発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第9章 発達障害の予防はできる
         ——環境要因による増加部分は、原理的に予防可能

272〜273ページ

【第9章(3)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246(2023/10/11のブログに掲載)療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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 3. 個人・家族レベルの現在の予防法

 有害な環境化学物質汚染が広汎に広がった状況では、その摂取を減らすためには、この後の4項で述べるように、社会全体、行政レベルでの規制がもっとも重要だが、残念ながら日本の現状では政治や行政が変わるには時間がかかる。とりあえず個人・家族レベルで現在やれることを実行することが肝要と考える。
 PCB、水銀、鉛などの環境化学物質は、汚染状況に関する情報・知識を得て、汚染のひどい食品を避けたり、汚染地域を避けたりするなどの方策がある。現状でどうするのかは、個々の化学物質群ごとに事情も異なるので、以下の項を参照していただきたい。

  (1) 農薬は、現状でも個人レベルである程度減らしやすい
 有機リン系、ネオニコチノイド系ばかりでなく、脳神経系をはじめから標的とし、意図的に障害して昆虫を殺すものがほとんどの人工化学物質である農薬・殺虫剤は避けるべきである
 ことに最近、ミツバチの大量死をおこし、EUでは禁止になった ものにネオニコ農薬がある。第8章でのべたように、ネオニコは毒性が受容体への直接作用でヒトの受容体にも十分毒性作用があり、しかも浸透性なので有機リン系と違って洗っても落ちず、果実などで始末が悪い
 無農薬や減農薬の米や野菜も現在は少し前にくらべ、はるかに手に入れやすくなった。無農薬の米や野菜の栽培がさらに広まれば、量も価格もより手に入れやすくなるはずである。
 もともと太古の昔からわずか五〇年ほど前まで、日本の農業は完全に無農薬栽培であった。現在の近代農業でも、すでにさまざまな無農薬、減農薬栽培の方法が確立し実行されており、農家の方々の転換への多大なご苦労は察するものの、「農薬は危険なので使わない」英断が期待される。農家の方々は実際に農薬を撒いた時の曝露による体調の不良などから、農薬が体に良くないことをご存じで、自分たちの食べる米や野菜は無農薬にしている方も多いと聞く。
 消費者も米や野菜の虫食いや形の良さにこだわらず、また季節の野菜を食べるなど、「安全」のために発想を変えた方がいい。すでにはじめている方も最近多くなったように、少なくとも自分たちが食べる野菜は、自分たちで無農薬でつくるという手段もある。今は「どうやれば良いか」の情報も手に入れやすい。小規模ならベランダで、庭があれば庭で、地方自治体が提供してくれる市民農園で、もっと積極的には農地を個人または団体で借りて、自分で無農薬栽培をやれば農業の面白さ難しさも分かり、一石二鳥であろう。
 実際、現在の流通システムでは完全無農薬の野菜はまだ少ない。システムを維持するための安定した供給量を、完全無農薬で確保するのは現状ではむずかしいであろうことは、日本での農業栽培の現場を知れば理解できる。無農薬は理想だが、現実的には減農薬でも十分価値がある最近は栃木県小山市の「よつ葉生協」のように農家の人びとの協力で、ネオニコ農薬を使わない米や野菜を取り扱っている生協も出てきた
 第7章のコラム7-1(毒性学の基本)で述べたように、発達神経毒性に限らず、遺伝毒性でも発ガン性でもそうだが、化学物質や放射線の毒性には用量作用関係がある。一般に毒物は摂取量が少なくなれば、毒性作用は小さくなる。完全無農薬でなくても全体の摂取量がある程度少なくなれば、人体には農薬の解毒・排出作用もあるので体内濃度はより低く、したがって健康被害のリスクもより小さくなる。 日本の現状では、あまり神経質に「完全」無農薬にこだわる必要はなく、できる範囲でやるしかない。