「頭痛にバファリン♪」のCMを聞いたことがある方は多いと思いますが、解熱鎮痛薬の代表格、バファリン。市販のバファリンはライオンが、処方薬のバファリン配合錠Aはエーザイが、当院で処方するバイアスピリンはバイエルが発売しています(バイエルが発売するアスピリンだからバイアスピリン)。

 

市販のバファリンは奥が深いです。大人用の錠剤だけで5種類ありますが、ほとんど全部成分が違います。「バファリン・プレミアム」はイブプロフェン+アセトアミノフェン、「バファリンA」と「バファリンライト」はアセチルサリチル酸(=アスピリン)、「バファリンEX」はなんとロキソプロフェンNa(ロキソニンじゃん…)、「バファリンルナi」はイブプロフェンとなっており、子供が飲む可能性があるバファリン3種類は全てアセトアミノフェンとなっている。後述するが、今は小児用バファリンがアスピリンだった時代は20年前までで、今はアスピリンではないので注意。

 

押しも押されもせぬブランド名にすがりたい気持ちはよく分かるけど、アレルギーをはじめ患者さんに薬のことを相談される医師としては、こういう紛らわしいことは本当はやめて欲しい(同様の例には、フェイタスやサロンパスなどがある)。

 

 

さて、本題ですが今日は、アスピリンについてお話しします。アセチルサリチル酸、通称アスピリン。アスピリンは痛み止めの代表格であり、1回660mg内服すると、いわゆる痛み止めとして効きます。しかし、バファリン81のように1日81mgあるいはバイアスピリンのように1日100mg(低用量)で内服すると量が少ないこともあって痛み止めとしてはほとんど効かず、抗血小板作用にもとづく血栓予防薬として効果を発揮します。

 

低用量では抗血小板作用を発揮するが、痛み止めとしては弱すぎてほとんど効かない。抗血小板作用を強めようとして、たくさんアスピリンを内服すると、血栓予防効果がなくなり、ただの痛み止めになってしまう、これが「アスピリン・ジレンマ」です。内服する量によって、事実上、全く別の薬になってしまうのです。

 

当院でバイアスピリンを処方する時に「間違って1日3回飲まないように」とか、「市販のバファリンと併用しないように」などの注意書きが添えてあることがあるのは、こういった事情からです(どちらの場合も低用量ではなくなるので、低用量アスピリンとしての効果が期待できなくなる)。

 

理屈は少し難しいのですが、理論上は、アスピリンを内服すると、痛み止めとしての効果のほかに、シクロオキシゲナーゼ(COX)が抑制されることで血小板に存在するトロンボキサン(TXA2)(血小板凝集促進作用)血管内皮に存在するプロスタサイクリン(PGI2)[プロスタグランジンI2](血小板凝集抑制作用)をどちらも抑制するのです(ややこしいが、アスピリンを内服するとTXA2による血小板凝集促進作用が抑制される[血小板が無力化する]と、PGI2による血小板凝集抑制作用が抑制される[血小板の無力化回避]の2つの効果があります)。

 

用量に関わらずアスピリンによりTXA2が抑制され凝集作用を失った血小板は無力化されたままとなりますが、低用量だとPGI2に関しては血管内皮で修復機能が働き、低用量だとアスピリンのPGI2抑制作用は血管内皮での修復が追いついてしまうため、プロスタサイクリン抑制作用は起こらず、TXA2による血小板無力化しか残らないりません。

 

高容量だと血管内皮によるPGI2抑制作用の修復が追いつかなくなり、TXA2とPGI2が両方抑制される結果、トロンボキサン(TXA2)(血小板凝集促進作用)と血管内皮に存在するプロスタサイクリン(PGI2)[プロスタグランジンI2](血小板凝集抑制作用)がプラマイゼロで血小板凝集阻害が打ち消されてしまい、プロスタサイクリン抑制作用(痛み止めとしての効果)のみ残り、血小板無力化作用が起こらないという、という仕組みです。

 

プロスタグランジンを阻害すると着床が妨げられる低用量アスピリンは妊娠率を下げると主張がありますが、それは高用量でアスピリンを内服した場合であり、上記のように低用量アスピリンにプロスタグンランジン抑制作用はありませんので、低用量アスピリンによる妊娠率低下説は、理論的に正しくありませんのでご注意ください。

 

 

なお、血液凝固は、非常に複雑なカスケードからなっており、血球(血小板)による血液凝固と、血漿による凝固線溶系に大別されます。このうち、血栓予防効果としては、アスピリンは前者のみに、ヘパリンは後者にも効きます。アスピリンとヘパリンは、身体的精神的負担から、アスピリンが弱い、ヘパリンが強い、と思われがちですが、そもそも全く別の薬である点に注意が必要です。不育症検査の多くは凝固線溶系の検査ですので、そこで問題が生じればヘパリンが必要となるのは、こういった理由からです(実際にはアスピリンのみを内服する場合もあります)。

 

不育症治療で低用量アスピリンを使う場合は注意が必要です。高容量でのアスピリンは、いわゆる痛み止め(NSAIDs)のカテゴリーに入り、妊娠末期(28週以降)の妊婦に飲ませてはいけないと薬の説明書(添付文書)に明記してあります。これは、妊娠末期のNSAIDsの内服は、胎児の動脈管早期閉鎖等を引き起こす可能性があるとされているからです。しかし、低用量でアスピリンではこういった問題は起こらないと考えており、日本以外の国では妊娠末期までアスピリンを内服できるのですが、日本では、高容量でも低用量でも成分が同じというだけで、低用量アスピリンの添付文書にも妊娠末期(28週以降)の妊婦に飲ませてはいけないという記載があるため、担当医としてはそれに反した処方をしにくいのが現状です。しかし、本当に妊娠末期まで不育症治療が必要な場合はヘパリンも必要になり、ヘパリンなら妊娠末期まで使用できます。こういったことから、リプロではアスピリンについて基本は添付文書通りの28週で統一しています(ただし、延長を希望する場合は産科の医師にご相談いただき、その指示に従っていただくことになります)。

 

 

余談ですが、子供は成分量が少なくてよいことから実際に81mgのアスピリンを「小児用バファリン」と称しており、血栓予防=小児用バファリン、というな図式だった時代もありましたが、20年も前に処方薬としての小児用バファリンという名称は消えました。なお、現在市販されている小児用バファリンは、アセトアミノフェンが成分ですので、飲んでも血栓予防効果はゼロですので注意が必要です(やっぱり紛らわしい)。

 

なお、アスピリンの有効性については、松林ブログで詳しく解説していますので、参照してください。

 

たかがバファリン、されどバファリン、アスピリンはとても奥が深いお薬です。というわけで、今日はアスピリン・ジレンマについてお話ししました。次回もお楽しみに!

 

 

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