『発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子
第3章 日米欧における発達障害の増加
——疫学調査の困難さと総合的判断
73,76〜77ページ
【第3章(6)】
.....................................................................
※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
......................................................................
2. 「増加は本当か」という “論争”
ところが意外なことに、米国では一九九〇年頃から、「これらの増加はすべて見かけだけで、全体の人口中の自閉症児の新たな発生数(発生率)は増えていない」という “論争” がはじまった。
疫学の困難さ(コラム3-2、参照)の一つとして条件設定がきちんと行えないため、比較できないことが多く、これらのデータからでは「実数は増えていない可能性もある」という指摘自体はもっともであった。
疫学調査では、たとえば真の増加ではなく見かけの増加をもたらすような因子が一般に存在するからである。このような有病率の変化にかかわる因子(交絡因子)にはさまざまなものがあるが、自閉症の増加に関しては主に以下の二つが問題になった。
①自閉症の診断基準が変わって、広い範囲を自閉症と診断することになったので、増加しているように見える。
②自閉症のことが広く親や教師の間で知られるようになり、今まで医師の診断を受けなかった子どもたちが診断を受けるようになったために増加しているように見える。
確かに米国で用いられる診断基準は、一九九四年にDSM-Ⅲから広汎性発達障害が登場したDSM-Ⅳに変わっている。第2章の図2-2、2-3のように、灰色領域での自閉症の診断は微妙で、図3-5(A)で示したように、医師の発達障害の診断基準が少しゆるくなれば、診断分岐線(カットオフ値)は下に移り、診断された発達障害児の数は増えることになる。
また医師に診断のために連れてこられる子どもの全体の数が増えれば、自閉症と診断される子どもの数も当然増える。