無人島・猿島に郵便が届く?
ふとした事がきっかけだった。
職場で何気なくめくっていた郵便番号簿。
その一行を見逃さなかった。
「横須賀市猿島 238-0019」
??????
しばらく凝視したまま考える。
「猿島は無人島ではなかったっけ?」
横須賀を離れていた間に誰かが常駐するようになったのか?
たまらず隣席の女子に声をかける。
「猿島に郵便番号がふられてるよ!」
しかし、反応は非情だった。
「猿島?猿がいるの?」
あゝそこから説明しないと駄目なのか。
東京湾唯一の自然島でさ、10年くらい前に航路が再開して、でも無人島のはずなんだよな…。
張り切って話すだけ無駄だった。彼女との会話は一言で終わった。
「ふ~ん。知らな~い」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
横須賀郵便局の窓口の女性は、戸惑いの表情を隠せずに微笑を浮かべるのが精一杯の様子だった。
土曜の昼下がり。まさか猿島の郵便番号について尋ねられるとは思うまい。
「誰も住んでないですからね~。観光客の方が送ったりするのでしょうか。その場合は乗船して届けることになるのだろうけど、聞いたことないですね」
丁寧にそう答えてくれた彼女に礼を言い、船着き場へ急いだ。せっかくの機会だ。10年ぶりの猿島に渡ることにした。船賃は往復で1200円。気づいたら郵便番号のことなど忘れていた。高鳴る期待にワクワクしながら乗船を待つ列に加わった。
「しーふれんど2号」が真っ白い波しぶきをあげながら水面を走る。カップルや家族連れでにぎわう船内には笑顔が飛び交う。わずか10分だけど、非日常の楽しい船旅。風は強いが、夏を思わせる陽射しが心地いい。さあ、上陸だ。
一昨年に完成したばかりの浮き桟橋に迎えられ島に入る。航路が再開された頃よりだいぶ垢抜けた印象を受けた。足場が良くなり、看板が増え、プレハブ小屋のようだった売店も立派になった。食事や休憩に使えるスペースも整備された。当時、課題として挙げられていたインフラ整備が一通り終わり、観光地としての「顔」が出来上がっていた。(蛇足だが浮き桟橋は昨年、台風の直撃を受け、ドンキホーテや大津漁港のある辺りまで流されているので、2代目となる)
感慨に浸っている場合ではない。
(株)トライアングルの男性スタッフにさっそく疑問をぶつけた。
「あー、あの話なら知ってますよ」
「よく聞かれます?」
「いや、そういうわけえはないですけど…」
恐る恐る郵便番号の話を切り出すと、彼は意外にも我が意を得たりという表情をした。そして、こんなことを言い出したのだ。
「ここには住所があるんですよ。『神奈川県横須賀市猿島1』。だからじゃないですか?郵便番号があるのは。でも、誰も住んでませんし夜中は無人ですけどね」
管理事務所のあるあたりだけ、住居表示が設定されていた。住所がある以上、郵便番号をふらないわけにもいかないようだ。
彼は郵便番号の話もそこそこに、面白い話をたくさん聴かせてくれた。
震災当日は出航命令を受けて深夜まで船中で待機したとか、津波はなかったが潮が激しく引いていったとか、島のトイレはろ過・循環式で鎌倉市からも視察団がやって来たとか…。
猿島は「エコミュージアムとしての運用をめざす」と唱われているが、砂のプールで細菌に分解させるトイレはその象徴といえる。これについては、また次の機会で。
島内は、きれいになりすぎたと思うくらい歩きやすくなった。
ゆるやかな坂道を上る。トンネルに続く切通。左右には旧日本海軍の要塞だった面影が残る。うっそうと生い茂った木々のすき間から陽光が注ぐ。都心からほんのわずかな移動で味わえる非日常の空間。砂浜でのバーベキューも楽しそうだが、散策もなかなか楽しい。森の持つ癒し効果を堪能できる。
30分ほど進むと、島の裏側にあたる岩場に出られる。眼前に広がる東京湾。釣りやアサリ採りに興じる人もいる。波しぶきで洗われた岩場はかなり歩きにくいので女性は要注意。しばらく佇んでいると錯覚してしまうがここは伊豆ではない。横須賀だ。
観光客が増えればマナー違反も目立つのは宿命。砂浜でのトンビへのエサやり、ゴミのポイ捨て。だが、歴史的遺産に落書きを彫るのはいただけない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時間を忘れていた。いけないいけない。本土への最終便は17:00。乗り遅れたら取り残されてしまう。もっとも、トライアングルのスタッフが上陸した人と帰りの船に乗った人の数を確認しているので、これまでそのようなアクシデントはないらしい。売店には非常時に船に迎えに来てもらう(別料金)ための非常ボタンもあるが、使用例はないとのこと。「霊感の無い私でも不思議な体験をしていますから、いたずら心で残ったりしない方が良いですよ」(男性スタッフ)
船着き場へ向かうと、既に長い列が伸びていた。しかし、これでも例年の8割程度の客足という。
「震災の影響でレジャーに目が向かなかったのでしょうか。ゴールデンウィークは半分ほどの人出でした。夏休みは多くのひとでにぎわって欲しいのですが…」(同)。これだけの観光地を利用しないのはもったいない。昨年は、中学校の文化祭が島で開かれた。とても面白い試みだと思う。
さて、郵便番号の話。実際にハガキを出したらどうなるか。三笠公園発着所のトライアングル社員が丁寧に答えてくれた。
「実際に誰も住んでませんし、この事務所で受けとることになります。郵便局の方が船で島まで届けるというのは無いでしょうね。これまでに3回ほど郵便物が届きましたが、お返ししました」
※猿島航路に関する問い合わせは(株)トライアングル 046(825)7144まで
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職場で何気なくめくっていた郵便番号簿。
その一行を見逃さなかった。
「横須賀市猿島 238-0019」
??????
しばらく凝視したまま考える。
「猿島は無人島ではなかったっけ?」
横須賀を離れていた間に誰かが常駐するようになったのか?
たまらず隣席の女子に声をかける。
「猿島に郵便番号がふられてるよ!」
しかし、反応は非情だった。
「猿島?猿がいるの?」
あゝそこから説明しないと駄目なのか。
東京湾唯一の自然島でさ、10年くらい前に航路が再開して、でも無人島のはずなんだよな…。
張り切って話すだけ無駄だった。彼女との会話は一言で終わった。
「ふ~ん。知らな~い」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
横須賀郵便局の窓口の女性は、戸惑いの表情を隠せずに微笑を浮かべるのが精一杯の様子だった。
土曜の昼下がり。まさか猿島の郵便番号について尋ねられるとは思うまい。
「誰も住んでないですからね~。観光客の方が送ったりするのでしょうか。その場合は乗船して届けることになるのだろうけど、聞いたことないですね」
丁寧にそう答えてくれた彼女に礼を言い、船着き場へ急いだ。せっかくの機会だ。10年ぶりの猿島に渡ることにした。船賃は往復で1200円。気づいたら郵便番号のことなど忘れていた。高鳴る期待にワクワクしながら乗船を待つ列に加わった。
「しーふれんど2号」が真っ白い波しぶきをあげながら水面を走る。カップルや家族連れでにぎわう船内には笑顔が飛び交う。わずか10分だけど、非日常の楽しい船旅。風は強いが、夏を思わせる陽射しが心地いい。さあ、上陸だ。
一昨年に完成したばかりの浮き桟橋に迎えられ島に入る。航路が再開された頃よりだいぶ垢抜けた印象を受けた。足場が良くなり、看板が増え、プレハブ小屋のようだった売店も立派になった。食事や休憩に使えるスペースも整備された。当時、課題として挙げられていたインフラ整備が一通り終わり、観光地としての「顔」が出来上がっていた。(蛇足だが浮き桟橋は昨年、台風の直撃を受け、ドンキホーテや大津漁港のある辺りまで流されているので、2代目となる)
感慨に浸っている場合ではない。
(株)トライアングルの男性スタッフにさっそく疑問をぶつけた。
「あー、あの話なら知ってますよ」
「よく聞かれます?」
「いや、そういうわけえはないですけど…」
恐る恐る郵便番号の話を切り出すと、彼は意外にも我が意を得たりという表情をした。そして、こんなことを言い出したのだ。
「ここには住所があるんですよ。『神奈川県横須賀市猿島1』。だからじゃないですか?郵便番号があるのは。でも、誰も住んでませんし夜中は無人ですけどね」
管理事務所のあるあたりだけ、住居表示が設定されていた。住所がある以上、郵便番号をふらないわけにもいかないようだ。
彼は郵便番号の話もそこそこに、面白い話をたくさん聴かせてくれた。
震災当日は出航命令を受けて深夜まで船中で待機したとか、津波はなかったが潮が激しく引いていったとか、島のトイレはろ過・循環式で鎌倉市からも視察団がやって来たとか…。
猿島は「エコミュージアムとしての運用をめざす」と唱われているが、砂のプールで細菌に分解させるトイレはその象徴といえる。これについては、また次の機会で。
島内は、きれいになりすぎたと思うくらい歩きやすくなった。
ゆるやかな坂道を上る。トンネルに続く切通。左右には旧日本海軍の要塞だった面影が残る。うっそうと生い茂った木々のすき間から陽光が注ぐ。都心からほんのわずかな移動で味わえる非日常の空間。砂浜でのバーベキューも楽しそうだが、散策もなかなか楽しい。森の持つ癒し効果を堪能できる。
30分ほど進むと、島の裏側にあたる岩場に出られる。眼前に広がる東京湾。釣りやアサリ採りに興じる人もいる。波しぶきで洗われた岩場はかなり歩きにくいので女性は要注意。しばらく佇んでいると錯覚してしまうがここは伊豆ではない。横須賀だ。
観光客が増えればマナー違反も目立つのは宿命。砂浜でのトンビへのエサやり、ゴミのポイ捨て。だが、歴史的遺産に落書きを彫るのはいただけない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時間を忘れていた。いけないいけない。本土への最終便は17:00。乗り遅れたら取り残されてしまう。もっとも、トライアングルのスタッフが上陸した人と帰りの船に乗った人の数を確認しているので、これまでそのようなアクシデントはないらしい。売店には非常時に船に迎えに来てもらう(別料金)ための非常ボタンもあるが、使用例はないとのこと。「霊感の無い私でも不思議な体験をしていますから、いたずら心で残ったりしない方が良いですよ」(男性スタッフ)
船着き場へ向かうと、既に長い列が伸びていた。しかし、これでも例年の8割程度の客足という。
「震災の影響でレジャーに目が向かなかったのでしょうか。ゴールデンウィークは半分ほどの人出でした。夏休みは多くのひとでにぎわって欲しいのですが…」(同)。これだけの観光地を利用しないのはもったいない。昨年は、中学校の文化祭が島で開かれた。とても面白い試みだと思う。
さて、郵便番号の話。実際にハガキを出したらどうなるか。三笠公園発着所のトライアングル社員が丁寧に答えてくれた。
「実際に誰も住んでませんし、この事務所で受けとることになります。郵便局の方が船で島まで届けるというのは無いでしょうね。これまでに3回ほど郵便物が届きましたが、お返ししました」
※猿島航路に関する問い合わせは(株)トライアングル 046(825)7144まで
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