716冊目『異類婚姻譚』(本谷有希子 講談社) | 図書礼賛!

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芥川賞作品がつまらなくなったというのは、よく言われるところで、私自身も「え、これが芥川賞?」みたいな作品にたびたび出会ってきた。具体的な作品をあげると、町屋良平の『1R1分34秒』(409冊目)は本当につまらなくて、短い話だから最後まで読んだものの、無味乾燥な内容に読むのが苦痛だった。最近に話題になった宇佐美りんの『推し、燃ゆ』(520冊目)も、ベストセラーになるほど話題をかっさらったわりにはたいして面白くなかった。というわけで、このように芥川賞受賞作でもとても読むに耐えないといった作品がある。本谷有希子は、『あなたにオススメの』(712冊目)は実に面白かったのだが、残念ながら、芥川賞を受賞した本作「異類婚姻譚」は、本当につまらなかった。アマゾンレビューを見ていたら、小説も書いている評論家の小谷野敦の投稿を見つけたので、引用すると、「芥川賞に限らないが、本来受賞させるべき作品を落としておいて、すまんすまん、あれは良かったよ式に、まるで受賞させるべきでないものに授与するということがあって、大江健三郎でさえ、「奇妙な仕事」(候補にもなっていないが)で受賞すべきだったし、西村賢太も、秋恵もので受賞すべきなのに「苦役列車」などで受賞してしまう。本谷の場合、前に落とされた「ぬるい毒」こそが受賞すべき作品だったので、こちらは凡作も凡作、新人賞に応募したら最終予選にも残らない程度の作品である。」(2016年1月21日)とあり、なかなかの酷評ぶりである。

 

小説の内容は、主人公である妻が突然、夫の顔に似てきてしまうという奇抜なストーリーである。本谷は、こういう「世にも奇妙な物語」のような、日常に怪奇が潜む作品をよく描く。小説戦略として切り口の斬新さは百点満点としても、この色物の設定をうまく使いこなせておらず、後はふわふわした登場人物の会話だけが垂れ流されて、正直退屈極まる。顔といえば、社会的な規律が顔に作用してしまう象徴的権力の話だったり、顔自体がひとつの仮面であるといった、いかにも鷲田清一が言いそうな哲学的な主題にもなる領域である。もし本谷が、虚構作品でしかなし遂げられない、何かしらの顔の魔物めいた不気味さにたどり着けていたとしたら、ここまで低い評価の作品にはならなかっただろう。もちろん、文学作品にたいして面白い/面白くないの基準は、人それぞれである。だから、本作をもし評価している人がいたなら、私の言っていることに気分をよくしはしないだろう。それはそれで申し訳ないとは思うものの、批評というのは、物事の良い悪しを論じるものなのだから、やはり私としては、つまらないものは、つまらないと言いたい。個人的に、本谷有希子の作品は好きなので、これからも読んでいきたいとは思っている。最後に芥川賞受賞の際の記者会見の動画を貼っておく。

 

第154回芥川龍之介賞受賞作「異類婚姻譚」、本谷有希子さんの会見。 - YouTube