発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第9章 発達障害の予防はできる
         ——環境要因による増加部分は、原理的に予防可能

274〜275ページ

【第9章(4)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246(2023/10/11のブログに掲載)療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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  (2) PCB、ダイオキシン、有機塩素系農薬など残留性が高いものはことに注意
 PCB、ダイオキシン、残留有機塩素系農薬類は、脂溶性で体内脂肪などに蓄積・残留しやすいのでその点やっかいである。図8-1(二四四頁)のように、最近の日本人の体は全員、大なり小なり年齢(出生年)に比例してPCB(ダイオキシン)で汚染されてしまっているダイオキシンのような生殖毒性もある化学物質(堤治『環境生殖学入門』)は、ことに初産婦に流産をおこしやすく、妊娠初期の気づかれにくい流産の連続は、不妊とされてしまう。生殖毒性をもつ化学物質が、日本における著しい不妊(子どもが生まれない)による少子化の一因である可能性は高い(コラム9-1)。

【コラム9-1】
 母親は流産や死産で解毒・排出しにくい毒物を排出している
 図8-1の血中PCB調査でわかったことだが、日本人の経産婦のPCB濃度平均値は、出産をくりかえす回数に比例して低くなりそのようなケースがない男性の場合は、年齢に比例して高くなっていく
 事実として述べるが、母親は、PCB、ダイオキシンなど(の)脂溶性物質や重金属など排出しにくい毒性化学物質を流産や出産により一気に排出するシステムがそなわっている
 PCBやダイオキシン、有機塩素系農薬など脂溶性が高いものも、胎盤を通り胎児に蓄積しやすく、ことに胎児は血液脳関門が未発達なので、脳に簡単に侵入して発達神経毒性を発揮することは、第4章の図4-2で説明した。
 水銀では、第7章の毒性メカニズムのところでふれたが、胎盤は母親の血中のメチル水銀を単に胎児に移行させるどころか、かえって積極的に胎児に濃縮していることが最近わかった。
 水銀は、さまざまた毒性が強く人類誕生以来自然界から曝露することがあるので、水銀が蓄積した母体はどうしても解毒したいのであろう。胎児性の水俣病の子どもを産んだ母親は、本人の水俣病の症状は比較的軽く、「この子が私の水銀を吸い取ってくれた」と嘆いたという話は、彼女が直感的に医学的真実を理解していたことになる。
 このように胎児の毒性物質曝露量が、限度を越えると発達障害どころか流産、死産になる
 最近の日本では、初産婦のPCBなど毒性化学物質汚染が無視できない例も少なくないので、他のリスクとも重なり、どうしても第一子が流産する可能性が大きくなる。
 若い母親は大いに悲しむが、遺伝的問題がなければ一般に解毒されたことになるので、第二子以降は健常児が生まれてくる確率が大きい。母親の体内から胎児に毒性物質が移り、その胎児が命をかけて排出してくれたのである。
 私たちの人類の祖先が、まだモグラのような哺乳動物であった時代にも、脂溶性の毒物は天然にもあったろう。少なくとも水銀、鉛など重金属は自然環境中に昔からあり、それなりに胎児への毒性を発揮していたことは明らかである。
 毒物を多く摂取してしまった場合、最初は流産して大事な母体を解毒し、出産をくりかえして次から健康な子を生むというシステムが、進化の過程で有利なので発達してきたのであろう。

 母親として子の流産や異常は何より嘆かわしく、辛いことであるので、若い女性はなるべく早期から、日頃の生活で汚染のひどい食物を取らないよう、体内に毒性物質を溜めないよう心掛けることを勧めたい。なおダイエットや病気による急激な「やせ」は、体脂肪の減少により蓄積されていたPCBやダイオキシンが放出され血中濃度が上昇するので注意を要する。
 PCB、ダイオキシンの排出は非常に遅く何年もかかるので、最初から体内に入れないように努力するしかない。PCB類は日本では現在でも、変圧器(トランス)に密閉された形でつかわれ保管されているが、工場跡地などで変圧器が壊れたままで放置され、周辺が汚染されていることも少なくなく、触れないように、漏れ出たPCB液で汚染された土ボコリなどを吸い込まないように気をつけなければならない。
 食品でもっとも危険なのはクジラやイルカの肉の脂身で、海洋全体に広がったPCB類が食物連鎖を通じて濃縮されている。脂肪に蓄積するので、脂身の多いマグロのトロや魚の内臓は水銀など重金属汚染の問題も加わり、避けたほうが良い