409冊目『1R1分34秒』(町屋良平 新潮社) | 図書礼賛!

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死ぬまでに1万冊の書評をめざす。たぶん、無理。

 

 

 

 『百円の恋』(2014 日本 監督武正晴 主演安藤サクラ)という映画を観た。つまらん映画だったが、実家暮らしで仕事もせずひたすら親の脛をかじっている生きている自堕落な女(安藤サクラ)が、ボクシングを通して、忍耐力や人生に目標を見出し、人間として強くなっていくという話だ。いわば、「青春系成長」というジャンルに分類される映画だ。

 

 漫画『ルーキーズ』(森田まさよし)を例にあげるまでもなく、何らかのスポーツに打ち込むことで大人になっていくという成長型のストーリーは巷に溢れている。たしかに、何かに熱中することは素晴らしいし、人としての成長にも繋がるのだろう。しかし、もうひとつ別の青春があってもいいのではないだろうか。日常生活を全て犠牲にして部活動に捧げることがそんなに素晴らしいことなのだろうか。

 

 町屋良平の『1R134秒』を読んだ。第160回芥川賞受賞作である。正直たいして面白くなかったし、だいぶ前に読んだので内容もほとんど忘れてしまったが、この作品もボクサーを主人公とした話だ。主人公は、今度闘う相手とのシミュレーションをしながら、相手に親近感を抱いてしまう、ファイターとしてはやや不適格な人物だ。ボクシングに熱中するわけでもなく、セフレを作って遊ぶなどして、どうも自堕落である。

 

 ボクシング小説『1R134秒』は、『百円の恋』とは違い、主人公成長型を志向しない青春小説である。あえて言えば、脱力系青春小説とも言おうか。私は現代小説に関してはそれほど熱心な読者ではないのだけど、青春小説のジャンルに脱力系が占める領域はそれほど広くないと思う。私はどちらかと言うと、頑張るタイプの人間だが、一方でそういう頑張る人間をどこかで冷笑したいという心理も持つ。「頑張って成長する」、そういう愚鈍な真直ぐな心性をあざ笑うような、そんな青春脱力系小説をもっと読みたい。