恋は気持ちの穴埋め
前の席の子にプリントを貸した日から何か特別な感情を抱いた私。
丁度その頃学園祭の季節だった。私の友人(元塾で仲良くなった子が偶然にも同じクラスになった)が脚本を書き、新撰組の話をやることになったのだけど、私は前の席の子と席替えで離れてしまい、何か接点を作りたくて、じっと機会を伺った。
「音響やりたいひと~!」
右端をチラリと見ながら一瞬に遅れることなくさっと手をあげた。
よし!これで大丈夫だ。
丁度その頃、当時話題のCDを買ったばかりで、友人達にCDを回していた。B'zの二枚同時発売の記念アルバム。まだ私は塾の片思いの人に未練があり、その人が好きだったので、発売日前から予約をして、特典のプレゼントまで大切にしていた。定期にはトランプのようなプロマイドカードを入れていた。CDや歌詞カードに傷が付かないように、そうっと使っていた甲斐あってかみんな借りた人は丁寧に扱ってくれたようだった。
お近づきの記しにでもと前の席の子にも貸した。
そうしてお返しにと借りたもの、これがなかなか良いもので、XーJAPANのラストソングのアルバムだった。
これまで、必ずと言って良いほど、好きな人の影響を受ける私は、今までにない感じに衝撃を受けた。最初はスピッツ、GLAYと初恋の人に教わった物から、B'z、槇原敬之、河村隆一ときて、X…繋がっているようないないような…いずれにしても、毎日登下校を共にする音楽オタクの友人の得意分野で有ることには変わらなかったが。
音楽を通してその人を想像する、この人はこんな人なんだ…気がついたらその人よりもその音楽を愛している。その歌う人を愛することもある。片思いは実らなくても、ずっとその音楽を愛する限り、心の隅で愛し続けているのだろう。ずっと片思いの呪縛から離れられずに…
気がついたら恋をしないつもりがうっかり気持ちが入ってしまっていたのであった。そして不思議なことに片思いの人にも気持ちが戻っていたのである。
「ねぇ、ところで誰が好きなの?」
友人に聞かれると、凄く困ってしまう。やっぱり誰につくでもなく、想像の人を好きでいるのだから。
何でもなく、その子とはクラスが離れた。バレンタインに昔の友人達と集まって作ったチョコを渡したのは、元の片思いの人。家のポストに入れたら電話が掛かってきた。
「今、合宿先。帰ったらお返しするよ。」
その言葉を信じて待っていたら、バッティングセンタに呼び出された
「ちょっと待ってて。」
バッティングセンターってはじめてきた。こんなところなんだー。
しばらく緊張しながら見つめる私。一向に終わる気配がない。
どうしよっかなぁ。わたしここにいていいのかな。
不安な気持ち、きっと、だめな答えに違いない。
バッティングが終わって、片思いの人がこちらにやってきた。
「ちょっと駐車場で話していい?」
すごくどきどきした。泣きそうなくらい。もういい、って思った。
「あのさあ、もうこういうのこれっきりにしてもらっていいかな。
野球に集中したいし。友人から聞いたよ」
「・・・うん、わかった。」
そんな重い気持ちになるようなものじゃなかったんだけど・・・私が勝手に思っているだけだったから。
そんなことも言えずに、気まずくて帰った。
お返しどころか、つらい気持ちだけを抱えて家に帰った。
なんかすっきりしないというか、後味悪い。もう一度電話で自分から話しておこう。向こうが気にしても困るし。
「もしもし・・・○○ちゃんからなんていわれたか知らないけど、ぜんぜん気にしないで
今までどおり友達でいてよ!」
心の中の気持ちをかき消すように笑った声で話した。それこそ、そんなん気にしてたら野球だって出来ないじゃん。
向こうがなんていったか覚えてないけど、確か「うん」とか曖昧な返事だった気がする。
それまで年賀状とか送っていたけど、言葉のとおり、これっきりにしてねといっていたので送るのをやめた。
友人を通して聞くのは
「年賀状、○○さんからしかこなくなったよ~。さみしーな」
だって。仕方ないよね。私はどうすることも出来ないし。
すっぱりきれいさっぱり忘れるには離れるのが一番。でも、音楽を嫌いにはなれない。
恋を忘れるには新しい恋というけれど、なかなか本気の恋なんてそう簡単には見つからない。
それから半年、新しい塾に通うことにした。そこは皮肉にも
前の席の子と待ち合わせした大きな駅の目の前。
でも、そこから多くの人と出会い、いろんな出来事が起こる。