ヒンドゥースターニー(北インド)古典音楽では、オクターブは「サプタク」と呼ばれ、「スワラ(swara)」と呼ばれる7つの音から形成されます。これら7つのスワラの名は「サ、レ、ガ、マ、パ、ダ、ニ」といい、西洋のそれぞれ「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」に相当します。
主音(サ)と五度(パ)以外のスワラ(レ、ガ、マ、ダ、ニ)には、それぞれ2つ、バリエーションがあります。「レ」、「ガ」、「ダ」、「ニ」にはそれぞれナチュラルとフラットのバリエーション、「マ」にはナチュラルとシャープのバリエーションがあります。「サ」と「パ」は1つずつしかありません。したがって、バリエーションも含めて、1オクターブには12の異なる音があます。
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ビデオは、キーボードを使用して各スワラのナチュラルとフラット・シャープバリエーションの違いをデモしたものです。いずれの場合も、まずはナチュラル、次にフラットあるいはシャープを歌いました。主音(サ)にはピアノのCを使いました。ナチュラル音は赤、フラット音はピンク、シャープ音は栗色にして色分けしました。
(Video) ナチュラル対フラット・シャープ
表1は、オクターブ内の12音の詳細をまとめたものです。「Note Name」列には、shuddha(ナチュラル)、komal(フラット)、およびtivra(シャープ)の形容詞で各音のバリエーションを示しています。「サ」と「パ」は、バリエーションがないため、形容されません。
次の列の「Notation ID」というものは記譜する時に使われる記号です。スワラ名称の最初の文字を使い、大文字・小文字の使い分けによって二つあるバリエーションの内の高・低ピッチが区別されます。具体的には「S, r, R, g, G, m, M, P, d, D, n, N」と並び、それぞれ「ド、♭レ、レ、♭ミ、ミ、ファ、#ファ、ソ、♭ラ、ラ、♭シ、シ」に相当します。
ヒンドゥースターニー古典音楽では、主音(サ)のピッチは自由に選択できます。しかし、一旦「サ」のピッチを決めてしまえば、残り11音のピッチが「サ」からの距離によって決まります。また、1オクターブ内の12音の順番は常に「ド、♭レ、レ、♭ミ、ミ、ファ、#ファ、ソ、♭ラ、ラ、♭シ、シ」であり、「ド」に続くピッチが「#ド」になったり、「レ」に続くピッチが「#レ」になったりすることはありません。
表1.ヒンドゥースターニー音楽の音
3番目の列は、声楽に使われる各音のソルファ音節を示しています。2つのバリエーションを持つスワラは、両方同じソルファ音節が使われます。バリエーションが2つあっても、同じ「スワラ」であるからです(これには複雑な理論があり、またの機会に説明します)。7つの「スワラ」の正式名称は、シャッジャ、リシャバ、ガンダーラ、マディヤマ、パンチャマ、ダイヴァタ、ニシャーダです。
ソルファ音節は「サルガム(sargam)」と呼ばれますが、「sa re ga ma」のスワラ名を簡単に合わせて作った言葉です。サルガムは稽古の時だけではなく、即興演奏の本番でも、旋律展開の一つの手段として使われます。
以下、Venkatesh Kumar氏が9:10分から11:15分までの間にサルガムで即興演奏しています。(ちなみに、Raag Durgaは日本の「律音階」に相当する音階です。)
Venkatesh Kumar、Raag Durga
表1最終行の「サ」は次のオクターブに属し、「S」の後に引用符を付け「S'」と記譜されます。メインオクターブの下または上のオクターブの音は、前や後に引用符を付けて記譜することによって、どのオクターブに属しているかを示します。以下、Cを「サ」とした時の記譜となります。
Cを「サ」とした時の記譜
移動ド
インド古典音楽は可動式オクターブを使っています。つまり、主音(サ)のピッチは自由に選べます。もちろん、一旦「サ」のピッチを決めたら、その他の音は「サ」からの距離によって決まります。
Cを「サ」とした場合のオクターブ
B♭を「サ」とした場合のオクターブ
親音階
上に見てきたように、1オクターブには合計12音があります。でも音楽には普段そのすべてが一度に使われるのではなく、12音の中からいくつかを選んで作曲に使います。インド古典音楽では、12音の様々な組み合わせによる沢山の音階が使われていて、これらは「ラーガ」と呼ばれます。現在インド古典音楽には約500のラーガが知られています。
ラーガは分類の仕方が色々ありますが、その1つには「タート(thaat)」と呼ばれる親音階があります。タートは、古代ギリシャ音楽の「モード」に似ていて、主には10タートあります。タートは全て7音音階であり、7つのスワラ(サ、レ、ガ、マ、パ、ダ、ニ)が全て一回ずつ含まれる必要があります。ただ、各スワラのどのバリエーション(ナチュラル・フラット・シャープ) が含まれるかによって音階に違いが発生します。ビデオは、10タートをデモしたものです。前回と同じく、主音(サ)にはCを使い、ナチュラル音を赤、フラット音をピンク、シャープ音を栗色で色分けしました。都合上ビデオの速度を少し早めにしましたが、設定ボタンをクリックして自由に速度を調整してください。
10タート
初心者は全音ナチュラルのBilawal音階(SRGmPDN)から学び始めます。
Bilawal音階 - クリックして聞いてください
表2. 全てナチュラル音のBilawal音階
音楽に使われる音の自然由来
音楽に使われる音は、主音(サ)との距離によって周波数(ピッチ)が決まります。これらの周波数は主音と調和しているため、音がはっきりして聞き心地がよいのです。他の周波数では、音は不協和音になります。全ての音楽には主音があって、意識してもしなくても、音楽を聴いた時にその主音が私たちの脳にはわかるのです。脳に主音が分かるからこそ、音楽を勉強していない人でも調子はずれの音はすぐに気が付くのです。したがって、主音との関連で聞き心地の良い11の周波数、合わせて1オクターブ12音という制度は、世界各地の音楽文化に共通しているものです。
ビデオは、振動、周波数、および共振に関係しています。主音と調和している周波数を見つけたときに何が起こるか、また、心地よいピッチとそうでないピッチがある理由の視覚化に役立つでしょう。
以上、「第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音」でした。
以下、このシリーズの他のブログ(未投稿のものも含めて)です。
第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方
第9章 ラーガ演奏の構成
その他:
500年前に作曲された曲
日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!