳しくは昨年10月に解説しておりますのでご覧ください。

 

 

話はそれますが、私事で恐縮ですが、筆者ペンギンの大学院時代の研究テーマは血管内皮細胞についてでしたので、アスピリンと血管内皮の関係については個人的にも興味深いところです。20数年前、毎日顕微鏡をのぞいて、血管内皮細胞を育て、エストロゲンやその類似ホルモンをふりかけては反応を見ていた日々を懐かしく思い出します。

 

顕微鏡と言えば、今は分業ですが、20数年前当時は、体外受精の精子調整、媒精、顕微授精、胚凍結融解、受精確認や胚移植の際の受精卵のローディング(吸う)、あるいは凍結タンクの管理から液体窒素や培養器のガス管理、培養液の準備まで、全てのラボ業務は全て医師の仕事でした(培養士という仕事自体がなかったわけではありませんが、非常に少数でした)。今は専門性もはるかに高くなり、業務も増えていますので医師がラボで仕事をするのは非常に難しいことですが、医師がラボ業務を理解しているということは、とても大切なことだと思いますので、当時、とても経験を積めたことにいつも感謝をしながら、今の日々を送っています。