27話 戦艦
東京上空。
‘‘アトミック’’の戦艦内部。
Fに襲撃されたリセルは、しかし焦ることもなく戦闘態勢に入った。
前面の超強化ガラスの向こうを挑戦的に横切るFを横目で追う。
リセルが部下に合図をする。
「起動しろ」
炎さえ凍りつくような声に、部下は肩をビクッと震わせ、
「で、では、船員の避難を開始します」
あせったように言葉を返す。
艦内放送用のマイクに口を近づけようとする部下。
リセルは酷く落胆したような声で、
「そんな時間があると思っているのか。今すぐに、だ」
言い捨てる。
部下は何も言えず、震えた。
驚愕からか、恐怖からか、諦めからか。
そして、カタカタと不自然な震えを繰り返して。
ただゆっくりと小さなボタンに指を伸ばした。
カチッとボタンが押され、その『戦艦』は変化する。
リセルを光が包み込んだ。
光と言ったのはそう見えるからで、実際には何かの粒子かもしれない。
何かも分からないものが集まり、出来たのは、小さなカプセル型のコクピット。
そのコクピットは光に包まれたようなぼんやりとしたもので、実体を持っているのか、見かけの上のものなのかは分からない。
中にリセルが乗り込み、指先で何かを操作する。
変化はそれだけ。
その変化が、『戦艦』が『戦艦』である理由を示すことになる。
Fは‘‘アトミック’’の戦艦の周囲を飛び回る。
何てことはない。
どうせはMen In Blood程度に滅ぼされかけた存在だ。
ただの‘‘アトミック’’だ。
自分だけに全てを任されたのも納得いく。
個人で対処できるぐらい、戦力が小さいからだ。
目的は簡単。
‘‘アトミック’’の戦力を削りつつ、目的地まで誘導すること。
(では、始めましょうか)
既に先制攻撃で相手を揺さぶったFは余裕だった。
(こちらに宣戦布告をしてきたが、所詮はハッタリだろう)
あくまで余裕を持って
(それほどの戦力が残っているはずがない。悪魔に襲撃されているし、レンと呼ばれる元Men In Bloodの人間が単独で逃げ出せたぐらいなのだから)
Fは戦艦の機動力を下げるため、メインエンジンがあると思われる戦艦の後ろへと近づく。
リセルのいる位置からは死角になる、絶好の方向から。
戦艦の下にもぐりこむように移動し。
至近距離でミサイルを発射する。
──つもりだった。
瞬間、戦艦全体がまるで棍棒のように振り回される。
より正確には、振り下ろされる。
ガゴン! と、Fの乗る小型戦闘機が、もろに戦艦の底部と衝突した。
最新式のシールド装備を搭載している戦闘機は砕け散りはしない。
それでも、200mほど吹き飛ばされた。
(馬鹿な。そんなことをしたら船体へのダメージが尋常じゃない)
Fは驚愕とともに呆れた。
こんなふざけた攻撃が何回も続くはずがない、と。
こんなふざけた攻撃を続ければ、すぐに自滅する、と。
(結局はその場しのぎの悪あがきだ)
問題ない、とFは戦闘機の体制を整える。
戦艦からミサイルが数発放たれて戦闘機に迫った。
(──ただの旧式だな)
Fは軽い操作で全て撃ち落とすと、戦艦に近づく。
もう一度、翻弄するように周りを飛び回り。
戦艦上部から攻撃を仕掛ける。
けれど、再び戦艦が船首を基点にブンと回る。
まるで金属バットで打ちあげるような動き。
「──ッ!」
戦闘機は戦艦の直撃を避ける。
避けきれずに戦艦が左翼にあたり、戦闘機は回転しながら弾き飛ばされた。
戦闘機はまだシールドの性能を失っていない。
体勢を立て直したFの元へ、再びミサイルが向かう。
「チッ!」
とっさのバレルロールで避けた。
が、旧式なりに追尾機能はついているらしく、Uターンをして再び戦闘機を狙う。
避けても無駄だと思ったFはミサイルを撃ち落とした。
しかし、次のミサイルはただの攻撃用ではなかった。
撃ち落とした瞬間、ミサイルから煙幕が噴出し、Fの視界を奪う。
「くっ……悪あがきを!」
どちらの機にもレーダーは搭載されているはずだから、視界を奪うことにさほど意味は無いはずだ。
旧式のレーダーなら相手の位置を二次元的にしか捉えれないかもしれないが、戦闘機や戦艦など軍事の最先端ではそれもありえない。
三次元的なレーダーがあるはずだ。
こちらからも相手の位置は完全につかめているし、相手からもこちらの位置は完璧につかめている。
そして、的の広さの違いから、有利なのは確実にこちら。
(本当に何の考えも無しなのか……)
多少落胆しながらも、戦艦の座標へとミサイルをぶち込もうとした。
ドン!! とまるで竹とんぼのように回転する戦艦がFの乗る戦闘機をいとも簡単に吹き飛ばした。
「ガハッ!」
シールド自体は健在だが、衝撃緩和装置がイカれてきているのか、強烈なGがFの体を襲う。
きりもみ回転をもったまま、軽く1kmは飛ばされた戦闘機が、やっと停止する。
「一体、どうなってる……?」
疑問を処理しきれないFに、さきほどF自身がジャックした回線から連絡が入った。
凍りつき、相手をいたぶるような愉しさを含んだ声が。
『やぁ、‘‘アトミック’’の「戦艦」をお楽しみ、いただけてるかな?』
───────────────────────
お久しぶりです。
本格的なバトルパート、かな?
感想、お願いします!
東京上空。
‘‘アトミック’’の戦艦内部。
Fに襲撃されたリセルは、しかし焦ることもなく戦闘態勢に入った。
前面の超強化ガラスの向こうを挑戦的に横切るFを横目で追う。
リセルが部下に合図をする。
「起動しろ」
炎さえ凍りつくような声に、部下は肩をビクッと震わせ、
「で、では、船員の避難を開始します」
あせったように言葉を返す。
艦内放送用のマイクに口を近づけようとする部下。
リセルは酷く落胆したような声で、
「そんな時間があると思っているのか。今すぐに、だ」
言い捨てる。
部下は何も言えず、震えた。
驚愕からか、恐怖からか、諦めからか。
そして、カタカタと不自然な震えを繰り返して。
ただゆっくりと小さなボタンに指を伸ばした。
カチッとボタンが押され、その『戦艦』は変化する。
リセルを光が包み込んだ。
光と言ったのはそう見えるからで、実際には何かの粒子かもしれない。
何かも分からないものが集まり、出来たのは、小さなカプセル型のコクピット。
そのコクピットは光に包まれたようなぼんやりとしたもので、実体を持っているのか、見かけの上のものなのかは分からない。
中にリセルが乗り込み、指先で何かを操作する。
変化はそれだけ。
その変化が、『戦艦』が『戦艦』である理由を示すことになる。
Fは‘‘アトミック’’の戦艦の周囲を飛び回る。
何てことはない。
どうせはMen In Blood程度に滅ぼされかけた存在だ。
ただの‘‘アトミック’’だ。
自分だけに全てを任されたのも納得いく。
個人で対処できるぐらい、戦力が小さいからだ。
目的は簡単。
‘‘アトミック’’の戦力を削りつつ、目的地まで誘導すること。
(では、始めましょうか)
既に先制攻撃で相手を揺さぶったFは余裕だった。
(こちらに宣戦布告をしてきたが、所詮はハッタリだろう)
あくまで余裕を持って
(それほどの戦力が残っているはずがない。悪魔に襲撃されているし、レンと呼ばれる元Men In Bloodの人間が単独で逃げ出せたぐらいなのだから)
Fは戦艦の機動力を下げるため、メインエンジンがあると思われる戦艦の後ろへと近づく。
リセルのいる位置からは死角になる、絶好の方向から。
戦艦の下にもぐりこむように移動し。
至近距離でミサイルを発射する。
──つもりだった。
瞬間、戦艦全体がまるで棍棒のように振り回される。
より正確には、振り下ろされる。
ガゴン! と、Fの乗る小型戦闘機が、もろに戦艦の底部と衝突した。
最新式のシールド装備を搭載している戦闘機は砕け散りはしない。
それでも、200mほど吹き飛ばされた。
(馬鹿な。そんなことをしたら船体へのダメージが尋常じゃない)
Fは驚愕とともに呆れた。
こんなふざけた攻撃が何回も続くはずがない、と。
こんなふざけた攻撃を続ければ、すぐに自滅する、と。
(結局はその場しのぎの悪あがきだ)
問題ない、とFは戦闘機の体制を整える。
戦艦からミサイルが数発放たれて戦闘機に迫った。
(──ただの旧式だな)
Fは軽い操作で全て撃ち落とすと、戦艦に近づく。
もう一度、翻弄するように周りを飛び回り。
戦艦上部から攻撃を仕掛ける。
けれど、再び戦艦が船首を基点にブンと回る。
まるで金属バットで打ちあげるような動き。
「──ッ!」
戦闘機は戦艦の直撃を避ける。
避けきれずに戦艦が左翼にあたり、戦闘機は回転しながら弾き飛ばされた。
戦闘機はまだシールドの性能を失っていない。
体勢を立て直したFの元へ、再びミサイルが向かう。
「チッ!」
とっさのバレルロールで避けた。
が、旧式なりに追尾機能はついているらしく、Uターンをして再び戦闘機を狙う。
避けても無駄だと思ったFはミサイルを撃ち落とした。
しかし、次のミサイルはただの攻撃用ではなかった。
撃ち落とした瞬間、ミサイルから煙幕が噴出し、Fの視界を奪う。
「くっ……悪あがきを!」
どちらの機にもレーダーは搭載されているはずだから、視界を奪うことにさほど意味は無いはずだ。
旧式のレーダーなら相手の位置を二次元的にしか捉えれないかもしれないが、戦闘機や戦艦など軍事の最先端ではそれもありえない。
三次元的なレーダーがあるはずだ。
こちらからも相手の位置は完全につかめているし、相手からもこちらの位置は完璧につかめている。
そして、的の広さの違いから、有利なのは確実にこちら。
(本当に何の考えも無しなのか……)
多少落胆しながらも、戦艦の座標へとミサイルをぶち込もうとした。
ドン!! とまるで竹とんぼのように回転する戦艦がFの乗る戦闘機をいとも簡単に吹き飛ばした。
「ガハッ!」
シールド自体は健在だが、衝撃緩和装置がイカれてきているのか、強烈なGがFの体を襲う。
きりもみ回転をもったまま、軽く1kmは飛ばされた戦闘機が、やっと停止する。
「一体、どうなってる……?」
疑問を処理しきれないFに、さきほどF自身がジャックした回線から連絡が入った。
凍りつき、相手をいたぶるような愉しさを含んだ声が。
『やぁ、‘‘アトミック’’の「戦艦」をお楽しみ、いただけてるかな?』
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お久しぶりです。
本格的なバトルパート、かな?
感想、お願いします!