【地震と原発】福島の汚染と被曝を繰り返すな。川内原発停めない規制委に怒りの声~熊本地震 | 民の声新聞

【地震と原発】福島の汚染と被曝を繰り返すな。川内原発停めない規制委に怒りの声~熊本地震

熊本を中心に大きな被害をもたらした大地震。誰もが「稼働中の川内原発は大丈夫か」と考えたに違いない。いまだ止まらぬ余震に「川内原発の予防的停止を」との声が高まるが、原子力規制委員会は「停める科学的根拠なし」と門前払い。福島県民の苦しみは生かされないのか。双葉町長として原発事故を最前線で見てきた井戸川克隆さんと、元京大原子炉実験所助教の小出裕章さんの話を中心に、改めて原子力発電の危険性について考えたい。あなたはいつまで、ロシアンルーレットと背中合わせで暮らしていきますか?



【「規制委なんていらない」】

 実際に原発事故当時の首長だけあって、井戸川克隆さん(元福島県双葉町長)の言葉は重い。

 「この期に及んで原発を停められない原子力規制委員会なんて『百害あって一利なし』ですよ。はっきり、そう書いてください。要りませんよ」

 「本当に川内と伊方は心配です。あれだけの地震が起きたら稼働中の川内原発を予防的に停めるのが大人の責任なのに、『揺れで自動停止していないから安全』という論法では…。福島の事故から何も学んでいないですね」

 東京・霞が関の弁護士会館。本来は20日が自身の訴訟の口頭弁論期日だったが、意見相違が続いた弁護団を解団したことにより中止。支援者を前に弁護団解団の経緯が報告された。被曝を強いられ、故郷を追われた1人として、そして「絶対に事故を起こしません」と公務中に東電社員から聞かされてきた元町長として、熊本地震に触れないわけにはいかなかった。

 川内原発のある鹿児島県薩摩川内市。岩切秀雄市長とは「以前は仲が良かった」という。しかし、今や「彼は首長として欠格者だ」と厳しい。「双葉町の現状を全く見ていないですよ。私たちの時は多くの方が支援してくれたけれど、もし川内原発で事故が起きたら、今度は世論はこうなるでしょう。『あれほど(危険だと)言ったのに動かしたのはお前らだろう』と」。

 町長として、双葉町民を埼玉県に避難させた。しかし「町民には大きな負い目がある。政府に後々の約束を取り付けないまま避難させてしまった」と語る。町民には「私はあなたの加害者。私を訴えなさい」と話すという。この5年間、それだけの覚悟を抱いて生きてきた。

 原発事故で多くの福島県民が被曝を強いられ、福島県立医大の関係者だけがヨウ素剤を服用した。当時の内堀雅雄副知事(現知事)に「つくば市に公務員宿舎の空きが多くある」と茨城県知事への橋渡しを頼んだが、動いてもらえなかった。町長室で繰り返し「原発は安全」と語ってきた東電に説明を求めているが、同社は「分かりました」と返事をしたきり何の回答も無い。原発事故は、ひとたび起きれば「嘘とねつ造と責任転嫁ばかり」。それを知っていながら、進められる再稼働に怒りが収まらない。

 新たに井戸川さんの代理人になった古川元晴弁護士は、日大法学部の船山泰範教授と共著「福島原発、裁かれないでいいのか」を2015年に出版。国や東電の過失責任を厳しく指摘している。「福島から学んでしまうと原発を停めなければならないから、薩摩川内市長らは耳をふさぐしかないのでしょう」

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(上)「この期に及んで川内原発を停められない

原子力規制委員会など要らない」と語る井戸川

克隆さん

(下)新たに代理人になった古川元晴弁護士。

「福島から学んだら原発を停めなければならない

から、薩摩川内市長らは耳をふさぐしかないので

しょう」と語る=弁護士会館


【「原発事故から身を守る方法など無い」】

 「いつまた、原発事故が起きるかもしれない。その時、私たちはどうやって身を守るか。しかし、事故が起きてしまえば、もはや身を守る術など無いのです。原発を無くしてしまうしか無いのです」

 京都市内で16日に行われた講演会で、元京大原子炉実験所助教の小出裕章さんは聴衆に語りかけた。

 「日本は、緊急事態宣言下にある国なんです。何十年も解除できない。でも安倍さんは、オリンピックの方が大事だと皆さんの手を引っ張って行こうとしている」

 日本政府がIAEA閣僚会議に提出した報告書では、福島第一原発事故で大気中に放出された放射性セシウム137は、広島に投下された原子爆弾168発分に匹敵するという。しかし、小出さんは「政府がきちんと申告するとは思えない。過小評価ではないか。場合によっては、原爆1000発分の放射能を今も撒き散らしていると考えられる」と指摘する。

 昨年まで勤めていた京大原子炉実験所は放射線管理区域。部外者は立ち入りを禁じられ、水も飲めない。トイレもない。もちろん、施設内で横になることも許されない。「外に出る際、身体が1平方メートルあたり4万ベクレルを超えていないかチェックされる。超えていたら衣服を区域内に捨てなければならないのです」。しかし、原発事故から5年が過ぎても福島県内には4万ベクレルどころか10万ベクレルを超える土地が少なくない。もちろん、福島県外にも汚染は拡がった。「風評被害でも何でもなくて、事実として汚れていると日本政府が言っている。そこに子どもたちが〝捨てられて〟被曝させられているのです。本当は人が住んではいけないような所なのに」。

 事故が起きたら最後。「ある日突然、日常生活が断ち切られる」。目に見えず、臭いも無い放射性物質は「五感では感じられない」。しかも「大量の死の灰を生み出す」。汚染水で海も汚され「何年経っても現場の状況は分からない」。放射性物質の拡散で行方不明者の捜索も出来なくなる。救える命も救えない。事故や避難のストレスから関連死という不幸な状況まで招く。「汚染地に残っても避難しても傷つく」。それが原子力発電なのだ。

 講演の直前、小出さんは私にこう言った。

 「熊本地震では津波が発生しなかった。川内原発で重大事故が起きなかったことで、推進派は当然、原発は揺れそのものには強いと強調するでしょう。しかし福島第一原発事故では、津波で浸水しなくても揺れそのもので破損していたと私は考えています。確かめるのは難しいですが」

 福島第一原発の事故は終わっていない。現在進行形。今後、原発を動かし続ける限り、福島と同じように地震による事故と汚染が起きないと誰が言い切れようか。被曝リスクと背中合わせで暮らすのだ。高浜原発(福井県)に万一の事があれば「京都市も猛烈な汚染をさせられることになる」。それでも原発でつくられた電力で暮らして行こうというのか。

 「避難計画など、出来るはずがないと私は思っています」
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「原発事故が起きてしまったら身を守る方法など

ない。原発を停めるしか無いんです」と警鐘を鳴

らす小出裕章さん=京都市内


【「科学的根拠なく原発停めない」】

 18日、東京・六本木で開かれた原子力規制委員会の臨時会議。熊本地震の原発への影響について話し合われたが、原発建屋下で観測された地震加速度の最大値は川内原発で8・6ガル(地盤や建物の揺れの大きさを表す加速度の単位。福島第一原発では、最大で東西方向に550ガル、上下方向に302ガルが観測された)、停止中の玄海原発(佐賀県)で20・3ガル、同じく停止中の伊方原発(愛媛県)でも10ガルで、原子炉自動停止の設定値を大きく下回っており、安全性に問題ないとの議論に終始した。

 会議後の記者会見では、田中俊一委員長へ「予備的に川内原発を停止する考えはないか」との質問が集中したが、田中委員長は「危険だという科学的根拠も無いのに停止する考えはない」と繰り返すばかり。挙げ句には、繰り返される質問にうんざりしたのか「国民の声があっても政治家に求められても、科学的根拠がない限りは原発を停めるつもりはない」と言い放つ始末。これに対し、井戸川さんは怒りの声をあげた。

 「(福島出身の)田中俊一は福島県の恥ですよ。彼は経済的な観点ばかりで公的な立場で物を考えることが出来ない。委員長に値しませんよ。資格そのものがない。うぬぼれているんじゃないかな。規制委員会の暴走を早く止めなければ…」

 熊本地震は、21日で最初の揺れから一週間。インターネットの署名サイトでは、川内原発停止を求める署名が10万筆を超えた。福島県浜通りから避難中の女性は言う。「原発事故が起きてしまったらパニックで避難なんてスムーズに出来ないよ」。実際、熊本県内の交通網もライフラインも完全に機能しなくなった。安倍晋三首相が「震度7でも原発はビクともしなかった」などと胸を張り出す前に、福島の教訓から改めて原発政策を見直す必要がある。これ以上、国土を汚してはならない。福島原発事故での避難者を守るためにも。



(了)