民の声新聞 -30ページ目

餅つきはつながる民の象徴~各省庁は受け取りを拒否

お年賀ムード漂う霞が関のど真ん中で、威勢のいい「よいしょっ」が響いた。一見すると長閑な餅つき。だが、丸の内署の警官が睨みをきかせ、公安警察も取り巻く。そして、つきあがった餅を経産省は受け取らなかった…。福島原発事故から間もなく10カ月。年が明けたら放射性物質の飛散が止まるなどという好都合なことがあるはずもなく、被曝に盆も正月もない。こうしている間にも、福島の子どもたちは被曝させられ続けている。だから、経産省テント広場の住人たちは餅をついた。原発事故は現在進行形なのだと、収束なんかしていないのだと知らしめるために。今年も粘り強く脱原発を訴えようと、気持ちを引き締めるために。もち米も空気も水も汚されてしまった福島を思って


【テント村はプロ市民の集まりじゃない】

「脱原発運動は長期戦ですから、ずっと難しい、四角い顔ばかりもしていられない。それに、餅のようにしつこくここに居ますよ、という抗議行動でもあるんです」

経産省テント広場での抗議行動に参加している千代田区の女性(27)は、そう言って眼前の経産省を見上げた。

渋谷区の女性(44)は、宮城県出身。東北からの生の声が耳に届いてくる。

「福島の人々は、もち米も水も空気も汚されてしまったんです。今までのように、家族で、地域で豊作を祝って、一年の無事を祈る餅つきができなくなってしまった。そういう気持ちが込められているのだと思う」お話した。「ここにきて、やや『落ち着いた感』が漂っているように感じる。放射性物質の拡散は止まったと思っている人が、こういう餅つきを通して一人でも気付いてくれたら良いのではないか」

「東電前アクション」の園良太さん(30)は「ステレオタイプに切り捨てず、まずは現場に来てほしい」と呼びかける。

「日本にはウォールストリートのような場が無いんです。すべて商業地か市有地。公共の場が無い。このテント村は、反原発の意思を持つ人と人のつながりが作れる場。その一つが餅つきなんです。決してお祭り気分で思いつきでやっているわけではない。どうせプロ市民だけの集まりだろう、と決めつけてはもったいないですよ」

川崎市の男性(73)は「官公庁の職員の一人が、早朝にみかん箱を差し入れたことがあった。仕事上、脱原発を口にできない公務員もいるだろう。経産省の職員だって市井の一人。彼らの声を拾う役割もある」と話した。
民の声新聞-餅つき①
民の声新聞-餅つき②
餅つきが行われた経産省テント村。脱原発の趣旨に賛同した女性たちが手伝った

=東京都千代田区


【具体的な症状が出始めた福島】

テント村には、「未来を孕む女たちのとつきとうかのテント村行動」の椎名千恵子さん(65)=福島市=の姿もあった。

「命は命を張って守る、それだけのことです」

凛とした椎名さんは、他のテント広場参加者とともに、つきたての餅を手に経産省を訪れた。

「撮影は禁止。だめだめ。撮るなら入れさせないよ」

守衛の怒号が響くなか、暖房の効いた経産省のロビーで担当職員を待った。

「申し訳ないけど受け取れないって。持って帰ってよ」

想定内とはいえ、守衛の言葉にはやはり、落胆させられる。

押し問答の末、結局、守衛は大臣に宛てた手紙だけを受け取った。

「原発を進める人に いまぞ問う。聞く耳持たぬか 民の叫びに」

残念ながら、この手紙を大臣が読むことはあるまい。

いつの世も、為政者の耳に民の声は届かないのか。

経産省を後にする一行と入れ替わるように、出前の寿司が届けられた。

餅は、文科省や農水省などにも届けられたが、いずrも受け取る省庁はなかった。

「でもね、農水省の守衛はいわき市の出身者だった。『気持ちは分かるよ』と言ってくれた。まだこういう日本人もいるんだ、とうれしかった」と椎名さん。「甲状腺に腫瘍が見つかるなど、福島では具体的な症状が出始めている。まだ原発事故は終わっていないんです。福島とつながってください。連帯してください」
民の声新聞-椎名さん
福島市から駆け付けた椎名千恵子さん。

「福島では具体的な症状が出始めています」


【全国から届いた年賀状】

テント村では、17kgのもち米がつきあげられた。

多くの女性たちが手伝い、きなこやあんこ、大根おろしなどでまぶして振る舞われた。

費用は全国からのカンパで賄われているが、年賀状も50通以上届いている。

「原発立地市からの賀状も多いですよ」とスタッフの一人。「経産省前テント広場」で届くという。

「認知度が高まったということではないですか」


仕事始めということで、経産省から着物姿で出てくる女性職員の姿も見られた。

黒塗りのハイヤーが行き交い、車内から笑いながらテント広場を眺める人もいた。

寿司が届けられた経産省内では、年始の宴会が開かれたのだろう。

テント広場の住人たちの思いなど、彼らに理解できるだろうか。

テント広場を指さして笑っている間にも放射性物質は飛んでいることを忘れてはならない。

福島の子どもたちはもちろん、

都内に住む子どもたちだって被曝していることを。

まずはテント広場を訪れてみよう。

そして考えよう。

子どもをどうやって守るかを。

野田首相の収束宣言などにだまされてはいけない。
民の声新聞-年賀状①
民の声新聞-年賀状②
テント広場には、全国から年賀状が届いた。

福島県など原発立地県からも多いという

(了)

脱原発を実現するのは女だ~福島で東京で闘う女性たち

原発事故による被曝から子どもを守ろうと、女性たちが続々と声を上げている。福島の女性たちは10月、経産省での座り込み抗議を敢行。原発の廃炉や子どもたちの避難を求める要求を突き付けた。都内では、原発の存続・廃止を都民自らが決めようと「原発・都民投票」実現へ署名集めが進められている。来年2月までに22万人以上の署名を集め、石原都知事に条例づくりを求める予定だ。原発事故以来、何も進まない現状に声を上げ始めた女性たち。福島の女性たちは「原発事故は男中心社会が引き起こした」と怒る。世の中を変えるのは私たち、と力強く話す女性たちの姿を追った。


【都民投票は民意反映のフェアな手段】

「原発を止めるために、やれることはすべてやりたいんです」。

原発の是非を決める都民投票条例の制定を石原都知事に求めるための署名集めに参加している杉並区の女性(49)。「正直なところ、署名集めが最も有効な手段かどうかは分からないけれど、こういう活動が原発について考える良い機会になって欲しい」

昭島市の女性(39)は、両親が福島県南相馬市の出身。多くの親戚が原発事故に巻き込まれた。

「政府などが利権にまみれてきちんと対処しなかったことが本当に腹立たしい。子どもたちの健康がどんどん蝕まれている。でも、文句を言っているだけでは何も進まない。私たちの姿を目にした人の政治意識が高まることにつながってくれれば、意味はあると思う」

新宿や渋谷で署名を集めるため懸命に頭を下げる。無視されても邪魔者扱いされても。

中野区の女性(34)は言う。「住民投票は民意を反映させるフェアな方法だと思う。ぜひ原発を止めたいんです」

神奈川県の女性(38)も署名集めに参加している一人だ。「反対反対と言っているだけでは何も始まらない。自分の意見を表明することは大事なことなんです」。
新宿駅近くの署名運動では、元アイドルで実業家の千葉麗子さん(36)も自らマイクを握り、署名を呼び掛けた。

福島県出身の千葉さんにとって、原発事故は決して他人事ではない。先日も福島を訪れ、母親の涙に言葉を失ったという。

「『放射能を気にする私はキチガイでしょうか』って泣くの。私は腕をさすってあげることしかできなかった。『キチガイじゃないよ、当たり前のことだよ』としか言えなかった」

12歳の子どもの母親として、子どもたちの将来を案じている。こうしている間にも、都内でも被曝は続いているからだ。

「脱原発に向けて何をするのが効果的かいろいろ考えた。そして、ドイツやイタリアの例もあるように、やっぱり投票が民意を反映する手段としては一番良いのではないかと。また、署名集めをすることで眠っている無関心層を起こすこともできるし、原発に反対する声がいかに多いことが分かれば、政治家も脱原発へ動かざるを得なくなる。今はあまり関心のない若い女の子たちも、署名をすることで必ず思い出してくれるはず。そういうことが大切だと思います」

若者が多く行き交う新宿で、力強く呼びかけた。

「いつまでNHKや朝日新聞を信じるの?原発事故は福島だけの問題じゃ無いんだよ。都内でも高い放射線量が計測されているんだよ。これから妊娠する可能性があるんだから、ちゃんと考えようよ」
民の声新聞-千葉麗子2
民の声新聞-都民投票
(上)自らマイクを手に都民投票への署名を呼び掛けた千葉麗子さん。

「被曝は福島だけの問題じゃない。都民の無関心は罪ですよ」

=新宿・小田急ハルク前

(下)都民投票への署名を集めるのも署名をするのも女性が多い

=JR渋谷駅ハチ公口


【男中心社会が原発事故を引き起こした】

郡山市内で行われた経産省での座り込み抗議行動の報告会で、佐々木慶子さん(福島市)は胸を張った。「女は男と違い、思い立ったらすぐ、行動に移すんです」。

「男は、計画を綿密に立てないと動けない。挙げ句、『前例が無い』などと言い出す。だいたい、男中心の社会が引き起こしたのが原発事故なんですから」

佐々木さんら福島の30人の女性たちは10月下旬、経産省で7人の男性官僚に四つの要求を突き付けた。

①すべての原子力発電所を直ちに停止させ、廃炉とすること

②定期点検・トラブル等により停止中の原子力発電所の再稼働を行わないこと

③子どもたちを直ちに、国の責任において避難・疎開させること。また、すでに避難し、またはこれから避難する住民に完全な補償を行うこと

④.原発立地自治体を補助金漬けにし、自立を妨げる原因となっている電源三法を廃止すること

「これからも非暴力で脱原発を果たしたい」と言う佐々木さん。最近は涙を流す機会が多くなった。

「本当にとんでもないことになってしまった。子どもたちが屋外で遊べない。そんな環境にしたのは大人の大罪です」

黒田節子さん(郡山市)は、福島瑞穂社民党党首の力添えで首相官邸に入ったことが忘れられない。

「首相補佐官に40分にわたって想いをぶつけた。ある人は涙を流していた。福島の女たちの運動は、世界の潮流に乗っていると思う。さらに切り開いていきたい」

座り込みに参加した郡山市の女性は、鼻血や下痢が続くなど体調の悪化に悩まされていた。

「3日間、座り込みに参加したら体調が良くなったんです。ストレスが原因だ言う人もいるでしょう。でもね、原発事故が起きなければ、そもそもストレスなんかなかったんですからね。そこを忘れないで欲しい」

報告会では、唱歌「ふるさと」を合唱した。手をつなぎ輪になって。歌詞の「ふるさと」を「ふくしま」に変えて歌った。誰ともなく、自然と涙が流れた。故郷を汚された悔しさ、子どもたちの健康被害への不安、進まぬ補償…。武藤類子さん(三春町)は言う。「福島の外に向けて『助けて』と言えたことが大きい。つらいときに、『助けて』と言えるかどうかなんですよね。今回、福島の女たちはそれが言えた。だから、最終的に福島内外から2000人を超す人が座り込みに集まったのではないでしょうか」

国内にとどまらず、ニューヨークでも原発事故被害の現状を訴えた佐藤幸子さん(川俣町)は「女の柔軟な考えがなければ、世の中は変えられない」と力を込める。

そして、世の男たちにもエールを送った。

「女と、本当に大切なものを知った素敵な男性とで世の中を変えましょう」
民の声新聞-ふるさと

民の声新聞-報告会
(上)輪になって手をつなぎ「ふるさと」を合唱する福島の女性たち。

誰もが流れる涙を抑えきれなかった

(下)経産省での座り込み抗議で編み込まれた緑の地球。

福島から声を上げる女性たちのシンボルとなっている

=12/25、福島県郡山市・郡山労働福祉会館



【このままでは日本の未来は真っ暗】

「皆さんの未来を皆さんの命を、野田首相に任せて良いんですか?どうやって彼女を守りますか?どうやって彼氏を守りますか?どうやって友達を守りますか?命にかかわるようなことを石原都知事に任せて良いんですか?僕的にはNOです。原発を続けるのかやめるのか、自分たちで決めましょう」

チェルノブイリ取材から帰国したばかりの山本太郎さん(37)は、若者たちでごった返す渋谷・ハチ公前で都民投票条例制定に向けた署名を呼び掛けた。

「チェルノブイリ周辺の街では、事故から25年も経った今でも、健康被害なく産まれてくる子どもの割合はわずか15~20%なんです。このままでは日本の未来は真っ暗ですよ」

声を聴き、携帯電話のカメラを向けながら若者たちが集まってくる。

彼らに時折冗談を交えながら、しかし、強烈なメッセージをぶつけていく。

「東京都は東京電力の株主です。つまり、都に納税をしている都民の皆さんも、株主だということなんです」

「大都市・東京の電力需要を賄うために、地方の福島が犠牲になったのです。言葉を選ばずに言えば、福島の子どもたちが東京の子どもたちの身代わりになったと言っても過言ではないのです」

脱原発を公言したことで収入は10分の1以下になった。

「不安をあおるな」「原発事故を商売にするな」などバッシングは絶えないが、「本当に大切なもの」を知った男の一人として、声を上げ続ける。

「大きな声を上げなくて良いんです。デモ行進の先頭に立たなくても良いんです。あなたにも参加できるアクションがあります。あなたの一筆で世の中を変えられるかもしれないんですよ」

山本さんの問いかけに、皆さんはどう答えるだろうか。

「お母さん、娘さんをどうやって守りますか?お父さん、お子さんをどうやって守りますか?」

民の声新聞-山本太郎

「本当に大切なものを知った素敵な男」の代表・山本太郎さん。

「原発を続けるにせよやめるにせよ、自分たちで決めましょう。

命にかかわることなんですから」=JR渋谷駅ハチ公口

(了)


「原発」都民投票の公式サイトはこちら

http://tomintohyo.blog.fc2.com/



「原発いらない福島の女たち」の公式サイトはこちら

http://onna100nin.seesaa.net/

【現地リポート】 年の瀬の福島は今(下) ~続・開成山公園を封鎖せよ

弓道の袴姿の女性は、けたたましく鳴り響くガイガーカウンターの警報音と表示された数値に言葉を失った。思わず口に手を当てていた。「ここは高校生も利用するんです」─。福島原発事故から9カ月経ってもなお、高線量の計測される郡山市のホットスポット・開成山公園。先月に続き、今月も声を大にして言おう。ここは人の立ち入れる場所ではない。即刻、封鎖して立ち入り禁止にするべきだ。近隣の民家でも同じよう計測器の針が振り切れる個所が相次いだ。毎時10μSVと言えば、単純換算で年80mSVに達するとんでもない高線量。学生たちよ、部活動なんかしている場合じゃない。逃げよう。ここは人の住める場所ではない。除染に限界があることは、大人たちも十分分かったはずだ。ガイガーカウンターの針が振り切れる町、郡山。裁判所がどれだけ言葉を尽くして否定しても、私は子どもたちの避難を求めていく。


【高校生も利用する弓道場】

きっかけは、ツイッターでの依頼だった。

「すみませんが、開成山弓道場がホットスポットになっていると聞いたことがあります。もし測ってもらえたら、嬉しいです」

弓道場はすぐに見つかった。

玄関のすぐ横に雨どいがある。

ガイガーカウンターを近づけた。すぐさま警報音が鳴り出した。それも、今までに聞いたことのないような鳴り方。「これは相当高いかもしれない」。そう思った直後、数値は9.99μSVを示していた。いわゆる針が振り切れた状態だった。その後、何度も測ったが、結果は変わらなかった。ツイッターでは、この近辺の雨どい直下では、20μSVまで測れる計測器でも振り切れるとの情報が寄せられた。つまり、この雨どい直下では毎時20μSVを超している可能性がある。これが30μSVだったら…年間被曝量は240mSVにまで達する。放置してはならない。

「ここは高校生も利用するんです。先日も、高校生たちが大掃除をしてくれたばかりで…」

弓道場利用者の一人は、袴姿のまま表情を曇らせた。

「郡山市には、早く調べて欲しいと言っているんです。でも、順番があるからと言われて、一向に測ってくれない。この辺りの線量が高いのは分かっていましたが、これほどまでとは…」

結局、利用者の求めで、弓道場内を測ってみたが、的近くの水たまりでは毎時6μSVを計測。他の地点でも軒並み高い値になった。途中から「先生」と呼ばれる男性も加わったが、初めは不審そうにこちらをうかがっていたが、実際の数値を目にするようになって事態の深刻さを理解したようだった。

「今回の結果をすぐ市役所に伝えます。市教委が担当のはずです。詳細な調査をしてもらわないといけませんね。そして、高校生は利用させないようにしないと」

果たして市当局は迅速に動くか。子どもの命がかかっているのだ。
民の声新聞-9.99
民の声新聞-弓道場
開成山弓道場の雨どい直下で毎時9.99μSV

を計測(上)

雨どいを心配そうにのぞき込む利用者(下)

=福島県郡山市 12/24、16時すぎ



【改修工事という名の大規模除染】

開成山公園ないの陸上競技場は現在、大規模改修工事が進められている。

工事の概要を示す看板には「大規模改修工事」と記されているだけ。市のホームページにも「耐震補強工事等」としか書かれていない。

だが、「あれは4億円かけた大規模な除染活動だ」と革新系市議が打ち明ける。

同市議は、除染活動にも参加した経験から「これ以上、除染活動をしても一時的な線量低減化が図られるにすぎない。だからこそ、被曝の恐れの無い土地に避難させなくてはいけないのだが…。あとどれだけ無駄な除染に予算をつぎ込むのか」と指摘する。

通学路の片側だけ高圧洗浄する除染。低減化も限界にきていることを市民も感じ始めている。だからこそ非難を、とふくしま集団疎開裁判の支援活動もしている。だが、周囲の市会議員の反応は鈍いという。「みんな、ここの線量が高いのは知ってるはずなのに…。線量の話をしているのは議会で私くらいなものです」

大規模改修という名の除染が行われているなか、傍らでは陸上競技部の高校生が部活動に励んでいる。

近くの落ち葉溜りでは毎時4μSV近くの高線量が計測された。

放射線に対する感受性の強い高校生など、ここに立ち入ってはいけないのだ。
民の声新聞-4億円

民の声新聞-3.91
3/31までの予定で大規模改修工事が行われている

開成山陸上競技場。看板には一切表示が無いが、

革新系市議によると「大規模な除染作業だ」(上)

近くの落ち葉溜まりでは、毎時3.91μSVを計測した(下)


【元の福島を返して】

弓道場だけでなく、開成山公園から郡山駅に向かう「はやま通り」沿いの雨どい直下では、軒並みガイガーカウンターの針が振り切れた。振り切れなくとも、学習塾前の側溝や、公園周辺の落ち葉溜り、美術館前の植え込みなど、至る所で毎時2~4μSVの高線量を計測した。しかも、福島市と同様、汚染された落ち葉を通常の可燃ごみとして燃やしている。これはもはや、町全体がホットスポットと化しているとは言えないか。

市内の酒店主は言った。

「あの頃、もしかしたらこうなるんじゃないかって想像していた通りになっている。多くの人が除染活動に参加してきたけれど、結局、線量は下がっていない。これから、どうなってしまうんだろう。私が生きている間にきれいな福島は甦るのだろうか。返してほしい。元の福島を返してほしい。本当に、素晴らしい町だったんですよ」

残念ながら、元の福島が戻ってくるには数十年はかかる。

いや、もしかしたら戻らないかもしれない。

だからこそ子どもたちの避難を。

そして、高線量地域の立ち入り禁止を。

行政は早急に取り組むべきなのだ。

(了)

【現地リポート】 年の瀬の福島は今(上) ~高線量のまま2012年へ

タクシーの運転手は「どうなっちゃうんだろうねぇ」とため息をついた。犬の散歩中の老人は「除染なんかできっこねえべ」と怒りを露わにした。幼子を抱えた若い母親は「もううんざり。放射能のない場所で生活をしたい」と遠くを見つめた…。福島原発事故による被曝被害が続く福島は結局、五里霧中のまま新年を迎える。除染に巨額の金がつぎ込まれても線量は下がらず、実際、福島県庁付近で毎時6μSVを計測。県職員ですら「住宅敷地内で10μSVが計測されることもも珍しくない」と平然と口にするのが実情だ。毎月続けてきた福島取材。ある自治体職員は苦笑した。「結局、何も変わらなかったですね」。何も変わらない、何も進まなかった9カ月。福島の民は収束宣言や米の安全宣言がいかに空虚かよく分かっている。今日はクリスマスイヴ。福島駅前に飾られた民の願いは、いつになったら星に届くのだろうか。「はやく原発が収束して、福島に平和が訪れますように」



【知事公館横で鳴り響いた警報音】

1.20μSVに設定したガイガーカウンターの警報音で分かった。

線量が高い時は鳴り方が激しいのだ。

マスク姿の自分が緊張するのが分かる。

側溝に測定器を近づける。軒並み毎時4~5μSVを計測。最高で6.17μSVに達した。除染が進んだはずの福島市内だが、線量の高さは変わっていないのだ。

21日昼過ぎ。福島県庁駐輪場の裏手、知事公館横の側溝には、落ち葉がびっしりと敷き詰められていた。前日の雪も残る。1時間ほど続けたろうか。静かな裏通りにけたたましい警報音が響き渡る。私の横を時折人が通り過ぎたが、誰一人、警報音に関心を示す人はいなかった。

結果を知らせなければと県災害対策本部の原子力班を訪ねた。

真面目そうな職員が丁寧に応対したが、言葉は明確に拒絶を示していた。

「市民の方々からたくさんの情報をいただきます。しかし、よくお話をうかがうと庭の片隅とか点で高線量が計測されていることが多い。10μSVだって珍しくは無いですよ。でも、近づかなければ問題ないわけです。今回のケースも側溝であるため、その横を通過するだけでは健康に影響はないという考えです。24時間立ち止まるわけではありませんよね。ある程度の広さで面的に高線量が計測されれば詳細な調査をするなど対応しますが…」

放射性物質で汚染された落ち葉も、通常の可燃ごみとして福島市が焼却処分するという。

先月、郡山市でも高線量を確認した。

一方で毎日のように報じられる「除染すれば住める」の幻想。

毎時0.13μSVを超えれば、単純換算ながら年間被曝量が1mSVを上回ることを再認識する必要がある。
民の声新聞-6.17μSV

民の声新聞-知事公館横の側溝
福島県庁近く、知事公館横の側溝で毎時6.17μSVを計測。

単純換算で年48mSVを超す値。県職員は「点で測れば

毎時10μSVも珍しくない」と涼しい顔で話した

=福島県福島市 12/21正午ごろ



【放射能を忘れて生活したい】

老若男女問わず、マスク姿が少なくなった福島市内。

「変に慣れてしまったのかな」

30代の母親は、生まれ育った福島に残り2か月と4歳の子どもを育てている。

「避難できるものならしたいですよ。でも、主人もここで仕事をしているし…。たまに放射線量を測ると高い値が出るから、こういう場所で子どもたちを歩かせて良いのかとは思います。でも本当に安全なのか、危険なのか、どちらも良く分からない。避難と言ったっていずれは戻ってくると思います。そうすると短期的な避難に意味があるのか…。正直なことを言うと、もううんざりなんですよ。テレビをつけても一日中放射線量がテロップで流れる。忘れたくても忘れられない。放射能の無い所で生活をしたいです」

別の母親は幼稚園児の娘の手を握りながらきっぱりと言った。

「敏感な人はとっくに避難しているだろうから、今残っている人は気にしていない人なんじゃないですか?私ですか?専門家の先生たちが問題ない線量だと言っているのだから、それを信じて暮らして行こうと思います」

雪の降る中、下校していた女子高生は「放射能?被曝?全然気にしていませんよ。マスクもしません」と明るい笑顔で話した。線量が高いことで知られる渡利地区の小学2年生の男の子は「マスクなんかしなくても平気だよ。時々するけれど、毎日しているとすぐにマスクがなくなっちゃうからってお母さんが言うんだ」と話してくれた。今年は夏休みが長かったため、冬休みは12/29~1/3と短期間なのだそうだ。男の子と別れた後、渡利小学校付近では毎時1.34μSVを計測した。マスクをしないと平気ではない場所で、マスクをしない子どもたちが生活しているのだ。
民の声新聞-福島市役所12/21
民の声新聞-東浜地区
福島市役所ロビーのモニターは結局、

毎時1.00μSVを下回ることはなかった(上)

阿武隈川近くの東浜地区も線量が高い地域。

雪が残る空き地で毎時1.92μSVを計測した


【地元でも敬遠する福島産食材】

福島米からはこの間、佐藤雄平県知事による拙速な安全宣言をあざ笑うかのように放射性セシウムが検出され続けてきた。他の福島県産野菜や果物からも、暫定基準値内ながらもセシウムの検出は止まらない。

「うちら地元の人間だって福島産は敬遠するよ」

釣具店主は週末だけ、孫を山形県に避難させているが、食材にも気を付けているという。

「あれだけの事故が起きて、米から放射性物質が出ないわけがない。県は本当に検査をしたのか」と疑問を抱いている。

阿武隈川沿いで生まれ育った男性(66)は、北海道産の米を選んで3人の孫に食べさせている。

「買って応援?冗談じゃないよ。俺たちだって食べないのに。500ベクレル以下だって言われても嫌だよ。買ってすぐ捨てるのなら良いかも知れんけど」

家庭菜園でキウイフルーツを育てているが、孫には絶対に食べさせない。

大好きだった釣りもキノコ狩りもできなくなってしまった。

「本当につまらなくなっちゃったよ。除染すれば良いと言うけど、出来るわけねえべさ。いくら経っても線量が下がっていないんだから。米の検査だって、どうせ放射性物質が出ない田んぼを選んでやったんだろう。県知事はえらいことをしてくれたよ」


猛暑のなか、子どもたちのために熱中症とも闘いながら多くの大人が除染活動に汗を流した。

しかし、残念ながら著しい効果があったとは言いにくい。

学校表土にしても、汚染土が校庭に仮埋めされている状況は全く変わっていない。

子どもたちとの「同居」は年が変わっても続くのだ。
民の声新聞-食べて応援
民の声新聞-星に願いを
東北農政局には「食べて応援しよう」のノボリはあるが、

放射性物質による食品汚染に関する広報はない(上)

福島駅前で展開中の「星に願いを」キャンペーン。

原発収束へ切実な願いも見られる(下)

(了)


人の心を欠いた福島地裁~ふくしま集団疎開裁判の舞台は仙台高裁へ

被曝することなく安全な場所で学びたいという子どもたちの願いに対し、司法の出した答えはNOだった─。14人の小中学生が郡山市を相手取って起こした「ふくしま集団疎開裁判」は、舞台を仙台高裁に移して争われる。27日午後にも福島地裁郡山支部に異議申し立てを行う。「除染によって線量が下がっている」「ただちに生命身体に危険はない」「他の子どもが残る選択肢を奪う」…地裁の却下理由に弁護団や支援者たちは怒る。23日に郡山市内で行われた報告会「判決不服従アクション」には講談師・神田香織さんも駆け付け、応援を約束。俳優の山本太郎さんも郡山デモ(http://ameblo.jp/rain37/entry-11054685635.html )に参加するなど、支援の輪が広がっていた矢先の却下。福島は原発事故から9カ月が経っても高線量が計測されている。ゲストとして招かれたフォトジャーナリスト・広河隆一さんは、豊富なチェルノブイリ取材の経験からこう語るのだ。「チェルノブイリで消えた町と同じ状況の中を、子どもたちが走り回っているのですよ」


【黙殺されたチェルノブイリ事故との対比】

「全く理不尽な結果。中世の暗黒裁判に逆戻りしているかのような判決だ」

弁護団の中心として子どもたちの戦いを支えている柳原敏夫弁護士は、報告会で怒りを露わにした。

「裁判は、やむにやまれず起こしたもの。人権の最後の砦、という裁判所の本来の任務に期待したが…」と柳原弁護士。「年100mSV未満であれば問題ないという考えで、晩発性の被害は救済できないと言っているのに等しい判決だ」と批判した。

弁護団はチェルノブイリ事故との対比に関する詳細な資料を提出し続けた。しかし、判決文には、チェルノブイリ原発事故について言及した個所が一つもない。

逆に、郡山市による60人への聞き取り調査を紹介。県外に一時避難し再び戻ってきた子どもたちの声として「校庭の表土除去や校舎の除染活動により放射線量が下がり学習環境が改善された」「慣れ親しんだ友人関係や学習環境を大切にしたい」「家族と一緒に暮らすことの大切さを感じた」「郡山の学習環境の良さを改めて感じた」などとしている。

柳原弁護士は「チェルノブイリ事故との対比に関する訴えは、すべて黙殺・無視された。そこに一歩でも踏み込んでしまうと、郡山市の子どもたちが全員避難しなくてはならないことが明白になってしまうからだろう」と地裁の姿勢を指弾した。

「必ず勝つと思っていた。負けるはずはないと。そして、判決をテコにして、最終的には他の子どもたちの県外避難に結び付けられると考えていた」と悔しさをにじませる柳原弁護士。「他の手段も考えたが、やはり抗議の意味も込めて異議申し立てをし高裁で争う。子どもたちを救うために微力ながら取り組んでいきたい」と締めくくった。なお、訴えた14人の子どもたちの負担は印紙代のみで、弁護団に対する報酬は無いという。「個人的な訴訟ではない。パブリックな争いですから」(同弁護士)
民の声新聞-柳原弁護士

弁護団の中心となって動いている柳原弁護士。

27日にも地裁へ異議申し立てを行う



【論旨をすりかえた地裁】

A4判で21㌻にわたる判決文は、「主文 本件申し立てを却下する」で始まる。

このなかで、清水響裁判長らは判断理由について、

「郡山市には、居住する他の児童生徒が存在する限り教育活動を実施する義務があり、訴えた子どもたちの教育活動だけを他の児童生徒と区別して差し止めることは困難」

「子どもたちは事実上、自分たちが通う小中学校の他の児童生徒に対するものも含め、すべての教育活動の差し止めを求めているものと認められる」

「他の子どもたちの意向を尋ねることなく、一律に教育活動を差し止めなければならないほど、生命身体に対する具体的に切迫した危険性があるとは認められない」

「差し止めが被曝回避の唯一の手段ではなく、区域外通学などの代替手段もある」

と説明。

「毎時0.2μSV以上の地点での学校における教育活動の実施差し止めについては、疎明(裁判官に対して、確からしいという心証を生じさせること)が十分でないから理由がない」

「毎時0.2μSV未満の地点での教育活動実施を求める申し立ても、表裏の関係にあり理由がない」

と結論付け、申し立てを却下している。

関係者が注目したのが、地裁が訴えた14人以外の子どもたちの権利にまで言及した点。

弁護団の一人・安藤弁護士は「『裁判官の独り相撲判決』だ。私たちは他の子どもたちの疎開にまでは今回は主張していない。清水裁判長は何と向き合っているのか、どこを向いているのか」と批判。

柳原弁護士も「この間、あれほど誤解を受けないように念を押したのに、裁判所は私たちの訴えを『郡山市のすべての子どもたちを避難させること』であると論旨をすり替えた。他の子どもたちの選択権を奪う、と。これは民事裁判における冤罪裁判であり重大な誤判決。刑事裁判なら、Aを裁こうとしているのに判決文を読んだらBに対する判決だったというようなものだ」と強い口調で指摘した。
民の声新聞-郡山デモ10/15
山本太郎さんも裁判を支援している1人。

郡山デモでは先頭に立って「清水裁判長にエールを送ろう」

と集団疎開実現を訴えた

=10/15、福島県郡山市


【裁判官に人としての心はあるのか】

報告会では、意見書を提出するなど裁判を支援してきた矢ヶ崎克馬琉球大名誉教授も電話で参加。「非常に腹立たしい判決。国や東電は自らの賠償責任を小さくするために年間被曝限度量を20mSVに引き上げたが、われわれの身体は、原発事故が起きたからといって20倍強くなるわけではない。被曝回避は主権者の権利。主権在民。政府は年1mSVという国民との約束を守るべきであり、今回の不当な判決を乗り越えて今後も闘っていきたい」と憤りを前面に押し出した。

「ハイロアクション福島」のメンバーとして裁判を支援、東京での活動にも積極的に参加している武藤類子さんは「論点をはぐらかされ、本当に残念。司法が市民のために機能しなくなったという危機感を抱いた。子どもたちの安全をどのように確保すればいいのか。春は必ず来ると信じたい」。黒田節子さんも「人を動かすのは人だろうという想いでデモ行進などを続けてきたが、裁判官の心には届かなかった。裁判官に人としての心はあるのかとさえ、思いたくもなる。しかし、落胆ばかりもしていられない。母親たちは頑張っているのだから」とさらなる闘いに向けて自らを鼓舞した。


判決文は言う。

「児童生徒は特定の地点に24時間静止しているわけではない」

「この申し立てによって、事故発生以来の被曝までは防止できない」

「4/19付文科省通知で年間20mSVが暫定的な目安とされており、年間1mSVを超える被曝量が見込まれても、直ちに生命身体に対する切迫した危険性が発生するとまでは認めることはできない」…

まさに人の心を欠いた司法。清水裁判長に子どもはないのか。高裁は揚げ足取りのような判決文は出さないよう願いたい。

(了)



ふくしま集団疎開裁判の公式サイトはこちらです

http://fukusima-sokai.blogspot.com/

「自主避難一律8万円」に悔し涙~叶わなかった実費全額賠償

文部科学省の「原子力損害賠償紛争審査会」が出した結論は「一律8万円」だった─。寒空の下、かき消された切なる願い。被曝回避のため自主的な県外避難を強いられた人々の訴えは届かなかった。傍聴席では、「実費全額賠償」に遠く及ばない結論に抗議する傍聴者が退場させられる一幕も。郡山市から、身重の妻や幼子とともに静岡県に避難した長谷川克己さん(44)は悔し涙を流しながら審査会を傍聴した。「無念だ」と肩を落とす長谷川さんに、率直な想いを寄せていただいた。残念な結論が出されたが、まだあきらめてはいない。「これから避難する方々の道を開くべく頑張りたい」


民の声新聞-一律8万円
政府の避難指示によらない、いわゆる「自主避難」

に対しても実費全額賠償を求めて行われた文科省

での抗議行動。寒風吹きすさぶ中の訴えは残念な

がら届かなかった=東京都千代田区


途中、涙がこぼれて止まらなくなりました。

支援者の方々が、大きな声を続々とあげて退場させられていく光景に、有り難さと情けなさが入り混じってしまいました。

私は、これから避難する方々の道を開くことが自分の役目であり、名誉回復の道だと信じてやってきました。

福島全域が認められなかったことにより、当然、他県からの避難者の道は断たれ、12月を区切りにすることで、福島は、「缶詰め」にされるのだなと感じております。

無念です。

が、諦めずに道を開くべく頑張ります

つい最近までは、不本意な内容なら、訴訟しかないと思っておりました。

しかし、今は、少し疲れたとも実感しております。

ただ、やはり、誰かが声を上げていかなければならないことを、他人任せにしてはいけないなと思います。

その場合、訴訟が一つの手段なのだろうとは思います。

しかし、金も時間も消耗している人達に「あとは個々でやって下さい」とは、原賠審も酷なことを言うなと感じております。


◆     ◆     ◆


この日の審査会では、政府の避難指示が及ばない地域からの県外避難者(いわゆる自主避難者)と避難せずに福島に残った人に対し、23の市町村を対象に一律8万円の賠償を認める指針が決められた。妊婦と18歳以下の子どもは40万円。

白河市や会津若松市など26市町村は対象外。対象区域の人口は150万人だが、対象から外された地域からの県外避難者も1164人いる(3/15現在)。

毎日新聞は、審査会長・能見善久学習院大教授の「恐らくもっと(費用が)かかっている方はおられ、不満があるのは当然と思うが、共通して賠償を認めても問題なさそうな金額として算定した」という談話を報じている。

(了)


12/6に開催された「第18回原子力損害賠償紛争審査会」の配付資料はこちら

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaiha

県外避難者を区別するな~「自主避難」にも全額実費賠償を

ある者は幼い子の手を引き、またある者は身重の妻を支えながら必死に県外へ逃げた。福島原発事故から間もなく9カ月。被曝回避のためすがる思いで安住の地を求めた彼らを待っていたのはしかし、原発からの距離や机上の被曝想定による線引きと、いわれなき中傷だった─。18回目の原子力損害賠償紛争審査会が開かれた6日午後、福島県外への避難を強いられた人々が文部科学省前で「自主避難」の厳しい現実を報告。警戒区域外からの避難に対しても全額実費賠償するようアピールした。原発事故がなかったら家族は引き裂かれることもなく、「そんなに金が欲しいのか」と中傷されることもなかった。それでも立ち上がった被災者たち。彼らの要求はわがままではない。避難に要した実費の全額賠償。それだけだ。国の指示による避難でないというだけで避難民が差別されることは絶対に許されない。政治家、官僚、東電幹部は民の声に真摯に耳を傾けよ



【誰も望んで避難などしない】

郡山市から都内に避難している母親は静かに語り始めた。

「私たちは指示もないのに勝手に逃げているのでしょうか。強制的な避難と何が違うんですか」

話しながらあふれる涙をこらえきれない。

「原発から20km圏内は危なくて、どうして50kmの私たちは安全なのですか?風は日々どのように吹いていますか?安全だ安全だと言っておいて、なぜ今ごろ福島米からセシウムが検出されるのですか?なぜ安全なのに18歳未満の子どもの医療費が無料になるんですか? なぜなぜ…」

一緒に並んでいるわが子を思うと、望まない避難を強いられた悔しさがこみ上げる。

「佐藤知事、聞いていますか?私たちは福島に帰れますか?福島に帰りたい…」


福島市渡利地区から母子避難した女性は、福島市職員の夫との別居を強いられている。

住むことのできなくなった自宅の住宅ローンを払いながらの避難。「必要もないのに勝手に避難して補償を求めていると思われているのが悔しい。子どもたちの命を守るために、やむにやまれず避難していることを分かって欲しい」

休日に逢いに来る父親を、子どもたちがどれだけ楽しみにしていることか。

「一家団欒はあっという間に終わる。福島に戻る夫に子どもたちが泣きながらしがみつくんですよ。夫も泣いています。どうして、こんなにも苦しい思いをしなければならないのでしょうか。いつまでさまよい続けなければならないのでしょうか」

妻であり母であるこの女性はもはや、心身ともに限界に達している。これが「自主避難」という名で「県外避難を強いられた人々」の実体。

このメッセージを託された女性もまた、4歳の娘とともに福岡県へ避難している。

「私たちが失ったものの大きさを分かってください。ぜひ、関心を向けてください」
民の声新聞-文科省①

文科省前で行われたアピール。

女性は涙ながらに訴えた。

「全額実費賠償を求めることがわがままですか」

=東京都千代田区

【後々のためにも中傷に負けず闘う】

「これは名誉回復と権利主張なんです」

介護福祉士・長谷川克己さん(44)が住み慣れた郡山市から静岡県富士宮市に避難したのは、震災から5カ月が経過した8月11日のことだった。決断までに時間は要したが、妻は2人目の子どもを妊娠していた。5歳の子どもとともに動かないわけにはいかなかった。

妊娠が分かったのは原発事故の後。エコー診断で連結性双生児の疑いを指摘された。被曝の懸念が膨らむ。産んで良いかと聞く妻に「産もう」と答えた。妻は、仏壇の前でエコーの写真を握りしめて号泣した。自宅内の放射線量を測ると高い値が出る。「もうこんなところには住めない」。費用、転職、不安のなかで避難を決意した。

避難先で知り合った人の言葉が忘れられない。

「放射性物質が降っているのは学校や側溝だけではないだろう。森にも全部降り注いでいるではないか。それを除染で全部片づけるなんて無理じゃないか」

福島にいては被曝を回避できない。しかし、経済的な負担が重くのしかかる。「数値が基準値以下だから大丈夫なんだ」という空気感は郡山で嫌というほど味わった。県外避難を進めるためにも、全額実費賠償という「権利」は何としても勝ち取りたい。
一方で有形無形の中傷を受ける。ネット上での中傷は、途中で読む気をなくさせるものだった。

「そんなに金が欲しいのか、と。そんなことを言われるくらいなら静かに黙々と生きていこうかとくじけそうになる」

だからこそ、この闘いは名誉回復でもあるのだ。

幸い、お腹の赤ちゃんは順調に育っているという。連結性双生児の心配もなくなった。

「いま、福島の人間が騒がないと後が続かなくなる。後々必ず、関東でも同じような問題になりますよ。だからこそ、誹謗中傷を受けながらもやらなきゃならんのです」

新しい命の誕生は、来年2月の予定だ。
民の声新聞-文科省②
郡山市から富士宮市に避難した長谷川さん。

「誹謗中傷を受けると、こんなことやめて静か

に暮らして行こうかとも考えます。でも、これは

勝ち取らなければならない権利なんです」


【わがままではない、当然の権利】

「福島老朽原発を考える会」の阪上武さんらは5日、「計画的避難区域内からであろうと区域外からであろうと、賠償項目は同じく避難費用の実費賠償にするべき」「賠償を認める期間は最低でも二年間とするべき」などとする緊急要請書を、東電の西澤俊夫社長や原子力損害賠償紛争委員会にあてて提出した。

11月25日の同委員会で「自主避難者・残留者を問わず、すべて一律同額賠償」の方向性が打ち出されたことに対する抗議で、阪上さんは「母子避難の場合は二重家計で負担が大きい。一律同額にされてしまうと、避難にかかったすべての費用を参入することができなくなってしまう。どこに住んでいようとも、実際にかかっている費用を全額補償するべきだ」と訴えた。

実際、年間被曝限度量が1mSVから20mSVに引き上げられ、「計画的避難区域」も飯舘村や川俣町など5つの地域しか指定されていない。福島市や郡山市など東北新幹線沿いの町では依然として、高い放射線量が計測されているのは既に報じた通りだが、これらの住民が避難する場合にはすべて「自主避難」として扱われる。年間被曝量が「20mSVに達しないであろう」という机上の計算だけで福島のヒバクシャが区別される愚行が着々と進行しているのだ。

文科省前でマイクを握った女性は、寒さと緊張で手を震わせながら言った。

「私たちはわがままを言っているのではありません。実費を補償してほしいだけなのに、どうしてこんなにも難しいのでしょうか」

(了)

【現地リポート】 240日後の福島は今(下)~『郡山のホットスポット・開成山公園を封鎖せよ』

小学生の男の子は言った。「何でマスクをしなきゃいけないの?」。そして、笑顔で手を振って見せた。「放射能?気にしない気にしない」─。親からもマスクをするよう言われなくなった子どもたちは、毎時1μSVを超える公園で被曝サッカーに興じ、通学路で毎日のように放射性物質を吸い込んでいる。本来であれば秋の風物詩であるはずの落ち葉が、放射線を放つ。汚染落ち葉をため込んだ公園は、どこもかしこもホットスポット。そのすぐ近くで生活している子どもたち。郡山市内でも有数の高線量地帯・開成山公園は、ただちに封鎖して立ち入り禁止にするべきだ。もはや小手先だけの「除染」など、限界をとっくに過ぎていることに目を向けよ。行政は汚染落ち葉の焼却処分をやめよ。同公園で目にした現実は、目を背けたくても背けるわけにはいかない子どもの危機だった。


【放射能?気にしない気にしない!】

郡山市内。下校途中の小学生。笑顔で家路を急ぐその列に、マスク姿はほとんど無い。

「マスクはしないの?」

と声を掛けると、低学年とおぼしき男の子は一瞬、びっくりしたような、そして申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。

「だって、周りが誰も(マスクを)しないから」

近くにいた女の子もきょとんとした顔でこちらを見ている。

近所の主婦は「こう言っちゃ何だけど、原発事故から8カ月経って『喉元過ぎれば何とやら』でね。マスクをしている子どもはずいぶん減った。意識の高い親はマスクを着けさせているんだろうけど、子どもも嫌がるしね。この辺りの線量が高いことは皆分かっているんだろうけど」とため息をついた。

しばらく歩くと、小さな広場で高学年の男の子たちがサッカーをして遊んでいる。

マスクをしている子などいない。

「マスク?してません。お母さんにも別に言われません。クラスでも、風邪を引いている人くらいしかマスクはしていません」

そのうちの一人と話していると、他の子どもたちも集まってきた。

「マスクはしなくて大丈夫?」

「マスク?何で?」

「この辺り、放射線量が高いんだよ」

「高いって、どのくらい?ここ高いんですか?」

「毎時1.00μSVを超えているよ」

「うそ!やばっ」

「マスクしないと危険だよ」

「大丈夫だよ。放射能?気にしない気にしない。面倒くさいしさ」

一人の子どもが線量に驚くと、別の子が危機感をかき消すように割って入り、輪は解けた。

子どもの世界でもマスクをしづらい雰囲気があるのだろうか。

親や学校、行政がマスク着用を積極的に呼びかけないとこうなる。

郡山市内の幼稚園では、園児のマスク着用は各家庭の判断に任せている。結果、「マスクをしている子の方が少ない。園として、マスクをするように求めるのは難しいです」とマスク姿の若手女性保育士は苦しい胸の内を明かした。

国や東電が「工程表」の着実な達成をアピールする中、こうして日々、子どもたちが被曝しているのが現状なのだ。
民の声新聞-4.01


民の声新聞-誰もいない公園
開成山公園内の落ち葉に測定器を近づけると、毎時4μSVを超えた。

この公園で子どもを遊ばせる親は、さすがにいない=郡山市


【日々燃やされる汚染落ち葉】

郡山市役所と向かい合うように位置する開成山公園はすっかり秋の装い。本来であれば紅葉狩りにふさわしい場歩だが、市内でも有数のホットスポットであることは多くの市民に知られている。陸上競技場や野球場を持ち、今年はプロ野球の公式戦(巨人vsヤクルト)が開催され、夏の高校野球予選会もここで行われた。既に、来年夏のプロ野球公式戦(巨人vs中日)が決定している。「がんばっぺ」の大合唱の下、ホットスポットが封鎖されることなくむしろ、集客の材料になっている。

公園入口で路線バスを下りると、コートのポケットに入れたガイガーカウンターが警報音を放つ。

毎時1.70μSV。

測定器を落ち葉だまりに近づけると、警報音は一層、激しくなった。

警報音を聴きつけて、散歩中の中年夫婦が声を掛けてきた。測定器をのぞき込む。数値は毎時3.17μSVを示していた。

「ここ、開成山公園は放射線量が高いのに行政は実数を発表しないんだ。空間線量の低いやつばかり出す。私の自宅近くでも側溝の中では毎時8.00μSVを超えたよ。行政は側溝の中だから影響無いって言うんだろうけど、子どもたちが吸うという意味では同じだからね」

公園内の落ち葉は、軒並み毎時3.00μSVを超える高線量。この日は最高で毎時4.01μSVを計測した。さらに驚いたのは、清掃で集められた落ち葉が、ごみ袋に詰め込まれたまま、うず高く積み上げられて放置されているのだ。

作業をしている委託業者に声を掛けると「通常のごみとして回収されるはずです」という。市に確認すると、やはり「富久山クリーンセンターへ運び、通常の家庭ごみと同様に処理する」とのこと。つまり、郡山市では大量の汚染落ち葉を日々燃やしていることになる。恐るべき被曝の拡散だ。

ビニール袋一枚に詰め込まれた汚染落ち葉からは、高い放射線量が発せられていた。

集積所となっている数カ所でごみ袋に近づけて測ってみたが、いずれも毎時3.00μSVを上回った。

公園での散歩が日課という初老の男性は「子どもたちは将来があるから心配だ。ここから放射性物質があちらこちらに舞って拡散するじゃないか。今からでも遅くない。子どもたちのために国や県、市が一体となって被曝回避に取り組むべきだ。郡山市はいったい、何をやっているんだ」と語気を強めた。そして私に頭を下げた。「不安をあおる?とんでもない。福島の現状をありのまま伝えてほしい」

公園内を歩いている間、小さな子どもを連れて歩く親の姿は、さすがに無かった。

民の声新聞-落ち葉3μ超


民の声新聞-落ち葉ごみ①

開成山に限らず、郡山市内の公園ではかき集めた

落ち葉が袋に入れられ積み上げられている。当然、

汚染落ち葉は高濃度の放射線を放つ。これらが

一般ごみ同様、燃やされているというから驚く



【除染でなく子どもの県外疎開を】

福島市職員はつぶやいた。

「線量は下げ止まっているのが実情」

事故直後の超高線量こそ計測されないものの、市役所ロビーに設置されたモニターは、相変わらず毎時1.00μSVを上回る数値が表示されている。これは単純換算で、年間被曝量が8mSVを上回る値だ。決して低減化が軌道に乗っているとは言い難い。

事故から8カ月経ち、ようやく福島県民が気付いた除染(線量低減化)の限界。

除染の先に、再び美しい大地を取り戻せるという幻想。

線量低減化作業によって生じた汚染土や汚染排水の行き場は依然として決まらず、幻想に取りつかれた大人たちは今日も、高圧洗浄で放射性物質を拡散している。夏、めまいがするほどの暑さのなか、熱中症や被曝と戦いながら取り組んできた「除染」はいま、残念だが行き詰っていると言わざるを得ない。

川俣町在住で、子どもの被曝回避のために取り組んでいる佐藤幸子さんは、保育園や福祉施設での自らの線量低減化経験を踏まえたうえで「低減化はまったく効果がない」と言い切る。

「たしかに、一時的に線量は下がる。でも、しばらくするとまた、元の高い数値に戻ってしまう。除染至上主義の結果が、この様です」

マスクを外した子どもたち。

減らない街の放射性物質。

たどり着く答えは一つしかない。

子どもたちの県外疎開を実現させることだ。

小中学生自らが原告となって郡山市を相手取って提起した「ふくしま集団疎開裁判」の判決はまもなく、下される。

(了)
民の声新聞-福島市役所

相変わらず毎時1.00μSVを超す福島市役所

(11/21 13時過ぎ)。市職員は「下げ止まりだ」と

頭を抱える


【現地リポート】 240日後の福島は今(上) ~『米の危機 愛する土地を汚された大波』

コンビニもない静かな農村は、今まで通りに細々と稲作を続けてきただけだった。安全宣言が出されたはずの福島県米。住み慣れた町で生産された玄米からセシウムが検出された福島市大波地区。出荷寸前での「待った」に、住民らは「今までの検査は何だったんだ」と不信感を募らせる。「食べて応援しよう」の大合唱のなか、寒風吹きすさぶ大波地区を歩いた。幹線道路一本だけが市街地と結ぶ交通網の山村。福島原発事故から8カ月が経ち除染が進んだはずにもかかわらず、手にしたガイガーカウンターがけたたましく警報音を轟かせた。高齢化と過疎化が進む農村に、今日も放射性物質が降る。「悪いのは農家じゃない」。住民の言葉を国や東電はどのように受け取めるのか


【天日干しにできない柿の実】

福島駅から路線バスで1時間ほどの山あい。地元の人も「福島のなかでも独特の雰囲気」と言う大波地区。玄米から放射性セシウムが検出された町とは似つかわしくない静かな町。人通りはほとんどなく、唯一の幹線道路をダンプカーが行き交うばかり。正午を過ぎても気温3℃の厳しい寒さのなか歩を進めると警報音が鳴り出し、牧歌的な雰囲気をかき消す。

大きな車が通り過ぎる。少し先で止まると、文部科学やJAEA(独立行政法人日本原子力研究開発機構)の職員たちが測定器を手に降りてくる。首をかしげながらの測定が続く。こちらをちらっと見て足早に車に乗り込んだ。首をかしげたのは、除染の効果が期待したほど上がっていないからだろうか。

児童数がめっきり少なくなった大波小学校からは、音楽の授業のようで縦笛の演奏が聞こえてきた。体育の授業で校庭を使うことはなくなったという。高齢化が進み児童数が減っていた同小。自主避難をする家庭も少なくなく「町はすっかりさびしくなってしまった」と老人はうつむいた。

あちらこちらに柿の木があり、立派な柿がたわわに実っている。中には熟しすぎたものの見られるが、だれも収穫しない。「本来なら干し柿にして出荷するんだが、今年は放射性物質が飛んでいるからできない。自分の家で食べると言っても限界があるから、鳥のエサだわな。仕方ない」と住民の一人。干し柿にするには1カ月以上天日干しにしなければならない。ホットスポットでそんなことをしたらとんでもない汚染干し柿になってしまうことくらい、高齢者の多い大波の人々も分かっている。

幹線道路沿いにある「農村広場」では、参考値とはいえ毎時2.43μSVを計測した。福島市によると「もともと大波の空間線量は高いが、除染で発生した汚染土を仮置きしているから余計に放射線量が高くなっているのではないか」という。
民の声新聞-愛せよ土

足かけ7年かけた国の土地改良事業を記念して設置された石碑。

刻まれた言葉は「愛せよ土」。愛すべき土は放射性物質に汚染された


【大丈夫と言うばかりの行政】

大波地区で生産された米から放射性セシウムが検出されたのは今月16日。地区内の兼業農家が生産した玄米から630ベクレルの値が出た。これを受けて県は同地区で生産された米の出荷を全面停止した。県によれば、同地区米は市場に流通していない。150余りある農家で生産された米を、12月にかけて改めて検査する方針だ。
これまで県が行ってきた検査は何だったのか。

安全宣言が覆された今回のセシウム検出。

同地区に嫁いで45年になる女性は「今頃になってなぜ放射性物質が検出されるのか。今までどこをどう検査していたのか」と怒りを露わにした。

「どこの水田で収穫された米を測ったのか、実際にどのくらいの数値が出たのか、行政に聞いても教えてくれない。ただただ『大丈夫です』と言うばかり。それがこの様だ。迷惑するのは農家なんだよ」。一方で、福島市内の米穀店主は「果たしてあの程度のサンプル数で安全宣言を出して良かったのかと疑問に思うが、農業全体のことを考えると、出荷を控えた時期に早めに宣言せざるを得なかったのではないか」と行政に一定の理解を示す。

この地区は1982年度に始まった国の土地改良事業でようやく農村の形が整った。総工費6800万円、61㌶に及んだ一大事業のおかげで、農地は減ったが道路ができ、農家にも近代化の波が押し寄せた。集落の中心部に建てられた記念碑が、この地区にとって土地改良事業がいかに大きなものだったかをうかがわせる。

89年建立の石碑曰く。

「総ての耕地は雑然と狭小な面を点在し、農道も用排水路もなく、人力以外機械化の導入のない地域であった」

事業完了から23年が過ぎ、細々と稲作を営んできた農村に今度は放射性物質の雨が降る。来年以降も出荷が解禁される見通しは、ない
民の声新聞-干し柿にできない

たわわに実った柿だが、収穫はされない。

天日干しして干し柿に加工できないからだ

【外食産業の買い占めで県外産米が高等】

郡山市内で25年にわたって自家精米の小売店を営んでいる女性は、「先日、町内会で放射線量を測ったら、荒れ果てた空き家の前で毎時22μSVもあった。この辺りが高いのは分かっている。子どもや妊婦は注意しなければいけないと思う」と表情を曇らせた。

今まで秋田産米は扱っていなかったが、顧客のニーズも考慮して仕入れた。しかし、これまで西郷村など福島県内の農家と大口契約をしていた外食産業が新潟や秋田の米を大量に買い占めたことなどが手伝って、福島県外産の米が高騰しているという。とはいえ、そのまま小売価格に反映させるわけにもいかず板挟みの状態で販売を続ける。「農家は東電の補償を受けられるが、私たち小売店は受けられない。仕入れた米が売れなければ大損」。そんな愚痴が口をつくのも無理はない。

農家が「風評被害」を叫ぶことには、複雑な思いもある。

帰宅した夫が怒りをぶちまけた。

「取引先の農家は、自分の孫に県外産の米を食わせているらしい。自分で作った福島県産米は散々売りつけておいて酷いではないか

福島県産米が県外産米とブレンドされて流通している、という噂も否定しない。

「たとえば魚沼産米。そんなに多く収穫されているはずもないのに多く流通している。主人は魚沼産米は扱わない。何が混ぜられているか分からないから。だから、福島県産米が県外産米とブレンドされている可能性は十分にあると思う」
皮肉なことに、今年の福島米は出来が良いという。「天候不順に悩まされた昨年に比べてはるかに美味しい。ぜひ多くの人に食べてもらいたいのだけれど…」。

「福島の米も他の食べ物も放射性物質を含んでいるとは思う。でもね、信じるしかないのよ、そうでなけりゃ、ここで生活できないもの。避難するって言ったって、お金さえあれば逃げたいけれど、商売放り出して行くわけにもいかない。それにね、福島県人として福島県産を食べてあげたい。私にはそういう覚悟がある。覚悟と言ったらおかしいかしら」。高線量地帯で暮らして行かざるを得ない者の苦悩に言葉を失う。

この取材から3日後の25日、再び大波地区で生産された玄米から放射性セシウムが検出された。検出値は、最高で1270ベクレル。これで、同地区から検出された汚染米の生産者は計6戸になった。この女性が悲痛な覚悟を決めている間に、被曝や汚染は拡大している。住み慣れた土地が放射性物質に汚された悲しみはいかばかりか。大波地区の住民は、泣きそうな表情でつぶやいた。

「皆ね、セシウムが出てしまった農家さんを責めないよ。逆に『あんたが悪いんじゃない。あんたのせいじゃないよ』って励ますの。だってそうでしょ。その人が何をしたって言うの?悪くないでしょ」

(了)


民の声新聞-大波地区の農地

民の声新聞-2.43マイクロシーベルト

厳しい冬を迎えた大波地区の農地(上)

農村広場では毎時2.43μSVを計測した(下)

行政はできない理由を並べる前に実現へ努力せよ~闘う三郷市の母親たち

子どもの被曝を回避したい母親たちの訴えに、市が用意した答えは「NO」だった。〝首都圏のホットスポット〟と呼ばれる埼玉県三郷市の母親らでつくる市民団体「放射能から子ども達を守ろう みさと」(名取知衣子代表)が16日、三郷市役所で市側と話し合いを持ち、学校給食の食材事前公表や出筒・弁当持参の一斉許可、詳細な放射線量測定の結果公表などを求めた。しかし、市側はできない理由を並べるばかりで消極的そのもの。結局、2時間近くの話し合いで、前向きな回答は何一つ出なかった。同市は市による測定で、学校や運動公園などで毎時0.3μSV以上が計測される高線量地域。にもかかわらず、当局の反応は鈍く淡々としたやり取りに終始。わが子の被曝に不安を抱く母親と行政との温度差をまざまざと見せつけられた。



【市民と行政とで差がある安心への思い】

 本当に子どもを守る気概があるのか、耳を疑うような言葉が並んだ。

 母親の一人から学校給食の食材産地を事前に公表するよう求められると「混乱するからできない」と突っぱねた。同市は毎週火曜日に翌週の献立に応じた食材の仕入れ量などを決めるが「生鮮品は、当日の天候などによって市場への入荷が予定通りにいかないことが多々ある」と市幹部。必ずしも事前に公表した通りの食材を使うとは限らないとして、今後も事前に産地を公表することはないと答えた。米については「地元埼玉の『彩のかがやき』を年度末まで使う」とした。

 これに対し、母親からは「私たちはなるべく福島原発から遠い産地の食材を選ぶなど、子どもを内部被曝させないよう非常に気を遣っている。八潮市は事前公表しており、不可能ではないはず。仮に発表後に変わっても構わないから、安心を担保するためにも事前公表を実現させてほしい」との声が上がったが、市側の姿勢は変わらなかった。

 水筒や弁当持参に関しても市の姿勢は否定的。

 学校給食や牛乳、水道水を口にさせたくないという親もいる。そこで「学校によって対応がまちまち。水筒や弁当を持参して登校するという選択も認めるよう、市として各学校に指示してほしい」と母親が求めたが、市側は「水道水への不安と言うが、毎日検査しており放射性物質は検出されていない。全くの安全だと言っていい」と正面から取り合わなかった。

 サツマイモ掘りなど課外授業に関しても「学校長の職務権限を侵せない」として、市による一斉禁止を拒否した。「うがいや手洗いなど、放射能に限らず生活習慣の指導はするよう日頃から指示している」と回答にならない回答。挙げ句は「地域の方から畑を借りている場合、学校長の立場ではその農地を『危ない』とは心情的に言いづらい」と語る始末。この市教委幹部は、校長経験者だった。

 午後3時までの約2時間、主体的・積極的な対応を求める親たちに対し、市側は実施できない、不可能な理由を述べることに終始した。母親の一人が思わず「内部被曝が心配なんです。『安心』に対する感覚がずれていると言わざるを得ない」と詰め寄ったが、市幹部の胸には響かなかった。

民の声新聞-みさと①

放射能対策室や市教委の幹部が出席して開かれた「懇談会」。

市側からの前向きな回答は皆無だった


【「放射能管理強化ゾーン」に相当】

 母親たちが行政の積極的な取り組みを求める背景には、独自に行った土壌汚染調査がある。

 8/14から9/24にかけて市内の小学校や運動公園など7カ所で土を採取。株式会社理研分析センターに分析を依頼した。

 その結果、ある小学校の校庭ではセシウム137が1600Bq/kgと、福島原発事故前の2009年7月に文部科学省が行った計測結果(6.2Bq/kg)の約260倍の値を計測。別の小学校では体育館脇の側溝の土が同134、137の合算で59000q/kgにも達した。これは、1㎡当たりで換算すると3835000Bqに相当するという。空間線量も、「計測方法が統一されていないためあくまで参考値」としながらも、毎時0.3μSV~0.61μSVと高い値になった。土壌汚染が確認された小学校の側溝では、表面で毎時5.8μSVになった。

 グループでは、ウクライナがチェルノブイリ原発事故の後に法で定めた汚染地域の定義を参照。同国では37000~185000Bq/㎡を「放射能管理強化ゾーン」(事故に伴う被曝量が年間1mSV以下という条件で居住が認められる)としていることから、「セシウム134、137の合算で考えれば、調査した地点のほとんどがこれに該当する可能性がある」として危機感を募らせたのだ。

 さらに、土壌調査結果を神戸大学の山内和也教授(放射線エネルギー応用科学)に送付。「学校の屋上を計測してほしい。砂やほこりなどがセシウムを相当含んでいると思われる。江戸川河川敷の線量も調査してほしい。汚染されている土が乾燥して風が吹けば、再び放射性物質が散逸することにつながる」とのコメントを得た。

 この日も学校施設での詳細な調査と数値の公表を市側に求めたが、市側は名言せず消極的な姿勢。ついには「保育園では複数個所での調査を行っており、データは持っている。積極的に公表はしないが、知りたければ問い合わせてほしい。そうすれば教える」と言い放つ市幹部。主権者たる市民に対する姿勢とはとても思えない発言に終了後、母親たちからは怒りの声も上がった。
民の声新聞-みさと②
話し合い終了後、反省会で今後の活動を方針を話し合ったメンバーたち。

子どもを守るためあきらめず継続して活動していくことを確認した


【あきらめず交渉を継続】

 消化不良に終わった話し合いだが、名取代表は「親たちがどのような思いで子どもを学校に通わせているか、何が不安なのか、ママさんたちの思いを直接伝えられたという意味では良かったのではないか。そういう不安を抱いた、ごく普通の親たちの集まりなんだということを見せつけられたのは良かったと思う」と評価した。

 限られた時間、慣れない場での発言…。初めから大きく前進するとは思っていなかった。それよりも、このような場を作れたことに意義を感じていた。温度差を埋めるには粘り強い訴えしかないからだ。

 その上で「今回も市の言い分はこれまでと変わっていない。これからどうやって実りある活動にしていくかが課題。あきらめず継続して交渉していけば、実のあるものになるはずだ」。当局との交渉と並行して、活動に参加していない一般市民への啓発活動(講演会や勉強会など)も行っていくという。


 放射能から子ども達を守ろう みさと」は6月、約70人の母親たちで正式発足。会員数は160人にまで増えた。独自の放射能測定を続ける一方で8/25と9/15には三郷市に学校の安全や汚染土壌の処理などに関する要望書を提出。今回の話し合いは、10/20に市側から寄せられた回答書を受けて設けられた。

 これまで、市は市内の小学校8校で線量低減化に取り組んでおり、出席した母親たちは「素早く対応してもらったこと自体は素直に感謝したい。これからも子どもの被曝回避のために尽力してほしい」と頭を下げる一幕もあった。

6/11に開設されたホームページ(http://www.infopara.com/ )は、これまで17万アクセスを記録。掲示板へのアクセスは12万を超えるという。

 「それだけ、不安を抱いている親が多いということ」と名取代表。

 子どもたちのために、親たちの安心のために、行政との交渉は続く。行政はできない理由を並べる前に、実現させるための方策を探すべきだ。未来を担う子どもたちの生命が脅かされているのだ。


(了)