酔い人「空太郎」の日本酒探検

酔い人「空太郎」の日本酒探検

意欲ある先進地酒蔵のお酒をいただき、その感想を報告します。
SAKETIMESにも連動して記事を載せます。

自宅の晩酌に、宮城県大崎市の寒梅酒造さんが醸しているお酒をまとめて購入して、順番にいただくことにしました。

2本目はこれです。

 

 

寒梅酒造(かんばいしゅぞう)純米吟醸」。

 

戦後の農地解放で、大地主だった岩崎家の農地の大半は小作人のものになってしまいましたが、それでも三町五反(約3.5㌶)の田んぼが残ったそうです。

そして、昭和30年に酒造りを再開するわけですが、戦後の高度成長期は食用米の需要が旺盛だったこともあり、農家はなかなか酒米の栽培に力を入れてくれません。

岩崎隆聡会長の父上はこのため、「自分たちで酒米を作ってみたい」と秋田県の農家から美山錦の種籾をもらい、美山錦の栽培に着手したのです。

 

 

稲作はもっぱら、会長の父上がやっていたのですが、1993年に父上が急逝。

隆聡会長は何も知らず、途方に暮れます。

このため、とにかく闇雲に田植えだけして、肥料も入れず世話もしなかったのだそうです。

でも、その結果、稲の受粉の時期が早まりました。

 

折しも、その年は大干ばつが起こり、他の農家の美山錦は壊滅的な打撃を受けましたが、岩崎さんは種籾の確保ができて事なきを得ました。

このため、隆聡会長は自力での米作りの重要性を痛感。

以後はせっせと稲作に取り組み、いまでは、自社田で美山錦のほか、ひより、愛国、山田錦などを作っています。

蔵で使う米はそれ以外も全量が契約栽培になっています。

 

 

さて、2本目のお酒です。

実は空太郎は今回、蔵にお邪魔して、隆聡会長から直接いろいろなお話を聞くとともに、蔵で販売されているお酒を買いました。

蔵の看板商品の「宮寒梅」は特約店限定流通品なので、蔵では売っていません。

その代わりに、蔵だけで販売するお酒としてこの「寒梅酒造」がありました。

ちなみに、「宮寒梅」とは違う仕込みを立てて、造っているそうです。

55%精米の純米吟醸です。

 

 

上立ち香は抑制の利いた芳しい香りが鼻腔を撫で回します。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に適度に打ち粉を振って、サラサラな感触をアピールしながら、軽快なテンポで滑り込んできます。

 

受け止めて保持すると、自律的にテンポよく膨らみ、拡散して、適度な大きさの清澄なガラス玉様の粒々を連射してきます。

粒から滲み出てくるのは甘味8割、旨味2割。

甘味は99.9%純度の透明感に優れたタイプ、旨味は適度なシンプル無垢で肌理の細かな印象で、両者は伸びやかに半ば浮き上がるようにして踊ります。

 

流れてくる含み香も遠慮がちながらも芳醇な香りでデコレート。

後から酸味と渋味が僅少現れて、くっきりとしたピントを施します。

味わいは終盤までマイルドでナチュラルな世界を描き切るのでした。

 

 

仕込みは違っても、酒質は宮寒梅と同じ仕上りでした。

それでは寒梅酒造のお酒、3本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年241銘柄目)

銘柄名「寒梅酒造(かんばいしゅぞう)純米吟醸 2023BY」

酒蔵「寒梅酒造(宮城県大崎市)」

分類「純米吟醸酒」

原料米「不明」

酵母「不明」

精米歩合「55%」

アルコール度数「16度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1760円」

評価「★★★★★★(7.8点)」

 

自宅の晩酌に、宮城県大崎市の寒梅酒造さんが醸しているお酒をまとめて購入して、順番にいただくことにしました。

1本目はこれです。

 

 

鶯咲(おおさき)純米」。

 

寒梅酒造の創業は1918年。

創業家の岩崎家は大地主で、15町歩(約15㌶)もの土地を稲作農家に貸していたそうで、そこから上がってくる米で酒造りを始めました。

岩崎酒造店は地元向けに「誉の高川」というお酒を売っていましたが、戦争の激化で酒造りを止めて、休業状態になったまま終戦を迎えます。

 

戦後の農地解放で保有する土地も激減し、酒造りを再開する見込みのないまま時が流れていきました。

しかし、昭和30年にもなると、「休業が長引けば、酒造免許の返上を命じられる」との話が広がり、同じ境遇だった近くの酒蔵と共同で新会社「寒梅酒造」を立ち上げて、酒造りを再開にこぎつけています。

 

 

その後、パートナーの蔵は酒蔵から手を引き、現在は岩崎家のみで経営しています。

酒造り再開に当たっては南部杜氏に来てもらうようになりましたが、1998年に杜氏が高齢を理由に引退することになり、当時、蔵元社長だった岩崎隆聡会長は「杜氏に払う給与も経営的には厳しい」と県の先生に相談に行きます。

すると、「困ったら、いくらでもバックアップするから、自力でやってみたら」とアドバイスされ、自ら杜氏になりました。

「できたお酒は可も無く不可も無い普通の酒でした」と隆聡会長は振り返ります。

寒梅酒造のお酒が劇的に良くなるのは、ずっと先のことでした。

続きは次回に。

 

さて、いただくお酒は寒梅酒造が地元大崎向けに販売している65%精米の純米酒です。

 

 

上立ち香は細身のシュッとした酒エキスの香りが。

口に含むと中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に薄らととろみ層を乗せて、ゆったりとした雰囲気で忍び入ってきます。

 

受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を速射してきます。

粒から滲出してくるのは甘味7割、旨味3割。

甘味はザラメ糖系の幅のあるタイプ、旨味は適度なコクが複層化した印象で、両者はお互い譲り合うようにして穏やかなハーモニーを奏でます。

 

流れてくる含み香もスレンダーで品の良い酒エキスの香りで薄化粧を付与。

後から酸味は皆無、渋味が適度に現れて、くっきりとした輪郭を施します。

味わいは終盤までバランスの優れた世界が描かれ、飲み下した後の余韻も適度でした。

 

 

飲み飽きない食中酒でした。それでは寒梅酒造のお酒、2本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年240銘柄目)

銘柄名「鶯咲(おおさき)純米 2023BY」

酒蔵「寒梅酒造(宮城県大崎市)」

分類「純米酒」

原料米「不明」

酵母「不明」

精米歩合「65%」

アルコール度数「15度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1650円」

評価「★★★★★(7.6点)」

自宅の晩酌に、お酒を選びました。

これです。

 

 

はじまりのお酒 純米 生酒」。

岩手県紫波町の「酒と学校 はじまりの酒店」さんが、同町の月の輪酒造店さんに委託醸造しているお酒です。

 

南部杜氏発祥の地である岩手県紫波町が2023年から酒をテーマにした地域活性化事業に乗り出しました。

地元の有志と町で「町と学校」という新しい会社を設立し、酒造りから酒の企画販売、日本酒に関する各種体験事業を展開し、紫波町を日本酒をキーワードにして活性化していこうという狙いでいます。

 

 

紫波町にはいまも南部杜氏組合の本部もあるし、小さな町に酒蔵が4つもあるなど、地域おこしに日本酒を使わなければ損、というバックボーンがあります。

にも関わらず、ずっと何もしてこず、その動きの鈍さにいらいらしていた空太郎としては、ようやく、の感は拭えませんが、いずれにしろ、動き出して良かったというものです。

 

そして、2023年6月に第一弾としてお酒とサイダーが発売。

2年目の2024年に発売されたのが、今回のお酒です。

 

日本酒に関するスタートアップを展開している永安祐大さんが造りに関わっており、14度の低アルコールで仕上げた純米酒です。

 

 

上立ち香はフレッシュな麹バナの香りが。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に打ち粉を振って、サラサラな感触を振りまきながら、軽やかなステップを踏みながら、まっしぐらに転がり込んできます。

 

受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を連射してきます。

粒から滲み出てくるのは甘味8割、旨味2割。

甘味は中濃ソースのよう、旨味は複雑なコクが織り上がった印象で、両者は重厚で鈍重な踊りをのっそりと披露します。

 

流れてくる含み香は複雑な薬っぽい香りで派手めにデコレート。

後から酸味と渋味がたっぷりと現れて、酸味は甘旨味にどんどん溶け込んで甘酸っぱい世界への転換を急ぎ、渋味はメリハリ付けに貢献します。

味わいは終盤に向けて、より複雑で重々しい世界になり、飲み下した後の余韻も太めでした。

 

 

話題性はありますが、どういう味わいの酒でアピールしていくかの基本が必要だと思いました。

 

お酒の情報(24年239銘柄目)

銘柄名「はじまりのお酒 純米 生酒 2023BY」

酒蔵「月の輪酒造店(岩手県紫波町)」*販売は酒と学校(岩手県紫波町)

分類「純米酒」「生酒」

原料米「不明」

酵母「不明」

精米歩合「不明」

アルコール度数「14度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1900円」

評価「★★★★★(7.45点)」

 

自宅の晩酌に、お酒を選びました。

これです。

 

 

Bunraku Reborn(ブンラク・リボーン)Blooming Cloud 特別純米 生詰」。

埼玉県上尾市の北西酒造さんが醸しているお酒です。

 

このお酒については、裏貼りで説明書きがあるので、まずはご紹介します。

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創業1894年、北西酒造の新境地。

若手の蔵人を中心に「檸檬のような酸味があるお酒」という新たな醸造コンセプトを打ち出し、五年の歳月を経て“Bunraku Reborn”は誕生しました。

これまで日本酒に馴染みの無かった方にもぜひ、飲んでいただきたいお酒です。

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大都市圏での地酒で人気を博しているのはすでに10年前から甘味と酸味のバランスの良い酒だと思っています。

そういう観点から見ると、北西酒造さんのお酒は追随品と言えます。

 

北西酒造は蔵元後継者の北西隆一郎さんが2017年に社長になって以来、矢継ぎ早に改革を進め、2020年頃には昔の銘柄である「文楽」は地元向けとし、首都圏の市場狙いには「彩来(SARA)」をリリースしてきています。

にも関わらず、また新しいコンセプトのお酒を出すというのは、ブランドイメージの拡散につながらないか、心配ではあります。

 

55%精米の特別純米、生詰酒です。

 

 

上立ち香から甘酸っぱい香りがたっぷりと。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に打ち粉を振って、サラサラな感触をアピールしながら、ヘルシーな雰囲気で転がり込んできます。

 

受け止めて保持すると、自律的に膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を速射してきます。

粒から滲出してくるのは甘味7割、旨味3割。

甘味はザラメ糖系のすっきりとしたタイプ、旨味はシンプルでやや粗めな印象で、両者は足並みを揃えてバランス良く伸び伸びとした舞いを見せるのです。

 

流れてくる含み香もフレッシュな甘酸の香りでデコレート。

後から酸味がたっぷりと、渋味が適量現れて、乳酸とクエン酸が混じった酸味はすみやかに甘旨味に覆い被さって、一気に溶け込んで全体を甘酸っぱい世界へといざないます。

遅れてきた渋味がくっきりとしたメリハリ役を担い、味わいは終盤まで均整の取れたチャーミングな世界を描き切るのでした。

 

 

極上の仕上りです。

若手蔵人の挑戦はこれからも続けていただきたいです。

 

お酒の情報(24年238銘柄目)

銘柄名「Bunraku Reborn(ブンラク・リボーン)Blooming Cloud 

特別純米 生詰 2023BY」

酒蔵「北西酒造(埼玉県上尾市)」

分類「特別純米酒」「生詰酒」

原料米「不明」

酵母「不明」

精米歩合「55%」

アルコール度数「16度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1485円」

評価「★★★★★★(7.7点)」

自宅の晩酌に、お酒を選びました。

これです。

 

 

豊國(とよくに)純米 無濾過生原酒」。

福島県会津坂下町の豊國酒造さんが醸しているお酒です。

 

豊國酒造は六代目予定の高久功嗣さんが2018年に30歳を機に蔵に戻ってきて、後を継ぐための修業を積んでいます。

その後、3年が経過した2021年6月に福島の日本酒ウエブサイト「fukunomo」で紹介されました。

その中で、功嗣さんは「洗米が嫌で嫌でたまらなかった」と話しています。

豊國酒造ではMJP方式の洗米機などは使わず、リアル手洗いをしているようで、冬場の水作業の多さに閉口したようなのです。

 

 

空太郎もいろんな縁で、冬場の酒造りを手伝うことがあるのですが、水回りの仕事は冷たくて、長時間続けるのはつらいです。

酒造りというのは洗米は冷たく、蒸したばかりの米を放冷するのは熱く、麹室内は蒸し暑く、仕込み部屋や搾り部屋は寒く、とにかく、快適な温度がない世界です。

何事も仕事というものはそうでしょうが、安易に考えるとやばいです。

 

さて、今夜いただくお酒は地元産夢の香、60%精米の純米酒、無濾過生原酒です。

 

 

上立ち香は酢酸エチルの刺激を感じる香りが。

口に含むと中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に硬めの人工芝を敷き詰めたような感触で、気持ち摩擦熱を発しながら、まっしぐらに転がり込んできます。

 

受け止めて保持すると、自律的にエネルギッシュに膨らみ、拡散して、適度な大きさの硬めの石のような粒々を連射してきます。

粒から滲み出てくるのは甘味6割、旨味4割。

甘味は脂身入りの太めなタイプ、旨味は複数のコクが織り上がり、表面を無数のギザギザを纏っており、両者は足並みを揃えて荒々しい舞いを展開します。

 

流れてくる含み香は浮遊したアルコールの歪んで重い香りが甘旨味の足下に絡みつくのです。

後から酸味と渋味が結構な量現れて、騒々しさを増し、終盤まで派手めな世界が描き切られるのでした。

 

 

もう少し落ち着いてから飲みたいと感じました。

 

お酒の情報(24年237銘柄目)

銘柄名「豊國(とよくに)純米 無濾過生原酒 2023BY」

酒蔵「豊國酒造(福島県会津坂下町)」

分類「純米酒」「無濾過酒」「生酒」「原酒」

原料米「夢の香」

酵母「不明」

精米歩合「60%」

アルコール度数「16度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1430円」

評価「★★★★(7.4点)」

自宅の晩酌に、岩手県一関市の磐乃井酒造さんのお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べをしました。

最後の3本目はこれです。

 

 

百磐(ひゃくばん)純米吟醸 無濾過生原酒」

 

株主が多くて、大きな設備改修に踏み切れないままいる磐乃井酒造ですが、蔵の中を見せてもらった後に案内された販売所はまだ出来て間もない雰囲気で、醸造現場との落差にいささか驚きました。

奥には畳敷きの真新しい部屋もありました。

 

阿部徳彦会長は次のように話してくれました。

 

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ここは世界遺産の平泉・中尊寺から車で1時間も掛からないので、世界遺産目当てでやってきた外国人旅行客が結構、うちの蔵にも足を運んでくるんです。

で、蔵の中は見せるべきものもないので、試飲をしてもらう販売所を綺麗にして、ゆっくりテイスティングを楽しんでもらうようにしました。

彼らは試飲だけして買わないという人はいなくて、高額なラインナップのお酒を買ってくれるので、試飲は無料で満足するまで飲んでもらっています。

話をゆっくり聞きたいという人たちもいて、和室も新調したというわけです。

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ちなみに、阿部会長の息子さんは秋田大学の助教で、その奥様がタイ人で、彼女の伝手でタイからの観光客も多いそうです。

さらに、蔵の出荷場で働いていた若い女性は二人ともタイ人で、彼女たちも同じ伝手でやってきているようでした。

 

さて、最後の3本目は米が吟ぎんが、50%精米の無濾過生原酒です。

 

 

上立ち香はフレッシュな薄甘い香りが鼻腔を撫でます。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に油膜を張って、ツルツルの感触をアピールしながら、まっしぐらに滑り込んできます。

 

受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、適度な大きさの透き通った粒々を速射してきます。

粒から滲出してくるのは甘味8割、旨味2割。

甘味はザラメ糖系の奥行きを感じるタイプ、旨味はシンプル無垢の控え目な印象で、両者は足並みを揃えて、透明感に優れた舞いを披露します。

 

流れてくる含み香も芳しさに適度にサシの入った香りでデコレート。

後から酸味と渋味が少量現れて薄氷の輪郭を付与します。

甘旨味は終盤まで無駄に広がらず、飲み下した後の余韻も短くすきっとしたものでした。

 

 

いいレベルのお酒なので、情報発信をしっかりしてほしいです。

 

お酒の情報(24年236銘柄目)

銘柄名「百磐(ひゃくばん)純米吟醸 無濾過生原酒 2023BY」

酒蔵「磐乃井酒造(岩手県一関市)」

分類「純米吟醸酒」「無濾過酒」「生酒」「原酒」

原料米「吟ぎんが」

酵母「ゆうこの想い」

精米歩合「50%」

アルコール度数「15度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「○」

標準小売価格(税込み)「720ml=1650円」

評価「★★★★★(7.6点)」

 

自宅の晩酌に、岩手県一関市の磐乃井酒造さんのお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べをしました。

2本目はこれです。

 

 

百磐(ひゃくばん)純米 おりがらみ 生原酒」

 

創業の経緯から、株主は175人でスタートしましたが、100年以上経過した今も株主の数はほとんど変わっていません。

もちろん、株を持っているのは創業時の人ではなく、どこも3代目の人が多いそうです。

創業当初のように、「我が町に日本酒蔵を作ろう」という熱い思いの人ばかりではなく、日本酒を飲まない人もいます。

そういう方々は会社の目先の利益にばかり目が行き、「より美味しい酒にするために設備を入れたい」と社長や杜氏が願っても、なかなか賛成してもらえません。

 

 

結果として、蔵は建物だけでなく、設備もほとんどが古いままでした。

空調のある部屋はなく、仕込みタンクはサーマルでもありません。

タンクは5000㍑で、仕込みの総米は最大でも1.6㌧。

これで一定レベルの酒を造るには外気が寒い時期でなければならないので、造りの期間は11月から2月までです。

抜本的な改革に踏み切らなければならない時がやがて来るような気がします。

 

さて、2本目は1本目と同じ、ぎんおとめ65%精米の純米酒ですが、おりがらみの無濾過生原酒で、かつ、槽場での直汲みです。

 

 

上立ち香はフレッシュな麹バナの香りが柔らかく流れてきます。

口に含むと中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面にうっすらととろみ層を乗せて、初々しさを放ちながら忍び入ってきます。

 

受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、適度な大きさのウエットな粒々を連射してきます。

粒から滲み出てくるのは甘味8割、旨味2割。

甘味はザラメ糖系の奥行きを感じるタイプ、旨味は多彩なコクが複層化した印象で、両者は足並みを揃えて、太めでよく肥えた艶を放ちながら踊ります。

 

流れてくる含み香も生らしいサシの入った香りでデコレート。

後から酸味と渋味が少量現れて薄氷の輪郭を付与します。

甘旨味は終盤までバランスを崩さず、賑やかに踊りきるのでした。

 

 

それでは、磐乃井酒造のお酒、3本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年235銘柄目)

銘柄名「百磐(ひゃくばん)純米 おりがらみ 生原酒 2023BY」

酒蔵「磐乃井酒造(岩手県一関市)」

分類「純米酒」「無濾過酒」「生酒」「原酒」「おりがらみ酒」「直汲み酒」

原料米「ぎんおとめ」

酵母「ゆうこの想い」

精米歩合「65%」

アルコール度数「16度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1350円」

評価「★★★★★(7.5点)」

自宅の晩酌に、岩手県一関市の磐乃井酒造さんのお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べをしました。

1本目はこれです。

 

 

百磐(ひゃくばん)純米

 

実は今回、一関方面に旅行に行き、いい機会だと磐乃井酒造にまで足を運びました。

ちょうど、会長(元社長)の阿部徳彦さんがいらっしゃり、蔵を案内して頂きながら、あれこれお話を聞けました。

 

以前のブログでも書いたように、磐乃井酒造は創業家が興した酒蔵ではなく、地元の花泉町の有志175人が共同出資をして1917年に作った株式会社がルーツです。

現在までその構図は変わっておらず、株主の中から取締役を選び、さらにその中から社長を選任しています。

阿部さんも株主の息子で、蔵には無縁のまま北海道で働いていましたが、「花泉に戻ってきて、蔵の仕事を手伝え」と親に言われて、1993年に蔵入り。

酒造りにも参加して蔵の全体を学び、2006年に13代目蔵元になりました。

 

 

阿部さんは「磐乃井」だけだった蔵のラインナップに特定名称酒主体の「百磐」をリリースしたり、地域との活動と連動したお酒を造るなどして、蔵の存続に力を発揮してきました。

つい最近、社長を東海林明弘さんに譲っています。

 

1本目にいただくのは、十数年前にデビューした百磐(磐乃井酒造が今後さらに百年生き残るようにとの思いを込めているそうです)です。

ぎんおとめ65%精米の純米、火入れです。

 

 

上立ち香はオーソドックスな酒エキスの香りが。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に打ち粉を振って、淡々としたペースで転がり込んできます。

 

受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、適度な大きさのやや硬めの粒々を速射してきます。

粒から滲出してくるのは甘味6割、旨味4割。

甘味は上白糖系の乾いたタイプ、旨味はシンプル無垢で、やや凹凸の目立つ印象で、両者はごくごく無難に無駄の無い舞いを見せるのです。

 

流れてくる含み香もスタンダーな酒エキスの香りで薄化粧を付与。

後から酸味と渋味が少量現れて、くっきりとした輪郭を施します。

終盤まで無難に隙の無い踊りが続きました。

 

 

それでは、磐乃井酒造のお酒、2本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年234銘柄目)

銘柄名「百磐(ひゃくばん)純米 2023BY」

酒蔵「磐乃井酒造(岩手県一関市)」

分類「純米酒」

原料米「ぎんおとめ」

酵母「ゆうこの想い」

精米歩合「65%」

アルコール度数「15度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「○」

標準小売価格(税込み)「720ml=1250円」

評価「★★★★★(7.5点)」

自宅の晩酌にお酒を選びました。

これです。

 

 

敷嶋(しきしま)特別純米 夢吟香 無濾過生原酒

愛知県半田市の伊東(株)さんが醸しているお酒です。

 

2021年冬から21年ぶりに創業の地で酒造りを復活させた蔵元の伊東優さんですが、2021年12月に空太郎が取材に訪れた際、次の計画についてすでに語ってくださいました。

 

敷嶋を造っていた伊東家は戦後、非常に大きな酒蔵で、中部圏でも指折りの銘柄として名を馳せていたのです。

このため、2000年に製造免許を返上した後も、伊東家は蔵の建物などは一切売らず、放置してきました。

今回の復興では敷地内の比較的新しい倉庫を改造して新しい酒蔵にしました。

そして、手つかずだった本蔵の建物はリノベして、人を呼び込む施設をいろいろ作るつもりでいたのです。

その時はまだ、工事が始まったばかりで、伊東さんから改装の案をいろいろ聞くことができました。

 

 

そして、今年(2024)の春、「伊東合資」という建物がお目見えしました。

内部にはカフェ「サケカフェにじみ」と夕食のみ営業するレストラン「gnaw(ノー)」、それに、蔵の帳場と事務所を改装した直売所「蔵の店 かめくち」ができあがりました。

ここを舞台にして伊東さんは敷嶋のお酒の宣伝も兼ねて、いろいろなイベントを企画しつつあります。

非常に楽しみです。

 

さて、今夜いただくお酒は、地元産夢吟香、60%精米の特別純米酒、無濾過生原酒です。

 

 

上立ち香は非常に良質なイソアミルの香りが漂ってきます。

口に含むと中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に打ち粉を振って、サラサラな感触をアピールしながら、軽やかに忍び入ってきます。

 

受け止めて保持すると、自主的に流れるように膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を連射してきます。

粒から滲み出てくるのは甘味7割、旨味3割。

甘味はザラメ糖系の均整の取れたタイプ、旨味はシンプル無垢で、やや粗削りさを感じさせる印象で、両者は足並みを揃えて、唾液腺を刺激するような艶を放ちながら舞い踊るのです。

 

流れてくる含み香は良質な薄甘い香りで効果的にデコレート。

後から酸味と渋味が適量現れて、理想的なメリハリを施します。

生酒特有のクセはなく、終盤まで美しく可憐な世界が隙なく描かれるのでした。

 

 

素晴らしい出来でした。

 

お酒の情報(24年233銘柄目)

銘柄名「敷嶋(しきしま)特別純米 夢吟香 無濾過生原酒 2023BY」

酒蔵「伊東(愛知県半田市)」

分類「特別純米酒」「無濾過酒」「生酒」「原酒」

原料米「夢吟香」

酵母「不明」

精米歩合「60%」

アルコール度数「18度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1650円」

評価「★★★★★★(7.7点)」

 

自宅の晩酌にお酒を選びました。

これです。

 

 

力士(りきし)純米 無濾過生原酒」。

埼玉県加須市の釜屋さんが醸しているお酒です。

 

このお酒は2024年春に新たに売り出された「新生 力士」のお酒です。

釜屋が長年重ねた研究でたどりついた「三低製法」を採用しているのだそうです。

 

その内容については、蔵の発信からピックアップしてまとめます。

 

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新生力士は、これまでの大吟醸や本醸造などの「特定名称酒」の考え方だけにとらわれることなく、新しい考え方で製造します。

すなわち、低温、低精白、低アミノ酸の3つの「低」による現代醸造技術の粋を集めた挑戦的な日本酒です。

発酵温度を約7~9度と一桁台にし、長期低温発酵により酵母の働きを緩やかにすることで、アミノ酸の生成を抑え、低精白(90%精米)でありながら、爽やかな旨味・甘味の調和した純米酒となります。

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精米歩合が70%以上の“黒い米”で醸すと、タンパク質の作用が大きく、味の多い(悪く言えば雑味が多い)酒になりがちです。

最近では、多くの酒蔵が果敢にこの分野に挑戦して、意外なほどすっきりとした酒もでてきています。

釜屋さんも若き蔵元の小森順一さん主導で新境地を切り開こうということなのでしょう。

その意気や良しです。

 

期待して購入しました。

地元産彩のきずな90%精米の純米酒、無濾過生原酒です。

 

 

上立ち香はフレッシュな麹バナの香りがほのかに。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に打ち粉を振って、サラサラな感触を振りまきながら、軽快なテンポで滑り込んできます。

 

受け止めて保持すると、自律的に膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を次々と射掛けてきます。

粒から現出してくるのは甘味7割、旨味3割。

甘味は中濃ソースのような濃いタイプ、旨味は七色の多彩なコクが複雑に織り上がった印象で、両者は端から派手めに、かつ賑やかな踊りを見せるのです。

 

流れてくる含み香は薬っぽいクセの強い香りでデコレート。

後から酸味と渋味が結構な量現れて、そこかしこで甘旨味に溶け込んで、一部ではミルキーな世界が描かれます。

味わいは全体が活力を維持しながら、騒々しいカーニバルが最後まで繰り広げられるのでした。

 

 

残念ながら雑味が多く感じました。

勝手な言い草ですが、改善の余地あり、でした。

 

お酒の情報(24年232銘柄目)

銘柄名「力士(りきし)純米 無濾過生原酒 2023BY」

酒蔵「釜屋(埼玉県加須市)」

分類「純米酒」

原料米「彩のきずな」

酵母「不明」

精米歩合「90%」

アルコール度数「16度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込み)「720ml=1760円」

評価「★★★★★(7.5点)」