花火。街の中の数えきれないほどの家々の中の、数えきれないほどの生活。
──悲哀と歓喜との数知れない生活の、はるか上、燃焼の輝きと、その轟音よ。
(8/29)

日ごとに、夜の気温は下がる。川に沿って、夜の家々が建ち並ぶ。
切れた街灯。川沿いの遊歩道に人はなく、落ち葉と、そうして木々の影。
── 川の音は途絶えることもなく。(10/29)

深夜。遠くからは、今夜も石灰岩を運搬する機械の音が響いてくる。(8/20)

雨の中、蒼ざめていく時間帯。自動車の通り過ぎる水しぶきの音。
どこかから、赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
── 彼方まで広がる雨の音。
夕暮れ時。波打ち際には、波に洗われた様々なものが打ち上げられている。
── 雨の中、身体の乾いている鳥たちが、空から帰ってくる。(9/15)

波打ち際に、立ち枯れしかかっていた木々はよみがえる。── 負債なしの歓喜。(9/15)

木の葉は傾く太陽の光に透けて、その緑を一層あざやかにしている。
谷の方からは、ひぐらしの声が響いてくる。── この淡い潮の香は、錯覚だろうか。(7/28)

待合所。座り込み、煙草をくわえる人々。押さえ込まれた時間の連なり。
── 街路樹の連なりの下、通り過ぎる人々。坂の多いその通りには、階段の数々。── 「待ち人来たらず」の落書き。(9/14)

重たく曇り、灰色に染った日々。
閉ざされたガラス窓の外の雨と、その彼方の光と。
木々の向こうにはもはや人の住まない、得体のしれない建築。正確に構築されたその建築物の、歪み。
── ときおり雲は切れ、重たい建築群は光を受け、その影を明確にあらわすのだが、── この日々よ。(9/16)

様々な場面の転換。アルコールの底、形式の失われた混沌の世界。
背負われた軋轢と、寄り合いと。── 夜の中にひろがる、都市の照明群。
── いよいよカルテは複雑に書き込まれていく。(7/26)

サーカス。観客のいない中、続けられるサーカス。足を踏み外した男は沈黙の死の底へと。
── だが誰も見てはいない。
それなら誰を退屈させまいとして、このサーカスは続くのか。
── 沈黙の街頭。新たな人々の、新たな生活。(9/3)

建て込んだ家並みの中に、ひとつの窓が開いている。
── 行ってしまった。梶井も。リパッティも。トラークルも。(9/10)




Dinu Lipatti - F.Shubert "IMPROMPTU No.3 in G Flat Major. D899-3"
 - Besançon - [Vinyl record]




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夕暮れ時。黄金色の窓。── 東の空は青すぎる。(4/29)

田中冬二の詩には冷たい透明感と、遠い郷愁とがある。
あたたかい灯は、あくまでも郷愁としてあらわれる。
── すなわち、彼はそのときは、その中に住んでいないのだ。(3/15)

眠っていたのだろうか。土曜日の午後の、一時間ばかりの浅い時間の中の休息。(4/23)

蛙。僕の部屋の北側の窓を開けていたら、こいつが入ってきた。
このあたりに蛙のいる池などない。どこから来たのだろう。
かなりかわいて、ホコリまみれの蛙は僕の手の中で、必死でもがいていた。
大切なお客様だから、池まで運んでやろうというのに。(5/6)

芥川の死のまくらもとには、聖書が置かれてあったという。(4/21)

夕焼け。朱と黄金との光の中に太陽は沈みゆく。
木々も家々も電柱も、皆、薄黒いシルエットになっている。
西日はホームに長くさしている。線路ははるか、朱に染まり、その先は太陽だ。(4/21)


四年も前の、夏の上高地。
大正池。青く澄んだ朝の大気の中に、枯れた木々はもはや黙して語らず・・・。(4/22)

有島武郎。「骨」。彼の作品の中には、常に何かが渦巻いている。
なにも見捨てない主人公は、すべてのものから見捨てられていく。「母」からもだ。
── W君を思い出す。(5/6)

寿司屋。中年の男と女。夫婦ではなさそうだ。男は無口そうな感じだ。
アルコールが彼の口から言葉を引きずり出している。
僕の場所からは、彼の口の動きしかわからない。女はただうなづくだけだ。(4/14)

「淋しいので口から歌が出る」。自分の分身は周囲の空間に満ちる。(4/20)

町はずれの公園。曇り空の下だ。沈丁花のむせるような香。
── 甘くて魂をどこかにやってしまいそうなこの香は、いったい何なのか。
老人は、あるいはベンチに座り、あるいは犬の散歩だ。何か静まり返ってしまったこの空の下に、音のない歓喜。
それは、甘い香につつまれて、この場所を町の喧騒から隔絶しているかのようだ。(3/17)

ランボーが原口統三に。「そうわめくなよ」。(4/27)

ピンク・フロイド。人々の影がすべて消えていく。エコーズ。(4/12)



"Pink Floyd - Echoes (part one) Live At Pompeii" by Interstellar Factory



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窓の外。ガラスを透かして見える音なき建物。木々も静かに沈思している。
── 冬の日の夕暮れ時。(2/17)

いつになっても抜けないもの。「まだ僕の知らない、懐しい場所」 ── いつになってもだ。(3/19)

アパート。同じ扉が並び、表札はそれぞれに凝っている。
── 独特の静けさ。(3/15)

夜の街頭。パンチングボールに、人がいなくなる時はない。
小柄で女性的な感じがする男が、一人で長いことパンチングボールを叩いていた。(4/4)

二人の男。
「もし自分がいなかったら、この花は傷がつかないだろう。だから傷をつけるわけにはいかない」。
「自分がいるからこそ、この花に傷をつけることができる。だから傷をつけるのが自分の存在確証だ」。(3/20)


サルトルは自分の思想の核心を女性だと言った。(3/7)

蒲原有明 「さいかし」から
落葉林の冬の日に
さいかし一樹
 さなりさいかし
その実は梢いと高く風にかわけり。

落葉林のかなたなる
里の少女は
 さなりさおとめ
まなざし清きその姿なよびたりけり。

落葉林のこなたには
風に吹かれて
 さなりこがらし
ふかれて空にさいかしの莢こそさわげ。
(2/18)

敗戦の報を聞いて、皇居の前で涙を流した人がたくさんいるという。(4/15)

名前は忘れたが、ある画家の生活。
彼は京都のある場所に引っ込み、絵を描かなくなった。
そうしてそこからの風景と、一人の女だけを愛して一生を送ったのだという。
── 彼は幸福に死んでいったのだろうか。(4/15)


ト短調の弦楽五重奏曲の楽章の切れ目に、遠くからシグナルが響いてくる。
・・・僕は、 ── 春の夜の雨の中に響く警笛。(4/6)



Mozart - String Quintet No. 4 in G minor, K. 516 [complete]




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友人と二人で電車に乗った。僕は窓際に座った。僕の正面は女だった。
その女性の横、通路側に友人は座った。女はガムを噛んでいた。
友人は着ていたジャケットを脱いで、それを丸め、膝の上に乗せていた。
すると、僕の前にいた女は、ガムを噛みながら何も言わずに、そのジャケットを窓の横に吊るしたのだ。(8/30)

没入。それは何と恐るべき、甘美な状態だろう。(8/28)

今朝の夢。僕は山歩きだかで亀をつかまえた。小型のやつだ。
ところが、どんな水のある場所でも、そいつはぐったりしている。
元の場所に連れて行ったら、やっとそいつは元気になった。(9/6)

晩夏。雨が止むと路面はすぐに乾いてしまう。
帰省。日差しの中の踏切に、高く響くシグナルの音。
ぼんやりと眺める外。
晩夏。涼しい夜風に虫の音。── 緩やかに変化して行く文体。(9/4)

夜。街灯に透けるクモの巣。
街灯を中心に白く光る輪となって浮き上がっている。(9/5)

踏切に立っている粗野な感じの男。踏切には信号も何もない。
ただ看板だけがある。
「止まれ、電車が来る」。(9/6)

夜。通りの横に木造のアパート。
暖かい色の電灯の光が通りにまでもれている。窓の中には子供らが笑っている。
いくら遅くまで遊んでいても、家族は彼らを待っていてくれる。(9/6)

車窓から。
人家から離れた沼沢。水と植物と、空。
水面から顔を出す植物を、光り輝くさざ波が包んでいる。(9/2)

居酒屋で。
「要するに、逃げたくて飲みに行くんだ。それなのにあの飲み屋ときたら、すぐ向こうに家族だんらんが見えるだろ。
良くねえよなあ。ガキが『父ちゃん』なんて言って出てくるのよ。家庭は奥に引っ込めときゃいいんだよ」。
男と飲んでいる相手は同じぐらいの歳の女だった。
「あら、あたしが逃げるってこと?」
何も繋げることのできない言葉の断片。(9/3)

使われることもなく、雨の中の砂場に放置されているスプーン。
── 書棚に、何ら、内容に緊密にならなかった書籍が積まれている。
── もし彼らに恨みがあるのだとしたら、恨みは皆、僕のものなのだ。(9/7)




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遠のいた波は、かつて最も奥まで届いた波打ち際の輪郭を指し、彼方、月は赤くやける。
赤くやけ、閉ざされた目は夢見るのだ、夢を、夢を、夢を。
知りつくし、汚しつくしたこの地平、かつて知ったその拡大の輪郭の手前、── 何を語るのか、この既知の中で。(1/6)

分解しかけた彼方の灯台は、海のざわめきからはもはや遠ざかり・・・。(12/27)

僕にとって、少なくとも、最も「誠実」であったころ、僕の作業はいつでも、僕自身の牢獄を常に明確にし続けることだった。
それは何と呼ぶべき作業だったか。
── 確かに、そこにおいて僕は、僕自身の牢獄から逃れ続けてはいたのだが・・・。(1/6)

ハインリヒ・シュッツ。零度の世界への表出。(1/11)

読書への退屈。未知への解放を持たぬ、既知の構築はかなり退屈だ。
そこから立ち去れば、── 少年時代、 あの冬に入る日、広野の彼方に見た山々は、やはりそこで戻ってくるのではないか。(1/16)

春か、もはや僕の存在の遠く彼方、あの沈丁花の花々は、いまも咲き乱れているのか。
静かに行くものは、健やかに行く。健やかに行くものは、遠く行く、か。
── ああ、時間よ。(3/10)

九年ぶりに日光に行く。
この季節の日光。冷えた輪郭と光と。
この季節、まだ残る雪の中、去年のすすきは、雪と光と風の中、何を表現しているのか。(4/14)

「芸術」。表出された輪郭の、その線の美を求めるなら、それはあくまでもモノクロームなものになる。(4/14)

窓。彼方からの冷気の感触が、僕の言語を、僕自身から外部へと向ける。(2/2)

まだ破壊されたこともないものは、彼方に城壁として、蜃気楼としてそそり立つ。
── 風の感触に怯えつつ。(2/19)

確実にやってくる老化。万物の宿命のこの城壁。
これを突き破る方向に「表現」は捧げられなければならない。
かまわぬではないか、僕がかつての「誠実」でのみ語ろうとし、そこでもはや何も語れぬのなら、僕は僕の背負い込んだ「定型」もろとも、歩き出すほかはないのではないか。(1/6)

再びカーテンが上がれば、再び風景は血に染まる。
いつでも僕の見ていたものは。僕の見続けていたものは、──。(4/7)




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橋が朽ち果てて崩壊してしまったなら、橋の向こう側、暖かなもやにおおわれた街は。── 廃船よ。(7/20)

街。林立する建築群は、高い太陽の光を受け、光と影とのコントラスト。
街。淡くたなびく、熱の彩色。
 どのような表情も知ることなく、僕は歩くしかなかった。(7/23)

エリック・サティ。沈んだ色彩の洒落た商品の数々は、ショーウィンドウの向こう側にある。
── 「彼女」は、通り過ぎるショーウィンドウに自分の姿を映してみようとする。
 だが見えるのは雑踏ばかりだ。(5/6)

最前線で、自軍の旗を支えながら死んでいる男の姿。
── 彼方の大陸への、長く高い橋。(7/21)

何日か前の火事場は、いまは整理された。退廃の黒い阿片窟があった場所だ。
右へ曲がろうが、左へ曲がろうが、知った道だ。
街。意志と眠りとの錯雑した風景よ。
斜めに走る遮蔽物。── 疲れ果てた目が、それの中に見えている。(7/23)

木の葉の上には、それしか食べない毛虫が眠っている。
人目につかない木々の奥の清流では、猟師が一人、水を飲んでいる。
── 鏡の部屋よ。水の流れは様々な形になり、そこここに姿を現す。(7/19)

夢。いつか僕たちは山にいた。崖には金属製の梯子がついていた。それは高くて、気の遠くなるような梯子だった。
僕たちは、そこから降りる所だった。かなたには海の広がりが見えた。
そんな海を見るのは初めてだった。
夕暮れ時を過ぎ、すっかり暗くなった海は、青や赤の彩色を所々にひらめかせていた。(7/18)

水の流れのそこここに妖精は住んでいる。
水は光を反射しながら、あらたな水路を要求する。
舟はどこまでも進んで行くだろう。(7/18)

七夕祭ともなれば、小さな飾りを軒に出すことが、この生活からほんのわずか湧き出た不思議に美しい夾雑物なのだ。(7/16)

いきなり土砂降り。
熱を帯びていた風景は、激しい雨に打たれてゆく。
風の中、水煙は白く、家々の屋根の上を、木々の周囲を、路面を、洗い砕けてゆく。
閃光の後にやってくる轟音の中、乗り物も、人の声も、── 彼方の墓地も、皆、雨の中だ。
水煙はどこまでも走ってゆき、── 雨に打たれ続ける、哀しみの歌よ。(7/23)




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草原を走る、光の驟雨の中の少年たち。
笑いながら走り、走り続け、── そうして戻ってくれば、再び厳粛な無表情の生活。(10/1)

ランボー。「休日」。
計算の手を休めれば、逃れることもできない、天の落下──。(9/5)

街。家々。光の中、屋根、屋根、屋根、影に軒、そうして窓。
── それらの広がりと、その輪郭の歪みは、確かに幸福と抱き合っている。
その光景の中、リズムは確かに連なり、── 風。(9/9)

静夜。昼間は良く晴れてはいたが、涼しい一日だった。
空間の沈黙か ── 僕の活動というものが、そのような沈黙に支えられてあるものなら。
少年時の風景を思い出すこと。
「影を否定した者たちの幻想」が、単なる不可思議な文言でしかなかったあの日々のことを。(9/11)

阿部定。男の概念でとらえるなら。
静止した観念の渦の中で翻弄され、── 刺激と麻痺の極の中で、次にはその観念を殺戮すること。
── 三島が言った金閣寺の消失だ。(9/13)

まだ光の残る夕暮れ時。路地を行きかう人々。小さな商店街には人々がひしめいている。
一日の最後の熱がここでともされ、── 夜の中へと消え去ってゆく。(9/12)

中村浪甫 : 何の木か 一人秋光へ葉を降らす (9/16)

子どもたちが、前を走り抜ける。
ふと僕は、知った人間がいないか、周囲を見回すが、それはただ疲労を感じさせるばかりだった。
風の感触 ── 曇り空。
ふと見る僕の影。濁ったニュアンスは簡単に与えることができる。
どこまでも濁っていくことができる。 ── しかも僕には定かにはわかることもなく。(9/9)

「そうなんだ、あいつは、── あいつは満腹な状態こそが自分にとって、自然な状態だと思っているんだ。ほんのわずかの空腹が、あいつにとっては、恐るべき深刻な事態になるんだ」。(9/9)

雨。──秋のかすかな暖に重なる雨は、その暖をも洗い流してゆく。
雨の向こう側の風景。
そこにあるのは夜の虹なのか。── もはや、そこに語るべきものはないのだろう。(9/30)



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秋の夕暮れ時。交差点の赤信号の彼方に、ひときわ高いビルの姿。
── もう帰る時間なのか。(10/27)

いにしえの石仏の、かすかなほほえみの中には、いにしえの彼らの求めたほんのわずかの、「世界の与えてくれる幸福」が感じられる。
つねに、静的なものには、希求しているものがある。(10/30)

ワイスコップ。「われわれは、見ることができる最後の物体を見始めているのかもしれない」。(11/7)

冷気がさしてくる。そうしてかなたから、電車の音も。
冬の夜、冷気がさしてくる。── 事件は僕をどこに導くのか。(1/8)

言葉は、数知れぬ妖精を引き連れて、この世界をめぐる。(1/7)

朝。朱に染まりはじめる、故郷の水平線。
砕ける波の銀の輪郭がふと歪むのはなぜなのか。どこで誰が語らっているのか。
停泊する数知れない船。
風景はそのすべてを自ら語らっているのだが、その歪みはどこから来るのか。
その歪みで語らっているものはなんなのか。(10/30)

疲労。この世から離別した妖精の、終わることのないため息。(11/4)

それが光を放っていると感じる作品の数々を見るにつけ、そこには唯一の共通点のあるのを感じる。
表現が、存在そのものの表出の輪郭になっているという点だ。(10/15)

記憶。── 観念の運動状態の再現。(12/21)


午後、── 太陽は彼方に傾き、建築群は向こう側へと遠のき、再び、慣れ過ぎた世界が戻ってくる。── 窓の外を通り過ぎる人々の声。
雪は崩れ、汚れ、そうして姿を消し、── 空に雲は、その彼方の太陽の輪郭を浮かび上がらせ、──。(1/14)

夜。── 昨夜の雪は今は崩れ、夜風に乗って季節はずれの風鈴の音。
僕はこうしてどこを歩いているのか、静夜の底で。(1/14)




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せみのかん高い鳴き声。木々におおわれた真夏の涼しい細道。
僕たちは川の音を聞きながら、その中を走っていた。(7/2)

カミュ。「真の芸術家は奇跡を否定せず、それを自分のものにする」。(8/9)

久慈川河口の浜辺を歩いていた時のこと。
川は海に沿って流れ、しばらく先で海に入ってゆく。川と海の間に長い砂州があるのだ。
砂州には朽ちた棒杭が白い砂から伸び、それがずっと先まで連なっている。
──
砂州の背からは海も川も見え、川の岸辺には木造船が朽ち果てて横たわっている。
そこは子供らの遊び場となっており、また、釣り師たちの目印にもなっている。
木造船の甲板には四角いガラスがはまっている。光を中に入れるガラスらしい。
──
波が激しく砕けている。砂は荒い目をしている。
川のはるか先には海猫たちがすんでいて、その先には静かな青空が広がっている。── 風は強く、ときどき砂を巻き上げていた。(6/24)

文体でもって涙を隠している作家がいる。(6/25)

理解できぬ世界には入れない。── いや、入らないから理解できない。(6/26)

川沿いの大きな古い家。家を取り巻く木々は枯れているようでいて、毎年緑を茂らせていた。
広い庭には木々と雑草以外何もなく、その朽ちかけた家は人目を避けるようにひっそりとあった。
僕は時々、その家のそばの通りを歩いた。
── 久しぶりにそこを歩いた時、そこに家はなく、駐車場に何台かの車が止まっていた。(6/25)

ワルター。「ブルックナーは神を見たが、マーラーは神を見ようとした」。(8/9)

今年の初詣のこと。
火は音を立てて燃え上がっていた。火の周囲にただ黙して立っている人々の顔は、鮮やかな朱に染まって浮き出されていた。
火の中には達磨がいくつも投げ込まれていた。
目のあるものもないものも、等しく火の中で黒くなっていった。(7/11)

いつもいつも窓は静かだ。電灯に舞う小さな虫も音すらない。
はるかな所から聞こえる音。あれは電車の音なのか。
星も今夜は出てもいず ── ああ、静かにしないか!(5/16)



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天を指す鳥たちは、自らの身を焼き、数知れない神殿を通り過ぎてゆく。(3/19)

海賊たちの宴。
いっぱいにガラスを貼った超高層ビル。乱反射し、目を射る閃光。
かと思えば、最上階あたりから上の方に渦を巻く雲。
ああ、岬の輝き、にわか雨の中の灯台。
── 混沌を生み出したものは、混沌に戦を与え、形とそれの分解とを与え、
── そうして自らを明らかにする。(3/21)

樹村みのり(カッコーの巣の上で)
「彼女は不正を憎み、気取りを軽蔑した。無知であることを良しとしなかったが、無垢な心を尊んだ」。(3/1)

いつだったろう、霞ケ浦の水郷地帯を歩いたのは。
やわらかな水のうねり、光、そうして風の中の植物群。
土と水との淡い香。
── 窓の外は風雨。
闇の中の空間を走り続けた言語も、自らの姿を確かめ、そうして光の中に眠る。
── 果てしなく広がる雨の音。(4/8)

ブリジストン美術館。「海の幸」青木繁。
完成しきっていないところに、灼熱するものがある作品だ。
── そうしてその場所から彼は、破滅へとゆっくりと傾いていったのか。
あの「朝日」を知るためにも、それは必要だったのか。(3/31)

静まる家々の横、道具は放置され、── 森林のざわめき。そうして遠くから木々の裂ける音。(4/8)

日暮里。坂と寺の多い下町の夕暮れ時。
もうライトをつけ始めた電車が走ってゆく。
ふと足元を見つめ、次に、バラ線で仕切られた向こうの、彼方まで広がる黄金色の空に目をやり、──。(3/27)

日暮れ時。かつてざわめいていたすべての表情は、遠のき、白い波濤に重なっていく。(4/11)

潮は満ち、あらたな陸地を指す。
── 木々も家々も、白く砕ける波の中にある。
拡大の中、逃げるものはなにか、そうして追うものは。
── 陸地は海と抱き合い、あらゆる瞬間、同時にあるだろう。
そう、影はこの身といつでもともにある。(4/24)



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