二~三日前の、浅い眠りの中の夢。何なのだろう、あの、淡い朱に染まった空の下にひろがる街は。
無数の家々。ところどころには木々。そうして遠くには工場群が・・・。(8/11)

絵画。光り輝く中の風景。風景は皆、風の中に身を任せている。
── 透明な風の中の、声のない恐怖。(8/179

ランボー。「人は精神を通して神に至る。思えば身を引き裂かれるような不幸」。
マラルメ。「書は読まれたり。肉は悲し」。(8/10)

車中。長雨の後の、増水の跡のある川。
川べりの野草はなぎ倒され、むきだしになった土には、水流にえぐられた跡がはっきりとついている。
── それを見つめながら歩いている男の姿が見える。(8/22)

武満徹。三面の琵琶のための「旅」。
真空の世界の、神経のおののき。真っ黒な空間の中に、異様なほどに鋭く光る水銀燈のように。(10/13)

「~は~である。もっとも、~は~であるが」。
僕はこのような文章をよく書く。「もっとも」が付き始めて、どんどん増えていくこともある。
そんな場合には、はじめからなにも書かない方がいいのだ。(8/19)

車中、中年の男のギャンブルの話。
「当たればいいんだよな」。
「おれ、昨日のは、始め3-4だと思ってたんだ。だけど3-1にして失敗しちまったんよなあ」。
「ともかく、当りさえすればな」。(8/12)

盆も終わったらしい。雨に濡れた墓地にはまだ色鮮やかに花々が。
── まだまだ僕は、自分の鮮血を見るのだろう・・・。(8/19)

山の方にある鉱山。劇場。長い間、使われこともない木造の巨大な建物。
人のいないアパート群。鉱山の街の最後の姿だ。暗い窓、窓。
草の生い茂った階段。上の方にも家がある。木々の彼方にかすかにそれが見える。
山間にできた街。だから家々の配置は平地のそれとはやや異なる。
斜面に沿って並ぶ家々。奥の方まで暗い窓。廃校となった中学校。(8/22)

魯迅の「野草」に、二十六歳で死んだ詩人、ペトフィ・サンドルのことが書かれていた。彼の詩をまとめて読んでみたい。(10/6)

早朝の通りでのメルヒェン。
どこかに根を下ろしたいタンポポのわたぼうしは、ふわふわと、青い屋根の建物を眺めながら通り過ぎる。建物は静かに眠っている。
わたぼうしは、アスファルトの路面につまづきながら風に流されていく。(8/19)



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ゆるやかな登り坂。正面には落陽の黄金色の光。
── 羽虫の、白く淡い飛翔の、その姿。(5/27)

正午。血とリズムと熱との運動。それとともに走る言語と。
それらが重なるとき、そこに歓喜はあらわれ、── 夫婦者は渦巻く水の上を。
(5/30)

夕暮れ時、祭りの響き。クレーン ── 中空に月。(6/2)

金関寿夫:「アメリカインディアンの詩」から。
── ミデの歌。
あれは流れの音か、おや、我が家の方にやってくる。
夢の歌 : 空が、おれのゆくところへ、ついてくる。
春の歌 : 大平原を見わたすと、春のさなかに夏を感じる。
夢の歌 : 立ち止まるたびに聞こえる村のざわめき。
春がくる : 白い草から、かぐわしい匂いがやってくる。
       踊りにつかう白い草から。(5/28)

昼間の風景の、果てのない輝きとざわめき、── 夜のそれの沈黙。
── 立ち去ったものはなんなのか。
「立ち止まるたびに、街のざわめきは聞こえる」のだが。(5/28)

アメリカインディアン風の歌。
獲物が走っていく。おれの手から槍は飛んでいく。
そのときなのだ、おれが世界のすべてを知るのは。
これに重ねて、沖田総司の言葉。
「腕で斬るんじゃない!身体で斬るんだ!」(6/4)

一段落、ついた。
夜。夏の、もう淡くなった熱と風と。家々。そうして闇。
── 夏の夜、眠りにつく未知。(6/11)

初夏の墓地。
── 熱の中の沈黙。倒れていった人々の残したものは何だったのか。
もはや動くこともない影を守る墓標、その連なり。
もはや動くこともない影は、墓標のその形も知らず、地に目を閉じる。(6/3)

フィリップ。「マッチ」。「問題の中心は、まったく、鍵であった!」
── 口実は、人間を救いはしない。(6/3)

罠。地下室に放り込まれた剣は、さび付いていく。
「幸福信仰」によって。
── 悲惨の地平に燃え上がる炎は、あらたな地平を示しはするが、
── 微笑する両の手の内にある世界に、地平を指すあらたな暴力は目を閉じる。(5/31)



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郊外。木々の茂る中、古びた木造の農家では牛を飼っている。
少しも連続部分のない、アスファルトの道路。
家々を、木々を、農地を通り過ぎるその道路は、曲がり、二つに分かれ、別の道路と交差し、彼方まで連なっている。
──
背の高いトウモロコシ畑に沿った坂道を登りきると、こんどは下りだ。
ところどころには、家々の屋根と煙。── さらに先の方には、高い煙突が見える。(7/22)

風。太陽の下に、土で築き上げられた家々や橋は、再び土の中に溶け込んでいくかのようだ。
水音のする中、夕暮れ時は近い。人々は皆、元の場所に返ってゆく。
夕暮れ時の香は路上に淡く流れ出し、鳥たちの呼び声は、遠くにかすかに響き、── 熱は立ち去ってゆく。(7/20)

廃船。橋が朽ち果てて落ちてしまったなら、そこにしゃがみこんで目を閉じるのも生き方だ。
── 疲れ果ててしまった人々は、砂の中にゆっくりと倒れてゆく。(7/20)

午後。汚れた窓の向こう側に空が見える。木々は風があることを教えている。
どこかから不思議な音が聞こえてくる。
── すべて、僕たちが出迎えるものはある。(7/17)

いっぱいに開かれた窓ガラスの外を流れてゆく風景。
熱した車内に、風は吹きこんでくる。数々の疲労も悲惨も、後ろへ後ろへと流されていく。(7/20)

小さな川に沿った家々や緑の茂み。
空白は存在せず、川沿いには生が、生活が、密集している。窓、窓、窓、・・・。
密集する生の間を流れる川。
夏の日、川は濁り、ぬるみ、光を反射させて流れていく。
── 密集する生活の間を貫く、ひとすじの無表情の輝き。(7/17)

欲望は笑い転げながら、挙げ句の果てには陽気さまで破壊する。(7/17)

数知れない阿修羅たちこそが、あの豹を理解するだろう。
── あの、雪に覆われた凍てつく山の頂に凍結していた豹を。(7/15)

夢。僕は、緩やかな山の斜面を切り開いた新しい街の中を、友人と歩いていた。
「なんだろうな、この家は」。
「よくあるんだよ、作りっぱなしで、人が住んでいない家は」。
僕は帰る途中だった。帰る?── その街は初めて見る街だった。
──
土の色が異様に鮮明なその街は、まだまだ未開発だった。
一軒ある店のすぐ近くには断崖がせまっていて、断崖の底には清流の輝きがかすかに見えていた。(7/14)

裏通り。小さな家々がごみごみと建ち並ぶその通り。
空間という空間に、人の生活の香が満ちている。陽に焼けた子供たちは、どの家も知っている。
それらがそこにあることを知っている。── 余計な意味付けなどせずに。(7/16)



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夕照。電車の窓の彼方、ビル群の広がり。── それらに明かりはともされ始め、はるかにひろがる赤い空。
── 最初の兵士たちが見た森林の、そのざわめきは止むこともなく、夕照を背に、ビル群のその姿を、確かに一つの鼓動は貫いている。(4/28)

自らの足元に気が付き、鉄条網の彼方の空を見つめる人々は、いまはとぎれとぎれの挽歌を口ずさみ、そうして目を閉じてゆく。(3/24)

彼方の夕日の赤の中、巨大なクレーンの静止。(5/10)

雷鳴と閃光との中に滝は白く浮かび上がり、生命体の当初の無垢は帰ってくる。
天を指す木々の響き。── こうして、死も死滅する。(4/15)

モローの描いたサロメ。
赤と黒との拮抗。── 都市は燃え上がる。走る炎は従順な神殿を焼き払い、走り続ける。
サロメの血は人々の表情を染めてゆく。──「まぼろし」か。(5/11)


焼け野原の彼方の地平線を見れば、── アルテルエゴの姿は、太陽の中へと消えてゆく。(4/11)

ゆるやかな下り坂。それに沿って下の方、線路の銀の流れ。
はるかまで広がる、ネオンのともり始めたビル群。
── 波打ち際に熱は洗われ、沈黙の光の底へと沈んでいく人の姿。(4/13)

子どもたちは笑いながら、白く砕ける波から逃げる。
── 都市。窓の外、ネオンにふちどられた黒いビル群は、後ろへ、後ろへと通り過ぎてゆく。(5/3)

しだいに満ちてくる熱と、かすかな湿気との夜。
未知のカーテンを通して、不思議な植物の香は漂ってくる。
── 壁の中での自由。(5/11)

人々の行きかう、地下鉄の連絡路。白っぽい壁に連なるポスター。
照明。── 地下道に音律は刻まれてゆく。
── 「対岸」からのスケッチは終わりにすることだ。(5/12)

異様に膨れ上がった太陽が、ビル群の彼方に。
明るいはずの、彼方の世界へと延びるガラスの橋に ── 影を引きずり、さすらう旅人の姿。(3/28)

アンドレ・マルシャル。
いつの夏の日の、朝の音律だったろう。
早朝。── 雀たちや、木々のざわめきは光とともに、次第に街頭に満ち始め、その時間帯。
── まだ見ぬ場所への思い。
遠い世界にある城壁。それがまだ形すら定まらぬ早朝の音律だった。(6/15)



J.S.BACH "Pastorale" BWV590 - André Marchal - [Vinyl record]

 

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春の雪。それはほんのわずかの陽光で溶けてしまう。
彼方に傾く太陽。谷にはもやがかかっている。鳥の声。
── 昼に降った雪は、夕方にはすっかり消えてしまった。(3/23)

僕の祖父が死んだのは、彼が仕事を辞めた次の年だった。(3/20)

梶井基次郎。沈澱物の上にできる、極度に鋭敏で透明な世界。
── 意識して保つ必要のない「秩序」「調和」。(3/5)

僕たちは河口付近で小さな漁船を見つけた。それは廃船だった。
その船の両側には、いくつかのプリズムがはめこまれていた。そのうちのひとつは、ふちが砕けており、容易に取り外せそうだった。
──
僕たちはそれをどうにか取り外そうとした。一人がそのふちに小さな棒を差し込んで、そのプリズムを動かそうとした。
「痛!」。友人は手をプリズムから離し、その手をかざした。
血が流れていた。深く切ったらしく、血はなかなか止まらなかった。
──
プリズムはようやく外れた。僕たちは血にまみれたそのプリズムを川の水で洗うと、次にそれを観察し始めた。
プリズムの中には気泡がいくつもあり、プリズムを使って周囲を眺めても、ぼんやりと歪んでしか、ものが見えなかった。
── 海からは強い風が吹いていた。浜辺には朽ちた棒杭が連なっていた。
(3/14)

川向こうの大きな森の中は古い墓地だ。
── 郊外。冬枯れの広野。木々は風の中だ。(3/8)

今日は一日中、雨が降っていた。街に出るとき渡った陸橋は、もう長いこと歩いたことがなかった。
所々にたまった水を避けながら、僕はその陸橋を渡った。
その先の川の両岸はまだ工事中だった。しかし雨の降っているその工事現場に、人はいなかった。
── 雨が上がったのは、夜遅くになってからだった。(3/10)

僕は食堂を出た。アスファルトの路面にばらまかれた、無数のガラス片の輝き。
── 寒くて、なにもない夜。(3/5)

窓から見た風景。淡いもやにおおわれた家々の屋根。
太陽はどこにあるのだろう?
──だが探す必要はない。遠くの家々の屋根は、どこかからもれてくる陽光をいっぱいに受けている。(2/27)

使われていない高圧変電所が、遠くで雨に打たれている。(3/1)

僕が死ねば、僕の肉体は分解して、何らかのものになるだろう。それは連綿として続いていく。
死などどこにもないのだ。
── 僕は作り物を本気で信用できなかった。僕の心は、生まれつき色が見えないのかもしれない。(2/28)




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車中で僕は小さな子供と向かい合わせになった。疲れていた耳に、規則的な線路の音はここちよかった。
その子供は窓の外に興味を持ったらしく、いつまでも窓に顔をくっつけていた。
僕はその子をぼんやりと見ていた。
ふと、その子の顔が明るく輝いたように見えたので、外を見ると、── 菜の花畑が広がっていた。(8/ )

ニーチェ。「読書するとは、絶えず別の自我に耳を貸すということだ」(2/3)

おや、この音は雨の音かい。
そうだよ、雨だよ。
でも何も降っていないじゃないか。
── 湿った土は暖を帯びて、その上を蟻たちはひっきりなしに歩き回っていた。
── 竜安寺を見たのは、三年前だったか。(8/ )

奴隷は束縛だらけだ。
束縛をわざわざ見つけ出し、それの破壊に自慰を見い出す。── 挙句の果てには物質まで束縛されてしまう。(2/6)

オスカー・ワイルドが幸福の王子の作者だったとは!(2/3)

信号を待っている時、ふと一緒に待っている、僕の知らない人と目が合う。
その人も、風の中に髪をおさえながら立っている。
──
信号の青と同時に、僕らのそのような状態はなくなる。
街はすっかり暗く、商店の照明が通りを照らしている。
たくさんの人々の間を僕は歩いていく。冷たい風は通りを吹き抜けている。(2/6)

スフィンクス── 謎。
なぜそれが墓守りになっているのだろう。── スフィンクスは笑っている。(2/2)

時折、おととしの秋の日のことを思い出す。
青い空の下には冷たい風ばかりが似合っていた。光の中に、砂利のでこぼこ道はずっと続いていた。
遠くには、青っぽいなだらかな山々がよこたわっていた。
僕はポケットに手を突っ込んで歩いていた。口笛を吹いてみる。遠くから何かが聞こえてくる。
── 過去は、打ち上げられた残骸のように頭の中に浮かんでくる。(8/ )

おそるべき「デグラダション」の技術。
おそるべきは、それが「可能である」ということだ。(2/8)

中村稔。「年齢を重ねただけ、昔は見えなかった事象も見えてきているし、年齢を重ねたものだけが知る感情も造形しえたではないか」。
年齢を重ねたものだけが?何が年齢なのか?たかだか年齢で?(2/6)

泊まりに来ていた母が、今日帰った。こんな息子を持って父も母も、また祖母も・・・・。(2/6)



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長い間、誰も足を踏み入れたことのない材木置き場。
もう崩れそうな廃屋の周囲には野草が生え始めている。置き去られた道具類はただ朽ち果てるのを待つばかりだ。
── 夕暮れ時のまだ青い空に、うろこ雲ははるかにひろがっていた。
出発だ。(8/27)

足ることを知り ── 幸福に喰い潰されてゆく。(8/31)

夕暮れ時に、風呂屋の煙突の、── 夕暮れ空は遠い。
家々の屋根は暗く、── 夕暮れ空は遠い。
遠き旅人よ。雲よ、語れよ、遠く去りゆく人々を。きよめられし風よ、吹き抜けよ。
(8/31)

原口統三は、彼の評価したランボーによって否定される。(8/31)

カミュがランボーについてこう言っていた。
地獄の季節は確かにすばらしい。しかしなぜ、それでやめたのか。
芸術は人間の持つもっとも崇高なものを、より純化し高めていく。後になるほどさらに昇華された作品が出来上がるのだ。(8/31)

夕方のこと。夏の日暮れ。西の空はややかすんだ紅に染っていた。
太陽ははるかな世界に燃えていた。
すべては遠く ── 僕は静かな世界からそれを眺めていた。(8/21)

ニーチェ。「われ、運命を愛す」
彼は運命を「付随」させる。彼の神は死んではいないのだ。(8/24)

思考について。
考えるだけということ。これは僕にとって、雨水が地上をまるで気まぐれに、低い所へ漠然と流れるというようなものだ。
書くということ。これは川だ。(8/7)

時は青みを帯びている。頭の重い朝だ。
陽がさしてきた。植物はそれにこたえている。── 僕も起きよう。(8/7)

今年の初詣のこと。
崖の上から見た海は、薄明の中に鉛色をしてうごめいていた。海の面には幾筋ものうねりが生じては、狭い砂浜に向かい、白く砕けて消えて行った。
水平線上にはやや赤みがひろがっていたが、夜明けにはまだ時間があった。
──
海の音は崖の上にまで聞こえていたが、耳では聞く事のできぬ重低音も確実に響いていた。
水平線上にはやや赤みがひろがっていたが、夜明けにはまだ時間があった。
── アニミズムの神は、僕たちに何も救いを与えはしない。(8/31)

老舎。「沙子龍」、槍の達人で、優れた技を持つ。「私は誰にも伝えんぞ」。
老舎は文化大革命で自殺した。(8/8)




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知らない街を、たった一つの目やすを頼りに歩くときの気分。
まったくその街を知らない不安と、それでも目やすがあるという安心感と。
── 何かが自分を支えているという考えの無効と、失ってしまう行き場と。
── 奈落はどこにでもあるのだろう。(4/28)

ほんのわずかの楽しい時間を終えて外に出ると、外は雨だった。(3/22)

墓地の花々。自己の存在証明のための戦いの果てにある悲鳴など、そこでは少しも聞こえない。
── 静かな、今は暖かな土の下に眠る人々に捧げられた花々が、そこにある。(3/30)

夢。夜の浜辺。
僕たちを包んでいたあの青っぽい光は何だったのだろう?
砂浜にいた僕たちの所へ、強い波がひとつやってきた。おかげで僕たちは膝まで海の水につかってしまった。
そうして、次の波がやってきた。僕たちはそのなま暖かな浜辺から立ち去った。
── 自分でもよくわかっていたはずの「追放」。(3/22)

自己の精神を向上させるための努力?── 自己破壊的な一面を持たぬ者に、変化などあるだろうか。(3/27)

北国の、いつ晴れるともしれない重たい、曇り空の下の凍り付く運河。
葉のすっかり落ちた、幹のふとい、茶と灰色の入り混じった色の木の下で、一人の男が釣り糸を垂れている。
── ヤン・ファン・デ・カペル。(4/4)

食堂で、五十年前の気仙沼のフィルムを放送しているテレビを見た。(4/1)

彼は筆記用具を、自分の引き出しの中に探し回る。するともう十年近くも前につかっていた鉛筆が出てくる。
当時、鉛筆をかむ癖があった彼は、その鉛筆についている歯形に、一瞬、ぼんやりと目をやる。(3/20)

物質の世界の中に、なぜ、知が登場したのだろうか?(4/4)

哲学上の一命題が、数学の中に比喩的に表現されていることがある。
「Kはどんな体でもよいが、抽象的な”体”に不慣れな読者にも、云々」。
存在と方向と、運動と、── そうして写像か。(4/4)

音楽の裾で僕は、身動きの取れない靄の中に包まれてゆく。(4/5)

ビルの歪んだガラスに、別のビル群が、空が、うつっている。
昼間の乾いた雑踏。
歪んだガラスにうつるビル群や空の中に、無数の鳩の飛翔が見える。
── その軌跡も歪んでいる。(3/20)

小さな商店が建ち並ぶ真っすぐな道。今日もよく晴れていた。
彼方には白い雲と間違えてしまいそうな山並みが、かすかに見える。(3/14)




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僕がよく行ったあの河原は今でも変わらないのだろう。
堰によどんだ水は水位が上がり、やがてそこを乗り越え、白く輝き、響き、野性の香と光とに重なっていく。(10/23)

記憶に染められた風景の語ること。
その「静止」。── 雨と時間とに打たれ続ける建築。(10/26)

ふと振り返れば、一番彼方に見える墓標に、彼の名前も刻まれている。
それが一番悲惨な死だった。
その手前に連なる、さまざまな姿をした墓標群はもはや──何の死も意味してはいない。── 幻想の死滅の連なり。(10/27)

夜。高いガードの下の交差点。そうして家々。(11/8)

雨──幽雨。
黙す人々の姿に、路面に、家々に。── つまり、おなじ影の上に、雨は。
静止した家々はどこにあるのか、走る子どもたちはどこにいるのか。
僕たちは、僕たちが確かめたものとともに、どこまでも歩いてゆく。(11/21)

晩年の青木繁。衰弱していく肉体の中、洗い流されて行ったものは何か。
── 最後には、支えていなければならなかったものがなんなのか、明らかになる。(10/28)

事件を前にして、安心できる居場所でそれを語ることは不可能だ。(11/7)

波は崩壊へと向かいながら、さらにかがやき続ける。
僕は同じ人々を何人も知っている。「いまはお別れです。しかしすぐにまた会えるでしょう」。
再び人は、新たな兵士として戻ってくるだろう。(10/28)

風景の手前、黒い影を持つ、知らぬ人の表情。(10/31)

「淀み」と「待機」と。
── 流れの中、軽い木の葉は葦に妨害され、繰り返し立ち止まる。
かと思えば、いつも身構える小さな虫は、葦原に集まり飛び跳ねる。
── 地下鉄の窓の外を走る黒い壁の、光。(10/29)

この世界、微妙な事件があるいは怪物を生み出し、進化というもの。
── どこに向かうのだろう、僕たちは、僕たちの「姿勢」は。(10/30)

夜の彼方に東洋の城が見える。矢は季節の中を飛んでゆく。
風に追われて小さな生き物たちは、洞の奥へと逃れ去り、洞の奥に神殿を求め、求め続け、やがて行き止まる。(10/30)

夜道。なにも見ずに歩く事を覚えたのはいつだったろう。
しかし僕は──どれほどのものを確かめたというのだろう。(11/11)



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聖者は夜しか与えず、サロメは灼熱する正午しか与えない。
── そのいずれもが、舞台の上、鏡に映るものでしかないとは。── 刑罰の、波のうねり。(5/22)

古代ギリシャ人。「心臓は血に熱を与え、頭は血を冷やす」。(4/4)

岩に波は、白く輝きながら粉々に砕けてゆく。
雲は走り、── 数知れない船、その旗。
新たに加えられる運動が、次の新たな場面を明らかにする。(5/6)

森田かづや: 己が影に 怖れ崖飛ぶ羽抜鳥。
── 闇の中に一瞬光る、細い糸。(5/22)

リズムの共有。リズムが皆の表情をつらぬき、鏡の中の「救いを求める自己」の姿はそこで消え失せる。(4/5)

「最初から」、あの動輪の響きとともにあれば、なにもかもは確かだった。(4/8)


おとなしい信者たちの前、神殿、──貪欲な神々。
鎖をかみ砕けば朝だ。荒野にも、荒々しい山々にも。
夜中、長城の中で、女たちの影の中に昏睡し、やつれはてていた兵士たちは目を覚ます。
鎖をかみ砕けば朝だ。極地の木々にも、崩れ落ちた氷山の、その荒れた氷塊にも。(5/15)

ヘルムート・ヴァルヒャ。彼の演奏が含む闇。
世界の手前を横切る、黒い遮蔽物。それと、生命体の吹き上げる炎との拮抗。(4/28)

昼間は曇りだったが、夜には雨になった。
熱に眠りを奪われている子どもたち。見ている夢は、どんな妖精たちとの遊戯なのか。(4/21)

ゆるやかな登り坂。正面には落陽の黄金色。
羽虫の、白く淡い飛翔の、その姿。
── 影は消えてゆく。光が立ち去れば、時間の流れも停止し・・・。(5/27)

夜の雨。外灯の光の中に、無数の白い線が走る。雨の音の広がり。
その光と香と音で語り掛け、── この身の熱はそれに何と答えるのか。(4/26)

水沢龍星: 路標に向け 子が石投げてゐる晩夏。(5/18)

リズムのうねり、そのはるかな広がりの中に、あらゆる建築。
── あの庭、噴水と花々、木々、そうして若く美しい不思議な人々の笑い。
── 朽ち落ち、骨格ばかりが残り、照明に彩られるビル群。かすかに光の洩れる、渦を巻く暗雲。(4/29)




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