【現地リポート】 240日後の福島は今(上) ~『米の危機 愛する土地を汚された大波』 | 民の声新聞

【現地リポート】 240日後の福島は今(上) ~『米の危機 愛する土地を汚された大波』

コンビニもない静かな農村は、今まで通りに細々と稲作を続けてきただけだった。安全宣言が出されたはずの福島県米。住み慣れた町で生産された玄米からセシウムが検出された福島市大波地区。出荷寸前での「待った」に、住民らは「今までの検査は何だったんだ」と不信感を募らせる。「食べて応援しよう」の大合唱のなか、寒風吹きすさぶ大波地区を歩いた。幹線道路一本だけが市街地と結ぶ交通網の山村。福島原発事故から8カ月が経ち除染が進んだはずにもかかわらず、手にしたガイガーカウンターがけたたましく警報音を轟かせた。高齢化と過疎化が進む農村に、今日も放射性物質が降る。「悪いのは農家じゃない」。住民の言葉を国や東電はどのように受け取めるのか


【天日干しにできない柿の実】

福島駅から路線バスで1時間ほどの山あい。地元の人も「福島のなかでも独特の雰囲気」と言う大波地区。玄米から放射性セシウムが検出された町とは似つかわしくない静かな町。人通りはほとんどなく、唯一の幹線道路をダンプカーが行き交うばかり。正午を過ぎても気温3℃の厳しい寒さのなか歩を進めると警報音が鳴り出し、牧歌的な雰囲気をかき消す。

大きな車が通り過ぎる。少し先で止まると、文部科学やJAEA(独立行政法人日本原子力研究開発機構)の職員たちが測定器を手に降りてくる。首をかしげながらの測定が続く。こちらをちらっと見て足早に車に乗り込んだ。首をかしげたのは、除染の効果が期待したほど上がっていないからだろうか。

児童数がめっきり少なくなった大波小学校からは、音楽の授業のようで縦笛の演奏が聞こえてきた。体育の授業で校庭を使うことはなくなったという。高齢化が進み児童数が減っていた同小。自主避難をする家庭も少なくなく「町はすっかりさびしくなってしまった」と老人はうつむいた。

あちらこちらに柿の木があり、立派な柿がたわわに実っている。中には熟しすぎたものの見られるが、だれも収穫しない。「本来なら干し柿にして出荷するんだが、今年は放射性物質が飛んでいるからできない。自分の家で食べると言っても限界があるから、鳥のエサだわな。仕方ない」と住民の一人。干し柿にするには1カ月以上天日干しにしなければならない。ホットスポットでそんなことをしたらとんでもない汚染干し柿になってしまうことくらい、高齢者の多い大波の人々も分かっている。

幹線道路沿いにある「農村広場」では、参考値とはいえ毎時2.43μSVを計測した。福島市によると「もともと大波の空間線量は高いが、除染で発生した汚染土を仮置きしているから余計に放射線量が高くなっているのではないか」という。
民の声新聞-愛せよ土

足かけ7年かけた国の土地改良事業を記念して設置された石碑。

刻まれた言葉は「愛せよ土」。愛すべき土は放射性物質に汚染された


【大丈夫と言うばかりの行政】

大波地区で生産された米から放射性セシウムが検出されたのは今月16日。地区内の兼業農家が生産した玄米から630ベクレルの値が出た。これを受けて県は同地区で生産された米の出荷を全面停止した。県によれば、同地区米は市場に流通していない。150余りある農家で生産された米を、12月にかけて改めて検査する方針だ。
これまで県が行ってきた検査は何だったのか。

安全宣言が覆された今回のセシウム検出。

同地区に嫁いで45年になる女性は「今頃になってなぜ放射性物質が検出されるのか。今までどこをどう検査していたのか」と怒りを露わにした。

「どこの水田で収穫された米を測ったのか、実際にどのくらいの数値が出たのか、行政に聞いても教えてくれない。ただただ『大丈夫です』と言うばかり。それがこの様だ。迷惑するのは農家なんだよ」。一方で、福島市内の米穀店主は「果たしてあの程度のサンプル数で安全宣言を出して良かったのかと疑問に思うが、農業全体のことを考えると、出荷を控えた時期に早めに宣言せざるを得なかったのではないか」と行政に一定の理解を示す。

この地区は1982年度に始まった国の土地改良事業でようやく農村の形が整った。総工費6800万円、61㌶に及んだ一大事業のおかげで、農地は減ったが道路ができ、農家にも近代化の波が押し寄せた。集落の中心部に建てられた記念碑が、この地区にとって土地改良事業がいかに大きなものだったかをうかがわせる。

89年建立の石碑曰く。

「総ての耕地は雑然と狭小な面を点在し、農道も用排水路もなく、人力以外機械化の導入のない地域であった」

事業完了から23年が過ぎ、細々と稲作を営んできた農村に今度は放射性物質の雨が降る。来年以降も出荷が解禁される見通しは、ない
民の声新聞-干し柿にできない

たわわに実った柿だが、収穫はされない。

天日干しして干し柿に加工できないからだ

【外食産業の買い占めで県外産米が高等】

郡山市内で25年にわたって自家精米の小売店を営んでいる女性は、「先日、町内会で放射線量を測ったら、荒れ果てた空き家の前で毎時22μSVもあった。この辺りが高いのは分かっている。子どもや妊婦は注意しなければいけないと思う」と表情を曇らせた。

今まで秋田産米は扱っていなかったが、顧客のニーズも考慮して仕入れた。しかし、これまで西郷村など福島県内の農家と大口契約をしていた外食産業が新潟や秋田の米を大量に買い占めたことなどが手伝って、福島県外産の米が高騰しているという。とはいえ、そのまま小売価格に反映させるわけにもいかず板挟みの状態で販売を続ける。「農家は東電の補償を受けられるが、私たち小売店は受けられない。仕入れた米が売れなければ大損」。そんな愚痴が口をつくのも無理はない。

農家が「風評被害」を叫ぶことには、複雑な思いもある。

帰宅した夫が怒りをぶちまけた。

「取引先の農家は、自分の孫に県外産の米を食わせているらしい。自分で作った福島県産米は散々売りつけておいて酷いではないか

福島県産米が県外産米とブレンドされて流通している、という噂も否定しない。

「たとえば魚沼産米。そんなに多く収穫されているはずもないのに多く流通している。主人は魚沼産米は扱わない。何が混ぜられているか分からないから。だから、福島県産米が県外産米とブレンドされている可能性は十分にあると思う」
皮肉なことに、今年の福島米は出来が良いという。「天候不順に悩まされた昨年に比べてはるかに美味しい。ぜひ多くの人に食べてもらいたいのだけれど…」。

「福島の米も他の食べ物も放射性物質を含んでいるとは思う。でもね、信じるしかないのよ、そうでなけりゃ、ここで生活できないもの。避難するって言ったって、お金さえあれば逃げたいけれど、商売放り出して行くわけにもいかない。それにね、福島県人として福島県産を食べてあげたい。私にはそういう覚悟がある。覚悟と言ったらおかしいかしら」。高線量地帯で暮らして行かざるを得ない者の苦悩に言葉を失う。

この取材から3日後の25日、再び大波地区で生産された玄米から放射性セシウムが検出された。検出値は、最高で1270ベクレル。これで、同地区から検出された汚染米の生産者は計6戸になった。この女性が悲痛な覚悟を決めている間に、被曝や汚染は拡大している。住み慣れた土地が放射性物質に汚された悲しみはいかばかりか。大波地区の住民は、泣きそうな表情でつぶやいた。

「皆ね、セシウムが出てしまった農家さんを責めないよ。逆に『あんたが悪いんじゃない。あんたのせいじゃないよ』って励ますの。だってそうでしょ。その人が何をしたって言うの?悪くないでしょ」

(了)


民の声新聞-大波地区の農地

民の声新聞-2.43マイクロシーベルト

厳しい冬を迎えた大波地区の農地(上)

農村広場では毎時2.43μSVを計測した(下)