旧聞に属するお話になりますが、長野県の日本酒とワインが一堂に会する「信州のIPPON」というイベントに行きました。
その時飲んだお酒を10本ほど紹介したいと思います。
2本目はこれです。
「市野屋(いちのや)特別純米」。
長野県大町市の市野屋さんが醸しているお酒です。
大町市には日本酒を造る蔵が市野屋のほかに薄井商店と北安醸造があるのですが、その3蔵が地理的表示(GI)で「信濃大町」を申請し、2023年6月に国税庁が認定しました。
2021年に長野県産の日本酒がGI指定を受けているのです。
指定域内でさらにGI指定を受ける「2段階指定」は全国で初めてのケース」になります。
この話は正直、首をかしげます。
例えば誰でも知っている酒どころの灘が、兵庫県全体のGIがあるのに対して、さらに灘だけ限定するGIを申請するというならわかりますが(実際には兵庫県全体のGIはなく、灘五郷のGIがあります)、大町にそのような印象はありませんし、観光地としても立山黒部アルペンルートの入口というぐらいにしか知られていない(失礼!)のです。
長野GIで十分ではないでしょうか。
GIについては、国が熱心に旗を振り、酒類だけでも20を超える指定になっています。
このままだと、ほとんどのGIが「○県の日本酒」とイコールになってしまうのではないか、と危惧します。
さて、お酒はひとごこちと、長野県が近年開発した食用米の風さやか60%精米の特別純米酒です。
上立ち香は酢酸イソアミルの芳しい香りがたっぷりと。
玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に打ち粉を振って、サラサラな感触をアピールしながら、軽快なテンポで滑り込んできます。
受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、ガラス球様の粒々を連射してきます。
粒から滲み出てくるのは甘味7割、旨味3割。
甘味は上白糖系のさらりとしたタイプ、旨味はシンプル無垢で適度にサシの入った印象で、両者は足並みを揃えて、キビキビと健やかなハーモニーを奏でます。
流れてくる含み香も芳しい好感の持てる香りでデコレート。
後からしっかり現れる酸味は多彩で甘旨味に効果的な飾り付けをします。
甘旨味は酸味の激励で艶やかさを増し、終盤に向けて、伸びやかな舞いを踊りきるのでした。
それでは長野のお酒、3本目をいただくことにします。
お酒の情報(24年7銘柄目)
銘柄名「市野屋(いちのや)特別純米 2022BY」
酒蔵「市野屋(長野県大町市)」
分類「特別純米酒」
原料米「ひとごこち、風さやか」
使用酵母「協会701,901,1801」
精米歩合「60%」
アルコール度数「15度」
日本酒度「-2.6」
酸度「1.9」
情報公開度(瓶表示)「○」
標準小売価格(税込)「720ml=1430円」
評価「★★★★★(7.5点)」