【現地リポート】 240日後の福島は今(下)~『郡山のホットスポット・開成山公園を封鎖せよ』
小学生の男の子は言った。「何でマスクをしなきゃいけないの?」。そして、笑顔で手を振って見せた。「放射能?気にしない気にしない」─。親からもマスクをするよう言われなくなった子どもたちは、毎時1μSVを超える公園で被曝サッカーに興じ、通学路で毎日のように放射性物質を吸い込んでいる。本来であれば秋の風物詩であるはずの落ち葉が、放射線を放つ。汚染落ち葉をため込んだ公園は、どこもかしこもホットスポット。そのすぐ近くで生活している子どもたち。郡山市内でも有数の高線量地帯・開成山公園は、ただちに封鎖して立ち入り禁止にするべきだ。もはや小手先だけの「除染」など、限界をとっくに過ぎていることに目を向けよ。行政は汚染落ち葉の焼却処分をやめよ。同公園で目にした現実は、目を背けたくても背けるわけにはいかない子どもの危機だった。
【放射能?気にしない気にしない!】
郡山市内。下校途中の小学生。笑顔で家路を急ぐその列に、マスク姿はほとんど無い。
「マスクはしないの?」
と声を掛けると、低学年とおぼしき男の子は一瞬、びっくりしたような、そして申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。
「だって、周りが誰も(マスクを)しないから」
近くにいた女の子もきょとんとした顔でこちらを見ている。
近所の主婦は「こう言っちゃ何だけど、原発事故から8カ月経って『喉元過ぎれば何とやら』でね。マスクをしている子どもはずいぶん減った。意識の高い親はマスクを着けさせているんだろうけど、子どもも嫌がるしね。この辺りの線量が高いことは皆分かっているんだろうけど」とため息をついた。
しばらく歩くと、小さな広場で高学年の男の子たちがサッカーをして遊んでいる。
マスクをしている子などいない。
「マスク?してません。お母さんにも別に言われません。クラスでも、風邪を引いている人くらいしかマスクはしていません」
そのうちの一人と話していると、他の子どもたちも集まってきた。
「マスクはしなくて大丈夫?」
「マスク?何で?」
「この辺り、放射線量が高いんだよ」
「高いって、どのくらい?ここ高いんですか?」
「毎時1.00μSVを超えているよ」
「うそ!やばっ」
「マスクしないと危険だよ」
「大丈夫だよ。放射能?気にしない気にしない。面倒くさいしさ」
一人の子どもが線量に驚くと、別の子が危機感をかき消すように割って入り、輪は解けた。
子どもの世界でもマスクをしづらい雰囲気があるのだろうか。
親や学校、行政がマスク着用を積極的に呼びかけないとこうなる。
郡山市内の幼稚園では、園児のマスク着用は各家庭の判断に任せている。結果、「マスクをしている子の方が少ない。園として、マスクをするように求めるのは難しいです」とマスク姿の若手女性保育士は苦しい胸の内を明かした。
国や東電が「工程表」の着実な達成をアピールする中、こうして日々、子どもたちが被曝しているのが現状なのだ。
開成山公園内の落ち葉に測定器を近づけると、毎時4μSVを超えた。
この公園で子どもを遊ばせる親は、さすがにいない=郡山市
【日々燃やされる汚染落ち葉】
郡山市役所と向かい合うように位置する開成山公園はすっかり秋の装い。本来であれば紅葉狩りにふさわしい場歩だが、市内でも有数のホットスポットであることは多くの市民に知られている。陸上競技場や野球場を持ち、今年はプロ野球の公式戦(巨人vsヤクルト)が開催され、夏の高校野球予選会もここで行われた。既に、来年夏のプロ野球公式戦(巨人vs中日)が決定している。「がんばっぺ」の大合唱の下、ホットスポットが封鎖されることなくむしろ、集客の材料になっている。
公園入口で路線バスを下りると、コートのポケットに入れたガイガーカウンターが警報音を放つ。
毎時1.70μSV。
測定器を落ち葉だまりに近づけると、警報音は一層、激しくなった。
警報音を聴きつけて、散歩中の中年夫婦が声を掛けてきた。測定器をのぞき込む。数値は毎時3.17μSVを示していた。
「ここ、開成山公園は放射線量が高いのに行政は実数を発表しないんだ。空間線量の低いやつばかり出す。私の自宅近くでも側溝の中では毎時8.00μSVを超えたよ。行政は側溝の中だから影響無いって言うんだろうけど、子どもたちが吸うという意味では同じだからね」
公園内の落ち葉は、軒並み毎時3.00μSVを超える高線量。この日は最高で毎時4.01μSVを計測した。さらに驚いたのは、清掃で集められた落ち葉が、ごみ袋に詰め込まれたまま、うず高く積み上げられて放置されているのだ。
作業をしている委託業者に声を掛けると「通常のごみとして回収されるはずです」という。市に確認すると、やはり「富久山クリーンセンターへ運び、通常の家庭ごみと同様に処理する」とのこと。つまり、郡山市では大量の汚染落ち葉を日々燃やしていることになる。恐るべき被曝の拡散だ。
ビニール袋一枚に詰め込まれた汚染落ち葉からは、高い放射線量が発せられていた。
集積所となっている数カ所でごみ袋に近づけて測ってみたが、いずれも毎時3.00μSVを上回った。
公園での散歩が日課という初老の男性は「子どもたちは将来があるから心配だ。ここから放射性物質があちらこちらに舞って拡散するじゃないか。今からでも遅くない。子どもたちのために国や県、市が一体となって被曝回避に取り組むべきだ。郡山市はいったい、何をやっているんだ」と語気を強めた。そして私に頭を下げた。「不安をあおる?とんでもない。福島の現状をありのまま伝えてほしい」
公園内を歩いている間、小さな子どもを連れて歩く親の姿は、さすがに無かった。
開成山に限らず、郡山市内の公園ではかき集めた
落ち葉が袋に入れられ積み上げられている。当然、
汚染落ち葉は高濃度の放射線を放つ。これらが
一般ごみ同様、燃やされているというから驚く
【除染でなく子どもの県外疎開を】
福島市職員はつぶやいた。
「線量は下げ止まっているのが実情」
事故直後の超高線量こそ計測されないものの、市役所ロビーに設置されたモニターは、相変わらず毎時1.00μSVを上回る数値が表示されている。これは単純換算で、年間被曝量が8mSVを上回る値だ。決して低減化が軌道に乗っているとは言い難い。
事故から8カ月経ち、ようやく福島県民が気付いた除染(線量低減化)の限界。
除染の先に、再び美しい大地を取り戻せるという幻想。
線量低減化作業によって生じた汚染土や汚染排水の行き場は依然として決まらず、幻想に取りつかれた大人たちは今日も、高圧洗浄で放射性物質を拡散している。夏、めまいがするほどの暑さのなか、熱中症や被曝と戦いながら取り組んできた「除染」はいま、残念だが行き詰っていると言わざるを得ない。
川俣町在住で、子どもの被曝回避のために取り組んでいる佐藤幸子さんは、保育園や福祉施設での自らの線量低減化経験を踏まえたうえで「低減化はまったく効果がない」と言い切る。
「たしかに、一時的に線量は下がる。でも、しばらくするとまた、元の高い数値に戻ってしまう。除染至上主義の結果が、この様です」
マスクを外した子どもたち。
減らない街の放射性物質。
たどり着く答えは一つしかない。
子どもたちの県外疎開を実現させることだ。
小中学生自らが原告となって郡山市を相手取って提起した「ふくしま集団疎開裁判」の判決はまもなく、下される。
相変わらず毎時1.00μSVを超す福島市役所
(11/21 13時過ぎ)。市職員は「下げ止まりだ」と
頭を抱える