少年時代。その日は台風だった。僕は窓の中から外を見ていた。
雨は激しく降り、風も強かった。大型の台風だった。
「大嵐なの?」僕は母に聞いた。母はそうだと言った。
僕は、目の前のその光景よりも、さらに激しい嵐というものはもうほとんどないのかと思い、── ある種の物足りなさを感じていた。(2/1)
閉鎖した生活の中で、ある程度、なにかを掴んでいくことはできるだろう。
しかしそれでいて、何もわかりはしないのだ。(1/27)
ロートレックにおける、気性の激しさと、やり場のない怨念めいたもの。
怨念めいたもの?── それは、自分には何の責任もないはずの、自分に降りかかってくる暗い運命への怨念なのか?
ランボーより十年ほど前に生まれたこのフランス人の画家は、ランボーより長く生きたが、ついに発狂した。(1/26)
些末なアクセサリーが、僕を長いこと、盲目にしていた。
── 僕個人にとっての、ささやかな美が。(1/30)
彼女。
わかってるんだ、あの場所がどういう場所なのか。
関係ないのよ。どういう事だかわかる?関係ないって事が。
関係ないものは、あたしには、みな嘘なの。
嘘を嘘だと思わずに、大事にし過ぎたわ。あたしのすべてがあるように思っていたわ。でも、関係ないの。消えてしまえばいいの。
──
あなたが言うことはわかるわ。
嘘は私の中だけにあったんだって言うんでしょう?そうして、あれはちゃんと存在するもので、嘘ではないって言うんでしょう?
──
でもだめ。存在するなら、あたしはあれを大事にしてしまうもの。
あたしにとってはあれも嘘。そうでなければどうしようもないの。
あたしの中に嘘はないわ。あれだけが嘘なのよ。消えてしまえばいいわ。(1/29)
ふと目をやる空間の所々に、光のきらめくのが見える。
── 小悪魔どもの嘲笑。(2/1)
樋口幸吉:「犯罪の心理」から。「S41,1 巣鴨バーホステス殺人事件」
犯人だった少女。彼女には責任がないはずの、「彼女に与えられた環境」。
いくら居場所を変えても、結局どこも同じだ。まるで幸福にはなれない。
だが彼女は幸福を求め続けている。
── 同じ状態の中にしかいられないにもかかわらず。(1/29)
雨は激しく降り、風も強かった。大型の台風だった。
「大嵐なの?」僕は母に聞いた。母はそうだと言った。
僕は、目の前のその光景よりも、さらに激しい嵐というものはもうほとんどないのかと思い、── ある種の物足りなさを感じていた。(2/1)
閉鎖した生活の中で、ある程度、なにかを掴んでいくことはできるだろう。
しかしそれでいて、何もわかりはしないのだ。(1/27)
ロートレックにおける、気性の激しさと、やり場のない怨念めいたもの。
怨念めいたもの?── それは、自分には何の責任もないはずの、自分に降りかかってくる暗い運命への怨念なのか?
ランボーより十年ほど前に生まれたこのフランス人の画家は、ランボーより長く生きたが、ついに発狂した。(1/26)
些末なアクセサリーが、僕を長いこと、盲目にしていた。
── 僕個人にとっての、ささやかな美が。(1/30)
彼女。
わかってるんだ、あの場所がどういう場所なのか。
関係ないのよ。どういう事だかわかる?関係ないって事が。
関係ないものは、あたしには、みな嘘なの。
嘘を嘘だと思わずに、大事にし過ぎたわ。あたしのすべてがあるように思っていたわ。でも、関係ないの。消えてしまえばいいの。
──
あなたが言うことはわかるわ。
嘘は私の中だけにあったんだって言うんでしょう?そうして、あれはちゃんと存在するもので、嘘ではないって言うんでしょう?
──
でもだめ。存在するなら、あたしはあれを大事にしてしまうもの。
あたしにとってはあれも嘘。そうでなければどうしようもないの。
あたしの中に嘘はないわ。あれだけが嘘なのよ。消えてしまえばいいわ。(1/29)
ふと目をやる空間の所々に、光のきらめくのが見える。
── 小悪魔どもの嘲笑。(2/1)
樋口幸吉:「犯罪の心理」から。「S41,1 巣鴨バーホステス殺人事件」
犯人だった少女。彼女には責任がないはずの、「彼女に与えられた環境」。
いくら居場所を変えても、結局どこも同じだ。まるで幸福にはなれない。
だが彼女は幸福を求め続けている。
── 同じ状態の中にしかいられないにもかかわらず。(1/29)
