恋愛手帳 -30ページ目

恋は気持ちの穴埋め

前の席の子にプリントを貸した日から何か特別な感情を抱いた私。

丁度その頃学園祭の季節だった。私の友人(元塾で仲良くなった子が偶然にも同じクラスになった)が脚本を書き、新撰組の話をやることになったのだけど、私は前の席の子と席替えで離れてしまい、何か接点を作りたくて、じっと機会を伺った。

「音響やりたいひと~!」
右端をチラリと見ながら一瞬に遅れることなくさっと手をあげた。
よし!これで大丈夫だ。

丁度その頃、当時話題のCDを買ったばかりで、友人達にCDを回していた。B'zの二枚同時発売の記念アルバム。まだ私は塾の片思いの人に未練があり、その人が好きだったので、発売日前から予約をして、特典のプレゼントまで大切にしていた。定期にはトランプのようなプロマイドカードを入れていた。CDや歌詞カードに傷が付かないように、そうっと使っていた甲斐あってかみんな借りた人は丁寧に扱ってくれたようだった。
お近づきの記しにでもと前の席の子にも貸した。
そうしてお返しにと借りたもの、これがなかなか良いもので、XーJAPANのラストソングのアルバムだった。
これまで、必ずと言って良いほど、好きな人の影響を受ける私は、今までにない感じに衝撃を受けた。最初はスピッツ、GLAYと初恋の人に教わった物から、B'z、槇原敬之、河村隆一ときて、X…繋がっているようないないような…いずれにしても、毎日登下校を共にする音楽オタクの友人の得意分野で有ることには変わらなかったが。


音楽を通してその人を想像する、この人はこんな人なんだ…気がついたらその人よりもその音楽を愛している。その歌う人を愛することもある。片思いは実らなくても、ずっとその音楽を愛する限り、心の隅で愛し続けているのだろう。ずっと片思いの呪縛から離れられずに…

気がついたら恋をしないつもりがうっかり気持ちが入ってしまっていたのであった。そして不思議なことに片思いの人にも気持ちが戻っていたのである。

「ねぇ、ところで誰が好きなの?」
友人に聞かれると、凄く困ってしまう。やっぱり誰につくでもなく、想像の人を好きでいるのだから。

何でもなく、その子とはクラスが離れた。バレンタインに昔の友人達と集まって作ったチョコを渡したのは、元の片思いの人。家のポストに入れたら電話が掛かってきた。

「今、合宿先。帰ったらお返しするよ。」
その言葉を信じて待っていたら、バッティングセンタに呼び出された


「ちょっと待ってて。」

バッティングセンターってはじめてきた。こんなところなんだー。

しばらく緊張しながら見つめる私。一向に終わる気配がない。

どうしよっかなぁ。わたしここにいていいのかな。

不安な気持ち、きっと、だめな答えに違いない。

バッティングが終わって、片思いの人がこちらにやってきた。

「ちょっと駐車場で話していい?」

すごくどきどきした。泣きそうなくらい。もういい、って思った。


「あのさあ、もうこういうのこれっきりにしてもらっていいかな。

野球に集中したいし。友人から聞いたよ」

「・・・うん、わかった。」

そんな重い気持ちになるようなものじゃなかったんだけど・・・私が勝手に思っているだけだったから。

そんなことも言えずに、気まずくて帰った。


お返しどころか、つらい気持ちだけを抱えて家に帰った。

なんかすっきりしないというか、後味悪い。もう一度電話で自分から話しておこう。向こうが気にしても困るし。

「もしもし・・・○○ちゃんからなんていわれたか知らないけど、ぜんぜん気にしないで

今までどおり友達でいてよ!」

心の中の気持ちをかき消すように笑った声で話した。それこそ、そんなん気にしてたら野球だって出来ないじゃん。

向こうがなんていったか覚えてないけど、確か「うん」とか曖昧な返事だった気がする。

それまで年賀状とか送っていたけど、言葉のとおり、これっきりにしてねといっていたので送るのをやめた。

友人を通して聞くのは

「年賀状、○○さんからしかこなくなったよ~。さみしーな」

だって。仕方ないよね。私はどうすることも出来ないし。


すっぱりきれいさっぱり忘れるには離れるのが一番。でも、音楽を嫌いにはなれない。

恋を忘れるには新しい恋というけれど、なかなか本気の恋なんてそう簡単には見つからない。

それから半年、新しい塾に通うことにした。そこは皮肉にも

前の席の子と待ち合わせした大きな駅の目の前。

でも、そこから多くの人と出会い、いろんな出来事が起こる。

失恋の前触れ

部活も頑張っていたけれど、成績も下がらなかった。
それが裏目に出て親に
「塾やめなさい。もう一人でできるだろ」
と言われてしまった。反論する言葉も見つからなくて、やめるしかなかった。

片思いの人との連絡手段は呆気なく途絶えた。

でも私はテニスを続けて行くことがあの人への想いを続けていくことなんだと信じた。
幸いに、たまに会う友人からは彼の話を聞くことが出来た。

だけど、段々会わなくなってから様子も変わってしまったようだ。彼はもはや想像の人でしかなくなった。

悲しいけど、もうこれ以上どうすることも出来ないのかな。
丁度その頃、席が前の子と恋の噂をされることもあった。毎日その子と話すのが日課であった。

高校生にもなって、ちょっと話したくらいではやし立てるなんて大人気ない行動だなあ、そう思いながらも、相手の顔も悪くないし、別に悪い気分じゃなかった。

たまたまその子がテスト前に休んだからノートを貸してあげた。ふと友達と寄り道した帰り道、テスト範囲がプリントもあることを思い出した。テストの日まで日にちがない。

困るだろうなあ。
そう思って、近くの図書館の前の電話ボックスから電話を掛けた。
妙にドキドキした。
電話口に随分年の離れたお姉さんが出た。
「まだ帰ってないのぉ。ごめんなさいね」

それから家に帰って暫くしてから電話が掛かってきた。

「もしもし。あ、そうだったんだ~。え?持ってきてくれるの?悪いよ。じゃあ、中間地点の○○駅で。」

先に私は駅に付いた。もう陽は落ち始めていた。夕陽が綺麗だなあ。
最近帰り道を変えたばかりの私はぼーっと駅を眺めていた。すると向こうの方から

「ごめんね!待ったあ?」
と軽やかなステップで走ってくる子がいる。制服姿と違って妙に新鮮で、なんとなく初恋の子と似ていた。男の子なのに笑顔がかわいい。

「とりあえず、座ろっか。」
ベンチとも言い難い、椅子が一個ずつ乗っかった長いすみたいなものに腰を掛けた。丁度オレンジ色のライトに照らされて、夜のせいかムードがある。毎日通っていたのに気がつかなかったなあ。

そこでテスト範囲のプリントを広げているだけなのに、楽しくて、ついつい世間話が弾んで帰りたくなくなってしまった。噂みたいに、好きと言いたくなってしまった。でも会ったばかりだから、信じてくれないんだろうな。

別々のホームに降り手を振った。電車に乗り込んだのにまだ手を振ってくれている

きっと、人がいいのだろう。

いつまでもいつまでも、手を振ってくれているのをみて

頭の中でなぜだか槇原敬之の曲が流れる。嬉しくてたまらないはずなのに

失恋の曲。

きっとこの恋は始めてもうまくいかない。

そんな気がした。

でも、恋はそんな気持ちとは関係なく進んでしまう。



いいひと

部活も忙しくなってきた。
でも成績は良かった。
それが裏目に出て、「もう一人で勉強できるだろ」
と親に言われてしまい、反論する言葉もなくて塾をやめなければ行けなくなった。
それを境に片思いの人との連絡手段がなくなってしまった。
それでも、私は毎日テニスを続けた。続けていく事があの人への想いを続けていく事なのだと信じて。席が前の子と恋の噂をされたこともある。だけど、私が好きなのはあの人なんだ。

でもいつからだろう…
その子と話すのは毎日の日課だった。
たまたまテスト前に授業を休んでしまったからノートを貸してあげただけだった。
学校帰りに友達と随分寄り道をして遅くなってしまって、ふと、テスト範囲はプリントもだったなあと思い、しまったなあと思った。

近くの図書館から電話を掛けた。
凄くドキドキした。
お姉さんが出た
「まだ帰ってないのぉ。ごめんなさいね」
うちに帰ってからしばらくして、電話が掛かってきた。
「もしもし。そうだったんだー。仕方ないよね。え?悪いよ。持ってきて貰うなんて。それじゃ中間地点の○○駅にしようよ」
陽がすっかり落ち、空が紫色になっていた。綺麗な夕陽だ。
向こうから、軽やかな小走りでその子がやってきた。学校で会うときと違って、妙に私服姿が新鮮でよく似合ってる。なんか初恋の子によく似てた。

「お待たせ。」
私は最近帰り道を変えたばかりで、この駅をあまり知らなかった。
「とりあえず、座ろうよ。」
ベンチとも言い難い、一個ずつ分かれた椅子が乗っかっている長いすに座った。
夜のせいか、オレンジ色のライトに照らされて、ムードがある。
テストのプリントを広げながら話しているだけなんだけど、とっても楽しくて、ついつい世間話なんかしてしまった。噂になっていた通り、好きだと言ってしまいたくなった。でも会って間もないから信憑性ないだろうなあ。

コピーを取って帰ることにした。

帰る方面が別々だから、ホームを挟んで手を振った。
人がいいのか、此方が電車に乗り込んだのにまだ手を振ってくれている。
嬉しいはずなのに、頭の中には槇原敬之の別れの曲。きっとこの恋は始めたとしても悲しいだけに違いない。
本気になるつもりはないのにどんどん気になってしまう私だった。