季節はずれの風鈴の硬く澄んだ音がやってくる。
北国の白く輝く世界の、風と水との香の予感を、かすかには秘めながら。

── 僕の少年期。何に怯えていたのか。
当初には、確かに、苦痛からは逃れられない僕の神経があったのではあるが、まだそこで僕の言葉は求めていたのだ。
まぶしすぎる世界から目をそらし、甘い陶酔を見つめていれば済む日々を。(2/1)

情愛は悲哀を招き、眠りは恐怖を招く。── 十字架はどこにでもある。(2/26)

夜警たちを遠くに見つめ、家々は眠りにつく。
かすかな熱を帯びた夢は、家々をめぐり、妖精たちの笑い。
波のざわめきは遠ざかり、
── これは何という夜なのか。灯台は海を見つめ続け、眠る街。(2/20)

推進のその場における零度の炎が僕の身を焼く時、ただその時にこそ僕の歓喜はある。(2/3)

日本の伝統的芸術。── それらが表現している、静止した均衡。
静止と静寂を表現している芸術は、「運動状態」を、なんの濁りもない当然の状態であることを知っているのだ。
── ほんの一瞬立ち止まり、そこで人の知る静寂。
それこそが、日本の芸術が表現し続けてきたものなのだ。(2/1)

熱狂の夜が去れば、僕たちは僕たちの朝をむかえるだろう。(2/7)

矢野泰子:病室の窓より見える白雲の流れに沿ってトビの舞いゆる
上田捷二:駅に見る郷里の栗さわりみてなき父母の霊安かなれと祈る
工藤由紀子:吾子のため父が与えしブランコの乗る人もなく風に揺れる日
(2/1)

冬の日。今日は久しぶりに ── つまり休日としては珍しく、知らない道を長く歩いた。
「真剣な」怠惰だってある。── だが僕にとって言葉は名札ではない。ふたたび言葉を世界の側に解放するのだ。(2/3)

家々の彼方に広がる冬の日の空。木々のざわめき。
── 休息のその時は、
路上にさす家々の影を見い出すその瞬間に、
古びた寺の門のすき間の向こう側、見知らぬ木々の姿を垣間見たその瞬間に、
── 休息のその時、西風の教えた優しげな声も、悲鳴もが、皆、僕の目を閉じさせる。
── 「人間」か。(2/3)

彼女。いつも笑っているが、いつもうつむいている。(2/12)





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淡い靄を伴った雨の日の午後。
川の横の道を、僕は用事を済ませて帰る所だった。
川のこちら側には人のいない小さな遊園地と、柳の木とが雨に濡れていた。
川の向こうは、小さな私鉄の線路だ。自動車は、開かれた踏切をあわただしく通り過ぎてゆく。(4/18)

蕪村
陽炎や名も知らぬ虫の白き飛ぶ
石工の鑿冷やしたる清水かな
初霜やわずらう鶴を遠く見る
斧入れて香におどろくや冬木立
(4/22)

鬼ごっこ。この単純な遊びが、なぜ廃れないのか。
理由はおそらくこうだ。「鬼の役割」が廃れない理由なのだ。
鬼は誰かを捕まえなければならない。求めて手に入れ、そうして鬼の役を誰かに与えなければ、「人並み」にはなれないのだ。
求めることだけが役割の鬼にも「快」はある。それは誰かを捕まえる瞬間の、自分の役割からの解放だ。
── それに対して、鬼でない側、逃げる側は自分の今の自由を守る事「だけ」が必要なのだ。(4/27)

幼児期の僕は、しばしば頭痛に襲われた。
僕はいつも周囲の「形」に目をやっていた。「形」になんの幻想も持たず、ただその形を目で追っていた。
眠れない夜、僕は薄明りの中で、天井の節穴などの形を見つめていた。
── それが、僕が自発的に求めた最初のコミュニケーションだった。(4/26)

サルトル。
「人間が自由でないとしたら、どうして意味を持つことを要求できるのか」。
── しかし僕は、自分の要求に明晰でいられる限りにおいて、その人間は自由でいられると思う。
意味を持つことを要求する時点で、その人間は拘束されていると思うのだ。
(4/27)

休息。淡い疲労感が静まっていくとき、いつも僕の横には、あのおとなしい女の子が現れる。そうして、あの親しい友も。
夏の日の、涼風の吹く高原でのひと時か、── 様々なニュアンスの柔らかな揺流、そうして涼風。
── 抑制のきかないのが欠点だとしても。(4/14)

喧噪。それは「参加させられる」ことによって認識される。(4/16)

老人と少年。
老人が少年たちに何か言いながら紙袋を渡そうとしている。少年たちは多少当惑しながら立ち去る。
老人もあきらめたようだ。
「ガマなんかもらってもなあ」。少年たちの声が聞こえる。(4/13)

バッハ。完璧な形式はそれ自体、揺らぐことのない均衡を持つ。
つまり宇宙なのだ。(4/26)




Bach - Schweitzer - BWV.768 "Sei gegrüsset, Jesu gütig - BWV.622
 "O Mensch, bewein dein Sünde groß"





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少年時代。その日は台風だった。僕は窓の中から外を見ていた。
雨は激しく降り、風も強かった。大型の台風だった。
「大嵐なの?」僕は母に聞いた。母はそうだと言った。
僕は、目の前のその光景よりも、さらに激しい嵐というものはもうほとんどないのかと思い、── ある種の物足りなさを感じていた。(2/1)


閉鎖した生活の中で、ある程度、なにかを掴んでいくことはできるだろう。
しかしそれでいて、何もわかりはしないのだ。(1/27)

ロートレックにおける、気性の激しさと、やり場のない怨念めいたもの。
怨念めいたもの?── それは、自分には何の責任もないはずの、自分に降りかかってくる暗い運命への怨念なのか?
ランボーより十年ほど前に生まれたこのフランス人の画家は、ランボーより長く生きたが、ついに発狂した。(1/26)

些末なアクセサリーが、僕を長いこと、盲目にしていた。
── 僕個人にとっての、ささやかな美が。(1/30)

彼女。
わかってるんだ、あの場所がどういう場所なのか。
関係ないのよ。どういう事だかわかる?関係ないって事が。
関係ないものは、あたしには、みな嘘なの。
嘘を嘘だと思わずに、大事にし過ぎたわ。あたしのすべてがあるように思っていたわ。でも、関係ないの。消えてしまえばいいの。
──
あなたが言うことはわかるわ。
嘘は私の中だけにあったんだって言うんでしょう?そうして、あれはちゃんと存在するもので、嘘ではないって言うんでしょう?
──
でもだめ。存在するなら、あたしはあれを大事にしてしまうもの。
あたしにとってはあれも嘘。そうでなければどうしようもないの。
あたしの中に嘘はないわ。あれだけが嘘なのよ。消えてしまえばいいわ。(1/29)

ふと目をやる空間の所々に、光のきらめくのが見える。
── 小悪魔どもの嘲笑。(2/1)

樋口幸吉:「犯罪の心理」から。「S41,1 巣鴨バーホステス殺人事件」
犯人だった少女。彼女には責任がないはずの、「彼女に与えられた環境」。
いくら居場所を変えても、結局どこも同じだ。まるで幸福にはなれない。
だが彼女は幸福を求め続けている。
── 同じ状態の中にしかいられないにもかかわらず。(1/29)




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夜。身体のどこかがきしんでいる。── どこかで、伝説中の精霊と、雨に打たれる木が出会っている。ここではないどこかで。(1/7)

波。少年時代。夜の海で見た、あの波。闇の中を走る、白い波の姿。
── 行為の表出の輪郭。幻想を焼きつくし、その外側、世界に接した僕の行為の輪郭。(12/18)

雨。雪になるかと思われ、しかし冬の夜に雨が降り続く。(1/8)

細い木々の中の道を通り抜けると、僕はその場所が以前来たことがある場所なのに、すぐ気がついた。
── あのときは確かに花々に埋もれていたはずの墓標によって。
近くには寺もなく、墓標は田畑と川とに挟まれた場所にあった。── 冬枯れの中の日差しに、それは。(2/1)

K氏。「この先、何の打つ手もなければ、少なくとも何らかの手を打てる場所に、自分が行くほかはないだろう」。(1/16)

こんな時は、街からは離れた、風の吹く中の木々の古い幹の上、シリウスの光の中に眠りにつくことだ。星の光のざわめきの下に。(2/7)

堕天使。
かつては天におり、天の言語で語っていたものが、いまは地に堕ち、しかも天の言語しか知らず、語ろうともがく。
何を語ろうというのか。── やがて彼は枯渇する。
地において言葉を失い、さらに天からは遠ざかり、闇の中に死に絶える。(2/7)

動体視力。行為の中にあって、時おり僕は風景が動いているのをいきなり実感し、軽いめまいを感じることがある。(1/16)

この身の言語の位置。僕は、頭の中で考えることが、いまはとても少ない。
だが、体の別の場所で考えているなら、
── 罪人は彼方、水晶と鏡の神殿の前に立ちつくし、自らの罪に完結という姿を与えることすらできず、
── すでに破壊されてしまっているのか、この目と耳とは。(1/28)

項羽は臣下が語ることを軽視し、彼自身が多くを語る者だった。劉邦は国家そのものであり、臣下が語り、彼は語らぬ存在であった。(1/8)

── 今はふたたび、雨の中に戻ろう。
僕に人懐こく話しかけてくれた少女たち、君が僕の目を閉じさせてくれるものであるなら、僕はもう、同じ顔では出会えないのだろう。(9/23)

散文というもの。それはあくまで、僕自身に対して何の満足も与えはしない、独り言に過ぎないものだ。
バッハは言っている。「重要なのは通奏低音であって、それが存在しない音楽は騒音でしかない」。
散文にも同じことが言えるのだろう。(2/7)




Pablo Casals - J.S.BACH "Cello Sonata in G major BWV.1027" - [Vinyl record]




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HOW TO物の出版が盛んだ。便利さを感じることもあるが、何とはなしに不快を感じることもある。(4/9)

カミュの「形而上的反抗」における「神」を、単に「依存の対象の、すべての象徴」として考えるなら、イワンの「神は残酷である、云々」、すべて筋が通る。
依存を求めつつ、それを嫌悪する。(4/17)

カミュがヴェルレーヌを評して。「ヴェルレーヌは理性で神を攻撃し、魂では祈っていた」。(4/19)

「悲しい」という言葉だけを見ても、何ら悲しさはわかない。
説明的文学の最大の弱点はここにある。登場人物と読者とがその経験を共有しなければ ──。(2/17)

花屋の中年の男が僕に言った。
「たくさん希望を持っているんだろう、あんちゃんは」。(3/25)

ねぼけまなこの朝。高台からは海が一望に見渡せる。
── 海にまぶしさを感じた朝。いつになく、風の強い日だった。(3/25)

「表現の破壊」などと言っている、おめでた屋たち。中身は、はや破壊されつくしている。
── 深夜、のどが渇いた時、水を飲む気分が好きだ。火照った胸に、冷たい水が流れてゆく。(3/22)

志賀直哉。「とにかく、私が会った中では、芥川君は始終、自身の芸術に疑いを持っていた。それだけにもっと伸びる人だと私は思っていた」。(2/25)

「生活の芸術化」。そんな言葉を見た。
生活に「芸術的」も何も、あるものか。生活をどうとらえるかだ、それだけだ。
(4/28)

アリストパネース。「お前の大言壮語が、良きことを教えるかね?とにかく、人間の言葉で話すことだよ」。(3/9)

お爺さんと子供がバドミントンをやっている。一回として続かない。それでも楽しそうだ。
羽根が僕の足元に落ちてきた。僕はそれを拾って投げ返した。
「どうも、どうも」。おじいさんが愛想よく笑う。そのとき僕の何かも喜んでいる。何が・・・。(4/19)

中年の酔っぱらい。彼は歩きながら、目につく文字を口で読みあげている。
「えーと、Y商店か。うん。何?そうか、このあたりは○×町の三丁目か。おや・・・」。
無限に読み続けても、読まれるものは皆、夜の中に黙している。
── 彼は彼だけなのだし、僕は僕だけなのだ・・・。(4/14)

「人ごみを歩くのは、これだから嫌なんだ。歩くスピードがどうにもならない」。
(8/2)

中学校では、テストの順位を発表した。
僕は、いつも何の「位置付け」もなく遊んでいる皆の位置が不思議だった。(3/2)

中学時代の卒業文集から。
H.N 「生まれてきたからには、立派な人になりたいと、私は思います」。(2/25)




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傾きかけてる太陽。病んだ獣がねぐらを求め、さまよい歩く。雑踏でネオンが求めているもの。
── 常に離れることのない影。それは僕たちの足がガラスの破片を踏み、赤い血に染まるとき、何を語るのか。(11/14)

飲食店は深夜まで混みあっている。ラーメン屋ではとなりの席の男が、うつぶせになって眠っている。
── 夜か。小さな橋は、黒い川の上、そこここに作られる。
僕の生活において、いったいどれぐらいの時間が ──。(12/13)

座ったままで為す事も、すべて、立って為すテンションでもって為す事。
── 疲れているのだろうか、何もかもが弱まっている。(12/21)

豪華客船の船室に、風に触れることの嫌いな人々の談笑。
「これは美味しいですな」「同感です。こちらも美味しい」。
── 海賊たちの奇襲、
船客たちの悲鳴。
海賊たちは歓声の中、色々な宝を見つけ出しては ── 失望し、海に放り込む。
「結局、何もありゃしねえや」。
海賊たちはつばを吐きながら引き返す。
── この世の中。エクシヴィジョン・ドックでの、海賊たちの処刑。(10/14)

ニーチェが僕たちに見せたのは、超人そのものではない。
超人がどのようなものであるのかという、説明言辞だけだ。つまり、「つっかい棒」なのだ。
しかしそれを否定してしまえば ── 最後のハーケンを打ってしまえば、次には。──。(12/13)

午後の日差し。舗装道路に沿う家々の間を通り抜ける。枯れかけた野草の茂る細い道。
野草は足にからみついてくる。そうして、土の路面の感触。
先の方には木々。そうして川だ。鳥の鳴き声ばかりが高く響いている。
── 選択肢。牢獄の中での悲惨か、この世界の中での分解か。── ああ、風か。(11/25)

ここ数日はあまり冷え込まない深夜。
外で少しばかり身体を動かした後、ふと上を見ると、学校の校舎の斜め上を、流れ星の走るのが一瞬見えた。
所々、雲は出ているが、それでも、無数の星が輝いていた。
そうして、ときおり吹く風が、雲を吹き流していく。(12/14)

夕方、郵便局に行く。
── 「おい、怒らしたら、あかんやないか」。
── 郵便局へ行った後、多少いさかいのあった友人の家へ。(12/14)

深夜、静かな、冷えた部屋の中に、時計の音ばかりが響いている。
── 日々の流れの中、無数の小さな事件。
人々の表情の示す幽閉、── 家々の境界。禁忌の数々。
そうだ、数えきれないほどの禁忌が僕を育てた。
僕にはやはり、僕の義務があった。── 歩いていくことなのだ。背後に、柵の拡大するのを知りながら。(2/9)





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久しぶりに降った雪ももうすっかり融け、路面にはスリップ防止のためにまかれた砂ばかりが残っている。(1/22)

黒い波打ち際。打ち上げられた廃船は、もう彼方に遠のいた海の呼び声に黙し、朽ち果てる。
波は彼方に、── 語りきれずに残った言葉。(12/18)

中国の古くからの知恵。
気の集中する個所は、頭の中と、胸の中と、腰の中の三か所とされている。そうして、この三か所は、ほかの箇所に代わることはできない。(12/8)

深夜。── 地平線の彼方、いまはせき止められた大運河。
夜の闇の底、大気を呼吸する中、鼓動は。
── 少年期か。あの秋の日の午後、遠くにたなびく焚火の煙。
あの秋の日の午後、決定的に僕に欠けていたものは何だったか。(12/9)

ヒッチコック。── 見えない個所すべてに対する恐怖。
── つまりは、未知への接し方。(1/29)

雪。空間のメロディ。(1/31)

夜の闇を縫って、虫の音 ── 音のさざなみ。
── 風に脅かされることはあっても。(9/1)

熱の引いて行った後の冷気と、そうして遠くからのかすかな音。
夜の香。
僕が僕の耳鳴りに気が付くのはこんな時だ。
夜の彼方の地平には、優しい花の一輪 ── 水晶の花。
先程までの熱と音律とは、もう自分の場所に戻り、少しばかり首をかしげている。
夜。── ああ、彼方、水晶の花。触れることの一度もなかった花。(12/6)

かつては親しかった海。いつの間にか、海に面した窓は閉ざされていた。
再び窓が開かれれば、海の香は、海の音は、── あの時のままにあるのか。(11/25)

浅い一瞬の眠りから目が覚めると、僕はその間にも夢を見ていたことに気付く。
── いつしか僕の前に立った言葉は、僕を僕の側に追放する。(1/22)

バッハ。── 解放された音律。彼はいつでも人間を描く。── 絶え間のない懺悔として、一切を完結させつつ。(1/30)

「失恋小話」。
立ち止まった彼から彼は離脱し、妖精を追う。
妖精は微笑みながら逃げ、街の奥の袋小路で姿を消し ── 彼から離脱した彼は、壁を前に立ち尽くす。(11/25)

ベートーヴェンの室内楽に感じるのは、少しばかりこの世界から遠ざかった所からこの世界を見つめている視線だ。
── 少しばかりの安らぎ。(12/17)





"MIDNIGHT BLUE" - CARAVELLI and His Grand Orchestra
 - L.v.BEETHOVEN - "Pathétique" - [Vinyl record]





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一本目のマッチは折れてしまった。二本目のマッチで火をつけた彼は、その煙草の火で、一本目の折れたマッチに火をつける。
勢いよく燃え上がるマッチは、たばこの吸い殻や灰の中で、すぐに消えてゆく。(9/30)

ヘミングウェイ。「二心ある大河」。
彼はあの作品の中で、意識の流れを少しも描いていない。出来事だけを並べているのだ。
意識の流れがあるであろうことは、予感されるにすぎない。しかし、読者の心象の中に、ひとつの映像を定着させる。
── 最初の、焼け跡の描写。「読者次第」なのだ。(9/19)

外から密林を眺めただけでは密林は理解できず、密林の中にいる者はその密林全体を把握できない。
中を通り抜け、外から巨大な密林を把握することなのだ。── 宝石のありかすら理解したうえで。(9/27)

昼間から降り出しそうだったが、この時間になって、ようやく降り始めた。
── いやになるくらい静かな雨の音だ。(10/10)

悪魔。「私は幻想にすぎないさ。しかしきみは私を信じている。だからこうして私はあらわれた。さあ、私になんでも頼むがよい」。
また。「きみには私の饒舌が耐えられないだろうか?だが私はいつだってきみに語りかけているんだ。私はきみの身内なのだから」。
また。「きみの友達の誰かは、私を神と呼ぶ。それは正しい。さあ、私を信じよ!」。(9/19)

幸福な夢を見て彼は目覚め、── そうして彼は、また眠りにつく。(10/16)

夢。ドーベルマン種の犬が数頭、それに子供たち。
彼らは行方不明になっていたのだが、いきなり帰ってきた。
窓から、灰と火の粉だらけになって帰ってきたのだ。行方不明になってから、彼らは灰と火の粉の中で暮らしていた。
やっと窓を発見して、帰ってくることができたのだ。

僕らもその窓から外に出てみた。灰と火の粉はもうなかった。
緑色の雪。それに埋まりながら、僕らは追ってくる怪物から逃げなければならなかった。
だが、照明弾一発で、その怪物は消えてなくなった。僕らは窓から帰ってきた。
「教室」には、いつも通りの静けさがあった。(10/17)

「なあんだ、さっき通ったところのすぐそばにあったじゃないか」。
「ああ、探してすぐの所だったな」。
「それから一時間ぐらい、回ったんだぞ」。
「一時間、損したなあ。うどん食ったけど」。(11/3)

また暴力の登場する夢を見た。見た理由はわかっている。
この分岐点を通り過ぎて行かねばならない。(10/30)





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冬の日の休日。
思考においての無意識の歩行は失われ、確認し続ける中での歩行。
だが確認が、僕の可能性を押さえ込み続けるものでしかないのなら、一切の拡大は停止するのか。
言葉はこの身を確かめ続ける。── それが「最後」の信仰となるなら、その信仰は破滅していく。(1/20)

この世界と僕とを引き離す妖精のざわめき。(12/21)

巨大文明。── 「歴史」の中に、今もその残骸を残す無数の建築群。
もはや誰もそこに帰らないのか。それらの建築を作り上げた力は、その完成の次にやってきた「幸福」により分解し、結局それらの建築群を待つものは崩壊だけだったのか、── 振り返れば、そこにある鏡に映る轍。(1/25)

夜の都市。建築群の彼方に浮かぶ銀の月は、ふとそこを見る僕の目に。
── あの日々の、暴力と炎への信仰は、疲労に追われ、追われ続け、その果てに僕が見いだしたものは何なのか。(1/23)


故郷の浜辺に突き立てられた剣。
もはやさび付いた剣を引き抜き、僕に見せてくれた者は誰だったのか。
少しの輝きもないそれは、潮風の中に沈黙していた。
彼はふたたびそれを浜辺に突き立てた。
それは波に洗われ、朽ち落ちるその時まで剣であり続けるのか。(10/28)

新たな出発は、── もはや何の味覚も持ちはしない運動は、僕が何かに食い気を起こしたその時、方角を見失い、停止するのだろう。(10/24)

クラシック音楽喫茶。リクエストも可能だ。
壁に飾られたヨーロッパの街頭の絵が、なんとなく不思議だった。
建築群の中でのさまざまな思い。── それが喚起するものは嫌悪なのか、渇望なのか。
バッハのインヴェンションをリクエストしたのだが、かかったのはグールド盤だった。おかげで頭の中は ──。(1/22)

冬の香はふたたび戻ってくる。告別に終止符が打たれることはない。
── トスカニーニの命日。(1/16)
※補記 Toscanini "JUPITER" W.A.Mozart

休日。置き去りにしていた自転車はかなりさび付き、ガタが来ていた。
部屋で僕は地図を見ていた。いまは忘れていた様々な場所。
あの日々と同じ熱は、あの日々と同じ熱の中に。
── 僕の周囲に座る、黒い服を着た厳粛な表情の人々。(1/27)

冬の夜、二十分ばかり歩いた。
数知れぬ家々の窓、窓、・・・。明るくそれらは、カーテンの様々な色彩が内からの光に浮かび上がり、── 僕はそんなとき、家族のことを思い出す。
── 僕はどこにも帰れないのかもしれない・・・。(1/24)




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黄や紅に染った木々。冬晴の空の下で、そんな木々の姿が呼び起こすものは何なのだろう?(12/14)

シムチェンコの「極北の人たち」。
極北においては、生存は常に死と隣り合わせだ。人は皆、生存のためにだけ働き、戦う。
老人がこんなことを話す。「男は外に出る。皆、働きに行く。生活をまとめるのは女だ。彼女らは自分たちの場所を守るのに、必要ないっさいをやる。女がなまけ者だと、結局男も着るものもなくなり、飢えることになる」。
──
それに対し、シムチェンコはこんなことを書いていた。
「老人は正しかった。しかし私たちの住む都会では、衣食は必ずしも主要なものではない」。(10/20)

ある少女。「クラスの子たちがなんとなく騒いでいて、それであんまりおもしろくなくて、・・・そんなものだったわ」。(10/19)

小林秀雄がランボーの文体を評して。
「苛立たしい程、ど強く、硬く、光り輝く彩色・・・これを貫く彼の柔軟、重厚なまた切ないまでに透明な息吹き」。
同じくクロオデル。
「繊維のくまぐままでも、明晰な音の浸透した、乾燥した、柔軟な・・」。(10/19)


甘美なるもの。
「静かな夜です。虫の音が少し聞こえるだけで。昨夜もそうでした。おとといも。そうしてたぶん、明日の夜も、あさっても」。
── 甘美なるもの。しかし、なにが。(10/20)

誤字。「車」が「軍」になっていた。誤字、それがジョークをもたらす。
だが次の車が、また「軍」になっていた。ふたつ続けて同じ誤字だ。
ジョークじゃなくて、本気なのかよ?(10/19)

三島由紀夫は「不道徳教育講座」の中で、「私は組織と個人という、古臭いテーマに興味はない」というようなことを言っていた。
武山中尉は、勅命のおりる前に割腹自殺をした。(10/20)

死骸が釘付けにされた幽霊船の話を、かつて僕は読んだことがあった。
死骸は皆海賊だった。呪いをかけられて、死骸は安らぐことなく海をさすらう。
そうして、ふとしたことから「他者」によって救われ、海賊の死骸は感謝しながら土に戻っていく。
── なんと驚くべき作品を、僕は単なる怪奇物語として読んでいたのだろう。
(9/28)

情熱。それは生命の最高の高まりに自分自身を託すことだ。
── 思えば、貧者の快。だが、それすら得られぬ状態の残酷さ。(9/17)



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