百田尚樹 著 2006年 太田出版 2009年 講談社文庫

 

司法試験浪人の健太郎とライターの慶子という姉弟が特攻で亡くなった祖父のことを調べていくうちに大東亜戦争と当時の人々の本当の姿を知る。自虐史観の覆いが少しずつ剝がれていく様は私たち現代人を象徴している。姉弟の旅路をたどることで左傾化した戦後教育による洗脳が解けた人も多いと思う。

私が自分の洗脳が解けた、と感じたのは小林よしのりの「戦争論ー新ゴーマニズム宣言SPECIAL」だった。しかし何も知らない子供心に刷り込まれ大人になってもそのままだった自虐史観は手強い。その後も、誤解を解いてくれる本や動画に出会ってきた。本書は目の中の大きなゴミを涙で洗い流し、日本の美しい姿をよく見えるようにしてくれる。

 

非常に読みやすい手練れの文体。私たちの父母・祖父母・ご先祖様は高潔だった。だが机上の空論や面子で戦況を悪化させたのも同じ日本人。特攻という非人道的な作戦を考え出したのも日本人。日本人の良いところも悪いところも生き生きと、生々しく描き出す。愚かな上層部の尻拭いをさせられるのは現場の有能な兵士たち。敗戦後の艱難辛苦をしのがなければならなかった女性たち、生き残った兵士たち。日本人とは精神も頭脳も身体(の使い方)も非常に優れた民族だと思うが、トップに立つものが愚かで、下の者にしわ寄せが行ってしまうことがある。現代日本とよく似ている。

 

姉弟の取材についてきて取材相手を怒らせた新聞記者は朝日新聞の人だろうか。自分の無知に気付かず正義を振りかざし上からものを言う。なんとなく正しいように聞こえてしまうのが厄介だ。

色々な本を読んでリベラルぶった左翼の言説は非論理的なのが分かるようになってきた。保守派と言われる人たちにも注意が必要だ。保守の振りをしたビジネス保守、思い込みが強く主張を押し付ける人、平気でデマを言う人、肝心な時に胆力がない人、変節する人などいて、何度騙されてきたことか。これからも騙されるだろう。だが百田さんは何だか信用できる。裏表がない。無茶苦茶なようでいて大局的視点が清廉だと思う。「あとがき」で児玉清さんが作者の心の清らかさをほめたたえていた。YouTubeなど見ると下ネタ連発、大あくびにゲップ、愚かな政治家は貶しまくる。一見、とても清らかとか清廉などと言えないが、その実かっこつけが嫌い、偽善が大嫌いで偽悪的に振る舞う自由人だ。愚かな政治家へのきつい言葉は義憤によるものだ。

 

本書を特攻や戦争を美化する危険な書だという人がいるらしい。物語を読めない人、言葉を理解できない人だと思う。アメリカ軍兵士の特攻隊員への敬意、かつて戦った者たちの戦後の交流が感情を揺さぶる。平和への願いが込められている。

2023年、山崎貴監督

 

作家の百田尚樹さんがゴジラについて、これはもう一つの「永遠の0」ではないか、というようなことをおっしゃっていた。映画鑑賞までに半分しか読めなかったが、今まで読まなかったことが悔やまれる。映画を見て分かった気になっていた。その映画さえだいぶ前に見て忘れていることが多い。もう一度見たいと思う。

 

モノクロ映像が敗戦後の日本のドキュメンタリーのようにも見え、怪獣映画、SFと片付けられないリアリティがある。映画サイトに、視覚情報が少ない(色がない)ことで不安感や恐怖を増す、という感想を書いている人がいた。確かに顔や服の汚れが血なのか機械油なのか分からず見入ってしまった。

ゴジラが熱線を吐くと、きのこ雲らしきものが上がる。アメリカは原爆製造のコスパを上げるため広島、長崎の後も原爆を落とし続けるつもりだったという話を思い出してしまった。私たちの祖父母が潜り抜けてきた困難を思うと泣けてくる。

ゴジラから故郷と家族、仲間を守るため、元軍人、科学者、技術を持った民間企業などが立ち上がる。占領下で政府は脆弱、軍は解体、米軍も当てにできない。政府も役所もグダグダの現代と同じだ。作戦考案の科学者は戦時中、武器を開発していたというが、桜花などを作っていたのだろうか。

今作に出てくる駆逐艦「雪風」は数々の戦いを生き延びて終戦を迎えた。奇跡の駆逐艦と呼ばれたらしい。

主人公が乗る戦闘機「震電」は実戦に投入されずに終わった。独特の形が美しく、ジェット戦闘機に進化していく過程のようだ。

 

どの俳優も役にピッタリはまって素晴らしかった。神木隆之介さんは童顔で君付けで呼びたくなるが、生き残ってしまった特攻隊員の苦悩を見事に演じていた。浜辺美波さんは忍耐強く愛情深い大和撫子。控えめな笑顔にほっとする。子役の女の子もまだあまり喋れないところなど幼気だ。家族を失った近所の女性を安藤サクラさん。彼女は演技の上手さが鼻について好きではないのだが、今回は素晴らしかった。感情の移り変わりが自然でリアルだ。整備兵の青木崇高さんと主人公の、俺の戦争はまだ終わっていない、という話はぐっと来た。雪風元艦長の田中美央さんは大東亜戦争を戦い抜いた軍人らしい面構えだ。

 

映画を見ながら「永遠の0」を思い出し、泣いてばかりだった。嗚咽を漏らしてしまうところもあり、我ながらびっくりしたが音に紛れてよかった。第1作の「ゴジラ」を見たくなった。

1996年 アメリカ

 

初めて見たときは無知蒙昧で、ジュリエット・ビノシュかわいい、美男美女の悲恋きれい、という本当にどうしようもない感想だった。英印軍中尉のキップと従軍看護婦のハナが結ばれるのも、ジュリエット・ビノシュ好きをこじらせて気に入らない展開だった。年を取って少しは学び、少しはましな感想を持ったと思う。

 

英国訛りの患者はラズロ・アルマシーというハンガリー出身の貴族で、王立地理学会の会員としてサハラ地域の地図を製作していた。耳慣れない外国の名前で格調高い英語を話すというだけで怪しい。地図製作といえば猶更。キャサリンを救いに戻れなかった事情は単なるメロドラマではなかった。

ラズロ・アルマシーは実在の人物で、当たり前だが映画とは違う。ドイツのスパイだったらしい。女性は恋愛対象だったのかどうか、男性あてのラブレターが残っている。

 

キップはシーク教徒。シーク教徒の多くは裕福で教育水準が高い。控えめな態度で美しい英語を話し爆発物の知識を持ち地雷や不発弾の除去に当たる。部下はイギリス人だ。イギリス支配下の複雑さ。階級は上だが危険は押し付けられる。部下は安全地帯にいて上司のお目付け役でもある。だが上層部の思惑とは別に、共に危険をかいくぐってきたインド人とイギリス人は友情を感じている。部下のイギリス人を演じているのはモース警部やハサウェイ巡査部長の相棒ルイス、ケヴィン・ウェイトリーだ。

 

カナダ情報部隊の工作員カラヴァッジオはドイツ軍に拷問され親指がない。ヤクザは親指は詰めさせないらしい。ウィレム・デフォーが演じると何かとんでもないことを考えていそうで、最後にイタリア人女性といい感じなのが拍子抜けする。

 

冒頭に出てくる複葉機タイガーモスはジェフリー・デ・ハヴィランド設計。妻キャサリンの不倫に怒りアルマシーに突っ込んで亡くなった夫の名もジェフリー。

飯山陽 著

 

イスラム思想研究者として日本が世界に誇れる人。麗澤大学客員教授。YouTubeチャンネル登録者数、約17万人。ツイッターフォロワー数、約27万人。様々なメディアに寄稿し、著作もすごく売れている。新作の「ハマス・パレスチナ・イスラエル」は発売前から重版が決まり大阪ジュンク堂などでベストセラーとしてディスプレイされた。以前は中東で何か問題が起これば、人々が手に取る本は池上彰のものだったそうだが彼の化けの皮もだいぶ剥がれた。他の中東専門家など学会では尊敬されているようだが一般の人は知らない。今はイスラム教、中東といえば飯山先生だ。

 

2011年から2015年にかけて旦那様と小さなお嬢さんとでエジプトに暮らし、育児・家事と研究に奮闘された。道を歩けば上からベランダが降ってきたり、イスラム過激派の大物にインタビューしたり、治安悪化で碌に外出できないことも。苦労多いが工夫を楽しみご近所で助け合う。お嬢さんの生涯の親友はエジプト人の女の子だそうだ。

 

イスラム教における女や異教徒に対する差別はひどい。女一人でいれば危険な目にあうこともあるという。しかし赤ちゃんを連れた飯山先生にエジプト人はとても優しかったそうだ。子供を守らなければと気を張っていたが、自分こそ子供に守られていると思ったとのこと。印象深い。

 

「アラブの春」ー 春だの民主化だのという言葉から何となく良いイメージを持ちつつ、物騒な事ばかり聞こえてくるのでモヤモヤしたままだった。「民主化」「自由」という同じ言葉でもイスラム教徒と日本や欧米の人が考えるものは違う。飯山先生の説明ですっきり分かる。

 

飯山先生は日本人にイスラム教の真実を教えなさいと神様に選ばれた人のような気がする。また伸び伸びと育っているお嬢さんも、世界と渉り合う女性になりそうだ。

2019年 インド テルグ語コメディ・スリラー

 

考え抜かれた脚本が評判になったというので楽しみな半分、インド人の顔の見分けがつくか心配でもあった。楽しみの方を取り前情報は殆ど入れず見に行った。

 

インド映画にしてはおしゃれな感じでヌーヴェルバーグとかアメリカン・ニューシネマのような動きがあるのかなと思った。マサラ上映向きではなさそうなのに146分という長丁場、ちょっと座り続けるのがしんどかった。

 

まず探偵が得た3つの電話番号から、易々と電話の持ち主の情報を引き出すところに引っかかる。探偵業とはいえ一般人。個人情報のデータベースにアクセスできることにびっくり。尾行もそういう演出なのか、あからさま過ぎてびっくり。その間にも話はどんどん進む。怪しい動きをするヒゲ男を警官と混同(皆ヒゲなので体格くらいしか目印が無いことも)。警官は途中から出てきて探偵と親しそう。しかも片腕には意味ありげなギプスがはまっている。

 

探偵は無類の映画好きで映画を捜査の教科書としている。「ユージュアル・サスペクツ」や「ディパーテッド」が出てくるので最初から出ている奴が怪しいのか。電話番号の3人目は女で顔写真がない。最初に事件を持ってきたジャーナリスト(男)は途中から出てこなくなった。

 

遺体発見現場に遺族を連れて行って、そのまま遺体確認させるのもびっくりした。父親が嘆いて娘の遺体にすがる。警官が触るなと命令する。いや、遺族を連れて行って現場を荒らしているのはアンタでしょう。

 

ヒロイン(探偵助手)が可愛かった。ちょっとぽっちゃりして、いいとこのお嬢さんぽい天真爛漫な感じ。陰惨な事件が続く中で清涼剤的役割を果たすが、途中からただのわき役扱いになってしまう。

 

練られたストーリーにハリウッドが飛びついてリメイクするかと思ったが、真相が分かってくるとインド特有の社会事情が見えてきてリメイクは難しそうだ。日常生活も犯罪も死も猥雑。迷信や宗教が大きな力を持ち、地域が閉じられて交流が少ない。

映画産業は世界を席捲しそうだ。IT大国と言われている。イギリスの首相、アメリカの有力議員など先進国で活躍するインド系の人たち。先進世界の仲間のように思っていたが新興国なのだ。インドはこれからもっと力を得て世界を引っ張っていくのかもしれない。