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農家の知恵② 植物は朝に弱く、夜に強い

NHKの番組で深海に生息する奇妙な生物を見たことがあります。
水温300℃にもなるという「熱水噴出孔」の周りには、
奇妙な形の生物とともに目のない白いカニがいました。
その熱水には硫化水素も含まれているそうです。
私などには、生命が存在すること自体、大きな驚異でした。

「生き物は与えられた環境の中で進化するものだ」
この言葉に疑問の起こりようもないほど強烈な映像でした。

これは極端な事例ですが、イネもまた長い長い年月をかけて、
環境に適応するため様々な性質を身に着けたのだろうなと、
容易に納得することができます。




ラフィーネさんのブログ-かにに

(熱水噴出孔の手前にいるのがユノハナガニ、
NHK「海 知られざる世界」より)

Nさんが農家の古老に教えられたことも、そうした性質の一つなのでしょう。
農家の知恵として語られると、なかなかユニークな表現になります。

「イネにも1日の流れがあるんだ。ちゃんと朝起きて、夜寝るんだよ」
「どういうことですか」
「イネはどれくらい冷夏になれば冷害になるか、知っているよね」
「気温が18~19度以下でしょうか」
「そう、一般的にはね。でも、かりに終日同じ低温だとしても、
朝、昼、夜ではその萎(しお)れ方が全く違うんだ」
「どんなふうにですか」
「実は、夜寒くともけっこう大丈夫だが、朝に寒いと萎れてしまう。
それで寒い朝は田んぼに行って、少し水を高めに張り、温めてやるんだよ」

Nさんはすぐには信じることができず、帰って実験することにしました。
すると、朝方には水を吸う力が衰えるので、
それによって萎れやすくなることが分かったのだそうです。

農業の現場では、こうした知恵による「さじ加減」が重要で、
その知恵を生かせるかどうかが収穫高を左右しているようなのです。

「さじ加減という農家の知恵、研究はまだそこまで追いついていません。
したがって、研究者は最先端の研究に加えて、農家の栽培のノウハウを
吸収し、研究テーマにしていくことが大切なのです」

翻って、私どもが提供しています健康食品について考えるならば、
ハーブの使い方や昔から言われている食品の効能といったものについても、
同じ視点で見ていかないとうまく開発できないというのがNさんの観点です。

日本古来の知恵って大切とは思っていましたが、
そんなにも奥深いものだったのですね。

農家の知恵① 肥料の『さじ加減』が大事

「現場にこそモノづくりの知恵が転がっている」
いい言葉ですね。技術者たちがよく使っています。
現場が知恵の宝庫であることは、古来、モノづくりの常識です。

農業研究においてもこの言葉は、また然りのようです。
Nさんが重要だという聞き取り調査の様子を聞いてみました。

「冷害なのになんでそんなに収穫があるのですか」
「ただ普通に育てていただけだよ」
本人にとっては当たり前の経験則、そっけないものです。
よくよく聞くとこんな答えが返ってきました。
「寒いときは肥料のやり方など『さじ加減』を少し変えるんだよ」

研究者も、農家も、肥料を与える適度な量というのは皆知っています。
しかし、天候は日々変わるわけで、育ち方も異なり、
いつも一定量というわけにはいきません。

普通、植物は肥料をやると大きくなります。稲も同じです。
一見、いいことのように思いますから、
育ちが悪いと肥料を多めにやってしまいがちです。
どうも、このことが良くないらしい、ということが分かったのでした。



ラフィーネさんのブログ-アベリア

(アベリア、開花すると生け垣が華やぎます)

寒いときには、特に肥料のやり方が重要のようです。
農家の中にはこのことを経験的に知っている人がいます。
その差が収穫高の違いになっているのでした。
しかし、本人に理由はわかりません。知恵の知恵たるゆえんです。

そこで、研究者は考えました。
寒いときの肥料のさじ加減と稲の収穫高の関係についていろいろな実験をして、理論的な解明を試みましたそうです。
その結果、肥料をやりすぎると稲が寒さに弱くなって、稲の実入りが極端に悪くなってしまいました。
農家にとって当たり前のことが、科学的に実証された瞬間です。

「現場にこそモノづくりの知恵が転がっている」
いろいろと考えさせられますね。

「平成の米騒動」が研究者としての原点

世の中、いろいろな仕事をしている人がいますが、
なぜその仕事を選らんだのかという「原点」を持つ人は幸せです。
仕事の選択、行動に迷いがないからです。

Nさんの原点は「平成の米騒動」(1993年、平成5年)でした。
お米を買いに走った皆さま、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。

この年、日本は記録的な冷夏による凶作で、米不足に陥りました。
タイ米を緊急輸入することになり、日本人の口に合わないことから、
その扱いを巡って大きな社会問題にもなりました

「どんなに寒くとも米が取れるにはどうしたらいいか」
「冷害に強いコメを作らないとダメだ」
農学部の学生になったばかりのNさんはそんな思いにとらわれたといいます。
それだけに研究者への道は自然だったようです。

新しい品種を作るというのは大変時間のかかる仕事です。
さらに、新しい品種ができたとしても市場に出て、
一般の人が食べられるようになるには10年はかかるといいます。

イネゲノム・プロジェクトもその流れの中で参画しました。
イネの遺伝子をすべて解明し、さらに寒さに強い遺伝子を見つけ、
それを利用して冷害に強いイネを作ろうというのです。


ラフィーネさんのブログ-金木犀

(金木犀の香り……、秋ですね)

興味深いのは、その活動が研究室の枠内にとどまらなかった点です。
この辺が「原点」を持つ人の強みじゃないでしょうか。
研究そのものが目的ではなく、「冷害に強いコメを作ること」が目的なのです。

「冷害が起こると、東北・北海道のお米は全滅だと思いがちでしょう。
ところがそうじゃない。ちゃんと収穫を上げている農家もいらっしゃる」

なぜなんだろう?
そこから農家への聞き取り調査が始まったといいます。

農業の匠(たくみ)の話は、聞いて楽しかったでしょうね。
心が躍ったでしょうね。
ひと晩、語り明かしたこともあったといいます。

どんな話なのか、興味がそそられますね……(つづく)。