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第三章[そして披露される悪役の舞台 The_Kingdom_of_Heaven]①
<13:30 PM>
日本海上。
雨が降る学園都市とは打って変わって、そこには大きく青い空とどこまでも広がるような海が漂っている。
その海を一つの人間が凄まじい速度で駆け抜けていた。
後方のアックア。神の右席の一人にして聖人である彼は、水上移動術式による高速移動で日本海を突っ切る。
「………ほう、それはまた興味深い話である」
そんな中、耳元に浮かぶ通信霊装から発せられた言葉に、後方のアックアは眉をひそめた。
「それは確かか?」
『もちろんです。我々の知識は禁書目録にまでは届かずとも、世界の五本の指に入るほどの解析班と自負しております』
霊装から聞こえてくる声の主はローマ正教が持つ術式解析のエキスパート部隊の隊長のものである。
ミーナとクエイリスが、研究所に残した羊皮紙。
その解析結果を聞いて、ふむ…とアックアは息を吐いた。
「もう一度問うぞ? 確かに『パンドラ術式』の効果は、単純な大規模破壊術式ではないのだな」
『はい。一見してみると構造はほとんど大規模破壊術式と同じのようですが、ただ破壊を撒き散らすものと違い、「パンドラ術式」には他の意味があるようです』
「……ローマ教皇はなんと?」
『いえ、まだお伝えしていません。私の独断で、ローマ教皇ではなく「神の右席」であるアナタの方を優先すべきだと判断しました』
ふむ、ともう一度アックアは息を吐いた。
神の右席と、ローマ教皇。どちらを優先すべきなどわかりきっているはずだが、なぜこうなったのだろうか。
(神の右席によって、ローマ教皇の価値が下がっている、か……ローマ教皇のために設立された神の右席がローマ教皇の品位を落としているなど、到底笑える話ではないな)
だが今はそんなことを考えている暇はない。考えることなどいつでもできる。今は、今しか出来ないことをすべきだろう。
「それで、その意味とは?」
『はっきり言って、驚愕しました』
待ってましたとでも言わんばかりに、通信の男の鼻息が少し荒くなる。
少々鬱陶しかったが、別段怒る理由にもならないので、アックアは言葉の続きを無言で促した。
「様々な文化の術式を織り交ぜて、特殊な術式を形成しているようです。新教(プロテスタント)から、果てには『神の子』が生まれる前の時代の理論である術式もあります』
やはりそうか、とアックアは思う。彼らの得意とするのは独自に編み出した『多重高密度合成術式』だ。
誰にでも平等としようとする彼らの信条ゆえか、どんなものでも節操無く取り込んでいく術式はもはや十字教の枠を超えていた。
と言っても、まさか十字教より前の世界を肯定するものまで使っているとは思わなかったが。
『これは凄いものですっ……もう凄いとしか言いようがありませんッ! 『神の右席』であるがために普通の術式を使えない彼らが、それらの枠を取り払い完全に別の術式を作り出している!』
そしてこれもアックアの想像した通りだった。『神の右席』のメンバーは少しでも神へと近づくために、人間に必ずあるという『原罪』を極限まで薄めている。
そのため『原罪』を前提とした普通の術式を使うことができないのだが、それをミーナ=シンクジェリとクエイリス=アーフェルンクスはいくつもの術式を合成させ、必要な部分だけを取り除くことで自分達の思い通りの術式を形成しているのだ。
まっすぐな道が通行できないのなら迂回すればよい。迂回してもダメならばもっと迂回すればよい。そして、迂回に迂回を重ねて彼らは目的地へとたどり着くことに成功した。
それが、彼らが『神の右席』の候補者となった理由の一つでもあった。
〈術式の大まかな情報は後ほど送ります。渡された羊皮紙の状態が悪くて一部の解析が不可能でしたので、正確な術式の効果は分かりませんが、少しくらいは役に立つでしょう〉
「よい」
男の言葉にアックアは切り捨てるように返した。うむを言わせぬ毅然とした物言いに男の言葉が止まる。
元々、彼が外に出たのは過去の知り合いに会いに行くためだけだ。アックアは彼らに何かしらのアクションを取るつもりはなかった。
『ですが……なくて損はないと』
「よい、と言っている」
自分の仕事をきちんと遂行しようとする姿勢からか、男はアックアに口を開こうとするがアックアはさらに言葉を遮る。
数秒の沈黙。
そこで不意に、通信相手の男は呟いた。
『………わかりました。しかし、一つだけお伝えしたいことが』
彼は、ごそごそと何かを探すような音を出しながらアックアへと言葉を発する。
何かを探しているのだろうか。時々ばきょーんやらどごーんやら、よくわからない音が霊装から聞こえてくる。
「………ふむ」
『あぁ、見つけました』
男は冷静な口調で会話を続ける。
いや、続けようとした。
直後。
ゴッ!! と海の真下から、アームのような突起物が飛び出て二人の通信の間に割り込むようにしてアックアへと襲い掛かった。
『―――ッ!!??』
「……ふん」
霊装の向こうの男はいきなりの音に息を呑んだが、アックアはあせるどころか海上を進む足を止めることもなかった。
ゴッシャァァァァ! と轟音が海上に炸裂した。アックアがあえて踏み出した右足によって、アームを踏み潰し粉砕したのだ。
鋼鉄で出来るアームは中に何か仕込んであったのか、不自然な爆発と共に周りへと衝撃を拡散させた。
その反動を利用して、青に身を包む男は後ろへと大きく下がり、海面に靴底をこすり付け、海上で無理やり静止する。
「どうやら、学園都市の防衛圏内に入ったようであるな」
『ご名答。やっぱりわかってて進入してたのか。こりゃ手加減する必要はなかったわな』
少しだけノイズのはいった、拡声された音がアックアの耳に届く。
その音に続くように、ゴッボォッォォォォォン!!! と海面から一つの機体が姿を現した。
直径三〇メートルはあろう丸い巨体から伸びる三本の足と、二本の腕。カニを想像させるそのフォルム。背中にはブースターのようなものが五つ取り付けられていた。
その側面にはHsS-00の文字。
これも駆動鎧(パワードスーツ)などという代物なのだろうか。
機械にそこまで詳しいほうでないアックアにはわからないが、それが常識を超えている兵器だということだけはわかっていた。
『いやぁビックリした。こちとらローマ正教さんが育ててる能力者を潜水艦か何かで運んでくるかとも思っていたんだが、まさか海上を走ってくるとは』
破壊されたアームの付け根が射出され、内側から新しいアームを生やし戦闘準備を完了させた駆動鎧はスピーカーから男の声を淡々と流した。
『さて、じゃあわかりきった質問だ。ここからまっすぐに突き進むと日本の地に着くことになるんだが……お前さん、いったいどこに向かっておいでで?』
「学園都市」
『…………ぷっ、ははっはははははは!! いいね。悪びれもせずに目的を伝えられるその根性。違法行為ってわかってやってんのか、アァ!?』
直後だった。
HsS-00の背中のブースターがうねりをあげて、時速一〇〇キロもの速度でアックアへと突っ込んだ。
轟音が鳴る。ハサミになっているアームの先端がアックアの右手によって止められ、数秒遅れて海面が爆発したかのように水が空中へと放り出される。
『不法侵入だ不法侵入。日本領域への侵入がどれほどの大罪かわかってやってんだろうなぁ。国際問題に発展させてやろうかオイ!!』
「警告もなしに攻撃を加えておいて、問題などと。どの口が言うのである」
『死者に口なしってなぁ! 殺しちまえばこっちのもの、敗者にゃ敗者なりの扱いを受けるだけだ! それに無法者に法のことを指摘されても笑い話にしかならねえぞクソッタレ!』
品の無い笑い声がスピーカーから垂れ流される。
アックアが次の行動を起こす前に、HsS-00の前面装甲が勢いよく開かれた。中から顔を覗かせたのは数十もの小型ミサイル。小型とはいえそれは対戦車ライフル相当の大きさである。
生身に当てたらどうなるかなど考える必要もない。発射されるのに、数秒もかからなかった。
ゴッガガガガガガガガッ―――――――――――――ン!!! と爆音が轟いた。
しかしそれはミサイルが爆発した音ではない。
アックアがどこからか取り出したメイスで、HsS-00の巨体を横薙ぎに殴り吹き飛ばした音だった。
地面をバウンドするボールのように機体が海面を跳ねる。数秒後。その勢いが止まった頃には巨大な機体は海へと勢いよく沈んでいた。
「死者に口なしとはよく言ったものだな。確かに、見たものがいないのなら『罪』そのものが発生することもなかろう」
しかしそんなものは必要ない、とアックアは圧倒的な自信を瞳に宿し獰猛にメイスを振る。
「聖母崇拝により、私にとってその程度のものは『厳罰』にはならんよ」
つまらなそうに息を吐きメイスを肩に担ぐと耳元の通信霊装が音声を発した。
『ご、ご無事ですか!? 先ほどから凄まじい爆音が…』
「気にすることはない。終わった」
『―――なぁめるなぁああああああああああああああああ!!』
音が響く。だが、それだけだった。
どこから来ようとしたのかはわからない。何が目的だったのかもわからない。
しかし、すでにアックアは何かをさせるつもりはなかった。
ゴッ!!!! と爆音が鳴り響く。海面に勢いよく叩きつけられたメイスにより、海中で何かが爆発したかのように水が勢いよく上へと吹き飛んだ。
その勢いに乗せられて、空中へと浮くのは一つの機体。
『……く、そ……』
「まぁ安心しろ。命まではとらんよ」
直後。HsS-00の機体が、二つに折れた。
そのまま着水した機体から小さなポットのようなものが飛び出て広い海の広がる向こうへと飛んでいく。
おそらく緊急脱出装置のようなものだろう。機体状態の危険度が命に関わるほど上昇すれば自動で起動する仕組みである。
ポットが視界から消え、ゴポゴポと音を立てながら海中へと沈んでいくHsS-00の横でアックアはメイスをあるべき場所に戻し、
「さて、残る面倒は貴様からの知らせだけだ。何度も言うがデータの収集とやらは私の性分に合わんのでな。それ以外に何かあるというなら、聞こう」
『……え、あ、はい!』
音だけで何があったのかを想像していたのか、少しの間の後にアックアの通信霊装から男の言葉が流れた。
聞こえたのは六つの文章。
その内容にアックアが目を見開く。
「………いつだ」
『はい?』
「その伝言を受け取ったのは、いったいいつだ」
『え? あ、そうですね……ちょうど三時間前なので、十時半ぐらい、です』
そこまでで、アックアは通信を切った。
先ほど聞いたものは、神の右席が使う暗号言語。
通信を傍受される可能性のある霊装での会話で使われるものだ。
一つの文章の中に、いくつかのキーワードを織り交ぜ、それを組み合わせることで一つの単語とする。
一気に渡せる情報量は少ないが、それでも構わない。
何故なら、そのような暗号は本来なら使われることがないと思われていたものだからだ。
神の右席が一つの出来事に複数で対処することは、基本ありえない。
一人で事が足りる。それほどまでに、神の右席は圧倒的な力を持っている。
だから、暗号は使われない。お互いの仕事に関わりがなければ、通信をする必要もないし、何か用があるのなら口頭で聞いたほうが効率もよい。
つまり、この暗号文を使われたのには意思疎通以外の意図がある。
それが何かなど考えるまでもない。
(この伝言が神の右席のメンバーによるものだということを示すため、であるか)
しかし、これだけでは相手の意図はわからない。つまりここから先は内容を読むことによってわかる。
暗号を解読する。いくら手馴れていないとはいえ、単純な言葉遊びに手こずるアックアではない。
解読には、五秒もかからなかった。
その内容は、こうである。
『 貴様 手 出すな 俺様 の 仕事 』
「………、」
情報は出揃った。
神の右席のメンバーであり、誰かを見下すような言動。
療養中の前方のヴェントを除き、そのような性質の人間は一人しかいない。
「……右方の、フィアンマ」
思い浮かぶのは、赤を基調とした服装をした優男。
そして、神の右席間でしか伝わらない暗号を用い、直接的には己の名前を明かさない理由をわからないアックアではない。
(………貴様お得意の策略か……いったい何を企んでいる?)
もちろん、最初から手を出すつもりはなかったアックアはその命令に背くつもりはない。
しかし。
しかしである。
わざわざ釘を差すほどまでに、フィアンマは何をやろうとしているのか。
それだけが、アックアの思考に影を指した。
せかされるように、学園都市へ向けて走り出す。
時刻は一時三十二分。
アックアは預かり知らぬことだが『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』本格起動まで、残り一時間半である。
………つづく
インターバルって大切ですよね
えぇ
皆さん、すでに覚えていないでしょう?
そう
八神さんです!!!!!!!!!!!!!(←!?)
さーて皆さんこんばんは
初めての方も、久しぶりな方も、皆さん揃いもそろって元気でしたか?
八神さんは元気です!!!!!
半端ないくらい元気です!!!!!!!!!!!!!
嘘です!!!!!!!
今年のクリスマスの予定埋まらなくてないてます!!!!!!!
いいもんね!!!!!!!!!!
俺、友達とスマブラするし!!!!!!!!!!!!!!!!!
あっはっは!!!!!(←えー)
と、いうことで半年とかいうレベルじゃないくらいにひさしぶりの更新ですね
小説。腕が落ちたな
雑魚が(←鏡に向かって)
この先の展開はもう決まっているのですが、何分文章を書くのが面倒です
どこかに思っただけで文になるような機械ないかな…
ドラえもんとかそういうの持ってそうですよね
そうそう
最近はなんかランニングにはまってます
趣味が読書と昼寝だったというのに、なんと三つ目のランニングが追加
これは誇れる!
ちょっと自慢できる!
と、思い友人に自慢すると
『ドMかよ(プッ』
って言われてああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああうるせえええよこのやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
ドMじゃないからあああああああああああああああああああああああああああああああ
八神さん真性の普通さんだからあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
と、いうことで新年です
ピンポーン
~フライングを、お知らせします~
あけまして、おめでとうございます
今日の独り言
いつになく
意味がわからぬ
ブログだね
あれ、これ大賞いくんじゃね?
…………無理だよねー(←…)