茨城「稲里 月 純米」よく鍛えられたスレンダーな甘旨味が円やかななかにも粗さを秘めて踊る | 酔い人「空太郎」の日本酒探検

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意欲ある先進地酒蔵のお酒をいただき、その感想を報告します。
SAKETIMESにも連動して記事を載せます。

茨城県笠間市の磯蔵酒造さんが醸しているお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べをしました。

 

3本目はこれです。

 

 

稲里(いなさと) 月 純米」。

 

機会に恵まれて、磯蔵酒造の蔵元である磯貴太さんの酒造りへの思いについてじっくりと伺うことができましたので、ここでその一部をご紹介したいと思います。

 

磯蔵酒造はあくまでも本当の地酒でありたいと、地元消費を理想としてきましたが、そうはいかない状況にもあって、いろいろ試行錯誤もしています。

磯蔵元はつぎのように話しています。

 

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うちの酒は笠間市内と蔵から半径50㌔圏内で90%が消費されています。

残りも茨城県内で県外には出荷していません。

しかし、茨城県も過疎が進んでいて、ヘビーユーザーの高齢者の酒量が落ち、あるいは飲めなくなる人もいる一方で、若い世代は就職先を求めて首都圏に行ってしまう。

このため、2000年初頭には1200石はあった生産量は600石まで減っています。

やむなく、東京・浅草に直営店を出したり(コロナ禍で閉店、撤退しています)、輸出も試みていますが、決定打にはなっていません。

 

 

浅草にお店を出した時の経験は貴重でした。

東京の日本酒ファンはいろいろわかったようなことを話す人が多くて驚きました。

特に「私は雄町で造ったお酒は飲めばわかります」と「醸造アルコールが入っているお酒はわかります」とおっしゃるお客様に遭遇すると、心の中では「それなら、是非、うちの蔵で働いて下さい」とつぶやいています。

私は30年間日本酒の世界に関わっていますが、いまでも、大吟醸酒を飲んで、純米かアル添かを正確に当てることはできません。

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気をつけたいと思います。

安易に偉そうなことを言って、周囲が鼻白んでいることに気づかないなんて情けないことはしたくないですね。

 

さて、本目は山田錦、50%精米の純米酒です。

 

 

上立ち香は細身の米由来のライシーな香りが。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に打ち粉を振って、サラサラな感触をアピールしながら、軽快に滑り込んできます。

 

受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を連射してきます。

粒から滲出してくるのは甘味7割、旨味3割。

甘味は上白糖系の乾いたタイプ、旨味はスレンダーで弾力性が強い印象で、両者は仲良く、円やかな中にも粗さを秘めたハーモニーを奏でます。

 

流れてくる含み香は酒エキスのライシーな香りで薄化粧を付与。

後から酸味と渋味は極少現れるも、しっかりと薄氷の輪郭を施します。

味わいは終盤まで鍛え上げられたキビキビとした世界が描き切られるのでした。

 

 

それでは磯蔵酒造さんのお酒、最後の4本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年158銘柄目)

銘柄名「稲里(いなさと)月 純米 2023BY」

酒蔵「磯蔵酒造(茨城県笠間市)」

分類「純米酒」

原料米「山田錦」

酵母「不明」

精米歩合「50%」

アルコール度数「16度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「1800ml=4400円」

評価「★★★★(7.4点)」